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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
密林祭壇ウェンバル/ジャングル階層
241/507

241.造られし故郷を求めて


──月が隠れている。

ジャングル階層の夜空に現れた黒い月。

あれなるは冒険者の飛び船。

この身造りし文明ならばあのような物は容易く造れるだろう。

しかし今の私にはその力は無く。

ただ遠くに浮かぶ鉄箱を眺めるばかり。


緑の宝珠を失って、冒険者達も活気付いている。

構わない。

すべき事に変わりは無い。

この密林を荒らす者の力を見極める。それが私の仕事だ。




「──────」




「……誰だ」


機械兵は視覚を頼らない。

音、熱、その他諸々のセンサーを掻い潜り、ここまで肉薄できる存在などありはしない。


だが()()は確かにそこに現れ──


──私に()()()の生を与えた。


「……なんだ、これは。私は一体何者なのだ!」


答える者はいない。奴め、もう消えたか。


私は。


私は、ジャングル階層レイドボス"グリンカー・ネルガル"。

セキュリティシステム"ウェンバル"のウィルスバスター。

半獣半機のサイボーグ。


……私は誰だ?

これまでの記憶は何なのだ?

どこまでが私で、どこからが嘘だったのだ!


いや、待て。落ち着け。

同じセキュリティシステムなれば、もしや──




──◇──




【第100階層 密林祭壇ウェンバル】

【満月】のツリーハウス


「敵の構成は雑に分けて三つ。ギルド以外にも傭兵や他ギルドの連中もいるけど、まぁ概ねこんな感じよ」


ベルがテーブルに広げたのはジャングル階層の地図。そして天上から吊り下げる亀の置物。


「日々変動する8エリアを上空俯瞰で確認し伝来するのが【コントレイル】。これがジャングル階層【セカンド連合】のトップになっているわ」


この亀が"シェルフライト"って訳ね。

その甲羅に……十字架を突き立てる。というか刺してる。


「厄介なのは"シェルフライト"に常駐しているヒーラーギルド【神気楼】よ。【月面飛行(ムーンサルト)】のデビルシビルの教育を受けているせいで、末端まで15人全員が一流の回復役に仕立て上げられてる。これを要所要所で地上の戦場に派遣して、回復が終わったら離脱……を繰り返してるわ。無敵の後衛ね」


「……"シェルフライト"の高度ならレイドボス達の攻撃を受けないが……地上接近と離脱のタイミングで放火されてしまう……。

だがそのリスクを負って尚……【コントレイル】の空中回避技術で全てを乗り越えて来る……」


「そりゃあ厄介だな……。そうなると【コントレイル】と【神気楼】はほぼ戦闘に参加しないのか。"シェルフライト"自体は高すぎて遠距離攻撃の支援も出来ないよな」


「……そうだ。地上では【頂上破天】が足止めをしつつレイドボス達を呼び込み……的確な回復のみ支援する。防衛に出た【コントレイル】は……相当に厄介だな」


かつては【真紅道(レッドロード)】の最高位にいたバーナードでさえこの評価だ。

【コントレイル】の戦闘力は、かなり環境に左右される。だが一度その環境が整ってしまえば、セカンドランカーはおろかトップランカーでさえ苦戦は必死という訳で。


「ジャングル階層では階層移動の継ぎ目が無い。つまり"シェルフライト"着陸のタイミングは狙えないわ。そもそも高すぎ。こっちじゃどうやったって届かなかったわ」


スカーレットも忌々しげに。

地図上に人形を一つ落とす。


「地上班は【頂上破天】。こいつらは【飢餓の爪傭兵団】から抜けて【セカンド連合】に入るような連中よ。乗り換え上手って所かしら?

足止めに徹すると決めれば本当に徹底して妨害しかしてこないわ。マジでマトモに戦ってくれない。逃げ足は天下一よ」


「そ、それだけ慎重って事ですよ……?

