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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
大樹都市ドーラン/フォレスト階層
29/507

29.善意だって人を殺せる

──3日後

【第13階層裏 翠緑の聖域】


「みんな、話がある」


【エルフ防衛最前線】のメンバーが、ギルドマスターヒイラギの呼びかけで集まる。


「ここ数日毎日お越し頂いているライズさん。彼は彼のギルドがあるので我らが【エルフ防衛最前線】に加入はしないが……同胞であると、認めようと思う」


シン……と静まり返る。

最初に発言したのは、初めて俺の首に剣を突きつけた人、オレガノさん。


「言うのが遅いですよヒイラギさん! いつまで監視してればいいのか、気疲れしちゃいました」


「そうっすよー。すいませんねライズさん」


矢継ぎ早にワイワイと声を上げる面々。

よかった。嫌われてはいないみたいだ。


「……ライズさん! ごめんなさい、私、こういう時すぐ味方に回っちゃうから発言権が無くて。

 おめでとうございます。これからも宜しくお願いします!」


手を握ってブンブン振るアイコさん。千切れる。だが耐えてみせる!


「……じゃあ早速、礼拝堂にでも行くか。エルフの方々とも挨拶しておきたい」


「では私も礼拝堂に。祈りの時間ですし」


──勿論、知っている。

これでやっと、アイコと二人で話ができる。

ここから俺の勝負が始まるわけだな。気合い入れていくか。


「あ、ライズさん。背中に汚れが」


「ん? あ、ごめん」


高身長のアイコが俺の背中を覗き込むように前屈みになり、耳元に顔を近づけ──




(私と秘密のお話がしたいなら、外に出ましょう)




──ゲームセットか?




──◇──




【第13階層フォレスト:迷いの森】


深い霧に覆われた常夜の森。

光るキノコや浮かぶカンテラが唯一光源で、霧に揺らぐ光は幻想的で美しい。


そして俺は最強の女子、アイコさんに呼び出しをくらったのだった。

殺される? 俺。


「それで……お話とは、なんでしょうか」


「おう。殺さないでください」


「殺しません。私はライズさんの本音が聞きたいんです。

 私では本心を話すに足りませんか……?」


ぐう、光属性。浄化される。


「……わかった。もう全部教える。俺はな……」




──◇──




【第10階層 大樹都市ドーラン】

【葉光】ドリアード王家《向天神殿》

──1F 会議室


緊急会議として呼び出された。

一番乗りは流石の筋肉、シラサギ。悠々とテーブルをセッティングしていた。

その後にたまたま【葉光】を訪れていたワシと、ワシを案内してくれたダミー。

1番遅かったのは、息も絶え絶えのカメヤマだった。


「ハァ、ハァ……申し訳、ない。呼び出しておいて、遅れるなど……!」


「それは構いません。落ち着いて下さい。何があったんですか?」


古い仲だ。シラサギはカメヤマにドリンクを手渡して椅子に座らせている。

カメヤマは一息ついて、本題に入る。


「……ライズさんから、ビデオが送られてきました。今から確認しますが、恐らく撮影時間からエルフ派付近で撮影したものです」


それはつまり、裏切りの可能性があるという事か。

ライズはこの会議室で【鶴亀連合】に敵対しないと宣言した。裏切るのなら、ずっと配置させていた殺し屋ギルドを動かすのだろうか。


「とにかく再生します。内容を確認しない事には、どうにもなりません」


カメヤマが自身のデータボックスからスクリーンへ、映像を写し出す。そこには──




──────


『あー、写ってるか? よし』


『おーいカメヤマ、見てるー? お前人が悪いぜー。【エルフ防衛最前線】に物資支援してるならそう言ってくれよなー。やっぱり勢力コントロールするつもりじゃんかよー』


『俺《鑑定》スキルカンストしてるからさ、匿名でも差出人の判定できちゃうんだよね。差出人、全員【ゴルタートル】のメンバーだったぞ。お前以外の。裏切りじゃなけりゃお前の指示だろ?』


『で、その辺をギルドマスターのヒイラギに問い詰めたら白状したぞ。最近になって支援してくれるようになったって。お前直接ヒイラギと話したんだって? いい奴だなー』


『もちろんわかってる! 脅すつもりじゃないぞ。俺は【鶴亀連合】の味方だ。お前が困ってる事もわかってるさ』


『アイコだろ? 戦力総数を五分五分に近付けると、その求心力で実際の戦力を逆転させられる可能性があるから下手に動けないんだろ?』


『だが安心しろ。俺はお前達の味方だ。完璧な回答を持ってきたぞ! どうぞー』




『いえ〜い。見えてますか〜? 【エルフ防衛最前線】のアイコです。

 私、アイコは、ライズさんに惚れてしまいましたので!

