244.開戦:魔王城攻防戦
【Blueearth】中に注目集まる【セカンド連合】と【夜明けの月】の宝珠争奪戦!
【第100階層 密林祭壇ウェンバル】では、一風変わった宝珠争奪戦が始まっているようです!
「あたし達【夜明けの月】はあと2時間で"シェルフライト"へ飛翔し、マスタングから宝珠を奪い取るわ。
阻止したければかかってきなさい【セカンド連合】!」
【夜明けの月】ギルドマスター"盤上遊戯"メアリーもこの余裕!
それに対して【セカンド連合】もここ十数時間、【夜明けの月】先遣隊との交戦を続けており一触即発の状態です!
突如始まった宝珠争奪戦。勝者は如何に──!
──◇──
【101階層ジャングル:アペテ開戦ライン】
高度限界"シェルフライト"甲板
「やられたな親父。もう世間はコレが宝珠争奪戦だと思われてるぜ」
緊急会議。【コントレイル】の一軍が全員甲板に揃う。
月を見上げて座すは【コントレイル】第一席、ギルドマスターマスタング。
サブギルドマスターに第二席エンブラエル。
飛行部隊の"双翼"、第四席アスカと第五席イーグレット。
【コントレイル】最強の布陣。これをしてヒガルでは"シェルフライト"墜落という醜態を晒したが……。
「ロケットね。本物だと思いますかエンブラエル第二席」
「まさか。あり得ないだろ。というか間違い無く違うらしいぞ。【首無し】が追跡していたからな。
……だが受ける他ない。天下の【セカンド連合】が一々【夜明けの月】を尾行してましたとか言えないからな」
「何て事ぁ無ぇって事でしょうよ兄貴。結局連中は"シェルフライト"に届かないって事だ。2時間経てばあっちのハッタリがバレておしまいだろ」
「イーグレット。【夜明けの月】を甘く見るなよ。
……それでも尚、何か手段があるかもしれないから受けるしか無いんだ」
「……ま、飛んできたら墜落させてお終いだ。こっちは【サテライトキャノン】対策に【魔王城】の半径100mから離れた上で【サテライトガンナー】のドロシーとコノカを徹底マークしておけばいいんだろ」
イーグレットの自信は慢心ではない。これでいて思慮深く、冷徹に客観的に物事を見る男だ。
月を見上げるマスタングは、小さく呟く。
「月……か」
「親父? どうかしたか」
「お前らよぉ。あそこに行ってみたいと思った事、ねぇか?」
マスタングが指差す先は満月。高度限界まで飛んだ"シェルフライト"からは大きく見えるが、まだまだ遠い。
エンブラエルは腕を組んで一つ思案し──
「無理だろ。相変わらず親父はぶっ飛んでんな。ここが高度限界だぜ?」
「………………だよなぁ。そりゃぁそうだ」
マスタングが重い腰を上げない。依然座ったまま月を見上げる。
「そっちは任せた。ワシはワシのやりたい事がある」
「おっ。13基連結で燃え尽きてた親父が久々に動くか。何でもいいが、ちゃんと楽しんでくれよ?」
マスタングの放任に意を唱える者はいない。マスタングの奔放を気に入って集まった【コントレイル】だから。
マスタングはそれに感謝している。
だが、それと同時に。
この時マスタングを誰も止めなかった事を、全員が後悔する事になったのだ。
──◇──
──【魔王城】
【井戸端報道】取材陣はタルタルナンバンが引率した上で安全な客室へ。
【夜明けの月】【満月】【バレルロード】全員が魔王の間に揃う。あまりに禍々しい玉座に堂々とメアリーが座る。
「趣味が悪いわよメアリー。私の王道には相応しく無いわ」
「でもカーペットは鮮血の赤よ。他が暗めな配色だから一番目に付くわね」
「玉座はメアリーちゃんを、カーペットはスカーレットちゃんを、樹木風のオブジェはベルちゃんをイメージしたのです。この【魔王城】は三人の魔王の城なのですので」
「……ふ、ふん。いいじゃない」
懐柔されてるぞスカーレット。
しかしただ建築するだけに留まらず、アドリブで内装まで凝るのは流石はミカンだ。
「さて。こっからはミカンリンリンお得意の籠城戦よ。2時間きっちり、陸と空からの攻撃を耐え切る!」
「それなんだがよぉ。ロケットはハッタリだろ? どうすんだよ」
「大丈夫よ。2時間もいらないから。
こっからは幾らかのチームに別れるわ。何処に聞き耳あるかわかんないから説明は最小限にするわ。だからクローバー、ロケットがハッタリの話は外ではしないでね」
「……俺また失言したか。悪ぃな」
口が滑る事で有名なクローバー。隠し事苦手なんだよな。そりゃスペードも【至高帝国】から黙って追放せざるを得なかっただろう。
