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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
連綿舞台ミザン/ドラマ階層
311/507

311.パンドラの箱の底

【第120階層 連綿舞台ミザン】

シアター2(撤収済)


──宝珠と金の交換。手っ取り早く言えば、宝珠を俺に個人的に売却する事になっている。

それが【マッドハット】を思っての行動だとしても……外聞は悪いし、何より【セカンド連合】としては背信行為でしか無い。

【セカンド連合】という後ろ盾を捨てることになる。ナズナは俺たち【夜明けの月】に乗る事で解決しようとしていたが……。

それを周りの【マッドハット】が納得するかは別の話だよな。


「……待って、下さい。私は──」




「成程なぁ。そういう裏切り方もある訳かよ」




またしても、珍客。

扉の方に居たのは──平安貴族バルバチョフ。


「オラお前のせいで俺が目立てねぇだろうがよー!」


「顔も服も地味な貴様が悪かろう。ひょほほ」


……の手前に居たのが、【セカンド連合】総司令。【月面飛行(ムーンサルト)】ギルドマスター、アカツキ。


「仲良し集団じゃねぇんだ。多少の我儘は許してきたけどよぉ〜……こうも明確に裏切られると、こっちもどうにか動かねぇとならなくなる。その辺は他の連中も弁えてたんだぜ?」


「ア、アカツキ……どうして、ここに」


「このアホに捕まったんだよ。なんで野郎と二人で劇場まで足運ばなきゃなんねーんだ」


「暇であろう? 偶にはその目で芸術を観ることも肝要でおじゃる」


「素人の学芸会見せられてどうしろってんだよ」


……これは、ナズナにとって厳しくなってきた。

あくまで【マッドハット】の存続だけを見ていたナズナが、今、窮地に立たされている。

商人である【マッドハット】は、損する方には付かない。


「……なぁナズナ。宝珠を売るって? それだけだとよぉ〜……どう【セカンド連合】に貢献するのか、見えてこねぇんだわ。その行為がどう回って、俺を助けてくれんだ?」


「……そ、それは……」




「haha! 勿論あるとも!」




助け舟を出したのは──セリアン。


「……あ?」


「馬鹿だね我らが総司令官は。宝珠一つ渡したところで後で取り返せるじゃあないカ!

だが、"商人殺しのパンドラボックス"は……今、この瞬間しか手に入れられないんだよ?」


「セリアン、何を……」


席から立ち上がり、通路に立つセリアン。

偶然かどうか。その位置は、アカツキとナズナの間だ。


「それに、キミが心配している事は起きない。

だってナズナの持つ宝珠は既に"宝珠争奪演劇"の景品なのだからネ!」


「……あ? おぉ、そりゃあそうか。じゃあ何だこの取引は」


「つまりだね。【セカンド連合】が()()を差し出せば、"商人殺しのパンドラボックス"を手に入れられるかもしれない、という事だ!

この状況を作り出したのは、紛れもないナズナだよ。褒めてあげようねぇ?」


「や、やめろ。何を考えているのセリアン! 私、私は──」


「おいそりゃマジかよライズ!」


「ん、まぁそうだな。宝珠相当のものを金で得られるなら、喜んで」


ナズナの言葉は、アカツキの歓喜の声に掻き消される。

もうアカツキはナズナを見ない。ナズナは守られたのかもしれない。……それを本人が望むかはともかく。


「全財産だぞ。本当にいいのか!?」


「あのなぁ、ちゃんと相応の物を出したらの話だぞ」


舞い上がっているアカツキ。……取引するとして、もうナズナとではなくアカツキとになるか。

メアリーが心配そうに見てくれるが、ドロシーを指さしておく。ドロシーは俺の考えが分かるからな。ドロシーが頷くのを見て、メアリーも納得したようだ。

話が複雑になる前に、ミカンとホーリーは隅の方に行ってもらう。カズハとアイコとリンリンが付いていってくれたので安心だ。あとレインも。


「一つ、言っておく。これは【夜明けの月】【セカンド連合】としてでは無く、俺とお前の個人的な取引だ。ナズナから引き継ぐってんならこれを呑んでくれ。勿論、受け取った後に【セカンド連合】に寄与する分には構わない」


「いいぜいいぜ! 全然いいぜ! そういうメンドーなアレがあるんだろ? 俺ぁ気にしない!