 【夜明けの月】に加入し、フォレスト階層から出て行こうと思いま〜す』


──────




「なんだとぉ!!!????」


せっかく座った椅子から転げ落ちるカメヤマ。

うむ。まさかあの聖女がエルフを見捨てて逃げ出すとは。惚れた腫れたは恐ろしいものだ。


「ななななんという事を……!」


「カメヤマさん。ビデオ止まってます。続きを」


「ぬぅ、わかりました。再生します」




──────


『突然《聖母》が裏切ったら皆困惑するよな? 裏があるかもってなるよな? うちらが襲われるかもなー』


『でも大丈夫か! だって【鶴亀連合】は【夜明けの月】が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』


『まぁ襲われたとしても約束を破っただなんて詰め寄るつもりは無いぞ! 何らかの形で誠意を見せてくれればいいさ!』


『とはいえ俺はギルドマスターじゃないんだ。【夜明けの月】GMのメアリーは今こっちに向かってる。そうしたら正式にギルドを移行する事になった!』


『てなわけでお前の不安視していたアイコは俺が外に持っていくから、安心して稼げよ!

 例の稼ぐ方法って奴、楽しみにしてるぜ!』


──────




──ビデオ終了。


うん? 勢いが凄くて圧倒されたが、確かに【鶴亀連合】にとっては得なのでは?


「なんという……なんという事だ!」


珍しく声を荒げるカメヤマ。

机を叩き、苛立ちを隠さずに震えている。


「ダミー! 今すぐ【闇夜鎌鼬(あんやかまいたち)】に連絡せよ! 何がなんでも【夜明けの月】のギルドマスターを殺し、脅し、絶対にアイコと合流させるな!

 金に糸目は付けるな! 今は浪費の時だ! 或いは他の闇ギルドにも声を掛けよ!

 最悪バレたとしても誠意を見せた方が安上がりだ! 何につけても急げ!

 ()()()()()()()()()()()()計画に支障が出る!」


「り、了解しました。直ちに」


慌てて会議室から出て行くダミー。

どういう事だ? 何が起きている?


エルフ派のトップとカメヤマが繋がっていた事。それはこのビデオにて『脅すつもりはない』と言っている。

アイコの人の良さに惹かれて勢力が傾くという話は確かにそうだ。最近になってエルフの勢力が拡大しているのも知っている。それを弱体化するにはアイコがいなくなればいい。それはそうだ。おかしくない。


「なぜそれ程までに慌てている?」


一言、声を掛ける。

どうやらワシが普段から発言しないのが効いたのか、珍しいワシの声に冷静になったようだ。カメヤマは大きく一息吐く。


「フゥゥーーーーー……。確かにハゼの言う通り。慌てる必要はありませんね。まだ切り札があります。

 ハゼ。計画について説明させて頂いても?」


「ああ、ワシも聞きたいと思っていた。共犯にさせて(仲間に入れて)くれ」


満足げに頷くカメヤマ。大物っぽいがさっきまでの百面相忘れてないからな。




──◇──




「なるほどな。それはとても困るな。うん。

 しかもライズはこの計画を聞かなかったから裏切りとは言えない」


話を全て聞き終わり、感服した。カメヤマにも、ライズにも。


うん。だとするとピンチだがそこまでは困らない。カメヤマなら挽回できるな。


だがかなり大変だ。できる事ならアイコが抜け出さない方がいいな。まぁセカンドランカーまで上り詰めた非合法の闇ギルドなら失敗する事はないだろう。




──◇──




──数日後


「カメヤマ様! 【夜明けの月】メアリーと【エルフ防衛最前線】のアイコが接触し、ギルド移行が完了!