「まず第一班!リンリン、アイコ、ツバキ、ゴースト、レン、ベル、パンナコッタで城内防衛部隊! ベルは司令塔をやってもらうわ。こっちの戦力わかるわよね?」
「舐めんな。リンリンまでいてヘマしないわよ」
"無敵要塞"リンリンを中心とした地上戦メンバー。アイコ、ゴースト、パンナコッタと回復役を厚く配置しているのは防衛に特化した布陣だろう。
「第二班はドロシー、ジョージ、コノカ、スカーレット、フェイ、アゲハで対【コントレイル】用の迎撃部隊! こっちはスカーレットに任せるわ。【コントレイル】は本当に洒落にならないから撃破まで考えなくていいわよ」
「1匹たりとも逃がさないわ。この女王に任せなさい」
相手から見て最大の脅威である【サテライトガンナー】二人は狙われやすい。だからこそあえて堂々と表に出して狙わせる狙いか。ジョージがいれば間違い無い。
「第三班はクローバー、プリステラ、サティス。城外の敵を排除する遊撃部隊! こっちには司令塔は付けないわ。プリステラは二人の認識できる位置にいて、必要に応じて回復をお願い」
「はぁい。ぬちゃドロに癒してあげるわよぉ?」
「およそ回復する時の効果音ではないな」
基本的に籠城戦なので屋外チームは控えめに。
この二人にプリステラが並んでいる事に違和感があるが、あれでいて攻防一体の【悪魔祓い】としてかなり完成度が高い。ソロでの戦闘力はスカーレットを凌ぎ、レベル差が縮まった今となってはサティスに並ぶ程……とスカーレットが言っていた。
元より戦闘センスは【バレルロード】の中でも抜けている方だったが、随分と鍛えたものだ。
「最後に第四班……というかその他。あたしとミカン、バーナード、カズハ、スペード、ライズは各チームの補助をしながら、計画の時を待つわ。戦力のバーナードとカズハが抜けちゃうのは痛いけど……」
「任せなさい。仕事無くしてやるわ」
「それで全部終わった後にサボりを緋弾する形でクーデター起こして魔王城崩壊ね。私が魔王よ」
「いや私よ。何故なら私は商人だから」
「商人万能説やめてくれる?」
スカーレットもベルも仲が良いな。
……基本的に籠城戦は不利になるんだが、負ける気がしない。
「わ、わたしも役に立ちます……! ミカンちゃん、お願いね?」
「ミカンさんにお任せなのです。……しかし今回の籠城戦、城そのものへの攻撃が多くなるのです。特に空襲部隊相手は厳しいでしょうが……壊れた城はミカンさんが直すのです。気兼ねなく人間だけを狙ってボコボコにするのです」
「舐めないでよね。ここは私の城よ。傷一つ負わせてなるものか」
「スカーレット。私達の城、ね?」
「あらうっかり」
……なんだかんだ、【満月】【バレルロード】と共同戦線は初めてだ。上手く行くといいんだが……。
──◇──
──我らの森に、ふざけた城が建つ。
なんだあれ。
自我無き機械兵達も困惑しているぞ。
……私は、私ならどう動くべきだ。
ジャングル階層に冒険者の気配があれば蹴散らしに行くのが"グリンカー・ネルガル"。古代文明の命令。
──それは私か?
誇り高きガルフ族として、縄張りにふざけた城を建てるのは許さない。
──それは私か?
バグと怨敵の妹が同時にやってきた。ここで仕留めれば【Blueearth】の侵攻は止まるかもしれない。
──それは私か?
システム上、私が何者であれ動かねばならないのに。
私は動けない。私が何かわからない。
どうすればいいのだ。
私は、何なのだ。
──◇──
【魔王城】正門
【頂上破天】12人
【神気楼】半数派遣4人
ソロプレイヤー6人
【草の根】2人
【象牙の塔】2人
【スケアクロウ】1人
【セカンド連合】地上班、総勢27人。
空からは【コントレイル】からの支援もある。故に【魔王城】など恐るるに足らず。
というのに。
「何人くらいいるんだコレ」
「そこの茂みに隠れてるのも含めて27人くらいかな」
「……数は然程重要ではない……全員倒す必要も、無い……」
【至高帝国】の"最強"クローバー。
【飢餓の爪傭兵団】No.2サティス。
【バレルロード】の団長補佐バーナード。
トップランカーのレジェンド三人の圧に、誰も動けずにいた。
「……【セカンド連合】! マトモに戦う必要は無い! 正門を潜り、メアリーを倒せ!」
「──ブックカバー氏の教えはまだこの胸に。行きますぞ【夜明けの月】! ──【フレアレイン】!」
【頂上破天】の一員、【大賢者】バンダードが動く。
炎の雨が暗き森を照らし、【セカンド連合】の進軍が開始される──!
