274.珍客来店
【第110階層 不夜摩天ミッドウェイ】
──複合黒金摩天楼ミッドウェイ・スクレイパー
遂に最後の一つとなった。
"アルバーニファミリー"は最高戦力。既に奴隷冒険者は我が手中。ぬかり無い。
「ぬかりありすぎでしょ。君が操る子達、全敗で惨敗じゃん」
うるさい!
「餅は餅屋だよ。次は洗脳するのやめときなよ。
……僕が保証するけど、クローバーとバーナードはここで手加減するような奴らじゃない。あと君じゃクローバーは扱いきれないよ」
……貴様、どっちの味方だ。
「【夜明けの月】の味方だ。でもそれ以上に、クローバーの友だ。クローバーを使って"勝てない"じゃ許さないよ」
……んー……
……そう、だな。
うん。そうしよう。
「随分と素直になったね」
なんという事は無い。
"アルバーニファミリー"には私の想う最高戦力が揃っている。
私もそちらに思考を割く時間が勿体無いと思っていたところだ。
「いよいよ本格的に詰めの段階だね。僕の仕事は"何もしない"事か。楽しく観させてもらうよ」
傍観者を気取っているなよ。
……貴様も、最後には全てを失う事になるのだ。
「楽しみだなぁ」
──◇──
──sideメアリー
"オリエントサイト教会"大聖堂
「ミッドウェイ・スクレイパーと変化した現在、正式な地理を把握出来ている者は【首無し】にも居ないだろう。だが高層建築が中央に密集している以上、この大聖堂を上に登れば必然的に"アルバーニファミリー"に近付ける筈だよ」
「……そうね。だから、正門からは出ない。スカーレットともイタコタイコさんとも、ここでお別れなのね」
門の外がどうなっているのかは分からない。待ち伏せでもされてたら事だし、そうなるのも仕方ないわね。
「そもそも決着まで相手する必要も無し。とっくに逃げてるでしょう。死ねば利用されると分かっていて死ぬ二人ではありません」
「そうねブラウザ。目下あたし達が警戒すべきは──"アルバーニファミリー"ね」
ジョージから得た情報だから正確だし、疑う余地は無い。現実を見ないと。
「元【真紅道】のNo.2バーナードに、【Blueearth】"最強"のクローバー。このコンビを突破しないといけないのですが……策はあるのかしら、メアリー?」
「決闘形式である以上、クローバーが一番得意とする土俵だし。……あっ、また操られたり?」
「だったら逆転勝利だけどね。クローバー本人のスペックははちゃめちゃに弱いし。設定済みのアビリティで連射されるだけでもキツいけど、クローバーの強みはゲーマーとしての技量に依存してるから。
……でも、ここまでそれを利用して勝ってるようなもんよ。いい加減相手も学習してると思うのよね。
もし意識だけ残ってたとして、クローバーが手を抜く事考えられる?」
「……無理そうだね。クローバー君もいい大人だから自制は効くと思いたいけど、だからこそ普段抑制していた戦闘欲を解放してしまいそうだ」
「するし。だってクローバー、メアリっちとは殆ど模擬戦してなかったし。言い訳渡したら嬉々としてリーダーの首を獲る目をしてるし」
「そもそもバーナードもいるからな。あっちはあっちでスカーレット以外には厳しい男だ」
パンナコッタの言う通り……ではあるけど、そもそもバーナードは操られない可能性が高い。人間なのにレイドボスでバグ持ちだから。【Blueearth】の異例全乗せだもの。
それはそれとしてルールは守らないといけないから戦う事にはなりそうだし……。
「真面目に考えますか。あの化け物二人を、たった五人で倒す方法を」
……無理ゲーじゃない?
