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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
水鏡基地ミラクリース/ホライズン階層
234/507

234.勝ち取ったもの、失ったもの

【第90階層 水鏡基地ミラクリース】

──コロシアム観客席


「おじゃましますぞー」

「帰れ三流絵描き」

「いやだからここ【夜明けの月】の観客席……」


ブックカバーに続き、【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】のゴーギャンまでも合流。

……第二試合で最初に敗退したゴーギャンだが、その実力は俺もブックカバーも認めている。3人の中で最もレベルが低く、空間作用スキル無し・武器強化もそこまで突出していない中で、あわや共倒れまであり得たレベルだ。


「あらぁ可愛いわねぇゴーギャンちゃん。こっちおいで?」


「あばば。ツバキ様に鹵獲されてしまいましたぞ。しあわせ」


「……ほどほどにな。それで、何の用だ?」


「いえ、こっちの方がよく見えるので」


「お前らなぁ……」


水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】は……バルバチョフの方針か、とにかく楽観主義と言うか京楽主義と言うか。

楽しそうだが、緊張感は無いな。


「【夜明けの月】のみなみなさま、楽しんでますかー?」


「うんうん、楽しいわよー。ゴーギャンちゃん凄かったわね。お姉さんが褒めてあげるわ」


「うっひょいカズハ様の撫で撫でが久しぶりにキマりますぞー!」


依存性物質扱いか。

……いや間違い無いな。カズハはそれが原因でセカンド階層降りてるしな。いやどういう理由だよ。


「……我らが大統領は、来る人みんなに楽しんで貰いたがっていますぞ。良ければ諸々に(はばか)られる事なく楽しんでいってほしいのですぞ」


「バルバは……【需傭協会(Weak.enD)】の頃から割とそういう奴だったのです。真面目でマトモだったのです」


思えば長い付き合いだ。その"みんな"には、きっと──




──◇──




──空間作用スキルが破られた。

これはわかる。ライズがスワンを打ち破ったという何らかの手段。空間作用スキルそのものを打ち破る手段があると言う事だけはこちらにも伝わっておる。

それをメアリーも使えたと言うだけの事。


蒼穹の未来機関(ロスエネルゴアトム)】と【森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)】が消失した事で【2本の蝋燭(ポルドニツア)】が解除。

悪魔の契約料が──全て同時に降り掛かる。

いやいや。一体化していたのだからタダにしたまえよ。後払いは性格悪いでおじゃる。


『誰の命削って戦線維持してたと思ってるんだよー』

『これでも適正価格から55%オフでございますよ』

『倍額になるけど、後払いにする? 今は倒れたくないんじゃない?』


ううむ、悪魔。

しかして融通の効く麿(まろ)の相棒達。


無論、後払いだ。


こんな所で倒れては、盛り上がらんだろう!


──さぁ、見ておるか【セカンド連合】。見ておるかアカツキ。

貴様の(しか)めっ面を歪めるために、麿(まろ)はここまでやってやるぞ。

誰よりも愚かで、傲慢で、寂しがりな孤独の王よ。


──(たま)には笑え!




──◇──




「……復活! でおじゃる。物騒な鎌は時間切れかや?」


「閲覧します。【ヒールフォール】。……一撃必殺とはなりませんでしたね。どちらも」


どっちにも致命傷を与えたつもりなんだけれど、両方復帰かぁ。嫌になるわね。

最終兵器【紫蓮赤染(ヴァイオレッド)の大晶鎌(・デスサイズ)】は期限付き。だから空間破壊と攻撃を纏めて出来るように狙ったんだけど、空間破壊の方に寄って直撃はしなかったみたいね。

イツァムナの方はまだ隔離階層の中だったから不死身だったし。それでもダメージは持ち越してるみたいだけど、今回復されたわ。


「空間作用スキルは強力だけど、あたしには通用しないわ。二度は無いわよ。……って言わなくても、もう使えなさそうだけれどね」


空間作用スキルの一番ヤバい所は、連続使用に制限が無い所。でも二人とも満身創痍ね。多分バルバチョフは悪魔との契約に限度とかがあって、イツァムナは……まだやりそうだけど、どうなのかしら。


「たとえ【蒼穹の未来機関(ロスエネルゴアトム)】が使えなくとも、勝つ事は容易いわ。ほほほ……」


「賢しき道化。あまり身を削るのは賞賛し難いね。あまりに命懸け過ぎるパフォーマンスは、観客の目が逸らされるものでしょう」


麿(まろ)は知っておる。【図書官(ライブラリアン)】は閲覧の度に消費MPが増えて行くのであろう?

空間作用スキル内部ではタダだったやもしれんが、使用回数はリセットされておらんであろう?」


ちゃんとリスクも負ってる訳ね。

あたしは比較的マシ……って所かしら。

あと数手。場合によっては後一手しか無いのかも。

そんな中で、あたしは──




「──【風花雪月】!」

「出でよ"やぎちゃふ"!」

「閲覧します──【サテライトキャノン】」




──現状の最高火力をぶつける!

