335.最強の器用貧乏
【第130階層 風雅楼閣サカズキ】
──side:ライズ&カズハ
黒猫の占い師留丑ヰ、そして【飢餓の爪傭兵団】三大幹部の一つクワイエット。
まず攻撃自体が通らない。片手剣二刀流に加えて魔法剣二刀の四刀流。その全てを巧みに使いこなすクワイエットの妙技。
一見すると……かなり適当こいてる様に見える。魔法と武器の使い分けというのは、昔っからそうだが塩梅が難しい。例えば……【祝福の花束】のモーリンみたいに、魔法にも武器にも中途半端になったために攻略に追い付かなくなる、なんてケースも少なくない。
──尚、モーリンのスタイルでも別に伸びる事はできるんだが。これに関しては魔法と武器に割り振ってるため同期より伸び悩んでしまう性質がメンタルに悪影響を及ぼしている例だ。やり方生き方は人それぞれだが……閑話休題。
ともかく。クワイエットはそんな器用貧乏なジョブを極めたアタッカー。要するに"尖った構築"に届かない程度には"万能型"のジョブなのだが──
「【破紋一閃】!」
「マトモには……受けられんな……!」
【一閃】の鬼と呼ばれたカズハの──【サムライ】最高練度の【一閃】を、こうである。
防御破壊の【破紋一閃】を回避するため、魔法剣の先をカズハの【厚雲灰河】の切先に沿って這わせ、刀の軌道を逸らす。初撃を躱せば、返す刀の【燕返し】にも影響が出る。
そして余った両腕と一本の魔法剣がこっちを向く訳だが。
「【スイッチ】【煉獄の闔】!」
「……ふむ。仕切り直しだ」
「ええ──【導きの水晶】」
またしても、初期位置へ転移させられる。
いや、それ自体はいいんだが。……上手く活用し始めたな。
「今の、飛ばす意味あったか?」
「……ライズを一撃で仕留められないなら……カズハが帰ってくる。確実な防御札があるのなら……使わなくては損だ」
冷静沈着。実際は大人しいだけで結構ボケ寄りなんだが。【需傭協会】解散後についうっかりで【象牙の塔】加入を逃して【飢餓の爪傭兵団】に流れるようなアホだぞ。こと戦闘においてこうもIQが高くなってるのは納得出来ない。
「やっぱりトップランカーは格が違うね」
「アイツが異常なんだ。カズハは……正直、練度においてはトップランカーに届いているというか、【夜明けの月】じゃクローバーに次ぐNo.2。なんなら呪い戦法の影響で火力のみを見れば凡百のトップランカーを蹴散らせるし優しいし可愛いしもう本当に最高最強パーフェクトプリンセス」
「突然褒めないで。ニコニコしちゃう」
「……とにかく。防御に優れたジョブ相手じゃないんだから、当たれば倒せる。クワイエットの耐久性は他のトップランカーと変わらないからな。
そこは向こうも分かってるだろうから、わざわざ回避してるんだろ」
「……その通り。……だが、まるでカズハしか警戒していない様に言うのはやめてもらいたい。
……お前も危険だ。それこそ空間作用スキル。それに【朧朔夜】。その他諸々……不確定要素の塊、歩く謎謎、最強の一文無し。俺はお前が怖い」
「俺もここから一文無しで進むことに恐怖を覚えているよ。将来の不安を煽るのやめてくれるか?」
今となっては【夜明けの月】収入ランキング最下位争いなんだが?
……ともかく。ともかく! このまま続けていても厳しいだけ……ということは無い。
「カズハ。……留丑ヰには、何か秘密がある。というか多分コレ……って感じのアタリはついてるんだが、現状無理だ」
「コレ……って、ああ、そういう事? それは確かにそうだね。でも狙ってみるね」
「頼む」
肝心な部分はチャットで送る。多分だが、性質上間違っては無いはず。だとしてもどうにもならないが……。
「……どうやら。こちらに傾いた」
クワイエットは武器を構えたまま。──ずっとそうだが、結構アクティブなクワイエットにしては今回だけは受けの姿勢だ。何かしらを狙っているのかもしれないが……クワイエットの呟きで、理解した。
「カズハ!」
「うん!【虚空一閃】!」
カズハの向かう先は──留丑ヰともクワイエットとも違う、何も無い方向。
俺は俺で、走って逃げる。何が起きるか、何となく分かった!