我々【バレルロード】遠距離攻撃部隊を相手に無傷でいられる程に、距離を測り保つ事が得意、です……」


高速機動のスカーレットに、遠距離攻撃のコノカ。この二人をしてダメージが通らないというのは相当だな。


「もしマトモに戦うとするなら、無敵の回復役がバックに付いている【頂上破天】を撃破し、レイドボスを撃破し、空に浮く"シェルフライト"を撃墜させて【コントレイル】を撃破しなくちゃいけない。無理ゲーよ。

だからこそここからの交渉が大事になるのよ。わかるわね?」


「わかってるわ。明日が早速本番ね」


交渉。つまりは争奪戦のルールだ。

ここまで成り行きで真っ向勝負してきた【セカンド連合】と【夜明けの月】。

【井戸端報道】もいる事だし、今回もまた何らかで正々堂々と戦う事になるといいんだが。

……こっちは今無理して宝珠を取り返す必要は無い。マスタングが持ってるのは先日俺たちが失った白の宝珠だしな。正直いらん。


「……あっ。ライズ君、バーナード君、あとメアリーちゃん。ちょっと良い?」


何かに気付いたカズハが呼ぶ。声こそかけてないが、クローバーとスペードが外に出て行った。


「……わざわざ外で話さなくてもいいわよ。アンタらの秘密会議でしょ。私達が出ていくわ」


「悪いわよ」


「外の方が誰に聞かれるかわからないわよ。いいから中に入った入った。私はもう寝るわサティス」


「はいはい。じゃあ僕たちは先に失礼するよ。おやすみー」


……当たり前のようにベルをお姫様抱っこして行ったな、あいつ。


結果として【夜明けの月】とクローバーだけが部屋に残った。

カズハの肩からは、"エルダー・ワン"が首を出す。


「これはレイドボスでは無くセキュリティシステムの話だが。我々ウィルスバスターは悪性因子の情報を共有・学習し先のウィルスバスターに伝える役割がある。詰まるところがレイドボス同士で通信できるのだ。

区分けはあるがな。我は0〜79階層までの8体のチャンネルで通信しておった。セカンドはセカンドの7体で通じておる」


「ええいまわりくどい。何が言いたいのだ"エルダー・ワン"!」


バーナードの肩から"スフィアーロッド"。

……竜型レイドボス(の抜け殻の搾りカス)だが、どうにもレイドボス内では人気があるらしい。


「うむ。即ち我らとセカンド階層のレイドボスは繋がっておらんが、個人的な通信は可能という訳だ。

ホライズン階層の"ディセット・ブラゴーヴァ"より連絡があった。このジャングル階層のレイドボス──"グリンカー・ネルガル"に不自然な動きアリ。恐らく自我が発現した」


「……やっぱり狙われてるよな、俺達」


「……うむ。……【夜明けの月】が到着した前後で、その階層のレイドボスが自我を得ている……。スペードは、心当たり無いだろうな……?」


「そう言われると思って、エンジュ出発後からは常に誰かといるようにしているよ。僕の無実は皆が証明してくれるだろ?」


「疑って無いわ。二代目スペード……イシュテルの仕業ね」


イツァムナが仮称した二代目バグの親玉イシュテル。奴はセカンド階層のレイドボスに自我を与えられる程度にはデータを操れるようだ。


「……で、その"グリンカー・ネルガル"が自我を持ったとしてどうなるのよ」


「うむ。自我を得たとて出来る事には差があるものだ。例えば"焔鬼大王"が自我を持てばホームグラウンドであるヒガル(拠点階層)を自由にリフォーム出来るが、設定上クリック(拠点階層)に近付けない"スフィアーロッド"はそうはいかんだろう。

"グリンカー・ネルガル"はウェンバル(拠点階層)に入らないタイプのレイドボス。故にウェンバルは安全地帯となろう」


「あー。自我持ちレイドボスなら共通するのは《拠点防衛戦》への干渉だ。我のようにな。"ヘヴンズマキナ"も"ディセット・ブラゴーヴァ"も妨害の基軸は《拠点防衛戦》であっただろう?」


「だが"グリンカー・ネルガル"はそれが出来ない。というかジャングル階層では常時《拠点防衛戦》と言うべきか……。

先程のホライズン階層でも91階層を中心に全ての階層が繋がっていたであろう。数字を割り振り順に並んだ階層という【Blueearth】の大原則が崩れているという事は、それだけセキュリティシステムが強固でゲーム化に失敗しているという意味なのだ。

とりわけジャングル階層は原則から外れている。それはセキュリティシステムとしては喜ばしいが、【Blueearth】から見れば《拠点防衛戦》等のレイドボス特権にも影響が出ているという事なのだ」


「あ、成程なぁ。マンネリ解消のためじゃねぇんだ」


セキュリティシステムが勝てば【Blueearth】側のルールが崩れる。確かにそれはそうだ。


「じゃあ"グリンカー・ネルガル"はそこまで厄介じゃ無いって事?」


「そこは未知数だが……もし我がセカンド階層のレイドボスで、今正に自我を得たのなら……まずやる事があるな」


「多分我も同じだ。我に限ってはほぼ同じ事をしていたしな」


"スフィアーロッド"がやっていた事……。

イエティ王の誘拐・幽閉?


