327.爆裂開会式
【第130階層 風雅楼閣サカズキ】
"爆裂花火二十七"
「──俺こそがマックス様だ!
【バッドマックス】の花火は全部俺が持ってるぜ!
かかってきやがれ馬鹿野郎共ォ!」
サカズキ中央のサカズキ城を挟んだ南町からも見えるように。
派手に、ド派手に大玉花火。
天高く飛び上がる"大玉花火"は宣言する。
この一瞬で、全参加者の意識が変わる。
──広いサカズキの端から端まで【バッドマックス】と【夜明けの月】を探すのは非効率的。花火を持たない自分たちでは猫又から花火を奪い取る事も出来ないし、セオリーは潜伏一択である。
だが、そんな事はマックスが許さない。
【バッドマックス】の花火九つ全てを本当に持っているのか? 真実を知る方法である公式放送はまだ来ない。
……もしマックスの発言が事実なら、マックス以外の【バッドマックス】は猫又への挑戦が出来ない。
何にせよ、計画変更だ。参加者はマックスの方向へと舵を切る。
「オラァさっさとかかって来いや──ッ!?」
最初に動くはドロシー。それとメアリー。
事前に町の各所に用意しておいた狙撃ポイントへとドロシーを【チェンジ】にて転移させ、"神の奇跡"にて狙撃。理外のスタン付与を回避できる者など居ない。
今回の戦いでは、現実の記憶を持つ者も多くいる。
だがこの常軌を逸した狙撃戦法に気付ける者は少ない。
撃たれたマックスですら、何故か自分がスタンしたという事実までしか理解出来ていない──ドロシーの位置は、この段階では誰にもバレていない。
異変に気付いたのは、地上に待機していたマックスサポートメンバー──白きワンピースのプリティ☆メロン。
(兄貴の大見栄が止まった? どういうこったい)
【バッドマックス】メンバーはプリティ☆メロン含めた3人を補助に残し、その他11人は方々へ散った。
──花火所持者であるマックスが倒されるまで、本当に花火九つをマックスが持っているかは分からない。同様に、【バッドマックス】のメンバーが本当に花火を持っているのかも分からない。
今が一番掻き回せる。メンバーは猫又より、参加者との喧嘩を優先させた。
ドロシーの妨害は理外の800m狙撃。遮蔽物の無い空中で無防備だったマックスにならば、今のドロシーの技術なら充分に届く距離。
他の遠距離攻撃組が近付くには、まだ時間がかかる。とはいえ、それはマックスが万全である事が前提。
「既に何者かの攻撃を受けている! 【芸術創造:ホワイトベール】!」
白のクッションにて、マックス着地用の設置物を展開。
もしもマックスが動けないならば。
【バッドマックス】の中では比較的マックスに妄信的ではない忠実な部下であるプリティ☆メロンは、その時自分が信じる行動を優先する。
このスタンが僅か10秒のものである事は、プリティ☆メロンには分からない。
周囲の【バッドマックス】も、分からない。
ただ、最悪ここに来る者を自分達だけで対応しなくてはならないと覚悟した。
「──ケヒヒヒヒ! お命頂戴。ヒャハァァーー!!!」
正面から現れる狂気の双剣使い。即ち【神気楼】クピコ。
この辺りのスピード形が追いつく程度の時間にはなった様だ。突進を受けるは【マジックブレイド】のバルガス。角兜で受ける髭ダルマ。それは受けたと言えるのか。
「んぬっ……プリティ! 如何にする!」
「何て事ぁ無ぇ。兄貴抜きで守り抜く!」
「──いや、俺ぁ無事だぞ」
10秒経過。白のクッションからマックス復活。
そんな事はいざ知らず、群がる挑戦者達。
「面白ぇ。一丁派手に──」
マックスが吠える、その瞬間。
空から無数の爆撃が降り注ぐ──!
