301. 『ホラ吹きトムの海賊船』
第三幕『赤く染まりしアンゼリカ』
【夜明けの月】:条件未達成
【マッドハット】:条件未達成
劇評価:評価無し(両者条件未達成)
【夜明けの月】:0pt
【マッドハット】:0pt
【喫茶シャム猫】:2pt
──◇──
【第0階層 城下町アドレ】
──特設ステージ
『さぁ第三幕閉幕です! こちら【マッドハット】側のシアター1では騒ぐ巨漢マッシブハントと殲滅兵器スティングによる超攻撃的時間稼ぎが行われました。
歩く回復薬こと【ドクター】のマッシブハントの製薬時間を、超高速高火力戦闘のスティングがフォローするという【喫茶シャム猫】では定番の運びですね!
これにより【マッドハット】チームは開幕"虹の魔女"ナズナが落とされ、サシャさんが善戦するも時間切れとなりました。そちらはどうですナンバンさん?』
『はァい! シアター3、【夜明けの月】側では【喫茶シャム猫】のナナフシさんが先制攻撃! "虹の魔女"メアリーさんを拘束し【チェンジ】を封殺しました!
高速アタッカーであるゴーストさんは早くも先へと進もうとしましたが、ここで立ち塞がるは【Blueearth】いちの目立ちたがり屋キラビヤカさん!
こちらは完全に足止めに特化した形になりますね! 正直無理ゲーではないでしょうか? 解説の【飢餓の爪傭兵団】大幹部"絶対王権"キング.J.Jさん』
『我の方が強い!!!』
『はいありがとうございますゥン!』
『待て。悪かった。許せ。
……今回は両名"アンゼリカ"の対応が悪すぎる。
砂時計にて仲間を呼び出せる"アンゼリカ"は戦闘より戦況確認が本筋だ。一見すると詰みにしか見えんシアター3も、仲間を呼び出しターゲット集中をそちらになすりつけ、そのまま抜ける事は可能だったはずだ』
『おおぅ……意外にもちゃんと解説するね父っつぁん』
『マスカットよ。ちゃんとギャラを払えよ』
『そういう話は裏でオネガイシマース』
──◇──
【第120階層 連綿舞台ミザン】
「何か解説呼ばれてるんだけど」
「マスカットちゃんは【飢餓の爪傭兵団】の関係者だからね。解説に呼ぶなら【セカンド連合】は使えないし、トップランカーを選んだのは正解だと思うな。
……キングさんを選ぶのは、予想外だったけれど」
カズハと一緒にモニター先の放送を見る。
──尚、既にミザン攻略済みだったため参加不能だったカズハとクローバーだったが、今回からは宝珠争奪戦のため参戦が許可された。
こっちに最高火力が居たのに、つい砂時計を使うのを忘れた……という訳ではなく。ちゃんと使おうとはしたのよね。
「でもこの失敗で、おおよその制限時間は把握できたわ。次から点は渡さないわよ」
「点……。そうですメアリーさん。【喫茶シャム猫】に2点入ってますよね」
「考えてみれば当然ですけれど、【喫茶シャム猫】さんは【夜明けの月】も【マッドハット】も相手にするのだから……1幕に最高2点稼げるんですね」
アイコとドロシーは気付いて居なかったけれど、それが一番の懸念点。
僅か7幕。【夜明けの月】と【マッドハット】は1幕につき最高でも1点しか手に入らない。
その根本的ルールが、今回の宝珠争奪戦を難化させている。
「た、例えば2回【喫茶シャム猫】が完全勝利したなら、4点を【喫茶シャム猫】が持ちつつ空いた点は5点。完全勝利が求められる……って事ですね」
「それだけじゃないのよリンリン。その5幕の内、【マッドハット】も【喫茶シャム猫】に負けちゃダメなの」
「ぁ……一度でも【マッドハット】が負ければ、点は【夜明けの月】と【喫茶シャム猫】に入るんですね……!」
そう。この戦い、【喫茶シャム猫】に点を取らせないのが難しい。
