334.風雲改造城
【第130階層 風雅楼閣サカズキ】
──side:クローバー
サカズキ城内部
突然の落とし穴!
……知覚して落ちるまで距離がある。対応余裕。ジャンプで回避……と。
お。空中の俺相手に槍やら棒やら飛んでくるじゃねェの。
だがまだまだ、迫り来る棒を足場に──ギリ渡れる位置にある足場へと着地。
よく出来た……出来すぎたアスレチックだ。
「いつまでアップさせんだ? 難易度上げてもいいぜ猫託!」
『いやこれでも最高難易度なんですけどね』
……ここいらが限界か。
ここが【Blueearth】である以上、あいつに出せる"ギミック"は攻略可能なものである必要がある。
直接俺と闘わねェって作戦は正しいが、今度はシステム上の問題だァな。
「そろそろ喧嘩しようぜー。何出してもクリアしちまうぞ、俺ァ」
『ふーむ。本当でしょうか。もう少し調べる必要がありますねぇ』
抜け抜けと狸野郎。いや猫。
……たとえ俺が容易く攻略できようと、猫託が諦めるかは別の話。
花火の移動こそ起きないが、俺を安全に閉じ込める事は可能……って訳だ。
足場が動き始める。立ち止まる事も許さないか。
「──上等だ。何度でもクリアしてやるよ!」
とりあえず動いて考えるか。
……と。足場から飛び出した瞬間。
「うおおおおお!!!!!」
──壁が爆破される。
外から、誰か入ってきた──!
「……ってマックスかよ。ラッキー」
「やべぇクローバーじゃねーか! 逃げろ!」
跳んでいるタイミングだったからすぐに対応は出来なかったのが悔やまれる。壁を爆破して現れたマックスは、仕掛けだらけの城の中、奈落の底へと落ちていく。逃したか。
「……クローバー……」
「うわっバーナード。お前らか、あの爆破」
「……ああ……少々混戦が酷くなってきてな……メアリーの負担を軽減する必要があると見た……」
稀にバーナードがやっていた、自爆ジャンプ。
トップランカー時代は面白かったなぁ。アレで空中戦するんだもんな。
さて。それより目の前の問題だ。
「バーナード。マックスは任せるぜ」
「……分かった。お前は外に?」
「ああ。ここを勝機と見たぜ。今しか逃げられなさそうだ──」
『逃しませんよクローバー!』
大穴が塞がっていく。槍が道を塞ぐ──が。
当然、それも攻略可能なレベルだ。
一つ二つ、槍を避け。
三つ四つ、壁を越え──
『……くっ、このままでは……!』
「あばよ猫託! 一旦出直すぜ──」
あと少し。出口に足が掛かった、その瞬間。
「うおおおお!!! そこ邪魔であります!」
「は?」
──外から、遅れてもう一人。
ヒートが飛んで来て──俺の腹にクリーンヒット!
「んぐっ……!」
「いやはや。助かりました。……おっ、クローバー。倒すであります!」
「倒されてはいるっつーの! どけ!」
まさかの乱入で、バーナードの隣までひとっ飛び。
……壁、塞がっちまったなァ。
「戦闘前に現状把握であります! ここは一体……」
「猫託の罠ん中だよ。トップランカーが揃いも揃って情け無ェ」
「……ヒート。俺とお前は、あくまで第三者。この場に"猫又九番守"も【夜明けの月】も【バッドマックス】も居ると言うならば……お前は誰の敵となる……?」
「……ふむ……本官、大恩あるマックス殿に恩義を報いるべく来ました。即ち派手に暴れる事が目的であります!」
エンジョイしてんじゃねーぞトップランカー。
……だがまぁ、楽しんでくれんなら良し。
この閉鎖空間に化け物閉じ込められりゃ外の被害も少ねぇだろうよ。
……あ、いや、【バッドマックス】の花火全部持ってるマックスがここに居たら【夜明けの月】に矛先向くか。困ったな。
──◇──
──サカズキ城コントロール室(猫託の自室)
「ああ危ない危ない。なんとか間に合いましたが……このままで良いんでしょうかねぇ」
サカズキ城。
その正体は、古代文明との戦争で人間が盗み取れた自在質量生成装置。
異様としか言えない古代文明の超秘具は、代々人間が解析し、人間が滅べば猫又がその解析を引継ぎ。
ただの地下牢しか無かったサカズキの中央に、遂にこの城を建てるに至った。
私……猫託は、この自在質量生成装置の管理猫の一族。誇りにかけて、人間"最強"を幽閉する。
──それだけでは勝てるものも勝てませんが、ミスしてくれるなら良し。ある程度消耗したならば、花火を捨てて万誑命へ引き継ぐとしましょう。
順当に"猫又九番守"は花火を手放しています。八つ全てを失わなければ、万誑命は動けないのですから。
しかし、このままで良いのか。
"最強"……クローバーの幽閉には叶いましたが、ここには【Blueearth】指折りの強者が勢揃い。
花火を持つマックスとクローバーは勿論、バーナードにヒートまで。どうしたものか。
「お前さんも出りゃあいいんじゃねぇかねぃ?」
──匂いも気配も無色だった。
その男の正体を見る間も無く──槍が、壁ごと私を吹き飛ばす──!
……私の部屋ー!
