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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
大樹都市ドーラン/フォレスト階層
24/507

24.大樹にすくう者達

【第10階層 大樹都市ドーラン】

【葉光】ドリアード王家《向天神殿》


永年樹ユグドラシルの頂上、遮るもの一つ無い、太陽の光を浴びる神殿。

俺はダミーの案内でここまで来れたが、ここまで何回ものセキュリティチェックを受けた。流石に王家のお膝元か。


「ドリアード一族にとって日光浴は至高の贅沢。故に王家にはこの常に太陽を向く神殿にて治政していらっしゃいます」


「デザイン向日葵なのは面白くていいな。ドリアード女王が中央にいるのか? 絵になるな」


「まぁ我々は謁見する理由がありませんのでそちらには行きませんが……この神殿を建造した事で【ゴルタートル】は王家直営の商会となり権威を得ました。

 なのでこうして、ドリアード達が使わない1Fを会議室として使っているのです」


重厚感溢れる扉が開き、3人の男がこちらを向く。


──髭もじゃの小柄なおじさん。眉に隠れた瞳では見にくいのか、目を見開いてこちらを見る。


──椅子が悲鳴を上げている筋肉ダルマのジャージ男。しかし顔は優しく、笑顔でこちらを見る。


──そして上座に座っているのが恰幅のいいチョビ髭。不快そうにこちらを見るが、俺の顔を認識すると驚いて立ち上がる。


「……ライズ! ライズさんか! 驚きました。どうしてここに!?」


「おうカメヤマ。やっぱ会議中か? 改めようか?」


「いやいや煮詰まっていた所です。やはり会議室は換気しなくてはなりません!

 正面が空いています。是非座ってください」


結構歓迎ムードだが……俺は商人という人種を軽率に信じてはならないと知っている。旧知の仲だが、気を付けないとな。


「2人は初めて会うでしょう。紹介させてください。こちらが運送ギルド【働き鶴】の総括、シラサギ。【鶴亀連合】は彼と始めました」


「噂のライズさんですか! これは失礼……あぁ更に失礼。椅子が私の大臀筋を離してくれませんので立てず……」


「いやいやそのままで。俺はそんな偉いわけでも無いし」


ダミーはそのままドアの所で立っている。昔会って以来だが、この部屋に入れるとは相当偉くなったんだな。


「そしてこちらが鍛治ギルド【珊瑚商】のギルドマスター、ハゼ。我々の大黒柱ゆえ、最近大幹部に昇進しました」


「んぅ……宜しく頼む。ワシの手は槌を握る故、握手はできん」


「職人気質でいいじゃないか。勿論結構だ」


ハゼは返答に驚いたのか、また大きく目を見開いている。多分精一杯威圧したつもりだったのだろうが、別に握手や挨拶を強要したい訳じゃないからな。


「それでライズさん、本日はどのようなご用件で?」


「本当に挨拶だけだ。【夜明けの月】ってギルドを立ち上げて、ここを通るからさ。やっぱボスに顔出すのが筋ってもんだろ?」


「おぉ【夜明けの月】! 先日のアドレでの騒動で話題に上がりましたね。とは言え詳細は伏せられていましたから、まだ貴方の名前までは広まっていないようですが」


「お、広めてくれるのか? 別にコソコソやろうってつもりは無いぞ」


「……敵いませんな。情報を盾に交渉はできませんか」


「ふふふ」




あっぶねぇ〜〜〜。

こいつ今「名前広められたくなければ言う事聞け」って言ってきましたよ。0:1交換かよ。油断ならねぇ〜〜。

実際はめちゃくちゃ困るから止めて欲し過ぎるんだけど、なんとか釘を刺す事には成功したな。

成り上がった商人恐ぇ〜〜。帰りてぇ〜〜。




「そういえばライズさんの考察の通り、()()の襲撃頻度は変わりませんが総数の減少も止まりました。ここが限度という訳ですね」


「やっぱりか? でも一定のスパンで来てるんだろ。じゃあ経営破綻はしないよな」


ドーランを定期的に襲う敵。その数が減少傾向にあるとカメヤマに相談され、一時期調査をした事もあった。結論が先の通り、「襲撃者の減少は一定の数で止まるだろう」というものだ。

……今の俺から見れば、要するに襲撃イベント。数が0にやる事は無いだろう。


「平和はいいものです。定期的に襲いくる羽虫もいい刺激だ。しかし、それでは稼げない」


カメヤマは商人だ。一方的な悪意をぶつける事は無い。

ただ、より金を稼げる方法があれば目が離せないだけだ。


「そう思ってさ。今思いついたんだが……《ブラックリスト》緩和したらどうだ?」


ざわつくシラサギとハゼ。カメヤマは──微動だにしない。


「《ブラックリスト》は素行の悪い冒険者をドーランから追放するための自治措置です」


「ドーランにとって都合の悪い冒険者を排斥するための、だろ。その中には()()()()()()()()()()()もいるんだろ?

