273.一騎当四/三対一
【第110階層 不夜摩天ミッドウェイ】
──複合黒金摩天楼ミッドウェイ・スクレイパー
──"オリエントサイト教会"大聖堂
「おはようメアリーちゃん。うとうとだけど何となく聞いていたわ。アイコちゃんとツバキちゃんは操られているのね?」
"エルダー・ワン"が眠り、カズハが目覚める。
もう交戦モードに入ってるわ。流石。
「アイコの強さは完全に本人由来よ。カズハ同様に操られてじゃ大した脅威にならないわ。
逆にツバキは圧倒的な数の呪具を使い分ける戦法だし、普段はあたし達を巻き込まないよう使わない様にしてる強い呪具もあるらしいし。操られてるとなると厄介ね……」
「私は後方で"医務室"を展開します。解呪はお任せを」
「4対2だし、アイコは弱体化。さっさと殺るし。……ツバ様がああなってるの、ジョージには辛すぎるし」
こっちにはパンナコッタさんもアゲハもいる。そこまで苦労する相手では──
「……増えてない?」
ふと見直すと、1、2、3、4、5……。
明らかに増えてるじゃないの。てかサティスとベルがいるわ。あと……コノカ?
「これまでに撃破されたマフィアの所の奴隷が回されてるってこと……? じゃあ"イリーガルエスケープ社"にはコノカがいたのね」
「数、逆転されましたね。どうするアゲハ」
「大丈夫だし。あそこのサティス、丸腰だから」
呑まれる直前に手放した【瑜伽振鈴】を持ってないあたり……本当にサティス自身ではあるみたいね。
「そういえばベル社長もインベントリ全てを私に明け渡していました。夫婦考える事は同じか」
「じゃあ問題なのは──」
空気が震える。
散々体験してきた感覚に、全員合図無く散る。
──振り下ろされる光の柱。最終兵器【サテライトキャノン】。
「コノカは【サテライトキャノン】に依存しない戦術を探求してたけど……雑に使ってくれるわねレイドボス!」
「完成度は70%程度かしら。メアリーちゃん、二つお願いしてもいい?」
最小限の回避でほとんど動いていないカズハ。本当に元一般人なの? ややジョージとアイコラインに片足突っ込んでると思うんだけど。
「なんでもいいわよ。ドンと来なさい」
「ありがと。一つは、コノカちゃんを任せたいって事。もう一つは、私を敵の近くまで飛ばして欲しいの」
「……お安い御用よ。アゲハ! あたしと二人がかりでコノカを倒すわ! 回避はあたしが受け持つから"黒蛍"は呼ばなくていいわよ。流れ弾でも喰らって退場したら大事だから」
「かしこまり!」
──それは、カズハ一人に四人の敵を任せるという事。流石のカズハもそれは厳しそうに思えたけど──この敵なら、出来るわ。
「【チェンジ】!」
カズハを飛ばす先は、コノカを超えてサティスとベルの目の前。
──向こうの戦略は分かってる。役立たずのサティスとベルは肉壁にして、確実にツバキで呪う。その後唯一の火力要員であるアイコで強襲するって感じなんだろうけど──
「ごめんね。呪いは私には効かないんだ」
悠々と、赫蒼二振りに両手を掛け構えるカズハ。
ツバキが何重にも呪いを振り撒いているけど──相手は"呪血のカズハ"だもの。
「斬り棄て御免。──【虚空一閃】」
サティスとベル纏めて呪いに呑まれているけど、カズハには呪い喰らいの妖刀【厚雲灰河】がある。
【呪術師】殺し。ピンポイントメタ。カズハの瞳にツバキは映らない。
サティスとベルを吹き飛ばし──アイコと、正面衝突。
【仙人】は赫と蒼と翠、三つの"仙力"のバランスが肝心となっているけど──"セスト・コーサ・マッセリア"じゃあアイコの職人芸の足元にも及ばない。
無駄に膨れ上がった赫の"仙力"が初撃を防ぐも──
「──【燕返し】」
返す一太刀で赫の"仙力"を剥がし。
【分陀利】を構えて、続く第三の太刀。
咄嗟にアイコに防御姿勢を取らせるが──それは悪手。
「【破紋一閃】!」
防御貫通の【一閃】。波紋が広がり、空間が割れる。
"セスト・コーサ・マッセリア"は圧倒的に戦闘経験が足りなさすぎるわね。あたしならともかく、それじゃ何人束になってもカズハを止められないわ。
「【燕返し】は……必要無いか。後はツバキちゃんだけ、だね?」
