314.難敵の多い喫茶店
【第128階層ドラマ:第八幕『ゼブラゼブルの長旅』】
虹の海の上、サッチャー号。
──【喫茶シャム猫】は変幻自在な【ドラゴンブラッド】のナナフシ。超火力と補助の黄金コンビ スティンガー&マッシブハント。そして強いやつ、シャム。
それはいい。それはいいんだけれど──
「あたしも敵になるのは、聞いてないわよ……」
「さあさあ仲良く踊ろうじゃないか"虹の魔女"!」
「はぁ……こういう時に手を抜けるような性格はしていないでしょう……貴女も難儀ですね……」
「出たわね事案おじさん。あの抑え方、戦術としては合格だけれどそれ以外だとアウトよ」
「……まぁ……はい……戦闘、なので」
しかしガチ編成すぎる。万能兵器シャムに、高速超火力スティンガー、最強補助マッシブハント、変幻自在ナナフシ。そして超最強美女あたし。無敵すぎるわ。
「よーし、やったるわよアンタ達ィ!」
「call:"クローバー"」
「逃げるわよアンタ達ィ!」
出現ノータイムで"最強"呼び出すんじゃないわよ!
──◇──
log.
マスターが敵に回ってしまいました。
それ自体は問題ありません。撃破条件では無いので、それ以外を倒せば良い。
……ですが、熟練の【エリアルーラー】が敵に回ったと考えると、厄介ですね。
こちらはツバキとの二人のみ。近接戦闘可能な私は、敗北時即終了。まず人数差の問題あり。
劇が出来る程度の余裕を確保──開幕の"切り札"投入を決定。
「合法的にマスターに銃向けていいってマジかァ!?」
「逃げるわよアンタ達ィ! 【チェンジ】!」
もれなく最速でマスターを狙うクローバー。
──砂時計呼び出しの性質に適応できる者は、想定値より少ないです。
事前のスキルで備える必要のあるクローバー(無論、準備無しでも十二分な火力ですが)、10秒を要するドロシー。こちらは十全な性能を発揮出来ません。
リンリンやカズハは防御・攻撃において即座に高水準な行動が可能。実際一番使っているのはリンリンです。
最初にクローバーを呼び出したのは──相手の注目を集めるため。
行動を観則:【喫茶シャム猫】においてクローバーを受けられる人材は──このメンバーならば。
「──受けきってくれる! "最強"風情がぁ!」
【ブラックスミス】のシャム。防御貫通のクローバーのクリティカル戦術を承知の上で盾……"ホールケーキガード"を展開し矢面に。──追加効果:"最大HP増加"に着目か。
ヒーラー役のマッシブハントもシャムに付く。そこまでしなくてはクローバーは止められない。
「──ええと、行きますね」
【ラピッドシューター】スティンガー。クローバーをシャム達に任せ、こちらへ肉薄する。
至近距離最大火力の片手銃スキル【ゼロトリガー】を連射可能な、速度と火力を両立した謎多きスピードファイター。
──しかし、既に解析済み。
「【ゼロトリガー】……っ!」
「action:skill 【鮮血磔刑】」
最高火力を身体で受ける。
発動したスキル【鮮血磔刑】は、空中に血液の側ピットを展開し遠隔で串刺しにする遅延攻撃。
腹部を貫く衝撃は、それでも私のHPを7割削るに過ぎず。
「search……【ラピッドシューター】特有のデメリット"ダメージ減少"による副次効果で【ゼロトリガー】の反動も軽減している事に着目し、連打を可能にしたのですね」
「ええと、ええと……まだ、2発目が──!」
それでも五連撃は難しいものですが。マッシブハントと組むあたり、自身にもダメージのキックバックがある様子。
……ともかく、一手目を捨てたが故に二手目の【ゼロトリガー】よりは、こちらの方が早い──
「──くっ。シャム様ぁっ!」
鮮血の針が、スティンガーを串刺しにする。
──スティンガー撃破。
「……はぁ……【呪血流転】……!」
レンジャー系第3職【ドラゴンブラッド】──キャミィより性能を把握済。
スキル【呪血流転】は一定質量の血液操作。キャミィは移動手段として竜の形に変化させる事が多いが、檻や槍など臨機応変に変化させていた。
が。"竜""檻""槍"と定められた物質へ変化するとそれぞれに設定されたシステムが当てはめられ、血液の総合操作可能領域が減少する。
ナナフシはこの性質を理解した上で、【呪血流転】を固定化せず使用。
攻撃性能は格段に劣るものの、【ドラゴンブラッド】最強であるキャミィ以上の血液質量を操作する事で対応能力に全振りしていると推測。実際、スティンガーとの混戦に紛れた奇襲の速度は見事なもの。
しかし、【鮮血磔刑】は遅延発動。今の私はフリーとなっている。
──操作可能質量において、彼女に勝る者は存在しない。
「call:"ミカン"」
「やったるのです! 【建築】──"鉄砲水"!」
ミカンが呼び出すは"水"──より正確には、"決壊したダム"。
ミカンは今回は普段以上にインベントリ内を物資で満たして来た。砂時計による呼び出し以外を考慮する必要が無いためである。
──"操作可能領域"。例えば【クリエイター】の【建築】等は、発動後周辺一定範囲の操作可能領域内に、必要分の空間がある場合にそこにアイテムを出現させる。
これが流動的物体であった場合、話が変わってくる。当然【建築】や【チェンジ】のような"操作可能領域内の空間を指定する"スキルならば、当然その空間の確保が必要──【チェンジ】指定の立法空間に物質が挟み込むと不発に終わる様に、物質と重なる事は出来ない。
