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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
密林祭壇ウェンバル/ジャングル階層
250/507

250.滅びゆく森林

──自我とは何か。

全てが電子化した【Blueearth】において、自意識というものは存在するのか。

0と1によって管理される世界において、絶対的な統括者が存在するとすれば。統括者の意のままに世界は動いてしまうのではないか。


これは実験だ。


存在の中の感情を、外部から操作する。

マスタングでは、既にある"燻っていた執着心"を増幅する事ができた。しかし元は人間。複雑なコードが絡まった感情において、存在しない感情を生み出す事はできない。


だからレイドボスを利用した。誤作動によって生まれた人間もどき。まだ自我が確立していない段階だった事もあり、存在しない"世界への破壊衝動"は無事植え付けられた。


さあ、滅びよ。滅びよ。

それが嫌なら出ておいで。

【Blueearth】根源の災禍。バグの元凶。スペードよ。




──◇──




──上空"シェルフライト"


「……な、何だこれ。どうなってるんだ?」


甲板からでも分かる、空気の揺れ。

一面の深緑が、渦を巻き、捻り、そして──


「観測隊より報告ぅー」


またしてもハッチからぬるりと出てくる、もち。


「【第101階層ジャングル:アペテ開戦ライン】の領域が収縮中ー。そして()()上昇中だよー。

まったくもって理解できないけど、102階層から109階層を101階層の一番外側に配置して、101階層を()()()()()()()()高さを稼いでいるみたいだねー」


「そんな砂山じゃないんだから」


「拠点階層も101階層内ですわ! 無事ですの?」


「多分無事だと思うけどー……あそこ。103階層と105階層の隙間の奥の方にあるっぽいねー。

物理的に通路が押し潰されていて、事実上の拠点避難は不可能。ウェンバルまで逃げたメンバーが戻ってくる事も同様に不可能だねー」


森が悲鳴を上げながら、捻れ、ただ空へと伸びる。

その目的は、つまり──


「狙いはここか。そこまでして墜としたいか"シェルフライト"を!」


「俯瞰視点だから分かりにくいが、通信班からの映像では──大きな手が空に向かって伸びている。

13基連結の"シェルフライト"でさえ握り潰されるほどの手だ。


「とはいえー、ここまで伸びる事はないよー。101階層地上面積の減少率と標高の比例値からして、ここに届くまでに"シェルフライト"甲板より101階層の方が狭くなる計算だねー」


「それって、"シェルフライト"も101階層に押し潰されるんじゃないか?」


「そうだねー。どうする? ちなみに【セカンド連合】で用意していた中継はとっくに潰れてるから、本部とも連絡がつかないねー」


……それは、困る。

だが原因がわからん。さっきから攻略階層が変動しまくってたりと変な事ばかり。【草の根】がいれば何か分かったかもしれないが……。


「……よし。【コントレイル】と【神気楼】でペアになって4チームで降りるぞ! 【夜明けの月】と協力して事の解決に乗り出す! いいな、親父!」


「おぉよ。好きにしろぃ」


親父は元からそう言ってはいたが、一応の確認だ。

ここまで来たらこの異様な状況を解決するしか無い。

どうせ本部とは連絡付かないし、好きにやるか。


「ソニアさんは俺と組んでくれ。メアリーの方に向かう」


「わかりましたわ。【神気楼】全軍出撃ですの! ここより先、1人の負傷者も出してはなりませんわ!」


「「「ラジャー!!!」」」


うちより余程軍隊だな……。




──◇──




【第106階層ジ/date:clash:::....