「【芸術創造:黒のアーチ】……嫌だねどうにも、粗暴な女は……!」
「負傷者0名。見事と言うべきか、不甲斐ないと恥じるべきか!」
プリティ☆メロンの壁により、爆撃は防がれる。
クピコもいつの間にやら距離を取っていた。
見下ろす形で屋根に立つは、赤き軍服──
「──ヒート! 相変わらず熱い女だぜ!」
「マックス殿! 相変わらず燃えておりますな! その首ひっ捕えさせて頂くであります!」
──【真紅道】燃える爆撃機ヒート、ここにあり。
──◇──
──side【夜明けの月】
「やらかしてくれたわね……! ドロシーは早速仕事を始めたけれど、つまりもう合流は出来ないわ」
「どうするマスター?」
「計画に変更無しよ! マックスが花火を全部持ってるなら、猫又と戦えるのはあたし達だけ。計画通り猫又を倒しに行くわ!」
ドロシーはここで離脱。まだ世間には"神の奇跡"の正体は知られていない。トップランカーへの隠し球でもあるから、できるだけバレないようにしないといけないわ。
だからドロシーは花火を持っていないし、場合によっては隠れたまま終わってもいいと考えてる。凄腕の【サテライトガンナー】が消息不明ってだけでも牽制になるし。
「今分かってんのは……南町、賭場の狗五ヱ。
北町、同じく鳥羽の豆志波。
中央町、監獄の看守狗飼。
サカズキ城の書士猫託だ」
「北町は……あの渦中に飛び込むのは得策じゃ無いわね。隠密チームで行くわ。あたしとゴースト、ジョージで組むわ」
「多分各町に一匹はいるはずだ。俺は比較的道案内出来るから中央方面へ。体力と移動速度を見て、アイコはそのまままっすぐ東町へ頼む」
「じゃあ南町は僕が行くよ。賭場の場所も狗五ヱも知ってるからね」
「誰か連れて行くか?」
「いや、あの奥まった場所は狙い所だよ。僕1人で行く。【夜明けの月】としても僕の事は情報が少なくてマークも薄いだろうし」
「ミカンさんはリンリンちゃんと一緒に中央町に近いところで拠点を構えるのです」
……何となくのチーム分けは出来たわね。北に勢力が集中しているとはいえ、このまま団子になって目立つのも良くないわ。
「目標はレイドボス万誑命の解放! みんな、よろしくね!」
「「「了解!」」」
──問題は、半数の"猫又九番守"が見つかってないって事だけれど。
まぁ何とかなるでしょ。こいつらなら。
──◇──
──side:ミカン
さて。ライズさん達を見送り、遠方では未だマックスの花火が止まないのです。
花火……あの花火は、あくまでマックスの個人的な花火。このイベント用花火は、火が付かないのです。だから間違えて使っちゃって消える事は無い。
【夜明けの月】は12人。花火は九つ。
まずもって誰かと組むミカンさん、単独行動で最悪最後まで潜伏する可能性があるドロシーちゃん、あとはメアリーちゃんの3人は花火を持ってないのです。
ミカンさんとリンリンちゃんは……ずっと一緒なので、どっちが持ってても変わりませんですが。
「……お早い到着なのです」
「見つけたぜ、最強防御コンビ」
【バッドマックス】が4人。北町から解散したなら、ここは比較的近い位置。大通りに居れば見つかるのもやむなし、なのです。
「たった4人でミカンさんとリンリンちゃんの相手になると?」
「こっちは壊し屋やらせてもらってるのでね。相性は良いと思うぜ」
一際目立つ全身金ピカタイツの男──【呪術師】シーザー。後ろには、魔法使いと両手銃使い、後1人はまだ素手……。広範囲破壊と遠距離攻撃は確かに、攻城の常なのです。
「温い。まだまだ青いのです──【建築】!」
「行くぞ野朗ども!」
「「「応!!!」」」
リンリンちゃんのスペースがあればいい。大通りとはいえそこまで広くは無い──城壁のスタイルは、かまくら。