「まずは俺から──」
「あら。先走り過ぎよ」
輝かしい三人のレジェンドに目が眩んだか。
【セカンド連合】の軍勢の先頭、ジャッカルの目の前に──二丁拳銃のシスター、プリステラが忍び寄る。
「……っ、回避防御!」
「そんなの読めてるわ。【守護方陣】」
プリステラが展開する結界に、ジャッカルとプリステラが閉じ込められる。
「散々嫌がらせしてくれたわねジャッカル。ウチの娘に売った喧嘩、ここで纏めて清算せぇや……!」
「……クリックの"眠れる獅子"相手とか、聞いてないんだけどなぁ!」
清められた聖なる二丁拳銃は赤く染まっている。
エンチャントされている"聖具"に更にサブジョブ(エンチャンター】で限界までバフをかけた超火力装備。
「一発あたりならクローバーさんよりも強いのよ?」
「今日は双剣だ。全部捌き切ってやる……!」
──0距離での殺し合いが始まった。
──◇──
抗争が始まった。
"シェルフライト"の甲板は相変わらず慌ただしく。
マスタングは一人、月を見上げる。
あそこまで行きたかった。
訳ではない。
ただ、下町で育ったマスタングにとってそれは誇りだった。
小さな小さな部品が、遠い何処かで巨大なロケットとなって月を目指す。
自分が行かなくてもいい。誰が到達してもいい。
自分の作ったものが、何処かで完成すれば。
「情けねぇ」
記憶を失った【Blueearth】でのワシはどうだ?
自分で組み上げた"シェルフライト"で空を目指して。
未練がましいにも程がある。
結局は、自分の作ったもんで、自分があそこに届きたいだけだ!
だがここは作られた空。
あの月に届く事は無い。
永遠に。
「……好きにやらせてもらうぜ」
善悪など元より執着が無かった。
マスタングはいつだって、やりたい事をやってきた。
一度記憶を失った事で、本当に求めていた物が何なのかを理解した。してしまった。
手持ちでそれが叶うというのなら、やらない手は無い。
だが、可愛い息子達に迷惑はかけたくない。だから切ったのだ。もうこれ以上自分に付き合わなくていいように。
お前達は自由にやれ。ワシも自由にやる。人を縛る方法なぞ無いのだ。
だからこそ、マスタングは──
「──【Blueearth】に、空を創る」
──【Blueearth】を壊すのだ。
〜人物紹介:プリステラ〜
プリステラ
【バレルロード】所属
ヒーラー系第3職【悪魔祓い】
渾名は"眠れる獅子"
かつては【赫十字】というギルドをグレゴリウスと結成し、【第30階層 氷結都市クリック】で暴れ回った凶悪コンビ。当時の渾名は"獅子奮迅"。
当時階層攻略中のスカーレットが実力で説き伏せた事で【バレルロード】に加入。
スカーレットの姫らしい態度に惚れてお清楚なキャラを目指すが、ただのセンシティブモンスターと化す。
銃武器のみを集めていた当時の【バレルロード】において前衛タンクと回復役を兼任していたが、バーナード加入により支援と戦闘の両方を極端に伸ばすようになった。
特に無理矢理相手を【守護方陣】で閉じ込めてタイマンを張るスタイルがお気に入りだが、とてもお清楚ではないので滅多に使わない。特に人前では。
やさぐれ時代も、現在のセンシティブモンスター時代も、自身の外見態度が他者に与える影響は客観的に判断できる。そしてそれを悪びれず悪用する。
仲間の事が大好き。攻略提携をしている【満月】の事も、【夜明けの月】の事も、かつての仲間であるプリンセス・グレゴリウスの事も大好き。でも大っぴらに好意を向けると怖がられてしまうと知っている。その上で良い感じのラインを見極めてセクハラしてくる。
戦闘スタイルは銃を使いながらも基本は超至近距離でのインファイトスタイル。【悪魔祓い】は存在するだけで周囲の魔性にダメージを与えるので、戦術としては正しい。
ヒガルにて1ヶ月の修行期間でクローバーに二丁拳銃の使い方を、ジョージとアイコに肉体を活用した格闘術を学びフィジカルモンスターになる。【バレルロード】では事あるごとにバーナードと手合わせするが、武器無しでは互角のところまで追いついてきた。