「だめだ。データが壊れてやがる」


メニュー画面に表示される階層名さえ崩れ始めた。これは相当ヤバいな。


スカーレット達と合流できて間もないが、突然の階層崩壊。多分外では天知調さんがかなり頑張ってくれてるんだろうが……。


「これまでのレイドボスで一番やらかしてたのは"スフィアーロッド"だよな。それでも階層そのものまで壊すような真似はしてなかったろ」


「当然である。我は力を暴走させた訳ではないからな。ちょっと魔物の出現率を間違えちゃったりはしたが」


「アレまじで許さんからなお前」


バーナードの肩から"スフィアーロッド"。反省の色は無し。


……と、空から何者かが接近する。


「スカーレットちゃん。撃ち落とそうか?」


「……いえ、白旗振ってるわね。様子見よ」


方角的に"シェルフライト"からの【セカンド連合】か。

空駆けるは緑の龍。その背に跨るは……長槍に白旗を縛った、和服の……顔の濃いおじさん。


「おいどんは! 【コントレイル】第六席ドンリュウでごわす! 此度は停戦の協定を提案しに参り候!」


濃い。あまりに九州男児。目視できる距離になってから何度かコノカとバーナードが撃ち落とそうとしていたが、平気で避けて一切言及しないあたり強者だな。


「こんにちわ!!!!【神気楼】オオサダです!!!!!」


そしてその後ろから出てきたのは顔を隠した黒髪の女性オオサダ。ボロボロの白装束でどう見てもホラーなのだが、ありえないほどに活発。脳がバグる。


「停戦って言うと……?」


「この異様な状況! 先ずは"シェルフライト"から俯瞰で観測していた某らの情報を共有するでごわす! オオサダ殿!」


「はぁい!!!こちら"シェルフライト"のリアルタイム俯瞰映像です!!!!」


うるさ。

……上空からの俯瞰視点では、どんどん階層が狭くなっていく様子が映っている。


「……【コントレイル】にとって……この映像は何より大切なものだろう……」


「みんなが何処にいるのか一目でわかるものね。ここまで出されたら呑まざるを得ないね、スカーレットちゃん?」


「……総司令はメアリーよ。私の独断では決められない。でも、少なくともこの場のメンバーはその要求を呑みましょう」


……ここにいるのは俺、バーナード、カズハ

スカーレット、コノカ、フェイ、アゲハ、ジョージ。

多分【夜明けの月】側は一番多く集まっているが、ここからどうするか。


「おいどん達は近くの階層を回り、全員を集めるでごわす。ジョージ殿のお力もお借りしたい!」


「あーしも【ビーストテイマー】だけど、多人数運搬系は【調教(テイム)】してないんだよねー。【夜明けの月】から手伝えるのはジョージっちだけかな?」


「ミカンのいる所を集合場所にした方がいい。あいつならすぐに仮拠点を作れる。

俺達はジョージで移動するから、方向を教えてくれるか」


「この人数の運搬を自分達で賄えるというのなれば、願っても無い提案でごわす! ミカン女史……【魔王城】ば城ん中の連中は二つ北側の階層じゃ。"ぷてら弐号"んならすぐでごわす!」


「では!!!! 説得のためお一人ご同行頂きたいです!!! ダメですかね?」


「……俺が()()しよう……。いつレイドボスが襲ってくるか、わからんからな……」


「むぅ、敵ばやはりレイドボス! これは心強い護衛にごつ! でばオオサダ殿の後ろに!」


「はぁい!!! 私にしっかりしがみついて下さいねぇ!!!」


……このコンビ、めちゃくちゃデカいな。高身長のバーナードが見えないぞ。


「……バーナード。オオサダさん達をちゃんと守りなさいよ」


「……わかっている……必ず、お前の元に帰る。待っていてくれ……」


「そう。早くしてね」


スカーレットは……嫉妬とか特にしてないな。なんだろう、ベルとサティスがおとぼけカップルだからかかなりマトモに見えるぞ。


「では出陣! 駆けよ"タテワキ"!」


緑の龍が一つ吠え、九州男児を乗せて空へと消える。

……濃い連中だったなぁ。




──◇──




【第107階/date:clash:::....


既に階層としての建前も無い。

定期的に襲ってくる機械兵は視認できない荒れた翼を持っていたり、異様に腕が長かったりとこっちのデータにも問題が起きているみたいだ。


そしてこの安定と信頼の【魔王城】である。流石はミカン。


【夜明けの月】メンバーほぼ全員、【コントレイル】や【神気楼】や【頂上破天】は……全体の半分も残ってない。


「……アスカはダメだな。ウェンバルに輸送したタイミングで閉じ込められちまったみたいだ。

俺は【神気楼】のお陰で全回復。戦えるぜ兄貴」


「じゃあイーグレットはアスカの担当の分もやってくれ。合同で後方部隊の隊長だ。ドンリュウは前衛部隊を任せる」


「承知にごわす!」


あれから【コントレイル】は各階層を渡り飛んでもらって、なんとかここにほぼ全員を集めることが出来た。

……この状況で尚"シェルフライト"に籠城されてたら全滅だった。流石はエンブラエル、判断が冷静だ。


「……で、本当にゴーストは見つからないのね?」


「はいぃ……。本当にごめんなさいメアリーさん!

ゴーストさんは、ウチを庇って、大穴に飲み込まれてぇ……!」


メアリーに抱きついてギャン泣きしてるのはタルタルナンバン。呼び集めた【井戸端報道】報道陣がちゃんとウェンバルに避難できたか、探して回っていたという。簡単に言うがジャングル階層の広大な密林で何してるんだコイツは。


()()()()()ね……。庇うって、誰かから攻撃を受けたの?」


「はいぃ……。バーナードさんがよく使う、黒のモヤモヤ……バグでしたっけ? アレで間違いないです。

それと一緒にゴーストさんが、大きな穴に吸い込まれて……!