"呪血"の姫が向きを正す。あっという間の三人抜きだった。
──◇──
──それは、それとして。
「【チェンジ】!」
コノカの周囲を展開する【アストラ・ピット】の攻撃を掻い潜りながら、あたしとアゲハは戦っていた。
「弾幕焚きすぎっしょ! じゃんじゃか【チェンジ】して!クールタイムギリまで詰めてメアリっち!」
「【チェンジ】読めてる訳でも無いのに、なんでこうも近付け無いのよ……!」
「アビリティ"超斥力"だし! 本来は敵から弾かれて後方避難するアビリティだけど、その判定がピットまで対応してピットは動かないから、逆にウチらが弾かれるって話ぃー!」
「んな馬鹿な!」
コノカは完全遠距離アタッカー。本来は長身と優れた命中精度を活用した火力支援で【サテライトガンナー】要素は牽制程度だけど……。その辺を活かせない"セスト・コーサ・マッセリア"が雑に使ってるだけでも強い。【Blueearth】的な強みがしっかりしてるとも言えるわね。関心してる場合かっ!
「雑に使って強いのは困るわね。かといってあたしが詠唱に回ると集中放火だし……」
「対策はそろそろだし! パンちゃむ!」
「お待たせしました。攻略します」
後衛の"医務室"から出てきたパンナコッタは──小さめの大砲を引きずって持ってきた。
「【ヴァイキング】専用装備"大砲"を改造したベル社長謹製の長距離アイテム投擲装置です。では、投薬開始!」
──【ドクター】は戦闘中、"医務室"を設置する事で作成できるアイテムが幾つかある。
それらはインベントリには入らないし、作成に時間は掛かるし、アイテムも消費するけど……性能は随一。
ただ発射されただけの薬は、攻撃では無い。ピットをすり抜け、コノカの正面で──破裂し霧散する。
「"リセットファージ"……範囲内のバフ・デバフを一時的に剥がします。パッシブも例外無く」
「やるじゃんパンちゃむ! 【バインドウィップ】!」
アビリティ"超斥力"が消えた瞬間、アゲハの鞭がコノカを縛る。
──隙が生まれた。
「【チェンジ】──【次元断】!」
一瞬で充分。
コノカの背後を取って、空間毎一気に引き裂く──!
──◇──
メアリー君がコノカ君を倒した様だ。
俺は無数の信者を相手にするので手一杯だったが、間も無く教祖といったところ。時間がかかりすぎた。
カズハさんは、きっと瞳を仕留めてしまったのだろう。これも仕事の内だが、どうしてもそちらを直視する事は出来ない。
帰ってくると分かっていても、耐えられないんだ。仕事に私情を挟むとは情け無いが。
「──ジョージさん!」
ふと。
教祖の首を貫いた時、横から声がした。
見やれば、カズハ君。そして──ツバキ。
まだ倒して無い──?
「空間作用スキルを! 私とツバキちゃんを巻き込んで!」
──意味はわからない。
だが、ツバキの買い手である教祖を始末した事でこの奴隷格闘も終わる。ツバキの身体も、端から塵になって行く──
猶予は無い。必要無い。
「──【白曇の渦毱】!」
──◇──
「……"ぷてら弐号"!」
一面の空。落下し続ける世界。永遠の雲上世界【白曇の渦毱】。
"ぷてら弐号"を呼び出し、カズハさんを拾い上げる。ツバキは……一応、まだ敵だ。そのまま落下し続けてもらう。
「どういう事だい、カズハさん」
「……こんな事すると、メアリーちゃんには怒られてしまうかもしれないけど。ツバキちゃん、このままだとまた敵に利用されてしまいます。そんなの許せないですよね、ジョージさん」
「その通りだ。……まさか、カズハさん」
悪戯に笑うカズハさん。みんなの姉として振る舞う彼女だが、【夜明けの月】では結構気を許してくれているのか。とても美しいと思う。
その頬が再び影を増していても、美しさは変わらない。
「ツバキちゃんを救いましょう。私なら、"エルダー・ワン"ちゃんなら出来ます」
「──おい、待てカズハ」
カズハさんの首元から竜の首が生えてくる。ここまでカズハさんを繋ぎ止めてくれている貢献人の"エルダー・ワン"。
「まさか、我に手伝えと?」
「私を助けた時と同じ事をするだけ、だよ。そもそも意識は戦闘の時だけ返してくれればいいから、こんな8割近くまで復元しなくても大丈夫じゃない?