【喫茶シャム猫】が完全勝利すれば2点。【夜明けの月】【マッドハット】どちらか片方でも条件未達成なら、残りのギルド2つに1点ずつ入る事になる。
「つまり、僕達が勝つのは当然としても……【マッドハット】が条件未達成なら【喫茶シャム猫】との点差を縮める事が出来ない。そのくせ【喫茶シャム猫】だけは一度に2点手に入れられる可能性がある訳だ」
「【マッドハット】と【夜明けの月】が一緒に演じ切れば【喫茶シャム猫】に点は入らねェが、今度は視聴者投票だ。ままならねェなァ……」
点数勝負って言えばアクアラの"常夏のハイパー海祭り"を思い出すけれど……ルールが複雑になっているわね。
「確か次からは役割持ちが増える可能性があるんだよね? 砂時計の時間制限はやはり厳しい。とはいえクローバー君のような勝ち確定の子が選ばれる筈も無い……」
「そこの裁量もディレクトール次第だものねぇ。誰が選ばれるのかしら」
「そうね。これは一筋縄では行かなさそう……」
【マッドハット】からしたら……どうなのかしら。
ナズナ的には宝珠に興味は無いけれど、ここで【喫茶シャム猫】に負けたらセリアンが戻って来かねないし……。
「ともかく。やれる事をやるしか無いわね」
──◇──
【第124階層ドラマ:第四幕『ホラ吹きトムの海賊船』】
──────
森を抜けると噂の海賊船が姿を現す。
アンゼリカは船乗りを名乗る青年、トムと出会った。
船を欲しがるアンゼリカ。トムは船の良さを語るものの、船を譲るつもりは無いようで……?
──────
──シアター3
「……やっと森を抜けたわ」
「plot:魔女。魔女よ。あの大きな箱に船が入っているのかしら」
「バカねアンゼリカ。あれこそが船よ」
海岸の岩場に隠れるように、巨大な海賊船が姿を現す。
これこそが大海賊キャプテン・ハックの海賊船! この大陸に上陸したキャプテン・ハックは、仲間の裏切りによって首都で捕まってしまったのだ。
この海賊船は、決して帰らぬキャプテン・ハックを待ち続けているのだ!
「この船を整備している物好きがいるらしいわ。探すわよアンゼリカ」
「plot:こんな立派な船の何処にいるのでしょう」
「船長の部屋でしょ。どうせ整備とか言って船長気分を独り占めしてるのよ」
随分と偏見が凄い魔女だ。
……ともあれ。おおきな海賊船に乗り込んだ二人は、甲板で掃除をして……いや、させている者に出逢う!
「あら、お客さんかしら? いらっしゃい。あたしの海賊船、サッチャー号に」
「……んふっ。だ、誰かしら貴女。凄い、凄い貫禄があるけれど。そこの魔物達は?」
「この子達はあたしの部下よ。長い航海を共にした大切な部下。
そしてあたしはキャプテン・トム。……女がキャプテンでは可笑しいかしらぁ?」
「plot:いいえ。キャプテン・トム。聞きたい事があるのです」
あまりにも艶やかなるキャプテン・トム。
魔物を椅子にして、正に海賊王の風格である。
「なにかしら?」
「plot:あなたが部下という魔物は、そこの森でも見られました。本当に部下なのですか?」
「あら。いい目をしてるのね」
「……キャプテン・ハックの船だと聞いているわ。貴女、海賊じゃないでしょ。この火事場泥棒」
「あらあらごめんなさいね? あたし、ちょっとだけ嘘吐き……いいえ、心に正直者なのよぉ」
そう。
このキャプテン・トムは近隣で有名なホラ吹きなのだ!
そこもまた魅力的……いやいや。
「この船は渡さないわ。アンタ達のようにサッチャー号を狙う盗賊がいるから……。
さぁ、やっておしまいなさいアンタ達!」
「「あらほらさっさー!」」
飛び出すは二名!
圧倒的な巨漢の海賊!