きっと何処かでクアドラさんのを閲覧したであろう【サテライトキャノン】。優秀な【サテライトガンナー】を抱えてるから目算で分かる、完全100%。

容赦無さすぎでしょ。


「──受けよ"やぎちゃふ"!【四色魔統合(クアトロ・ショック)】!」


まさかの、魔法で迎え討つバルバチョフ。

同程度の威力なら相殺できるかも知らないけど、【サテライトキャノン】と同等なんて無理。だから──あたしの【風花雪月】も、後押しに入る!


「そうだ! 併せなければ散るからの!」


悪魔と分離行動出来る利点。ここに来てバルバチョフはあたしの行動を抑制して──両手銃をこちらに向ける。


「トリガーハッピーでおじゃる!」


「──【チェンジ】!」

「閲覧します。【チェンジ】」


【サテライトキャノン】の範囲が広すぎて【チェンジ】の有効範囲が狭すぎる。

だから確実に安全圏にいるイツァムナと交換したけど、"あたしとイツァムナを交換する【チェンジ】"を閲覧されて元に戻される。そりゃそうよね……!




──でも、"並行詠唱"はまだ残ってる!




「【クロススペル】──【チェンジ】!」


本来は無意味な、全く同じ【チェンジ】の再使用。

でも、これなら──!


「……お見事です。随分と大きくなったもので。イツァムナ、感激」


バルバチョフの弾丸がイツァムナを討つ。

そして──【風花雪月】が消滅する。


「ぬあっ!? ……まさか、まさかメアリー!」


「ごめんなさいね。もうM()P()()()よ」


【風花雪月】は2属性魔法。その属性毎に一回、MP消費判定がかかる。

氷の華は開花せず。そのまま、【サテライトキャノン】は勢いを取り戻す。


「……ぬぅぅぅぅ! み、見事でおじゃるぅぁぁああ!!!」


──光の柱が打ち下ろされる。







──◇──




「──そこまで。第三試合は、【夜明けの月】メアリーの勝利です」




──◇──




三つ巴の宝珠争奪戦。終了のブザーと共に湧き上がる歓声。

誰が勝っても盛り上がってただろうけれど。それでも、こうやって賞賛されるのは嬉しいわね。


「──で、これが緑の宝珠ね。ついでにアイテムもくれない?」


「それはダメです。我が運命がいるのなら、きっと自力で見つけられますよ」


イツァムナちゃんさんもバルバチョフも、勿論あたしも満身創痍。ダメージとかは全回復しているけど、やっぱり精神面よね。ライズもクローバーもよくピンピンしてられるわね。


これで【夜明けの月】の所持している宝珠は赤・青・緑の3つ。あたしが緑に適応しちゃうけど…… 【森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)】はあたし向きの隔離階層。悪くないわね。


「うむ。【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】全敗! まるで情け無いのでおじゃる! ほはははは!」


「陽気ね。宝珠が無くなったらどうやっても争奪戦に参加できなくなるんだけれど、いいの?」


「元より宝珠にはそこまで執着しておらぬ。それを行うが【セカンド連合】にせよ【夜明けの月】にせよ、レベル上限が解放される事そのものは事実でおじゃる。そうなればレベル上げもせねばの」


確かに外野からすればそうだけど。

実際、そうね。これで宝珠争奪戦は完全に【セカンド連合】と【夜明けの月】の戦いになる。

ここからの階層には【夜明けの月】の味方はいないと思わないとね。


「……メアリー。貴女も私の愛児(まなこ)の一人です。負けておいて何ですが、一つお願いがあります」


ぴょこっと復活したイツァムナちゃんさん。

何故か庇護判定に入ってるけど、あたしとしてもやぶさかではないわね。散々【象牙の塔】には世話になったし。


「あたし達の仲じゃない。言ってみてよ」


「はい。感謝しますね。

……数分でいいので。我が運命……ライズを、お借りしたいのです」


いつもの感じではなくて。その目は真剣だった。


「……いいわよ。明日まで貸してあげるわ。ライズー。ちゃんとエスコートしてあげなさいよ!」


「おう。何処へ行こうか、お姫様?」


「あうあうあ」


「叡智の枢機が言語野に影響を……見るも無惨である」


「可愛らしくて結構な事だぜぃ」


……ちゃんと真面目にお話、できるのかしら。




──◇──




ミラクリースの端。

狭いミラクリースと言えど、滑り落ちたら怖いので縁の方には人が少ない。というか、その辺が原因でただでさえ狭いミラクリースの可住部が狭くなっているんだが。


「……で、どうしたんだよ」


「イツァムナは、仮称イシュテルを追っています。その足元がようやく見えてきました」


イシュテル。イツァムナが追っている謎の存在。その仮称は、スペードに成り変わりバグを操る立場にある存在を指す。


「まず第一に、本当にお前が追っている人なのかもわからないんだからな? 大天才天知調と同等の知能を持って発生したバグが先代なんだぞ。普通の人間が取って替われるようなもんじゃないだろ」


