269.複合黒金摩天楼
──先手を打つのは"セスト・コーサ・マッセリア"。
【飢餓の爪傭兵団:ミッドウェイ支部】
「……地震!?」
轟音と衝撃。爆睡してるイタコタイコさんとブラウザをゆすって起こすと、窓からアゲハが飛び込んできた。
「メアリっち! 街が動いてる!」
「……どういう事なのよ……!」
急いで屋上に登る、その間も地震は止まず。
見上げて見れば──
「……なに、これ?」
ビル同士が寄り添い合って、まるで山のようになっていた。
この事務所も巻き込まれたけれど……まだ山の麓。建物の高さ順に中央に寄せられた?
「メアリっち、アレ!」
アゲハが指差す先は──空中に浮かぶ画面。そして──
『あー、聞こえるかな諸君。私はミッドウェイの支配人。フィクサー"六本指の怪"。"セスト・コーサ・マッセリア"だよ』
──黒幕が堂々と顔出ししてる!!!
「何してんのよイシュテル……」
二代目バグの親玉(推定)イシュテル。なにがフィクサーよ。全然顔出ししてるじゃないの。
となるとこのミッドウェイ富士山化現象もアイツの仕業……って事ね。
『奴隷格闘大会。聞き及んでいるよ。この混沌としたミッドウェイに相応しい余興じゃないか。
だがその真意は私を炙り出す事だろう? だから私も手伝ってあげよう。
即ち"複合黒金摩天楼ミッドウェイ・スクレイパー"!』
だせぇ。
『これよりミッドウェイは五つのセクターに分かれる。即ち五大マフィアの本拠地!
五大マフィアの所有する奴隷は当然私の所有物! 彼らを撃破せねば最上階の私まで辿り着けないのだ!
さぁミッドウェイを混沌に陥れた元凶はここだ! 精々頑張って上がって来たまえ!』
──◇──
"アルバーニファミリー"下部組織"ムーンサイド"
「ライ……ライトニングさん!」
「あー聞こえたよ。やってくれたなイシュテル……!」
人が朝飯のパンケーキを焼いてるって時にやってくれた。
俺の企画した奴隷格闘大会を乗っ取られた形になったな。自分の手駒である五大マフィアをさっさと操ってしまおうってか。
「メッシーナ。"ムーンサイド"に異常は?」
「弟分も含めて全員無事だが、本部の兄貴達とは連絡が付かねぇ。マジらしいぜコレは」
「つまり本部だけか。拡大解釈によっちゃココも巻き込まれてもおかしくなかったんだが……」
「これってつまり、五大マフィアと戦わなきゃいけなくなったんスよね?」
「そうなるな。俺は奴隷じゃないからレン頼りだ。頼むぜ」
「っス!」
「待て待て待て! 流石にそんな事してる場合じゃねぇよ! ボスの所に行くぜ俺は!」
荒ぶるメッシーナにはあっつあつのパンケーキとベーコンを口に詰め込んで黙らせる。
家族意識の強い"アルバーニファミリー"ならそう言うだろうが、メッシーナはレンの買い主だ。何としてでもこっちに付いてもらう。
「今ミッドウェイがぐちゃぐちゃになってんのはあの"セスト・コーサ・マッセリア"が原因だ。そして"アルバーニファミリー"はその傀儡として身動きが取れない。
ボスの仇を討てるのはお前だけなんだよメッシーナ。わかるか?」
「……な、なるほどな。少し納得したぜ」
こいつチョロすぎる。
……このまま勢いに乗じるか。
「来い! デューク、ジョージ!」
「お呼びとあらば、だね」
床板から頭を出すジョージ。デュークを背負って。
もう地下に隠してる場合じゃなさそうだ。
「……あっ! 指名手配のガキ!」
「メッシーナ。今ジョージを捕まえたとして何処に出すんだ?」
「あ……それもそうか」
「そうそう。じゃあそういう事で、行くぞメッシーナ。下剋上だ」
「ああ! やってやるぜ!」
よしよし、単純で助かるな。
善は急げ。"ムーンサイド"のドアを開けると──
「どうもー。【首無し】のレンドウィックだ。悪いなデューク。諸共蜂の巣になってくれや!」
──待ち伏せされとる!