 アイコを連れた【夜明けの月】が第14階層へ向けて進行開始してしまいました!」


「なぬぅああぉあぇあぉ!!??!?!!」


盛大に椅子から転げ落ちるカメヤマ。芸術点が高い。


「闇ギルドは何をしている! 特に【闇夜鎌鼬】は何を──」




「まぁまぁ落ち着いて下さいや」




薄暗い会議室に、ひんやりとした空気が流れる。

違う。亡霊がワシらの首筋を撫でたのだ。

暗峠(くらがり)より更に闇、顕現する夜。全身黒尽くめの男。




「初めまして。あっしは【首無し】のギルドマスター。

 闇業界を取り仕切る影の王。デュークと申します」




その姿、見てはならぬ。

監獄まで追われる影とならん。


デュークと名乗る()はいつの間にかカメヤマの背後に立っていた。


「……何故だ。ここへは何重ものセキュリティがある。ここにいる4人以外の冒険者に入ることはできないはず!」


「では冒険者ではないのでは? あっしはそう……影でして。

 それに今想像すべきはそこではないのでは?

 まぁ、こちらから要件を伝えましょう」


影は揺れ動く。妖しく嗤って、巫山戯た口調で。


「【夜明けの月】に手を出す事は、闇業界では禁止されてまして。まぁあっしが言ってるだけですがね。

 今回は、可愛い可愛い闇世界の同輩が素直に退いてくれただけの話でして」


「影の王、闇業界の支配人……【首無し】が、なぜ【夜明けの月】を庇うのです! そんな話──」




「まだ光を浴びたければ口を慎め。それともその首落としてこっちに来るか(闇に染まるか)?」




まるで幽霊に押し付けられたように、重く、指一本動かせない。

闇業界の支配人。ある種【Blueearth】最強の男。デュークは──またいつもの調子に戻って、カメヤマの頭から手を離した。




「【首無し(うち)】も情報の商売人なんで、タダでは売れないんでして。勿論【鶴亀連合】が闇業界(こっち)に払った代金はあっしが立て替えましょう。後日運送しますんで宜しく」