──◇──
──"アルバーニファミリー"本部
「……決まりだ、な……」
視界が晴れる。
さっきまで真っ黒だった手に、色が付く。
前にいるバーナードの顔もハッキリ見えるぜ。
「……どうやら……お前はお前として……戦わせる様だ」
「そうかい、そりゃあいい事だ。誰が来てるんだ?」
「……メアリー。アゲハ。カズハ。パンナコッタ……。"オリエントサイト教会"を先程突破して、こちらへ向かっているらしい」
「ほー……ライズはどうなった。俺が意識を手放す前は"イリーガルエスケープ社"に行ってたよな?」
「……現在"イリーガルエスケープ社"は無人……。相打ちになって脱落したそうだ……」
「んだよ。じゃあメアリー達だけなのか」
俺たちもずっと遊んでた訳じゃねぇ。ミッドウェイに散らばった仲間達の情報を"アルバーニファミリー"を通じて出来る限り探ったりはしていた。裏口からジョージと情報交換したりもしてたしな。
大きく分けて三つの勢力があった。ライズの所、メアリーの所、そんでドロシーの所。もうメアリーしか残って無いのか。
「もしスカーレットが来たらどうするよ」
「……そんなもの決まりきっている。全てを賭して道を拓く。それが【真紅道】だ……」
「そりゃいいな。楽しみだ」
──正攻法なら、バーナードが敵に回ったとしても全抜きできる。俺はそう思っている。
だが相手はメアリーだ。智謀の暴力兵器。どんな策を練って来るか、楽しみでならねぇ。
「お前達は、仲間じゃなかったのかい?」
"アルバーニファミリー"ボスのテスコが、呆れたように問いかける。
珍しくボスの椅子を空けていたのは、ファミリーの様子を確認していたからだ。
「それはそれ、これはこれ。俺くらい突破してくれなきゃ今後困るってもんだぜ」
「仲間に厳しいんだな。……もしお前達が勝って、冒険者がお前達だけになったら。ミッドウェイはどうなるんだ?」
「……俺達は……そこまで詳しくないが……。
イシュテル──"セスト・コーサ・マッセリア"は【Blueearth】を滅ぼそうとしているのだから、そうなるだろう……。
より具体的には……メアリー達を倒したとて、そも奴隷格闘大会に参加していない冒険者自体はいる。……五大マフィアを倒す者がおらず、それでもイベント自体は進行する……つまり、停滞だ。このまま何も起きず滅びることになるな……」
「そうか……」
テスコは家族を何より大切にする男。
……というか、自分達の仕切るミッドウェイをここまでズタボロにされたんだ。どこのマフィアもいい顔しないわな。
「可能なら、あの馬鹿者に一泡吹かせたいんだがな」
「そのためにゃ"アルバーニファミリー"は負ける必要があるなァ。それはそれで嫌だろ?」
「そうなんだよな。負けるとか無理だ。お前らに手加減させるつもりも、奴隷契約を解除するつもりも無い」
そこは正にマフィアだな。だからこそ利用されているんだろうが、関係無いよな。
「話は簡単だ。全力でぶつかって、勝って当然。負けたらヨシ! どっちに転んでも美味しい話だ。楽しもうぜテスコ!」
「……そうだな。楽しくやるか!」
最後の祭りだ。
どうやって攻略してくれんだ? メアリー。
──◇──
五大マフィア最大の組織"アルバーニファミリー"。
ミッドウェイを取り仕切る最恐のマフィア。
複合黒金摩天楼ミッドウェイ・スクレイパーにおいてもその権威は健在で、最も高きビルにその拠点を構えている。
階にして200。
配置された【首無し】、22名。
"アルバーニファミリー"の戦闘員の数およそ3000人。
放たれた魔物の数、測定不能。
「奴らはそもそもテスコの元に辿り着く事はできんさ。私の勝利は確実!」
"セスト・コーサ・マッセリア"がまた偉そうにしているけれど、こうなるって分かりきっていたんだよね。
──そろそろかな。
「メアリー達が遂に来たようだな。果たして何階で脱落するか見物だな」
「それより、自分の階層なんだからもっとしっかり調査すべきだったと思うよ」
「どういう事だ?」
まぁまぁ。その辺は見てのお楽しみという事で。
──◇──
──"アルバーニファミリー"アジト
「……随分と歓迎ムードじゃない」
自動ドアの開く先、高級ホテルみたいなロビーには、びっしりと黒服達。
「エレベーター、使えないわよね。これ全部倒さないといけないの?」
「見て見てメアリっち。インフォメーション縦に長すぎて天井まで伸びてるし。ウケる」
多分あと一歩で一斉に襲いかかってくるだろう、最後の一線の前で立ち止まる。
ツバキは意識を戻したり眠らせたりで、ブラウザの護衛をしたり護送させたり。カズハには"エルダー・ワン"が入って対応してもらう。カズハは一度クローバーを倒している最重要火力。温存しないとね。
……そして、その一歩を踏み出すのは──
「入店ゥー!!!」
ガラス張りの壁を、何者かが突き破る。
「胃もたれする程オードブル! 果たしてメインはこのインパクトに勝てるか、興味深い!」
着地の衝撃で敵を何人か吹き飛ばす。黒服達も一旦様子見か、まだ襲いかからない。
「なるほど並んだ甲斐があった。極上のアングラ料理のフルコース! アンチマナーながら割り込み失礼するぞ!」
筋骨隆々の半裸の男。
右と左に斧を携え。
「しかし食べ放題。ビュッフェ? いやさバイキング?
