260.大鎌は想いを刈り取る
【第107階層ジャングル:ハンス隠密ライン】
【夜明けの月】:ライズ・スペード・バーナード
倒木やら地割れやらで高低差のある……まぁ面倒臭い階層だな。
隠れる場所がいっぱいあるのはいい事だな。うん。
「頼んだバーナード」
「……任せろ……【ドロップアンカー】……!」
今回の同伴はバーナードです。問答無用の大砲爆撃。
この階層の障害物は全て破壊可能。じゃあ高火力のバーナードに任せるのが楽だよな。
「待っていたぜ【夜明けの月】! あぶねぇなぁ!」
薮から飛び出す【コントレイル】第五席イーグレット。暴走特急がお出ましか。
……さて、どうやって戦うかなぁ?
「おっと。危ないよライズ」
「ん」
炎上する森の影から──【頂上破天】の【アサシン】クロが飛び出して来たが、スペードが防いでくれた。
気付かなかった。……反射神経とか鍛えられるもんなのかな。結構ジョージと手合わせしてきたんだが、実戦は別物か。
超高速機動のイーグレット。エンブラエルより一歩劣るが、それでも【Blueearth】最高峰の機動力。ぶっちゃけ追い付けない。あれはバーナードに頼むとする。
奇襲するクロに対応するのは元トップランカーとしての勝負勘があるスペードに任せる。なんやかんや基礎がしっかりしてて俺より強いんだよ。悔しいが。
……まぁ、卑下するつもりは無いがな。俺には俺のやり方ってもんがある。
「ケヒッ。ラララ、ライズ、サン」
双剣を構えて低空姿勢の少女──【神気楼】クピコ。
深紫色に発光するフラスコを空中に投げ──双剣で切断開封。周囲に撒き散らしながら刀身を紫に染め上げる。飛沫が顔や身体にかかるのもお構いなしで。
「宜しく、オネガイシマス。ケヒャヒャヒャ!」
目つきが怖い。姿勢も外見も行動も怖い。
勝てるかな、俺。
「光栄だ。正面から来てくれるなんてな」
「不意打ちでは、ライズさんは倒せなイ……ヒヒッ」
──俺の強みは手札の多さ。
武器の数、スキルの数、そして情報の数だ。
「【スイッチ】── 【月詠神樂】【雪月花】」
片手剣二刀流。俺がゴーストと立ち合いする時もそうだが──双剣には二刀流で合わせるのが俺流だ。
【神気楼】クピコ。元傭兵。当時のジョブはゴリゴリの【リベンジャー】。戦闘スタイルは今も変わらず、防御度外視の超火力超接近戦。
「──ケヒャヒャヒャ!」
前傾姿勢からの突進。通常の姿勢より早く俺の所に辿り着ける姿勢だったか。
だが正面からならば受け切れる。
「──つ、よいな! 双剣の重さじゃない!」
「アヒャハハハァーーー!!! ご明察ゥー! 【襲牙】!」
「【スイッチ】── 【煉獄の闔】!」
中距離突進スキル──【襲牙】。それをこの0距離でぶちかましてくるとは想定外だ。攻撃速度も火力も段違い。……いや、火力ではなく重量か。
大盾で正面からスキルを受け止めるが──これ以上は厳しい。すぐさま二刀流に【スイッチ】し直す。
息を吐く間も与えてくれない怒涛の剣閃。
さすが武闘派ヒーラーギルド。とてもヒーラーには見えない!