「【サテライトキャノン】」
──光が一束、天より降り注ぐ。
【サテライトガンナー】の十八番。威力は……範囲的に50%そこらか。
遠くの塀に、気怠げな中年が胡座を描いていた。
……頭と膝に、鶏を乗せて。
「クワイエットさぁん! 奇襲のチャンスだったろうに、言ったらダメでしょーが!」
「……ああ、そうか。そうだな。悪い。
やっと会えて、安心して……つい」
「んギュンと来た! おじさんをときめかせてどうするつもりだよ!」
ふざけ倒しているが……あれでも実力者。
【飢餓の爪傭兵団】の銃士カザミドリ。【スナイパー】として一流……だったが、恐らくクアドラが傭兵を廃業したことで【サテライトガンナー】要員に滑ったか。
「……だが……もう、勝ちだ。留丑ヰ」
「おぉいクワイエットさん! あと10秒必要なんだっての!」
「あぁ……すまん。その綺麗な光……早く見たくてな……」
「んギュンッッ!!」
「こけー」「こけー」
鶏も鳴いてますわ。
……座標攻撃の【サテライトキャノン】。そして、特定の座標に転移させる留丑ヰ。
最悪だ。戦いはあと10秒──
「……攻めるよライズ君! 【虚空一閃】!」
「おうよ。【スイッチ】【壊嵐の螺旋槍】──【スターレイン・スラスト】!」
カズハはカザミドリに。俺はクワイエットに。
時間が無い。最速で行動して、カザミドリを倒さないと──
「させるか……【フレイムウォール】」
最早剣の一振りも俺には向けないか! 炎の壁が俺を阻み、その四刀が──カズハを向く!
「トドメだ……【カレイドクロス】!」
四色四刀。輝く刃が、跳ぶカズハを狙う──
「【スイッチ】──【黄金牡丹】」
──何者か。こっちからは炎の壁で見えない、何者かが。クワイエットの攻撃を止めた?
考えてる暇は無い。あと5秒も無い。
「【スイッチ】【宙より深き蒼】【雪月花】!」
対炎装備で、炎の壁を無理やり突破。壁の先には──クワイエットの四刀を受ける、その存在。
「久しぶりだね、ライズさん」
自信に満ち溢れた声。
男装の麗人。
……【草の根】のギルドマスター、スワン。
「とりあえず、結婚するかい?」
「ちょっとお答えしかねる!」
本物だ。
──片手剣【月詠神樂】と盾【黄金牡丹】で、クワイエットの攻撃を受け切っている。
実力には差があるはずだが……!
「【燕返し】!」
「んげー! クワイエットさぁん!」
遥か遠く、塀の上のカザミドリは──撃破されてないまでも、カズハに吹き飛ばされた。【サテライトキャノン】はこれで不発。
「……お前は、一応【セカンド連合】だろう。……【夜明けの月】とは敵では?」
「ははは。折角なので名乗りを上げよう!
──私はスワン。誇り高き【草の根】終身栄誉会長にして──」
スワンは武器を構えたまま。
堂々と、それはもう堂々と語る。
「──【ダーククラウド】の新人だ! これから宜しく頼むよ、クワイエット」
「……なんだと?」
一瞬の硬直。俺も色々と聞きたい事はあるが……ともかく、好機!
「【ブレイドストライク】!」
「甘い……!」
背中の魔法剣で受けられる。が、スワンも攻勢に転じる。
俺達に挟まれたクワイエット。勿論まだ対応は出来るだろうが──
「……くそ、留丑ヰ! 仕切り直しだ!」
「はい──あ。」
水晶玉を構える留丑ヰ──その肩に、手が一つ。
「黒猫ちゃん、捕まえた」
「……おや。ここまで、ですね」
カズハが隙をついて、留丑ヰに接触。
留丑ヰは水晶玉を手放し──花火をカズハに譲る。
「……何を……!」
「今は偶然お前が居たからいいが、留丑ヰ単体だったらどうなってた?