しかしそうだな。金を金で買うなんて出来ねー。何なら買えるんだ?」


「haha! おいおい総司令官殿。またもや節穴だネ!」


またしても、獣の牙がアカツキの首筋に当てられる。

──セリアンの商談は、いつの間にか始まっていた。


「いるじゃないか。ここまで来ればもう不要な、生意気で、とても信用できない。それでもライズなら欲しがりそうな()()が」


「……は? そんなのあるのかよ。さっさと教えろよ!」


既に。

アカツキは、セリアンの用意した皿に盛り付けられている。

──俺の方の作戦は、セリアンには知られてない筈なんだけどなぁ。

セリアンは妖しく笑うと、ボソリと一言。




「ワタシ達だよ。【マッドハット】を、売ってしまえ」




──ここには、【マッドハット】の主要メンバーが勢揃いしている。

当然動揺は起きるが──そこを考慮しない、短絡的で直情的な権力者がそこにいるのが問題だ。


「そうか! そりゃそうだな。中立商人では有り続けるだろうし、ギルドとしてはいらねーや! ライズ! 【マッドハット】をお前にくれてやるよ! 金よこせ!」


「……それ、口頭で出来るもんなのかよ」


「一応まだギルドマスターのワタシがいるし、出来ない事は無いネ。どうだいライズ。ワタシ達を、買うかい?」


勢いに任せるとしよう。アカツキを抑えられるなら、それが一番だ。


「……交渉成立だ」




──◇──




──地獄だ。


何が起きている?

ライズさんは何もしていない。


何故か()がやってきて、私と蜜柑ちゃんを治してしまった。

交渉材料が無くなったのに、ライズさんは大金を押し付けようとしてきた。

アカツキがやってきて、裏切りがバレた。

セリアンが、何故か【マッドハット】を売った。


何もしていないのは私だ。

全部、私を蚊帳の外にして。

まるで、大人同士が話しているのを遠巻きに見る子供のようで──


「なんで! 何故……セリアン!」


「haha.当然だろうナズナ。こうすれば、()()()()()()()()


当たり前のように。いつもの腹が立つ余裕な笑みで、そう言う。


「キミを手放す訳が無いだろう。ワタシだけ去る訳が無いだろう? キミは優秀な……()()だから」


心にも無い。

私が求めている言葉を取り繕って、こいつは!