7割近く影化していても問題無いと思うんだけど」
「……我はな、貴様に惚れて手を貸しているのだぞ。宿主でもないツバキを助けるのはハイリスクだ。やるメリットが、無い」
……そんな怯えた目で俺を見ないでもいいのにな。
もう俺が怒るような事を言ってるのを自覚した上で、それでも言うのだから。覚悟の出来ている男だ。
「……"エルダー・ワン"。君、全てが上手くいった後はどうするつもりなんだ?」
「な、何だ突然。……いまいち具体性の欠ける問いだな。そうだな。【夜明けの月】が【Blueearth】の攻略を停止して、天知調に打ち勝って、レイドボスの存在を改訂改善して……」
「ずっとカズハさんに取り憑くつもりか? それともレイドボスとしての身体を再現するか?」
「いや、"エルダー・ワン"そのものはもういるし……我は我の肉体を得ようと思うが、それが?」
こちらも誠意を見せなければ。ここはそういう話だ。
「俺のいきさつは知っているよね。俺の肉体はあまりにもゲームバランスを崩壊してしまうから、この身体を与えられた。
……つまり天知調は保有しているんだよ。"最強の人類"と呼ばれた俺の肉体を。
それをあげるよ。君、結構わかりやすく"力"が好きだろう。【NewWorld】移行後の世界でも俺は最強だよ?」
「……それは、貸し過ぎだ。馬鹿め」
「じゃあ当分の間【夜明けの月】に正式に協力するって約束はどうだろうか。現物を提示できない以上は口約束でしか無いけど」
「わかったわかった。お前な、漢らしすぎるんだよ」
"エルダー・ワン"は溜息ひとつ、首を上げる。
「……一応言っておくが、失敗する可能性も大いにある。その辺理解しておいてくれよ」
「ありがとう。娘を頼んだ」
話が決まると同時に、永遠の空にヒビが入る。
「メアリーが動いたか。タイミングを合わせるぞ……!」
ヒビは広がり、そして──
──◇──
「【赤き大地の輪廻戒天】!」
突然の空間作用スキルだけど、多分……狙いは分かる。
ある程度時間を置いてから大鎌で割ってみると──
──まず"ぷてら弐号"。
「重い! 重いのよアンタ! 離れろ!」
「めっちゃ懐いてるし。流石ジョージさんが調教してるだけあるし」
レアエネミーの巨体をどかすと、ジョージ。カズハ。そして──ツバキ。
「成功したの?」
「「ああ。なんとかな」」
同時に喋るカズハとツバキ。うわ何か変。
「「しまった。……一旦カズハに移る」」
と、ツバキが"ぷてら弐号"に寄りかかると、意識を失ったようにガクンと頭を下げる。ジョージが即座に隣でその体を支えた。
カズハの方は……半分まで影に侵食されているけど、何と無く立ち姿がお上品じゃないので多分"エルダー・ワン"。
「遠隔ながら、カズハとツバキの両方を繋ぎ止める事に成功した。とはいえ戦闘時くらいしか役に立たんぞ」
「ありがとう"エルダー・ワン"。本当に助かるわ」
ジョージも、心底安心したような表情。無断行動だけど、罰する気も起きないわ。
「戦力が増えるのは良い事だ。ここまで誰も倒されずに進んでいるが──最後に残る"アルバーニファミリー"には、クローバーとバーナードがいる」
ジョージから告げられた事実は、何と無く理解していた。だってあの二人が配置された所がリタイアする訳無いもの。五大マフィア側でしょうね。
「……じゃあ、行きますか。"最強"を崩しに……!」
……無理では?
──◇──
──"オリエントサイト教会"撃破。
レイドボス解放まで、残り1棟。