"猫又九番守"は順番に突破する試練。ちゃんと戦いになるだけのルールがあるはずだ。なのに留丑ヰは攻撃手段の一つも持ってない」
俺がカズハに送ったチャットは、一言。
──『鬼ごっこ』。
「本来の留丑ヰの試練は恐らく、初期位置リスポーンを掻い潜って留丑ヰに接触出来るかどうかってルールだったんだ。
クワイエットが上手く利用しすぎて失念していたが、回数無制限の強制リスポーンとかタネが無けりゃ強すぎるからな」
「なるほどな……なら、本気で行こう」
クワイエットの背中から──赤、青、黄、緑の腕と剣が生える。
両手の剣にも魔力が込められ──虹に輝く六刀流。
「……トップランカーに名を連ねた者。トップランカーに届いている者。トップランカーに挑まんとする者……。
お前達に……格の違いを、見せつけてやろう……!」
トップランカー、しかもその上位。【飢餓の爪傭兵団】三大幹部"四枚舌"クワイエット。
その本気が──
「クワイエットさぁん! 放送中!」
「……む。うっかり」
「え」
「あ」
カズハ、俺、スワン。
全員の攻撃を受けんと構えたクワイエットの武器が、消える。
攻撃は止まらない。そのまま三人の総攻撃を受け──
「……ぐわー!!!」
──クワイエットは爆発四散した。
──◇──
"猫又九番守"留丑ヰ 撃破
【夜明けの月】カズハ 花火獲得+1
──◇──
「俺も降参だぁ。こんな所で未来のライバルに手の内は見せられねぇ!」
「こけー」「こけー」
カザミドリも勝手に消えた。【飢餓の爪傭兵団】のプライドよりも秘密を優先したか。
「……策士だなクワイエット。ああなれば"三大幹部が実力で負けた"と吹聴する者も居ないだろう。笑い話にはされるかもしれないが、【飢餓の爪傭兵団】の格は落ちず、戦力も隠せる」
「いやアイツはマジで色々忘れてただけだろ。クワイエット、存外に馬鹿だぞ」
……とにかく。倒すもんは倒した。じゃあスワンだな。
「……で、スワン。【ダーククラウド】に入ったのか?」
「ああ。先日のミラクリースの一件の後……色々と思い出してね。【草の根】内部で協議を重ねた結果、ヒョウ爺に後を任せ退団した。とはいえ情報提供をする側に回るだけで【草の根】内部としては終身栄誉会長という扱いになったが」
放送中なので言葉はぼかすが、"思い出した"とは現実の記憶の事。
……探している、という話は聞いていた。かつてと比べて記憶持ちも多く、対処は様々となったが……【ダーククラウド】で引き取ることになっていたのか。
「実はここ暫くはエリバさんと一緒に階層攻略に勤しんでいてね。もうトップランカーまで追いついているんだ」
「記憶の件は……大丈夫そうか?」
「そこまで苛烈な過去は無いさ。エリバさんからも自由にして良いとは言われていたが、【ダーククラウド】加入はこちらから申し出てね」
「そりゃどうして」
「勿論、ライズさんに追いつきたかったからさ!
さあ結婚しようかライズさん!」
「記憶戻ってんだよな?」
「そうだとも!」
カズハ。笑ってないで助けて。
冗談と流すのも悪いし、本気で考えるのもダメだし。どうすりゃいいんだコレ!
──◇──
「……カザミドリ。ドットがいたぞ。俺達から逸れて先に負けてる」
「逸れたのはクワイエットさんだぞ。俺は偶々クワイエットさんを見つけただけ」
「良かった。カザミドリだけでも合流できたんだな。ついうっかりで本気出したらまた怒られますよクワイエットさん」
「……いや、ほら。ライズに対してはどれだけ強く当たってもいいという暗黙の了解がだな……」
「せめて見えない所でやって下さい。キング.J.Jに怒られるのは俺達なんですから」
「……何故、俺には来ないのだ……」
「アンタ絶対反省しないから、叱っても意味ないでしょ……」
「こけー」「虚仮ー」