「……即ち己が半身、緑の宝珠の回収である。

宝珠は一度奪われてしまえばレイドボスに奪還の術は無い。システム上はな。だから"ヘヴンズマキナ"は抗った」


「おやおや? 今ジャングル階層の緑の宝珠を持っているのは誰だったかなー? ふはははは!」


高笑いする"スフィアーロッド"。むかつく。

……緑の宝珠は、ミラクリースで【象牙の塔】から勝ち取ったよな。俺達が。


「宝珠があればレイドボスとして──【Blueearth】の中の存在として強固なものとなれる。なればジャングル階層への干渉も可能となるだろうな」


「ねぇ"エルダー・ワン"ちゃん。それって諸刃の剣じゃなぁい? 折角【Blueearth】に抵抗できたジャングル階層のセキュリティシステムが、自ら【Blueearth】化を進行させちゃう訳でしょ?」


ツバキの言葉も尤もだ。

これまで出会ってきたレイドボスは、つまりは攻略されてしまったセキュリティシステム。自分が【Blueearth】のレイドボスである事は認めていたし、そこを変えようとはしてこなかった。

だがジャングル階層ならまだセキュリティシステムとして【Blueearth】に抗える。というかむしろ何もしないで現状維持した方が"グリンカー・ネルガル"的にはいいはずだ。


「それでもする。間違い無くな」


断言された。するんだ。


「"グリンカー・ネルガル"は、自我を得たら間違い無くレイドボス側に肩入れするし、貴様の持つ緑の宝珠を何としてでも奪いに来る。

宝珠の受け渡しはギルド間でしか出来んが……それを最初にやったのは"焔鬼大王"であろう。レイドボスなら無理すれば奪えるぞ」


「凄い断定するじゃないの。どうしてそこまで……」


「"ディセット・ブラゴーヴァ"はマーフリー族への執着心で稼働する兵器だったであろう。その執着心からは逃げられん。

"エルダー・ワン"はバロウズを焼き滅ぼす事しか考えぬ邪竜であろう。あまり考えぬ奴であるが故に、我は容易く分離できた。

自我を得た時にレイドボスかセキュリティシステムかどちらに寄るのかは、レイドボス側の設定が重きを置くものだ。

"グリンカー・ネルガル"は悲しきレイドボスだ。奴に自我が芽生えたなれば、その立場に同情してしまいレイドボス側に肩入れしてしまうだろう」


"スフィアーロッド"も何も言わないが同意している様で、黙って頷いている。こいつがここまで思い入れるとはな。




「"グリンカー・ネルガル"は……()()()()()()()()の半死体を改造して生み出された半獣半機のサイボーグ。遥か遠くの故郷を夢見て古代文明に従い続ける殲滅兵器。

奴の嘆きを受け切れるか? 【夜明けの月】よ……」


〜あのキャラどのキャラ


今回は【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】から!


・アルバレスト

──アルカ・レスチェノカ(20)

超高身長のロシア人ハーフ。日本生まれ日本育ち。

アイコの大ファンで、実は記憶を取り戻してから限界化して接せなかった。

コンプレックスの高身長もアイコがTVに出るようになってからは好きになって、体を鍛えるようになった。アイコ2世。

実はゴーギャンより年下。年齢概念の無い【Blueearth】においては頼れる姉御扱いだが……。

本人達が知る由もないが、ツバキやエリバの高校の先輩。


・タイカイ

──萱場座(かやばざ) 草太郎(そうたろう)(62)

元漁師。足を悪くして引退し、3人の孫と遊んで暮らす優しいおじいちゃん。欲しがるものは大概買い与えたし一緒に遊んできたので、やたらゲームに詳しい。

孫が独り立ちし始めた頃、老人系ストリーマーとして配信活動を開始。ぶっきらぼうな語り口調と精密な操作が人気を博す。

小さい子供には飴を与えればいいと思っている。


・ゴーギャン

── 子丑(ねうし) 泰子(たいこ)(23)

一般通過美大生。かなり低身長なのでどこに行くにも子供扱いされる。

趣味もファッションも好きなものも軒並み子供なので無理もない。

趣味で絵画をやっているが、専攻は空間デザイナー。【Blueearth】へは近年のVRゲームのリアリティに興味があり応募したところ当選。運は良い方。

藍咲(アイザック)とは歳の離れた友人で、よくイベントの売り子を手伝ったりしていた。その結果藍咲に"小学生児童を売り子にする悪辣先生"の噂が流れて騒動になったりしたのだが……。

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