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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
風雅楼閣サカズキ/ヤマト階層
338/507

338.妖景色"穴虎錦夢跡"

【第130階層 風雅楼閣サカズキ】


薄暗く紅い空、広がる平原に刀の墓標。

荒々しくも美しき白猫は、何処か懐かしむように首を上げる。


「──妖景色(あやかしげしき)"穴虎錦(あなこにしき)夢跡(とおきかこ)"。

ここは私の記憶、私の過去。最期の一人を見送った、私の夢……」


"猫又九番守"(はち)之番──永年妖猫 玉乃条(タマノジョウ)

サカズキを探索していた時に噂はちらほら聞いた。猫又の始まりの話。

……かつてヤマト階層にいた人間は、古代文明との戦争で敗れ散った。その後、人間の意思を継いだ妖怪猫が文字通り立ち上がり、遂に古代文明が自爆した事でサカズキは勝利を収めた、と。


始まりの猫又は、妖怪だった。美しい白猫だったと言う。


「このサカズキを成立させた存在が、今のレイドボスに見初められた。その結果がコレか」


「どうするライズさん。ここが隔離階層という事は、支援は見込めないか?」


「いや、ver.2は階層全体に影響する。ミザンの時は【黄金舞踏会】自体の性質で隔離されていたがな。

……そういう意味ではver.2の方で良かったな。もし普通の隔離階層なら、俺たち閉じ込められてたぞ」


その場合は【鬼冥鏖胤(きめいおういん)】で外に出ていたけどな。

……それともう一つ。空間作用スキルとジョブ強化スキルが別になっている、という事。


玉乃条(タマノジョウ)は冒険者じゃない。つまりジョブ強化スキルは無いし、その強化系であるver.2の影響も少ないはずだ。

実際ミザンの時は、本当に階層全体と癒着しただけの【黄金舞踏会】だった。ver.2で強化されていたのはジョブスキルの方。それが無いなら、そこまで怖くは無い」


影響といえば、こっちの空間作用スキルが使えない事だな。後は向こうに都合の良い舞台にはなっているという事。

……まだ、そこまで理不尽では無い。


「──過去。人間は、武器を取り戦いました。

その頃の私は、まだ非力で。何の助けにもなれなかったけれど──」


玉乃条(タマノジョウ)の瞳が輝く。

──鎧武者が地から生えて、落ちた刀を抜いて構える。

見渡す限りの、侍軍団。


……理不尽!


「本体を叩くぞ。みんなを待ってる余裕は無い!」


「分かった。【スイッチ】──【ドラドルグ・ハンマー】!」

「お姉さんから行くね。【虚空一閃】!」


広範囲破壊を選ぶ二人。

【燕返し】と合わせて超前進しつつ広域を斬り飛ばすカズハ。ひとまず初期位置周辺の侍を殴り飛ばすスワン。

頼もしい限りだ。カズハの火力はトップランカーでも上位な食い込むほど。これがどのくらい通るかでこの後が変わって来るが──


「──あれ?」


玉乃条(タマノジョウ)が、白モヤになって──姿を消す。

そういうタイプか。厄介だな──


「ライズ君! 後ろ!」


「──【スイッチ】【煉獄の闔(ケイオス・エイギス)】!」


まるで気配も何も感じなかったが!

カズハの声に、咄嗟に大盾を呼び出す──


「──デカくないか!?」


猫パンチ。ただしその手が【煉獄の闔(ケイオス・エイギス)】より一回り大きいほどで。

巨大化した玉乃条(タマノジョウ)が、背後から襲ってきた!

防御自体は成功したが、そのまま押し出された──距離が取れたなら暁光!


「【スイッチ】【天国送り(エンジェル・バトン)】──【パワーショット】!」


狙う先は黄金の瞳──

──ではなく、尾?


違う。また白モヤになって消えた!

ええい白い身体に黄金の炎が二つ、目なのか二又の尾先なのか良く分かんないなぁ!


「──たった一人も仕留められないなんて、不甲斐ない。少々気を取り直して参りますね──」


女将さん、殺意が高すぎる。

薄霧になって逃げて、後は侍兵に任せる訳か。あの気配無しで背後取る技もあるしな。


「カズハ! 一度戻って来い!」


ある程度の方針は理解できた。

侍兵にせよ玉乃条(タマノジョウ)本人にせよ、接近での直接攻撃しかしてこない。なら別行動する必要は無い。

時間さえ稼げれば、その内皆合流──


「まだまだ。夢は覚めません」


──刀の壁!