そう言い残して、頭を上げられないが足音だけが響き──奴が会議室から出て行くと、全員同時に頭を上げた。


「な、なんなのだ……」


「……どうしますかカメヤマさん。アイコが逃げちゃいます」


「追えません。この一件自体は闇での話。【首無し】がライズに密告しても証拠不十分で終わりです。

 かといって表向きの【鶴亀連合】は約束により追えません。この一点においては詰みですな。

 苦肉の策ですが、プランBに移行しましょう。まず確認すべきは【土落】ですね」


ヘロヘロになりながら椅子に座り直すカメヤマ。

寿命が縮んだ。

あと名言はされなかったが今後闇業界に依頼する事もできなくなったな多分。カメヤマなら問題ないと思うが。


「……これは……。

 カメヤマさん。緊急自体です!」


「もうなんですかダミー。今日は閉店したいですがそれで話を聞かない私ではないわ!舐めるな!」


なんか情緒が行方不明だが、とりあえず聞く姿勢だ。

ダミーは言い出しにくそうに、一言。




「【土落】の奥地、【鶴亀連合】で確保していた倉庫が炎上しています」




「うおおおおぁぁぁぁ!!?!??!!!」

「カメヤマさーん!?」

もう椅子が壊れて転げ落ちるカメヤマ。


「犯人はライズさんです」

「うぬううううおぁぁぁぁあ!!!!???」

「カメヤマさーーーーん!!??」

そのまま横に転がるカメヤマ。


「そして中継が繋がっています」

「帰るううううううううううう!!!!!!」

「カメヤマさぁぁぁぁぁぁん!!!???」

そのまま会議室を飛び出すカメヤマ。

追うシラサギ。

取り残されたワシ。とダミー。


急げシラサギ。あの醜態をドリアードや部下には見せられん。


~俺の罪。俺の咎。何人も閲覧を禁ず~

《ボンバの隠し書き》




エルフが追いやられ、ドーランをドリアードが統べるようになってもう随分と経つ。

カメヤマの行動に異を唱えるつもりはねェ。奴は奴の信条で稼いでるだけで、文句を言うのはお門違いだ。

……文句を言っていいような男じゃねェんだよな。俺ァ。




ドーランに最初に到達した冒険者は三人。俺と、今は【真紅道(レッドロード)】で吹かせてやがる二人。

当時は今と一緒で、ドリアードがドーラン側。そしてエルフの襲撃真っ只中だった。

その段階だったからシステムが理解できたのかもしれねェな。俺ァエルフ側に、二人はドリアード側についてみる事にした。

結果、なんとエルフが勝ったンだが……その後ドリアードと共に攻略階層へ行った二人から裏階層の発見報告があった。

そっからは検証の連続だ。俺たちは冒険者、とにかく何でも情報が必要。当時は攻略に必要だと思っていたしな。


何度か王権は交代を繰り返し、冒険者も多くなって来たころ。この戦争は特に攻略には必要ない事がわかった。

二人はそのまま攻略を始めたが、おれは何となく、一日だけ留まる事にした。

当時はドリアード王権。だが王権が交代するタイミングは陣営ノーカンになり、そのタイミングでエルフ派を抜ければドーランにいる事は咎められないとわかっていた。

で、出会ってしまった。楽しそうにパンを売る、ドリアードの姫君。俺の初恋。

それが原因ってだけじゃ無ェ。そのタイミングで【三日月】が声かけてきたからよ。


そんでそっから……まァ、楽しかったよ。このまま【三日月】と先に進むか、恋に生きるか。どっちも面白ェ。最高で贅沢な悩みだ。

面白ェが……俺は、決断できなかった。どっちを取ったわけじゃねェ。ただ回答できずにタイムリミットが来ただけだ。

俺が残ったのは、あの子を見守りたいからだったのか? どっちも選べず動かなかったから、そうなったんじゃねェのか?

本心からの好意をあの子に向けられねェんじゃ、この初恋に権利は無ェ。




俺は両方失った。




どちらも選ぶ権利なンて俺には無ェ。だがせめて、俺が惚れたあいつらだけはいい思いをして欲しい。

あの子が生きるにはタチの悪い冒険者が蔓延っちゃならねェ。【土落】の冒険者共を締め上げて【ダイナマイツ】を結成した。

ライズの徹底した調査癖は現場の協力者があってこそ機能する。もし次に【三日月】が来る事があれば俺が後ろ盾になってやる。俺は【飢餓の爪傭兵団】の傘下になった。

やがてカメヤマが頭角を現した。せめて対等な立場が必要だ。【飢餓】本部に進言し、【飢餓の爪傭兵団】と【鶴亀連合】で業務提携を結んだ。

それから、ただあいつ等のために、ただ目的のためにがむしゃらに、バカ騒ぎしながらやってきた。


一年後、ライズが帰ってきた。

俺の惚れた男の目は、死んでいた。


なァ。

頼むよ。


お前だけは、そんな目をしないでくれ。

生きていて楽しいって、言ってくれよ。


俺は泣きついた。あるいはブチ切れたのかもなァ。あんま覚えてねェや。

とにかくその時は喧嘩別れだ。今思えば意味不明だったろうし、辛い時に追撃しちまったのかも知れねェ。


また一年後。ライズから連絡が入った。

お互いいい大人だ。あるいはライズもあまり覚えてなかったのか? 一年前の件にはお互い触れなかった。

「お前の好きなリンゴを手土産にもって行く」なンて言いやがって。

一言で十分だ。俺は聞いた。




「今、楽しいか?」




返信は少し遅かった。或いは、期待と不安で長く感じてただけか?

待ちわびた返信には、たった一文。




「年甲斐もなくはしゃいでるよ。秘密だぞ」




それでいい。それで十分だよ。

なァ、ライズ。お前が何を企んでいようと関係ねェ。

俺はお前の味方だ。何を捨てても今度は間違えねェ。

だから好きにしな。このドーランでお前の障害になるモンは俺が潰してやるからよ。




これは俺の罪。俺の咎。俺だけの贖罪。


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