いやいやオレ様はバイキングならざれば──」
一度見たら忘れられない、サメ頭のかぶりもの。
「──【オーガタンク】の! しがないハートである!」
【至高帝国】が一人、"最強"候補。
サメ頭の半裸男、ハートが堂々と立っていた。
「【夜明けの月】よ。久しいな!」
「あっ人違いです」
「おいおい冷たいな! そんな貴方に心温まるプレゼントだ!」
ツッコむ暇も無く。
光の方陣が目の前に現れ──
「──【テンペスト】!」
「【サテライトキャノン】!」
光と嵐が黒服達を吹き飛ばす。
これは、散々見てきた光景。
ここであたし以外がそれを見せられるとしたら──
「よく頑張ったし後輩。まだイケる?」
あたしの肩を叩くのは、黄金のドレスの女王様。
──【至高帝国】のダイヤ。
「メアリーさん、お待たせしました。よくぞここまで辿り着いてくれました!」
「無駄に広いロビーよね〜。これだけ広ければデカい魔法も使い放題ね?」
ドロシー。それに【象牙の塔】のルミナスさん。
「奴隷組はわたしの後ろに! 傷一つ付けさせません……!」
「何とか間に合いましたね。ハート様、先走り過ぎですゥ!」
「派手に暴れんなら俺っちに任せねぃ。フロアごとぶち抜いて居抜き物件にしてやらぁよ!」
リンリン。タルタルナンバン。【象牙の塔】のアザリさん。
プリステラに、スカーレット。イタコタイコさんも。
「生きてたのねスカーレット」
「生かされたのよ。私の騎士が私を守らない訳が無いでしょ」
「私達以外も、こっそり潜入していたハート様とダイヤ様がこっそり助けてくれたんです。暫くはダイヤ様の【チェンジ】で拠点を転々として、死を偽装していたらしく。私とスカーレット様は通りすがら助けられました」
「だから"オリエントサイト教会"に寄るべきだってドロシーは言ったのねぇ。嗅覚鋭いわぁ男の子ねぇ?」
「油断はできない状況です。僕たちは正式にはメアリーさん達に降っていませんから奴隷格闘戦では手助けできません。せめてそこまでの道中をサポートします!」
ここに来て全員集合──とは、ならないみたい。
「ライズ達は?」
「……"イリーガルエスケープ社"は……間に合いませんでした。残念ですが、助けられていません」
やっぱりライズが居ないのは──いや、案外いつもそうな気がする。あいつ割と単独行動ばかりするから、なんだかんだ最後の詰めの時とか不在なのよね。
じゃあいっか。手柄はあたしが独り占めしちゃおう。
「……わかったわ。皆、良く頑張ってくれたわね。あと少しだけ頼むわよ。
──目標! "アルバーニファミリー"200F! クローバーとバーナードを撃破して、"セスト・コーサ・マッセリア"を引き摺り出す!」
「「「了解!」」」