分断されたな。これ合流できるか……?




──◇──




──サカズキ城 領主の間


サカズキが、戦場になった。

……玉乃条(タマノジョウ)さん、元気にやってるな。

サカズキの……ヤマト階層の生き字引。猫又の開祖、本物の妖怪。

俺の一族は何代にも渡りこのサカズキを統治しているが……玉乃条(タマノジョウ)さんはそれよりもずっと永く生きていた。それこそ、まだ人間が生きていた頃から。


永年妖猫。原初にして最古の猫又。

……それがそう紐付けられた存在だったとしても。

俺の、あの人への想いは作り物では無い。

記録ではない。思い出だ。

若く粗暴だった俺を受け入れてくれたあの猫は、作り物なんかじゃない。


「──ああ。楽しそうだな」


暴れるような猫じゃない。

本当に優しいんだ。ずっと昔の紛争を昨日の事のように覚えているというだけで。

多少血が騒ぐ事がある、というだけで。


さて。残るは玉乃条(タマノジョウ)さんだけ。敵は大勢残っているが。

どのくらい残るか。俺の楽しみまで喰ってしまわないだろうか。


……もちろん、玉乃条(タマノジョウ)さんの自由にすればいい。口答えなぞ出来るわけないだろう。




──◇──




──北町


「位置が悪すぎるわね……」


突然景色が変わった──ちゃんと【森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)】使ったけど弾かれたあたり、ver.2みたいね。

サカズキ城の方は平原になったみたいだけど、こっちは家屋と平原で半々。発動地点周辺の方がより強く隔離階層の性質が出るみたいね。

……つまり、こっちはまだ路地裏。無数の刀と、それを振るう侍兵士に囲まれてる。


「クピコはあたしが飛ばすわ。ゴーストとジョージはそれぞれで中央町に」


「answer:承諾します」

「相わかった」

「キヒ。メアリーサンの護衛、デスね?」


適材適所。まだ障害物が多いなら、ジョージなら単独行動の方が早い。そうなるとあたしが転移したらヘイトはゴーストに回っちゃうけれど……ゴーストはやりたいみたい。させてみるのも良いわね。


「まだ八番も万誑命(マダラメ)も、マックスも倒して無いんだから。こんなところでリタイアしないでよね。……じゃ、よろしく! 【チェンジ】!」


クピコは折角助けに来てくれたんだから、ちゃんと最後まで大切にしておきたい。【神気楼】印の優良ヒーラーだし、適当な扱いしたらソニアに怒られちゃう。


──転移先。まだ中央町まで遠い、民家の上に着地すると──




「お待ちしてました」




──白猫の妖怪が待ち構えていた。


「メアリーさん。いきなりで申し訳ありませんが、これにて終いです」


「メアリーサン! 危なイ!」


白爪が襲う。

クピコがあたしの前に出ようとするけど──


──いい加減、この手の奇襲には飽き飽きなのよ!


「舐めんじゃ無いわよ! "スライドギア"!」


【草の根】謹製の瞬間移動アイテム。ライズが一つだけ見つけて確保していたのよね。

あたし自身が転移できるんだけど、だからこそ狙われやすいのも事実。本当はトップランカー相手用の隠し球だったんだけど!


「喰らってくたばれ!【アイシクルランチャー】!」


「物騒ですね」


氷の連射は、虚空を貫く。

白猫はモヤになって消えた……。


「……何か知らないけど、さっさと合流したほうが良さそうね。行くわよクピコ」


「アッハイ」




──◇──




この玉乃条(タマノジョウ)()()()においては一家言持っております。

この夢世界であれば尚更。サカズキの何処にも在り、何処にも居ない。そのような存在でございます。


……というのは、流石に冗句。


ちゃんと実体はあります。化かしているというだけで。

下調べは猫託(ネコタク)くんが済ませています。目下、私にとって危険視する相手は──


移動の捕捉が難しく長距離転移を持つメアリーさん。

空中移動が得意なエンブラエルさん、キャミィさん。

後は……万誑命(マダラメ)に何か吹き込んだ、ジョーカーを名乗るアイツ。


空を飛ぶ竜には幻影も届きません。だとするなら、次に向かうは──




──◇──




──南町


「僕の方に来るかな普通」


「ご挨拶が必要と思いまして」


メアリーとライズからチャット流れてきたから分かってたけれど。少し様子がおかしいよね?