──◇──
"オリエントサイト教会"
「……追い出されたねぃ」
「そうですね」
【象牙の塔】チームとして"オリエントサイト教会"に取り入っていた僕達でしたが、突然教祖のクリフォさんから追い出され……直後にこの事件です。
プリステラさんはこちらに付いてもらえましたが、果たしてどうしたものか。
「んー……まぁ好都合なんじゃねぇかぃ? このまま"オリエントサイト教会"と正式に喧嘩しに行こうぜぃ」
「そうですね〜。"オリエントサイト教会"の内情を把握出来ているのは我々くらいなものですし、距離も目の前です。突然入り口が伸びて高くなっちゃいましたけど〜……」
順当に行けばそう……だと思う。
ライズさんと合流する前に五大マフィアを一つでも制圧できれば、といった所。
なのだけれど。
「……そうはさせられないんですよ。残念ながら」
階段の前に立ち塞がるは大男。目線がルミナスさんに向かっている。
「……ブレーグ! また厄介な男が来たわね〜」
「【首無し】関係者ですね? 不自然なほど大人しかったですが、ようやく動き出したんですね」
「天下の【真紅道】だろぃ。何油売ってんだよぃ?」
「……表の肩書きなどどうでもいいんですよ。私は【首無し】のブレーグ。最重要危険人物であるドロシーさん。貴方を排除しに来ました」
堂々と言われると怖いですね。何か隠そうともしていない様子ですが……!
「無駄ですよ。私は……というか【首無し】は、今回殆どの情報を与えられていませんから」
「何も聞かされて無いのに、全てを捨てる覚悟が出来るんですか……!?」
「聞く必要は無いのでは? 貴方の読心術は聞き及んでいます」
心から【首無し】を信頼していると、見てわかります。
それはそれとして意思と肉体の動きが不自然。操られているかのような……。
「ルミナスちゃんよ。奴隷達を連れて先に行きな。ここは俺っちが引き受ける」
「で、ですがアザリさん!」
「ブレーグ相手に五体満足で逃げられるとは思ってねぇよぃ。信じるぜ。任せろ」
ルミナスさんは【首無し】。しかし決別しています。ここで僕達を仕留めたりはしない。それは間違いありません。
【Blueearth】最強の一角、【真紅道】の一員。【象牙の塔】三賢者といえど油断ならない相手……!
「なぜ、私が君達を相手に油断しなくてはならない?」
ブレーグさんがそう言った。
その言葉に乗った真意を読み取れるからこそ──僕は振り返り、アザリさんの方へ走る!
「アザリさん、ダメです!」
「──マジかよ……!」
立ち塞がるは、更に3人。
そして無数の亡者と、魔物達。
「ははは。3人か。少し少なくないか?」
「なんだブレーグさんが来てたのか。いやちゃんと打ち合わせしてくれねーからこんなにブッキングしちまったよ」
「心が読める相手というのは厄介ですねぇ。まぁいつも通り、手堅く殺しましょう」
──【首無し】が、僕を殺すための兵隊次々と。
ここまで真っ向から殺気をぶつけられたのは初めてです。……足が、竦む……。
「ドロシーちゃん。ちょっと漢前すぎるわねぇ? お姉さんにも一枚噛ませなさいよ」
「……これでは逃げられませんからね〜。比較的常識人が揃ってますし、連携もできるのでは?」
プリステラさんとルミナスさんも。
僕も……アザリさんでさえ。
──死を覚悟していた。
──◇──
死した冒険者はリスポーンする。
《拠点防衛戦》において、そのリスポーン位置が変動する事は少なくない。
私はそこを狙った。
ミッドウェイが滅びれば【Blueearth】は滅ぶ。
だが私もまた滅んでしまう。ミッドウェイに根付くレイドボスとはいえ、そのミッドウェイが滅ぶのだから。
私という存在を確立するための何かが必要だ。
バグを操るだけで、私そのものはバグでは無い。だから世界を渡るだけの自己が必要だ。
それは冒険者だ。
デュークから冒険者のデータを抽出したからこそわかる。これは優れものだ。"廃棄口"に保護された温室の中ならば何処でも生存可能。これはたまげた。
しかし私を維持するのにたった一人分のデータでは足りない。
だから冒険者のリスポーン先を私にした。
ミッドウェイで死亡した冒険者は私となり、私の自我の支えとなる。そうして私は滅びたミッドウェイで唯一存在できる個となり、天知調との直接対決に向かう事ができるのだ!
「それで、いつまでやるの?」
無論、滅びるまで。
「かまってちゃんめ。止めて欲しいんだろ?」
なんだと。止められたら終わりなんだぞ。そんな訳あるか!
「君には言ってないよ。本当に醜悪な奴だよね」
……?