「武器戦闘においてェ! "武器弾き""窃盗""武器破壊"は有効な戦術! 複数の武器を操る【スイッチヒッター】であれども弱点である事に変わり無イ!」
「さっきの薬品は武器重量増加か……! 軽量武器のぶつかり合い想定、つまり俺の【スイッチ】を読んでいたか。戦闘に慣れてるな?」
【Blueearth】における武器重量は重要な役割を持つ。
重量そのものが大きくダメージに寄与する事はそう多くないし、基本的に適正手段で装備していれば重さの実感は無い。重量が大きい両手武器でマニュアルに切り替えた場合、身動きが取れなくなるが。
武器重量が与える影響は、武器防具へのダメージと弾かれにくさだ。軽量武器の双剣短剣は両手剣はおろか、片手剣にさえ重量負けして武器を弾かれたりする。基本的にはぶつかり合いは避けて速度と手数で勝負するんだが……クピコさんは殴り合いを所望されているようだ。
重量が片手剣と同格になってしまえば、それは片手剣より速い分厄介になる。クピコさんは本体より武器の方を狙ってる。とにかく武器破壊しようって事か。
「ケヒッ! 【スイッチヒッター】はローグ職。"窃盗"には耐性があル。そしてライズさンは武器破壊に対するアンサーとして、一撃必殺の【朧朔夜】を持っていル! 【スイッチヒッター】として完成されすぎていまス」
「むず痒い! それでも武器破壊を選んだ理由は?」
「ワタシの速度なラ! 【朧朔夜】抜刀迄にそれを折れるかラ! アヒャァーーー!!!」
──【雪月花】が折られた!
どんな状況にも対応できる【スイッチヒッター】の数多い弱点の一つ──超接近戦。
【スイッチ】は0秒発動だから武器の呼び出し自体は出来るが、そこから持ち直すのにこの距離はキツい!
「【スイッチ】── 【灰は灰に】」
剣撃の最中呼び出すは煙袋の片手槌。
煙を撒き散らして視界を遮る。特殊効果持ちの武器を利用するのも強みの内だ。
「ヒャ!? 煙幕! しかシこの距離なら目ェ瞑っても斬れ──ッ!?」
さっきまで応えていた攻撃が突然スカって前のめりに転び──一回転。影しか見えないがアクロバットだなクピコさん。
なんの事ない。武器で受けず身体で受けただけだ。
ダメージは痛いが、一度二度で死ぬような火力は双剣では出せないからな。痛いけど。
【Blueearth】じゃ肉を割いて剣が挟まる……なんてリアリティ無いからな。そのままスルーした所を──背後から、左に呼び出した武器で。
「対策不足だったな」
「──お見事、でス。流石は"妖怪再鬼"」
左は片手銃【封魔匣の鍵】。
交戦は片手剣二刀流で、0秒切り替えにより不可避の煙幕からの背後に回って一撃。俺の基本戦術の一つだ。
【朧朔夜】に頼らなくても、手なんて無数にある。
銃口を突きつけ──最高火力の一撃。
「──【ゼロトリガー】」
黒き炎がクピコさんの身を撃ち抜く──。
──◇──
「……随分と……苦戦していたな」
「なんでお前はイーグレットを仕留められてんだよ」
「見てたけど、力技だったよ。大砲弾幕で無理矢理退路を絶って飛竜に乗り込んで一撃」
「とんでもねぇ海賊だ」
「……スペードこそ……片手間で完封とはな……」
「比較的練度の違いが出やすい接近戦同士だったからね。ファルシュとかと比べるとまだ遅い遅い」
「やっぱ最前線での戦闘訓練は違うなー」
──◇──
【第108階層ジャングル:テア殲滅ライン】
噴き上げる大地。
地上の悉くを荒らし壊す正に殲滅の戦線。
スパイラルです。【頂上破天】サブリーダースパイラルです。こちら【ビーストテイマー】なれば、空飛ぶ巨大エイ"てんぴ星"に乗って飛行中です。
後ろには【神気楼】マナエルサブリーダーもいます。
そして遥か上空にはグリフォンに跨る、繰り上げサブリーダー就任の【コントレイル】アスカさん。
そう、我々サブリーダー連合でございまスパイラルです。
この108階層、地雷ライン以上に地上不利な階層。その上で空中後方支援が大得意の空飛ぶ魔法使いアスカさんがいるのだからこんなもん勝ちです。
ましてや、【夜明けの月】チームは全員地上戦。一方的な蹂躙となりましょう!