この物質との干渉不可については、スキル同士でも発生する。【建築】で物質展開予定の空間を巻き込んで【チェンジ】する事は出来ない。
そして【呪血流転】や一部【キャッスルビルダー】の様に発動後常に呼び出した質量を操作するスキルもまた、その原則から外れる事は無い。
【真紅道】のフレアは作り出したカーペットを常に【建築】し続ける事で動かす事が出来たが──当然、ミカンも可能。
「……くそ……相性が悪い……!」
結果、操作可能領域の押し付け合いとなる。そしてその領域の総合質量においては、一瞬で城を建造できるミカンに勝てる者はいない。
ナナフシは呪血ごと押し流され──これで二人目を突破。
「ゴーストちゃん!」
ツバキの声に、空を見る。
──クローバーは時間切れ。シャムとマッシブハントがこちらを狙う──
「落下中なら狙いやすいわぁ。【劣等感の葦】【無気力の霧】!」
移動を含めたオート処理のスピード減少、通常攻撃のダメージ減少。即ちスキルと通常攻撃両方へのデバフを付与。
故に、抜け穴を通すしか無くなる。
「【チェンジ】!」
私の目の前に跳ぶはシャム。移動速度を考慮しなければ【無気力の霧】のデバフは無意味。
"ホールケーキ"は壊されている様子。シャムの手には片手槌"マッシュメイス"──双剣に対する武器弾きを優先したチョイス。
しかし、スキルが発動しないのならば。
「action:skill 【アビスブレイク】」
「ぬっ──そう来たか!」
通常攻撃とスキルならば、武器の重量差を補えます。【アビスブレイク】は武器弾き武器破壊に突出したスキル。
双剣と槌が打ち合い──シャムごと片手槌を弾き飛ばします。
「店長! 投薬だ!」
空中でマッシブハントから何かの薬品を受け取るシャム。恐らくは簡易的な解呪アイテム。
高い位置の手摺に着地し──シャムの周囲に調理器具が浮かぶ。
「【武装錬鉄】である。正真正銘、本気で行くぞ!」
インベントリ内の武器を展開・射出するスキル【武装錬鉄】。単純な飛び道具としてでは無く、周囲遠距離攻撃からの防御手段にもなる──
「call:"ジョージ""アイコ"」
「これは、アイコ君が対応した事があるね?」
「はい。ベラ=BOXさんの時より少ないですね」
肉弾戦のプロ。単純な直線運動で捉える事は出来ない。
調理器具の隙間を縫ってシャムに肉薄する二人。
どれだけ【Blueearth】で実力があれど、この二人に接近されては困る事は──マスターが一番知っています。
「シャム、引くわよ! 【チェンジ】!」
「んぬっ」
対象が消える──行先は推測済み。
今この瞬間において、こちらを瞬時に狙える敵は不在。
「call:"ドロシー""ライズ"!」
「どうぞ、ライズさん」
途中で反転し、両手を組んで構えるアイコ。
判断の間も無く、ライズはアイコへ走り──垂直に、投げ上げられる。
「跳ぶか! だが未だ我は健在──」
「ここからでも視えていますよ。【デッドリーショット】!」
「ぬがっ!」
マストの上に飛ばされたシャムを撃ち抜く──否。撃ち落とす。致命は逸れました。
足の不確かな空中戦なら、こちらは──
「call:"カズハ"」
「オマケ付きよぉ。【無気力の霧】【脱兎の足跡】【死期看取る屍鬼】!」
「ちょ、ちょっと待て! そんな呪い漬けの"呪血"の一撃なぞ──」
全ての呪いを【厚雲灰河】で喰い潰すカズハは、深く深く。落下するシャムのみを狙い、時を待つ。
──空中方向への【一閃】はサティスでも無ければそこまでの精度を確保出来ない。
着地の一瞬を狙う。そこまで読めるシャムは──
「──【武装錬鉄】に加え! 宝刀【肉離れ】による【炎月輪】! これで相手するしかあるまい!」
降り注ぐ武器の雨。炎の円。
それに対してもカズハは瞬き一つせず──黄金の焔が揺らめき、全ての攻撃を通り抜ける。
「──【灰燼一閃】!」
「ぐぉ……っ!」
──全てを無視する、圧倒的な火力。
シャム撃破。残るはマッシブハントと──
──◇──
──シャムが落ちたマストに着地する。
一番高い位置。一番船を見渡せる位置。
「お前とタイマンなんて初めてじゃないか?」
「無謀……なんて思わないわ。もう追い付いたのよ」
メアリーは、紫蓮の杖を構えたままで立っていた。
──砂時計の呼び出し時間はまちまちだが、大抵は攻撃行動で時間を消費する事になる。
一瞬で多数の攻撃行動を消費するクローバーは、本当に一瞬しか呼び出さない様に。何もアクションを起こしていない俺は、まだ消えない。
それも時間の問題だ。だから、一撃で決めるしかない。
それはメアリーも分かっているから──
「スロットセット。── 【紫蓮赤染の大晶鎌】」
「【スイッチ】── 【月詠神樂】」
大鎌を構えるメアリー。
……今更ながら、こんな不安定なマストの上に堂々と立てる程度には肝が座ってきたんだな。
知らずの内に成長を実感するよ。
「──そういえば、ここ最近は中々一緒に居られなかったが。遂に敵対する事になるとはな」
「そうね。お互い別行動ばっかりだったけれど、まさかこうなるとは思わなかったし。喧嘩はしたけど殴り合いなんてしなかったもんね」
気恥ずかしいものだ。
──会話は、誘導。メアリーの十八番だ。
「【チェンジ】!」
一瞬で俺の目の前まで距離を詰める。目の前になるように、マストの端に着地したんだから当然だ。
「【赤き大地の輪廻戒天】!」
「── 【七星七夜】!」
紫の凶つ風と、七色の剣閃が、衝突する──