──◇──
──【飢餓の爪傭兵団:ミッドウェイ支部】
「では、事務所は皆さんに任せます!」
「おうよ。ミッドウェイ支部の意地見せてこいタイコ!」
支部のみんなに見送られて、いざ登山。
こっちはイタコタイコさん、ブラウザ、あたしにアゲハ。アゲハの元買い主のロウジさんは支部に残るらしい。
「……まずどこから攻めればいいのかしらね」
「ライトニング……ライズは実行委員会なのでしょう。何か情報は無いの?」
「いやー放送が無いって事はマフィアとの関係切られたっぽいし。多分参加者として扱われてるっしょ。
とりま狙うなら"燕楼會"以外っしょ。あそこはサっちゃんとカズハちゃまがいるしー」
「あたし達じゃ獲れる首も限られてくるわね。できれば五大マフィア以外から狙いたいところだけど……」
ふと顔を上げれば。
──和服のシェード族が、下駄を鳴らしてこっちに来ていた。
「──嗚呼。いたいた。アゲハの嬢ちゃんよ」
最前列にいたのはロウジさんよりもお爺ちゃん。刀を杖代わりに歩いている。
──白眉の下の鋭い瞳が、あたし達を見定める。
「こいつぁどうも。ウチの子を引き取りにきたぜ。こちら"燕楼會"頭目張らせてもらってる……カイエンってなぁもんで。どうも宜しく」
「メアリー。下がりなさい。この爺さん、ペナルティ前提で斬り掛かるつもりよ」
ブラウザがあたしを守ろうとしてくれるけど、それはダメね。
ちゃんとリーダーとしてしっかりしないと。あたしはブラウザの手を跳ね除け、後ろの物騒な黒服さん達の視線を無視してカイエンお爺ちゃんの前に立つ。
「あたしは【夜明けの月】ギルドマスターのメアリーよ。アゲハは奴隷間の契約でこっちに移ったの。アンタの所には帰る理由が無いわ」
カイエンお爺ちゃんは……眉を一つ動かす。
「そこの本屋の嬢さんの言葉、聞こえなかったのかい? 儂は斬るぞ。ハッタリだとでも勘違いしたかい?」
「見せつけるだけが目的ならおしゃれなステッキをプレゼントするわ。
貴方があたしを斬ったとして、この場で戦争して何の得になるのよ。というか、貴方自らここまで出向いた理由があるんでしょ?」
イタコタイコさんがおどおどしながらも短剣を構えている。今のメンバー全員が、カイエンお爺ちゃんが動いたら一斉に戦える。
でもカイエンお爺ちゃんに得は無いわよね。何故こんな事をしなくちゃいけないのか。
「タダでアゲハを回収しに来た? それにしても今首が狙われている"燕楼會"のする事じゃないわよね。
共謀のお誘いでしょ? 話くらいは聞いてあげるわ」
「……カカカ! 面白ぇ嬢ちゃんだ。まさか奴隷に諭されるとはなァ!
お前達! お嬢さん方を囲んで護ってやんな。ウチに帰るぞ!」
「「「へい!!!」」」
快活に笑うカイエンお爺ちゃん。兵隊の黒服さん達も悪い顔はしてないわね。
あっという間に囲まれて、でも攻撃する雰囲気は無く。何かからあたし達を守るように。
"燕楼會"の事務所へと、連行されるのだった。
〜人物紹介:ブレーグ〜
所属:【真紅道】
ウォリアー系第3職【グラディエーター】
礼儀正しい大男。【真紅道】立ち上げメンバーの一人にして、【首無し】の諜報員。
他の諜報員を炙り出すために【真紅道】面接を強化したりと、陰ながら色々と動いていた。
とはいえ【真紅道】を裏切る訳でも無く、むしろ変な闇ギルドの介入を阻止できているのである種貢献していた。
影が薄い事が取り柄だと自認しているし、実際そう。だが実力者であればあるほど彼を甘く見ない、いぶし銀な性能。
守りに長けた【真紅道】においては珍しく、バーナードと並んで攻め100%のゴリ押しを担当する。【真紅道】の誰と組んでも戦える最高の補欠。目立たない事を第一にしていたからではあるが、明確な弱点が無いため厄介すぎる。
まだ【首無し】が結成する前からデュークとは知り合っていた。なのでスパイ目的で【真紅道】にいたのでは無いが、デュークが闇業界に本腰入れたあたりで覚悟を決めた。目立たない奴というのはスパイに最適である。
また、同じトップランカーに目立ち過ぎるファルシュがいたのも彼が【首無し】である事を隠す一因となっている。何度注意しても改めないので彼女に関わるのはもうやめた。