 そいつらをリストから外してしばらく自由にさせてやればいい。襲撃者減少の原因は、ブラックリストに目のくらんだ賞金稼ぎによる執拗な追放行為によるものだろうさ」


……流石にPK(プレイヤーキル)まですると【アルカトラズ】が動くが、今ドーランの特殊な環境では、脅し立ててドーランから追放したり、或いは監禁すらギリ許容されてしまう。

それ自体は健全とはとても言えないが──まぁ俺は正義の味方ではないから、その点でとやかく言うつもりはない。


「結局は()()()()()()()()()バランスを保った方が稼げる。だがドリアード王家にズブズブになった以上は万が一にでも負ける訳にはいかないだろ? 五分五分は無理でも、7:3……いやお前なら6:4くらいまでバランス調整できると思うぞ」


そう。ドーランがこうなったのはカメヤマに原因がある。

拠点の原住民と襲撃者、どちらにも冒険者が付いて大樹を奪い合うイベントこそが本来のドーランの──アドレで言えばテンペストクローの襲撃のような──《拠点防衛戦》の正体なのだ。

商業を展開し、ドーランに辿り着いた冒険者全員にドーラン側が有利になるよう働き、敵勢力をブラックリスト入りする事で大幅に勢力を傾かせ、絶対にドリアード政権が覆らないようにコントロールした。


武力の無い楽園と言われるドーランだが、それは全ての武力をカメヤマがコントロールしているからだ。


「……買ってくれて嬉しいですよライズさん。アナタはいつも私を励ましてくれる。金だけでなく言葉まで。本当に感謝しています」


カメヤマは椅子に深く座る。立ち上がるつもりはもう無い。

──安定思考なら、このまま停滞する。そもそもイベントによる稼ぎなんて不安定なものに頼らなくても、真っ当な商業で荒稼ぎしているのだ。リスクを追ってまでやるような事じゃない。

だが、こいつはカメヤマ。商人だ。

より()()()()()()()()()目が離せない──




「ですが残念です。我々は()()()()()()()()()()()()()()()()()




カメヤマの目が鋭く光る。

覚悟を決めた商人の瞳。言葉と金を剣にして戦う戦士の姿。


「ライズさんが《ブラックリスト》の緩和で何を狙っているのかはわかりませんが、残念ながら暫く緩和する事はありません」


冷や汗が頬を伝う。狙いがバレたか?