──◇──
「なんだなんだ」
空から落ちてきた、槍持ちの猫……猫託だな。
あと、その隣のハゲ。
「……アザリか。何してんだ?」
「いやぁどうにも。記憶戻って、色々と透明に出来るんじゃねぇかって研究中なもんでよ。遂に猫又にさえ知覚されなくなったんだぜぃ」
【象牙の塔】三賢者、【ジオマスター】のアザリ。
あらゆる副次属性を操り、純無属性を生み出すハゲ。
ミラクリースでは戦った仲だ。記憶を取り戻しても、楽しく過ごせているようで何より。
「ぬぬぬ。まだこちらにお邪魔するつもりはなかったのですが!」
「よォ猫託。お前、戦えんのか?」
「これでも槍の鍛錬だけは欠かしておりませんので。……こうなれば、闘いますとも!」
槍を構える猫託──の周囲に、木片。いや、浮いた鎧みたいなもんか。
この城を自在に操れるのは猫託本人のもの……って事だな。
「……アザリ。お前は──」
「隙ありだ"最強"! 【キャノン:ファイアワークス】!」
奈落の底から噴き上がる花火。全員、足場から別の足場へと飛び移る。
奈落から飛び出すは──マックス。
「誰が敵とかどうでもいい! 全員相手になってやるぜ!」
「……その通りだなァ。バーナード! 敵でもいいぜ!」
「……そうは行くか……馬鹿。……だが、まぁ……邪魔にはならんようにやるさ」
「えっと……猫託殿には攻撃が通りませんので! 引き続きマックス殿に加えてクローバー殿を相手とします!」
「俺っちも便乗するでありますぜぃ。リベンジだ"最強"ォ!」
てんやわんやになってきたな。
……だが、全員潰さねェと。こいつらの誰に花火が移っても厄介極まりねェぞ……!
──◇──
──北町
バーナードとマックスとヒート。とりわけ厄介な3人がサカズキ城へ飛んでいった。
残されたのは、あたしとゴースト。
ジョージは【真紅道】のライターと一騎討ち。高速近距離格闘のジョージと、転移アリの【アサシン】だと互角の勝負みたいで……あえて戦場をズラして、離れていってくれてる。
【神気楼】のクピコも。戦闘スタイルはゴーストと似ているから運用しやすいわね。
相手は【バッドマックス】──プリティ☆メロン、バルガス、トキシック。
そしてデブ猫の豆志波。
「ここまでお膳立てされちゃあ、勝つしかないわよね」
「answer:yes。マスターは……」
「こっちから指示するわ。クピコ、ついてこれる?」
「ヒャハ……お任せ下さイ」
双剣使いが二人。
相手は──【幻想絵筆】【マジックブレイド】【ドクター】。
特にプリティ☆メロンは、支援特化。ミカン以上に攻撃行為をしない補助職。ただの変態女装おじさんではないわ。
何にせよ、そこまでガンガン前衛って人は居ない。のだけれど──
「しからば、お命頂戴!」
──豆志波の強襲!
本人がデカすぎてサイズ感が狂ってるけど、豆志波の得物はがっつり長刀。最重量級の両手剣扱いのはず。
……短剣では無いにしても軽量級の双剣だと、マトモにカチ合うのは避けたい所だけれど──
「action:skill──【暗峠廻廊】」
豆志波の大太刀を双剣で受けて──そのままスキルの乱撃に繋げる。クピコの得意技が役立ったわね。
──双剣や短剣の重量問題を解決するために【ドクター】クピコが使っている薬品は、武器重量を増加させる。
つまりは武器同士のぶつかり合いに強くなる。色々とデメリットもあるけれど……特に問題にはならないわね。
「余所見厳禁! 【芸術創造:漢の背中】!」
突然現れる漢の胸像。……ターゲット集中のせいで視線が向くのが嫌ね。
「【チェンジ】!」
「アヒャア! 【襲牙】ァ!」
クピコを胸像に直接飛ばして──そのまま突進スキルで胸像を破壊しつつ、プリメロを狙う。
「甘い! 【ギフトシャワー】!」
壁になるは……布を被った大男、トキシック。毒薬を降らせて道を塞ぐ。
ゴーストと豆志波は互角に戦ってる。なら支援はクピコに──
「許さん! 【魔法剣:紫】!」
──戦場の隙間を縫うように。紫の魔力が針となって、剣となって飛んでくる。
【マジックブレイド】の魔法剣ってこんなにテクニカルなのね!
「──【召喚】"シルバークレイ"!」
銀の粘土兵を呼び出して、身代わりに串刺し。ごめんね。
……相手は【マジックブレイド】の髭ダルマ、バルガス。見た目に反して技巧派ね……!
「【チェンジ】──」
「プリメロォ!」
「あいよ!【芸術創造:銀の蜘蛛の巣】!」
「ちょ──嘘!?」
着地地点は、バルガスの背後。
なのだけれど──プリメロが足場を蜘蛛の巣に描き変えた!
【幻想絵筆】なんでもアリね!ゴーギャンほどじゃないけど!
「背後であろうとも!【マジックブレイド】ならば届く! 喰らえぃメアリー!【魔法剣山】!」
魔法の剣を全身から生やすバルガス。
本当に万能なジョブね、それ!
「ああもう、ここからじゃギリ届かないけれど──【次元断】!」
本当はこれで仕留めるつもりだったんだけど──空間断絶。魔法の剣山を切り裂いて、空間を確保!
あと少し──
「悪ぃなメアリー。これが勝負の世界だ──【芸術創造:白化粧】!」
──身動きが取れないあたしを──豆志波を、ゴーストを、クピコを──全部巻き込んで。
大雪崩が、空から降り注ぐ──!
「ば、馬鹿ー!」
「さあ、真っ白に染め上がれ!」
一瞬。【チェンジ】のチャンスは一回。
あたし一人で逃げる? あの雪崩の厚みも分からないのに?
──でも、やるしか無い──
──白の暴力が、北町を襲う──