……と、思っていたんですけど。
「荒れてるね。サティス君、ゴーストちゃん。どうしよっか?」
「うーん……ベルが気掛かりでしょうがない。速い所仕留めてしまおう」
「answer:対空中戦闘のシュミレーションは万全です。では跳びましょう」
元サムライ四天王2人。そして謎の最強メイド。
なんですかあの辺のルックスの暴力地帯。チビのジャッカルが迷い込んだら股下で迷子になりますよスパイラルです。
「……アスカさーん。どうします?」
「2人は接近戦主体ですからそのまま。華も夢も無く、ここから魔法でチクチク削ります」
クレバー。流石はアスカさん。冷徹。魔性。美しい。
そして私はスパイラル──
「スパイラルさん。急いで上昇!」
「はい?」
一瞬の隙を突かれました。
地上から黄金の炎が一筋の雷となって昇り貫く。
──な、にごと?
「【灰燼一閃】【燕返し】、二刀使ってギリギリ届く高さかぁ。間に合って良かった」
──"呪血"カズハが、私とマナエルさんを一刀の内に叩き伏せて"てんぴ星"に着地します。
アスカさんは、リアクションを取るより早く。杖を向けて魔法を撃つ。流石判断が早い!
「【エアラインストーム】! ──納刀の暇は与えないわ!」
風の刃が針となって襲いかかる。
【一閃】の鬼たるカズハさん。抜刀済の今なら攻撃が通る──
「後はよろしくね。──"転移石"!」
カズハさんが、サティスさんになる。
──超希少アイテム、2人の位置を入れ替えるレアアイテム!
「方角と位置は地上から見えていたよ。後はこっちの領分だ」
納刀どころか構えたまま転移されたサティスさんが、刀から提げた鈴を一つ鳴らし──
「──【虚空一閃】」
──◇──
「"転移石"なんてよく持ってたね。【朝露連合】のネットワークって凄い!」
「貰い物だよ。【満月】結成の時にタダで貰っちゃったんだよね」
「search:カメヤマは現在"転移石"の量産が出来ないか解析中らしく。2セットの内1組は不要と押し付けられていました。単価を考慮すれば照れ隠しと判断します」
「素直じゃないよね、カメヤマさんも」
──◇──
【第109階層ジャングル:ステーゲ最終防衛ライン】
こちら最後の攻略階層。
待ち構えるはそれぞれのギルドマスター。
【コントレイル】エンブラエル。
【頂上破天】ジャッカル。
【神気楼】ソニア。
【夜明けの月】メアリー。
【満月】ベル。
【バレルロード】スカーレット。
レイドボスの"グリンカー・ネルガル"と"グラングレイヴ・グリンカー"。
そして、超巨大お野菜生物。
「いやアレは何?」
「ここのフロアボス【複合根菜 マンドラごん】よ。何か問題でも?」
「……フロアボスのデータが破損してしまって。なんとか取り繕った。戦闘における内部データは据え置きだから安心してほしい」
胸を張る"グリンカー・ネルガル"と頭を下げる"グラングレイヴ・グリンカー"。真逆だけど相性は良いわね。
"マンドラごん"は大根なのか人参なのかわからないけど、幾つかある首を振って奇声を上げてる。
「俺たち【セカンド連合】の猛攻を掻い潜り、"マンドラごん"を倒せるか! 見せてもらうよ【夜明けの月】連合!」
「やってやるぜ!」
「ぶっちぎりですわー!」
テンション高いわねあっち。仲良さそう。
こっちは……。
「ベル、まだ戦えない?」
「舐めんな。私なりの戦い方はできるわ。それより前衛が死んでるわね。こっちは中衛・後衛・非戦闘に対してあっちが前衛・前衛・前衛だもの。スカーレットじゃ捌き切れないでしょ。……仕方ないわね」
ベルが指を鳴らすと──どこからともなく現れる、無数のゴリラ。オシャレにスーツを着こなしてる。
「【雇用契約】。お金は弾むわ。生きて帰って来なさい」
歓声を上げて敵陣に襲いかかるゴリラ達。
──ベルがサブジョブに【サモナー】を選び、そして商人としての実績があることで得られた特殊スキル【雇用契約】。