……なんで。

なんでそこまで分かっているのに、涙が出るのか。


「さて。今回は本当にピンチだったよ。ちゃんと楽しかった。本当さ。

本当にキミは、ワタシを楽しませてくれる最高のパートナーだ!」


「……最低、です。しんでしまえ……」


「hahaha.この世界に死が無い事は知っているだろうに。まぁ暫くは泣いてもいいサ。向こうには騒いでもらうから、存分に泣きたまえ」


優しく私を抱きしめるセリアンが、まるで母のようで。

──母の愛なんて知らないけれど。それでも、この一瞬だけは泣く事にした。


自分で勝手にセリアンを追い出そうとして、上手く行きそうになったら不安になって。

取り返しの付かない事までしたのに、まだこの人は私を守ってくれて。


……ごめんなさい、は。絶対に言わないけれど。




──◇──




「これはどういう事だライズゥ!」




──◇──




怒号。

跳ねるように外へと出ていったアカツキが帰って来た。忙しいやっちゃ。


「どうもこうもあるか。ちゃんと取引は成立しただろうが」


「嘘をつけこの……! なんだこれはよぉ! たった3000万L(ラベル)じゃねぇか! いや結構な金だが、こんなの話が違う!」


おぉキレてるキレてる。

別に何も違わないがな。


「ちゃんと俺の全財産だよ。お前ら、どいつもこいつも伝説に踊らされ過ぎだ。

……普通に考えて、都会の超高層ビルを個人で購入したりしてんだぞ。もうそんなに残って無いよ」


──こういう伝説を吹聴するよう仕向けたのはハヤテだったな。嘘は噂になり、やがて大きな伝説となって返ってくる。虚像ほど利用価値のあるものは無い……とか。


あらゆる商人が際限なしに金を()()してくれたのも今や昔の話。【夜明けの月】になってからは稼ぐ手段も無いし、全部俺の貯金から崩していた訳だ。

……何か金になりそうな話になると、早期に立ち上げた【朝露連合】……というかベルの方に回していたしな。


クリックでは"イエティ王奪還戦"の企画出資、バロウズやエンジュのショッピングモールやらヒガルの大鐘楼拡張やら。終いには超大都会ミッドウェイで"奴隷格闘大会実行委員会"の立ち上げと、その後のビル一棟の買収。そろそろかとは思っていたが、あと三千万しか無かったかー。


「ふ、ふざけんな! こんなの無効だ!」


「そこに"審理"の輩も"拿捕"の輩もいるぞ」


「ぐっ……クソ! 覚えてやがれ!」


半べそかきながら、アカツキは身体を翻す。

──劇場の入り口にいる者に気付いたようで、そこで硬直した。


さて。

パンドラの箱というのは、中からそれはもう恐ろしいモノがいっぱい出て来て、最後箱の底には希望がある……みたいな話だったと思うが。

まさか金が"恐ろしいモノ"とは思えない。きっと"商人殺しのパンドラボックス"は真逆の性質を持っているのだろう。

飛び出した金が底を尽きて、箱の底が見えた時。そこにはきっと──絶望がある。


「……アカツキ総司令。少々、お話があります」


月面飛行(ムーンサルト)】サブギルドマスター……【セカンド連合】経理担当、アラカルト。

多分俺の姿を見た瞬間、バルバチョフあたりが何か察して連絡したのだろう。


「あ、あの。俺は悪くないんだ」


「そうですか。まぁその辺りは帰ってから聞きます。3000万L(ラベル)分のお説教を楽しみにして下さい」


「嫌ッ! 嫌ァーーーーッ!!!」


哀れ、アカツキ。

来世ではマトモになれよ。




──◇──




──数時間後


「……じゃあ、最終決定。宝珠争奪戦自体は継続。【マッドハット】は【セカンド連合】として続行して、正式に【セカンド連合】を抜けるのは決着後。

もし【マッドハット】が勝ったとしても、宝珠は【セカンド連合】に委託してから【夜明けの月】傘下へと吸収。それでいいわね?」


「oh.随分と甘い対応だね。いいのかい?」


「ここで劇を中止するのも、劇に意味が無くなってモチベーション下げるのもダメでしょ。

……あたし、学芸会とかやった事ないから。ちょっと楽しいのよ。……あぁもう撫でるな!なんなのよー!」


セリアンやらカズハやらお姉さん連中から撫で回されるメアリー。ちゃんと楽しんでいるようで何より。


「うむうむ。なあなあで劇を飛ばされなさそうで宜しい。でなければ年甲斐もなくシアターロビーで泣き散らすところであった」


「それはやめてよね」


レイドボス"ディレクトール"の抵抗があまりにも無力すぎる。……けど、見たくないのは間違いない。


「とりあえずこんなもんでしょ。……それでライズ。脱獄したのはレインとホーリーだけ?」


「いや、後二人いる。"影の帝王"は結局【黒の柩】から出られて無いから……そうだった。一つ頼まれてたな……。それは後でいいや。

で、後一人は──」




──◇──




──天知調の隠れ家


「どーも。デュークでやんす。今後ともご贔屓にっへへへへ」


「お帰りください」


「調様、一応これでもスレーティーさんが気遣って回してくれた戦力ですから……」


「離して下さいラブリ。こいつは気に入らなーい!」


「お近付きの印にティーセットをご用意しまして。勿論マニュアル。あなた、案外途中経過を楽しむタイプでございましょうや。

ほらこの茶葉、お湯を入れると花開くみたいになるんでして」


「有能〜! リサーチ完璧すぎてムカつく〜! でも飲む〜!」


「こ、こんなに感情的な調様は初めて……」

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