ウチが軽率な行動を取ったがらぁ……!」


……穴に落ちて、というか自分から落ちたな。

ゴーストは"廃棄口"に避難したか。


「大丈夫よナンバン。ゴーストは無事。それよりアンタは本当にそのモヤモヤに触れて無いのね?」


「びゃい……何とか避けきりました。バーナードさんから日頃口酸っぱく言われていましたので」


「……俺のバグは……まだ調査中だ……。コートのファー感覚で……手触りを確かめようとするんじゃない……」


意外と図太いなナンバン。

……とにかく、ゴーストは無事だろうが……


「どう思う、ジョーカー(スペード)


「……うぅーん……ゴースト単体だと元の場所にしか戻って来れないけど、多分座標が狂ってる。正攻法では戻らない方がいいと判断すると思うよ。

多分天知調の所を経由して【Blueearth】に復帰して、ウェンバルまでは来れる……かな?何にせよ復帰は無理だ」


「だよなぁ……」


困った。ゴーストの"廃棄口"回避が無いと"グリンカー・ネルガル"の階層弾きに対抗できないな。


「いいや、そこは大丈夫よ。もうその必要は無いから。

……改めて整理するわね」


メアリーが立ち上がり、現在の俯瞰図を投影したボードの前へ。


「この騒動の元凶はレイドボス"グリンカー・ネルガル"。狙いは本来射程範囲外の"シェルフライト"。

ジャングル階層内の8つの階層の位置を操作できる権限を持つ"グリンカー・ネルガル"は、"シェルフライト"に届くために質量を掻き集めている。その手段として8つの攻略階層を基軸となる101階層の外側に隙間なく配置して、少しづつ中心に向けて圧縮しているわ。

これで101階層を狭くして、土地を隆起させて"シェルフライト"に届かせようとしているって事」


「……私、そこまで階層に詳しく無いけど。そんな事可能なのかしら。いや森が空に伸びてるのはそこ(バルコニー)から見えるけど」


ベルの疑問ももっとも。というか、大当たりだ。


「その通り。不可能よ。"シェルフライト"に届く前に101階層は押し潰されて消えるし、"グリンカー・ネルガル"も巻き込まれるし、基盤となる101階層が消えた事で102〜109階層も消えるし、その余波でウェンバルも消えるし、【Blueearth】も消えるわ」


「全消しですの!? まさかそこまで……」


「でも、そのためには8階層全部を動かせないわ。"グリンカー・ネルガル"が使ってきた階層呼び出しはもう使えない。だからゴーストも今となっては必須じゃないってわけ」


なるほどな。確かに目的を考えればそれはそうか。


「……で、その"グリンカー・ネルガル"はどこにいるんだ? あいつの根城である攻略階層はもう全部外側に配置されてんだよな?」


「……多分、()()よ」


メアリーの指差す先──バルコニーから見える、天へと伸びる大きな森の手。




「……多分、だけど。"グリンカー・ネルガル"は101階層……ジャングル階層そのものと同一化してるわ。

あたし達はこれから、アレをなんとかしないといけないのよ」




……無理では?

〜人物紹介:ベル〜


【満月】所属

クリエイター系第3職【ブラックスミス】


アドレの雑貨屋【すずらん】の店長。

ドーランを拠点とする大商会【朝露連合】の社長。

そして今やセカンドランカー【満月】のギルドマスター。


トップランカー【飢餓の爪傭兵団】の前身であるギルド【飢餓の爪】の創立メンバーであり、サティスとウルフとは旧知の間柄。机上論として話したドーラン制圧作戦をウルフが独断で決行してしまった事がきっかけでギルドを降り階層攻略を断念する。

その後アドレにて雑貨屋兼鍛冶屋を営んでいたが、ライズが転がり込んできた事で数奇な運命に巻き込まれ、やがて階層攻略を再開するはめになる。


かなり小柄な上に常にリスの尻尾を装備しているので愛らしいが、性格は苛烈であり狡猾。あらゆる点において利益を優先する生粋の商人。

だが一応気を張って演じている部分もあるようで、気が抜けると途端に身内に甘えたり優しくなったりする一面もある。サティスという理解者が近くにいるのも理由の一つか。


かつては一切戦闘に参加しなかったが、流石にセカンド階層ともなれば自衛のために戦闘も嗜むようになった。とはいえ基本的にはサティスに守ってもらっているので、自前の武器を投げつけるような単調な戦闘しかできない。


燃え尽きていた頃のライズにはシンパシーを感じていた。メアリーとゴーストも匿っているうちに母性が生まれ、あの2人のために階層攻略を再開するという点は納得しかしていなかった。

が、無理矢理ドーランに引っ張り出されるのは聞いてない。サティスがいたから帳消しだが、あの時ばかりはライズをボコボコにしようと思っていた。

……今となっては、【夜明けの月】には感謝しかない。サティスと再会し、攻略を再開している今は充実している。

だから【夜明けの月】のためなら何でもしてあげたい。それを口に出すのは小っ恥ずかしいから、あくまで一方的で秘密裏に。それが【満月】の隠された行動指針である。

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