本来【ライダー】が従えられる魔物の数には制限があるけど、ベルではなくお金と契約を結ぶ事で魔物達が単独顕現。そのお金を払うのはベルなので、実質的にベルが無数の魔物を使役できるという馬鹿スキル。
もちろんというか何というか、そこまで稼げる商人がここまで攻略する事は滅多に無く、その上で【ライダー】系列のジョブが必要になる。【マッドハット】に前例が無いならベルにしか出来ないって事ね。
ちなみに給与は生存後支給の後払い制。えぐい。
「ぶっ……ちぎりですわー!」
ソニアは──高貴なお嬢様みたいな振る舞いだけど、物騒な両手剣を振り回してゴリラを圧倒。ジャッカルもゴリラの間を潜り抜けて接近してくるけど──
「あら。エスコートして下さらないの?」
背後からスカーレットの銃撃。
──混戦になればなるほど、小柄で素早いスカーレットは輝く。二丁拳銃、右と左でソニアとジャッカルをそれぞれ狙い牽制する。狙われれば一気に不利になるが、今回はゴリラ達が守ってくれるからね。
……さて。あたしは。
「行くよメアリーさん。追えるかな?」
やる気満々なエンブラエルさん。
ぶっちゃけ本気を出されると目で追えないけど。ここには利用できるものがいっぱいあるからね!
「【チェンジ】!」
「っと、そこか!」
転移先は──フロアボス"マンドラごん"の背後。
エンブラエルさんは槍を構えて──一瞬で"マンドラごん"を飛び越え、私の背後へ。
軌道が意味不明すぎる。でも──
「ごんっ!」
「【チェンジ】!」
「うおっ」
"マンドラごん"は、あたしを狙って攻撃してくる。
転移して避けるけど、あたしを狙うエンブラエルさんに攻撃が向く!
「やってくれるね。俺がどれだけ速くても関係無いか!」
「避けてんじゃ無いわよ! 【風花雪月】!」
氷の華、荒ぶる風。飛行系には厳しくなるけど、それでもエンブラエルさんなら避けて飛んでくる。
──まだエンブラエルさんはあたしを舐めてる。だから、短期決戦!
「甘い! 【ドラグストライク】!」
飛竜と槍の超突進!
合わせるは──空間断絶の攻撃!
タイミングを合わせるのは難しいけど、エンブラエルさんは絶対正確にあたしを貫く!
「──【次元断】!」
ジャストカウンター。エンブラエルさんの槍の穂先が破損する。
【次元断】は空間に作用する。それは必殺の一撃ではなく、全ての攻撃を相殺して隙を生み出すためのもの!
「なっ──」
「纏めて行くわよ!"赤き大地の想い"スロットセット!」
紫に赤が混ざり、杖が【紫蓮赤染の大晶鎌】へと変容する。
たった一撃限りの大技。これこそが、あたしの必殺!
エンブラエルさんの復帰を待たずして。赤き炎が命を刈り取る!
「──【赤き大地の輪廻戒天】!」
たった一撃。エンブラエルさんも、飛竜も、"マンドラごん"も。力の限り一戒天!
「──クリックの頃とは……比べるべくも無いね」
エンブラエルさんは、満たされてはいなさそうだけど。納得したように目を閉じて──
──【セカンド連合】引き抜き戦は、幕を閉じた。
〜魔物紹介:"マンドラごん"〜
【複合根菜 マンドラごん】
本来のフロアボス【植森兵器 ハーベストバーナー】のデータが破損したため、"グリンカー・ネルガル"がその辺の"マンドラにん"からデータを拝借して生み出された哀れな化け物。
巨大なカブを胴体として、人参やら大根やらみたいな根菜を手足頭とするキメラ野菜。
内部データはハーベストバーナーのままで、基本行動は地面を耕しながら急成長する作物で妨害してくる。あと炎のブレスを吐いてくる。
"マンドラごん"となってからは大地から不良作物"わるドラにん"を生やして妨害してくる。
なお、巻き込まれた"マンドラにん"達は太陽光を独占しながら豊かな土壌を自ら作れるため意外にも大好評。なぜ。