「そっか。まぁ仕方ないな! 部外者の俺はその手段は聞かない事にする。あんまり流布していい情報じゃないだろ」


「別に構いませんよ。部外者などと寂しい事を言わないで下さい。【鶴亀連合】があるのは、初投資者である貴方のおかげでもあるのですから」


「……釘を刺さなくても大丈夫だよ。契約通り、お()()()()()()()()だよ」


もうそろそろ限界だ。ボロが出る前に退散しよう。

立ち上がると、カメヤマは小さく頷いた。


「アナタ程の人であればあのような口約束、反故にしてもいいというのに……」


「商人に恨まれるような真似はしないさ。恐いし。

 それはそうと、大人しく通り抜けるだけなら邪魔はしないよな?」


「勿論です。我々は【夜明けの月】が出て行くと言うなら止める事は当然致しません。妨害する者があれば咎めましょう。我々はドーランを救う者ですとも」


「んじゃ俺も変わらず、お前の味方であると誓う。

 ……ところで、()()()()()()()()()()()()()()?」


「……やはり敵いませんな。後で音声データは送信します。お互いに握っておきたいものですからね。

 ダミー!ライズさんがお帰りだ。【ゴルタートル】用心頭の名に掛けて、傷一つ付ける事は許さんぞ」


「かしこまりました。ライズさん、こちらに」


ダミーに案内されて、会議室を後にする。




恐えぇ〜〜〜。

録音してたよやっぱりよ。凄いな商人。

じゃあ昔融資した時に雑に誓っちゃった「味方発言」録音してたって事だよなぁ。どうしよっかな〜〜。

てか俺の策より稼げる方法って何だよ〜〜。失敗しちゃったじゃんよ〜〜。

教えて賢い人〜。メアリー以外で。

もうお家帰る〜〜〜〜。




──◇──




【天秤】《N(ノース)-13-8》付近繁華街


「question:マスター、次はシナモンチュロスを食べましょう。9番枝から高度12へ降り、4番枝へ移るルートが最短です」


「あれ? 地図だと10番枝まで行って後ろ周りで高度12の4番枝に行った方が早くない?」


「answer:到着時に目視にて周囲の地理をscanしました。10番枝は現在通行止めです。最速ならばこちらです」


「っかー、頭に地図入っててもそういうのは敵わないわね。負けたわゴースト。ここの支払いはあたしの奢りね」


「answer:勝ちました」


「勝ち誇るな。頭の回転速度と前提のマップ把握は同レベルなんだから、幾らでも巻き返してやるわよ」


ゴーストと一緒にスイーツ巡り。この辺は飲食店が多いけど、チュロス屋から下に降りたら服屋とかあるし、次はその辺りへ行こうかしら。




「あれ? おーい!」




「ぴっ」


突然声を掛けられてビビる。ゴーストの影に隠れると……


「なんだ、レンじゃないの」


かつてアドレの【蒼天】にいた駆け出し冒険者、元気一番星のレンがいた。


「久しぶりっス! 随分遅かったっスね〜」


「うっせ。こうして追いついたでしょうが」


「あっはっは! 俺は【飢餓の爪傭兵団】傘下としての仕事をしながらなんで! もうここも慣れたもんスよ。道案内してあげよっかー?」


「お生憎様。道くらいもう覚えたわ」


「またまた強がってぇ〜」


カッチーン。

レンに馬鹿にされると不快ね。わからせてやるわ。


「じゃあ競争よ。《E(イースト)-11-2》の通りにあるケーキ屋《権田原煎餅》にリフト禁止で辿り着いた方の勝ちね。ゴーストはリフト込みで最速で着いて審判よ」


「consent:最速最安値ルートを計算します」 


「いやリフト無しで行けない場所もあるっスよ。本当に繋がってるんスか?」


「繋がってる範囲だからゴールにしたんだけど?

 あとあたしは走りじゃアンタに勝てないんだから手加減してよね」


「なんか嫌な予感してきたからイヤっス! 全力で走るっス!」


「ずっこい。まぁ競争だしいいわよ。ヨーイドン!」


「あ、ずるっこ!」


フライングスタート。少しは差がないとね!


レンは予想通り大通りへ向かっていった。詳しいったって雑用で大通り通ってばっかでしょ。こっちは頭にあるマップ使って裏道でもなんでも使って最短経路よ。


「ってレン! 言い忘れたけど10番枝は通行止めよ!」


流石にフェアじゃないから追いかける。言い訳されて負けを誤魔化されたりはさせないから!




「ほら見ろ通行止めよ。レン?」


「め、メアリー! こっちっス」


何故か人集りにはレンはいない。店と店の隙間からレンが声を掛けてきた。


「通行止めだったから、店の裏から通れないかなって思ったんスけど、コレ!」


レンの指の先には──人が倒れていた。


白黒基調のフリルが目立つゴシックドレスを着た、お人形のような美しい姿。

紫の髪が帽子の隙間から垂れて、呼吸に合わせて揺れ動く。




──美少女、拾っちゃった。


〜ドーランの歩き方〜

《寄稿:【ゴルタートル】用心頭 ダミー》


本稿では天然迷路となっていますドーランの地図の読み方について解説致します。


・《リーフリフト》発着停

N(ノース)-13-8》のように記載されています。

これは俯瞰した際の方角事にエリアを4つに分け、更に高度によって13層へと分け、それを時計回りにナンバリングしたものです。

《方角-高度-時計回り何番目》の枝のリフトという事ですね。

一々全ての枝や吊り橋をナンバリングしていてはキリがないので、エリア毎に数字はリセットされます。

尚、最初に訪れる転移ゲートは《N(ノース)-0-0》です。

また、【土落】は転移ゲートフロアから下へ向かいますが、【天秤】でも《S(サウス)-1-4》なら直通便が出ています。基本的には北か南にいれば【土落】へ行けるようになっていますね。


・枝番号

実際の道にも番号が割り振られています。基本的には《リーフリフト》の命名基準に則っていますが、途中で分岐した枝や吊り橋にも番号が割り振られていますので注意が必要です。

高度◯◯の◯◯番枝、と呼称します。


・【葉光】

天秤エリアとは異なり葉の上にある【葉光】は専用リーフリフトで滑りながら移動します。枝番号も何もありませんが、冒険者は冒険者用の商店くらいしか利用できません。ドリアードの貴族居住区は接近禁止です。リフト操縦のドリアードを買収してもリフト操作権を乗っ取られて多大な賠償金を支払う事となりますのでご注意を。


・【土落】

こちらは明確な基準はありません。かなり土地が余っていますが、明確な基準無しに広げれば新たな迷路となってしまいますので【飢餓の爪傭兵団】傘下ギルド様に取り仕切って頂き、あまり拡張しないよう計画的に整備されています。

【土落】のマップも作成されていますので、是非ご活用下さい。

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