ドーム状の壁に、花弁のような防壁を幾つも重ねる。リンリンちゃんは、唯一の出入り口に仁王立ち。
──連中は元【需傭協会】も少なくない。ミカンさんと一緒にミラクリースの"拠点防衛戦"に参加した連中もちらほら。
「行くぜ行くぜ! 【フルバースト】!」
無手のスカーフェイスは元傭兵ベミドバ。【コマンダー】でも特に、遠距離爆撃を得意とする広域殲滅要員。
──そんなものは、リンリンちゃんに届く前に壁を伸ばして代わりに受ければ良いのです。20発全弾無効化。
「やはり対応力……! しかしこれならばどうです!【カースドコフィン】!」
ちょび髭のおじさんは【大賢者】ジライヤ──元【需傭協会】。氷の雨はミカンさんでも対処し切れない──ので、放置。屋根があればミカンさんにもリンリンちゃんにも届かないのです。
もちろん耐久値は削れて行きますが、そこはちゃんと張り替えを管理するだけの事。
「──貰った。【デッドリーショット】!」
一番後ろの黒服は【スナイパー】アタリメスター。ベミドバ同様の元傭兵。
超高火力の狙撃スキル。狙いはリンリンちゃん──
「──【イージスフォース】っ!」
スキルだけでは相殺出来ない。相手は防御を貫く致命の一撃。
それでもリンリンちゃんは、大盾の角度を利用して受け流す。ここまでダメージはほぼ0、と。
「まだまだ甘いのです。マックスの教育は温いもんなのですね?」
「ふっ。これからだ──」
何もしていない金ピカタイツの──その後ろ。
光がこちらに向かって──
「リンリンちゃん!」
「【ワイドシャッター】!」
咄嗟に、大盾から広範囲のシールドを展開。
直後。
──七色の花火が、壁一枚の向こうで炸裂。
「あいや。硬いねー。お見事お見事」
のっしのっしと歩いてくる、煤けた灰色の猫又。
籠を背負って、筒を抱えて──左の腰には、一本の刀が差してある。
「んでも……攻撃が通ったって事ぁ、アンタ達が花火を持ってるんだね?」
「──まさか自分から姿を現すとは、思って無かったのです」
「あんなもんを打ち上げられるとねぇ。こっちも知ってる身だもんで。……では、ここいらで」
花火に巻き込まれつつも無傷な【バッドマックス】達の隣──こちらとは遠距離戦特有の距離を取ったままの、やや遠く──で。
灰猫は刀を抜き、そのまま地面に突き刺す。
「手前、"猫又九番守"張らせて貰ってます。尼之番、花火師の猫撫と申します。
──やはり祭りにゃ、花火が無くちゃあ!」
挨拶は終わりと言わんばかりに、花火を連射!
──刀はポーズなのです? ともかく、一発の威力でアレなら──これは中々マズいのです!
「【建築】! ……リンリンちゃん、これマズイのです! あまり前に出ないで……」
「う、ううんミカンちゃん。何が相手でも矢面に立つのが、わたしの仕事……だよ!」
花火の明暗で目が眩む。正確な判定を見つけるのは困難。これは無機質な壁防御が丸い。
……のですが、相性悪し、なのです! 単純な破壊力が桁違い!
リンリンちゃんは大盾を構えながら、じわりじわりと前進する。
──防戦一方が我々の常なれど。
戦って倒さなくては、キリが無い。
分かった。分かったのです。
リンリンちゃんに合わせて──要塞を、わずかにわずかに前進させる。
たまには、真っ向勝負も悪くないのです!
「押し切ってやるのです! 火薬の貯蔵は万全ですか!」
「こりゃあ中々、地味なのに派手な心意気だぁ! ほらアンタら、手伝いな! 人の手も借りたいのさ!」
「ん……うーん。そうだな! やるぞ【バッドマックス】!」
「「「応!」」」
向こうは向こうでチーム組んで来たのです。
花火を持っていないと"猫又九番守"に挑めないなら、つまり猫撫も【バッドマックス】にはダメージを与えられない。だから無傷だったのですね。
──勝ち目は、一つ。
このままサカズキの外まで押し出す!