──侍の数が多いのは分かるけど。白猫……というか猛獣が、牙を隠す事すらしていないのだけれど。


「ジョーカー様。私、万誑命(マダラメ)の妻の玉乃条(タマノジョウ)と申します」


「あ、どうもご丁寧に。そっか、八番目は奥方が。旦那殿は果報者だねぇ」


「ええ、ええ言葉が達者でいらっしゃる。

時にジョーカー様。ここ数日、万誑命(マダラメ)が何か思い悩んでおります。お心当たりは?」


あ、殺される。

……いやいや、別にバグらせた訳じゃ無いから。僕悪くないよね?


「話し合いませんか奥様」


「どうにも()()()()もする事ですし……疑わしきは罰するという事で。なにぶん、(はち)之番なので」


あまりにも理不尽。

……サカズキに数千年存在するバックボーン。サカズキの構造の根本に食い込む存在が、レイドボスと同様に何らかの優遇処置を施されているのかな?


玉乃条(タマノジョウ)は大口を開く──もう殺意隠すつもり無いよね。


「【ミスリーディング】!」


とりあえず数秒前まで撤退!

──噛みつかれた僕の幻影、間違いなく首から逝ったね。でも玉乃条(タマノジョウ)も本体じゃ無いみたいだ。


「いじらしいね。万誑命(マダラメ)君、君に逢うために城下に降りる事もあるんだって?」


侍兵は取り囲むだけ。敵というより、リングだね。脱走防止か。

巨猫を回避しながら、とりあえず舌戦。


「ええ、ええ。善い子でしょう万誑命(マダラメ)は」


「そうだねぇ。だが、そこまで想われておきながら君はノーリアクションだったのかい?」


──爪の速度が上がる。まだ、まだ見切れる。

攻撃も単調になってきたからね。


「──と、言うと?」


「長生きで感覚が鈍ってしまったようだね。落ち込んでいる旦那様に、誰とも知れぬ雌猫が擦り寄る可能性は考えなかったのかい?」


──大地が割れた。

もう幻影が維持されていない。怒らせすぎたね。


「──万誑命(マダラメ)の何を知っているか! 私は、彼に乳を与えた事すらあるのだぞ!」


「うわぁ。……いや本当に、君も人間味が出てくれていて助かったよ」


「何──」


玉乃条(タマノジョウ)は気付いていない。

猫又の開祖。人間が倒れてから猫が立ち上がった、その理由。

詰まるところが、猫又の正体──




「【不可視の死神(インビンシブル)】」




──◇──




"猫又九番守"玉乃条(タマノジョウ) 撃破

【夜明けの月】ジョーカー 花火獲得+1




──◇──




白の幻を切り裂き──中に居たのは、小さな猫。

猫又という種族は。妖怪猫 玉乃条(タマノジョウ)によって生み出された幻影の兵士。

それが幻から現実へと昇華していようと──原初の存在は、所詮は唯の猫だ。


「──くふっ。お見事、です」


「煽って怒らせて不意打ち、のどこが見事なのやら。せめて恨んでほしいな」


「いえ。貴方への罰は、ちゃんと下りますから」


意味深な言葉を残して、白猫と共に物騒な世界が晴れる。

──隔離階層ver.2も解除されたみたいだ。早いところライズ達と合流しないと──




「──許されん事だ」




──サカズキ城が、揺れている。

化け猫が生んだ化け猫。幻影から出でる妖。

サカズキ城の上に現れる、あまりに巨大な斑猫。


玉乃条(タマノジョウ)。我が誇り。我が愛。よくも、よくも傷付けてくれたな──ジョーカー!」


えっ。


明らかに怒り狂っていらっしゃる巨大な猫──どう見ても万誑命(マダラメ)

"猫又九番守"を八番目まで撃破したのだから、そりゃあ現れて当然ではあるけれど──




【猫又九番守-久之番 (きゅうのばん) 双妖(ふたまたの)万誑命(マダラメ)】LV200




──ガチギレのレイドボスなんて、溜まったものじゃないよ。

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