「【喫茶シャム猫】マッシブハント!!! そのクビ貰い受けるぜ【夜明けの月】ィ!!!」
「同じく【喫茶シャム猫】の猛る戦士バクダンマンだ! 正義と火薬の名の下に、いざ神妙にボンバー!」
……あまり所属を名乗るな。
「「ごめん!!!」」
──◇──
……なんでツバキの部下みたいになってんのあいつら。
ここ、海賊船の船長と嘯くトムの前に山賊がやってきて共闘する所なんだけれど。なんか話の流れ的にツバキが協力してくれないんだけど。
っていうかツバキ、嘘吐きキャラなのになんか嘘っぽくないって言うか、ただミステリアスな美女じゃないのよ。どういう配役よコレ。
「……行くぞォ!!! やれバクダンマン!!!」
「あいあい! 見・敵・必・殺! 爆滅だぁぁぁ!」
飛び込んで来るは【グラディエーター】バクダンマン。片手槌二刀流。絶対殴り殺すという信念を感じるわね。
「マトモに受けてられないわよ!」
「answer:yes──call:"リンリン"!」
「──はい、お任せをっ!」
砂時計で呼び出すは最強の盾。
絶対防御"無敵要塞"リンリンは、その大盾を構える──
「甘い! ボンバー!」
バクダンマンの第一打。爆発するハンマー。
──反動なんて考慮もしない爆発戦術。殴る度に爆発する欠陥武器【ダイナマイトパイル】を使い熟すらしいわね。
あらゆる防御も爆発で吹き飛ばし、第二打で仕留めると。
そんなの、リンリンに通用しないけどね。
「──っ、微動だにしない、だと!?」
「武器弾きは、タンクの天敵ですので!」
爆発を耐え、続く第二打にリンリンは反撃を合わせる。
極一瞬のジャストガードを連続させなければ使えない、【フォートレス】唯一の攻撃手段。
「【リアクティブ・カウンター】!」
「ぐおぉ……! 爆発的ぃ!」
受けた衝撃を送り返してバクダンマンを投げ返す。
──同時に体が光に包まれて、リンリンが消えた。時間切れね。
「やりおる!!! さあ立ち上がれバクダンマン!!! 新しいクスリよ!!!」
「んん! うまい! 元気千倍バクダンマン!」
こいつらうるさいわね。
──【喫茶シャム猫】一番の巨漢マッシブハントは、あれでいて支援役。ミッドウェイで活躍したパンナコッタと同じ【ドクター】。
戦闘中においては放置すればするほどヤバい薬を作ってしまう。さっさと処分したいわね。
「もう手加減しなくていいわよ……アンゼリカ!」
「マスターからのオーダーを受理。──制圧します」
ゴーストとバクダンマンが相対する。
残念だけれど、相性が悪かったわね。
「マッシブハントには行かせんさ! 俺は! みんなの! バクダンマン!」
ゴーストはバクダンマンの棍棒を双剣で受ける。
重量差と爆発による武器弾き性能は脅威の一言。だけれど、攻撃の発生の段階で抑えられたので……爆風のみを受ける。
──ダメージ覚悟の戦闘なら【リベンジャー】の十八番よ。
「巻き壊します。action:skill 【暗峠廻廊】」
這うように、渦を巻くように。
黒き刃の連閃がバクダンマンをすり抜ける。
移動攻撃スキル。ゴーストの体幹があれば、相手一人くらいならすり抜けたまま攻撃できる。
「だが!!! 投薬だ!!! 【ルーズS.O】!!!」
スピード減少の薬を霧散させるマッシブハント。
ダメージを抑えないと意味無いわ。
「call:"クローバー"」
「やっと出番かよオイ!」
「なっ──!!!」
3分の1の速度に、3倍速の男。
"最強"の弾幕が巨漢を貫く──
──◇──
「あたしの部下を倒すなんて、やるわね」
……部下を倒し、キャプテン・トムに認められたアンゼリカ!
遂に海賊船サッチャー号を手に入れる!
「はぁ……気が重いわぁ」
「船だけくれればいいのよ」
「嫌よ。あたしのサッチャー号であることは変わりないわ。
船の上ではあたしに従う事。これが出来なかったら航海できないからね?」
「……頷きたく無いけど……わかったわ」
「answer:yes。よろしくお願いします、キャプテン・トム」
こうしてアンゼリカは、初めて海へと出るのであった!
──次回に続く!