「だからこそ、先代が消滅するまで手出しができなかった。イツァムナはそう睨んでいます。

……そして、私が成すべき条件は整いました」


俺は結局は普通の人間。賢いイツァムナの考えている事なんざよく分からない。

だが、覚悟はわかる。覚悟して色々とやってきた連中を散々見送ってきたからな。


「……一つ、イツァムナに協力して下さい」


「いいよ。じゃあこっちからも一つ頼む」


俺はイシュテルについてはノータッチ。あっちが動いてそれに巻き込まれるなら……ってくらいだ。

イツァムナの覚悟は理解した。それはそれとして、利用するだけだ。


……何となく。

イツァムナが俺に好意を向けていた理由が、分かる気がしていた。


「これは全然違う話なんだが……イツァムナはカズハと知り合いか?」


「え? はい。ライズが攻略を降りてからは暫く近接戦闘要員として雇ったりしていましたから。優しく強い女性です。イツァムナは好きですよ」


「それは良かった。是非今後とも仲良くしてやってくれ」


「……? 勿論です。あ、でも敵となったら手加減は出来ませんから」


「そりゃそうだ。それはご自由にどうぞ」


他愛もない話。本当に大切な頼み事だけは、口頭ではなくメールでやり取りした。

……監視の目が、あるからな。


「【象牙の塔】……大体10人くらい覗き見してんな。過保護な連中め」


「好かれるのは悪くありませんが……。どうです、二人きりになれる宿にでも」


「それこそ一斉に襲われるだろ。俺が。もしかして新手の暗殺術か?」


「ふふふ。イツァムナ暗殺。ぐさー」


「ぐえー」


手刀を腹に刺すな。ちょっと恥ずかしいだろうが。

……おっとアザリからの殺意。ここいらが限度か。


「……じゃあな。また今度」


「はい。またその日まで」


──その日、【象牙の塔】は──




──◇──




──翌日

【第110階層不夜摩天ミッドウェイ】

【セカンド連合】の会議室


【セカンド連合】総司令アカツキが上座に。

近い順に立場が高くなる。すぐ隣は空席だが、【象牙の塔】のためのもの。

本来は階層が追い付かれているから同等なのだが……あくまでも自分が上だと誇示するための席順だ。


本日もまた、各ギルドの代表を集めた定例会議。

【夜明けの月】と交戦した【象牙の塔】を迎え入れる日でもある。


「……遅ぇな」


この会議には【月面飛行(ムーンサルト)】のみサブマスターのアラカルトが同席するが、基本的には各ギルドマスターだけの参加になる。

全員忙しい身だ。自分以外の遅刻は咎めたい。そんなアカツキだった。




「邪魔するぞ」




悪びれず、堂々と扉を開けたのは──【象牙の塔】。


「……おいブックカバー。報告はギルドマスターだけの約束だ。間違えんな」


「ふん。間違えてなぞないわ」


ズカズカと、無遠慮に、アカツキの目の前の椅子に堂々と。

ブックカバーは鎮座し、足を組む。


「──譲渡する。白の宝珠を【月面飛行(ムーンサルト)】アカツキへ」


ブックカバーの手元の宝珠がアカツキの前に転移する。これが噂の白の宝珠……。


「……おい。まさか……」




「うむ。吾輩は──【象牙の塔】()()()()()()()()()()のブックカバーである。平伏し従え有象無象共」




──それは、【セカンド連合】にとっても。【Blueearth】全体にとっても大きな一つの事件だった。

〜空間作用スキル:空間編〜


さて。空間作用スキルのシステムは2段階に分かれる。

まず【Blueearth】の階層外部にある隔離階層にスキル発動者と対象を強制的に転移させる。

そして、発動者のジョブによって特殊な強化を付与する。


空間はそれぞれ独自の性質を持つものの、小さな隔離階層である事を加味するとそこまで凝った機能は無さそうだ。本命はジョブ強化だろう。

まぁ、そのシンプルな空間というのが往々にして強かったりするんだが。


・赤の宝珠

対応アイテム"赤髑髏"

曙光海棠(あかきかいどうの)花幷(はなあわせ)

枯山水の美しい和風庭園。頭悪いからピンクの花全部桜に見えるんだが、海棠の花って言うらしい。

特徴も性質も特に無し。至ってシンプルな地上ステージだ。

あえて言うなら、他の空間作用スキルと比較して有効範囲が狭いって所か。今判明している五つの中じゃ最小だ。地上戦闘向きだな。他が向いて無さ過ぎる。


・白の宝珠

対応アイテム"白天燐鈴(はくてんりんりん)"

白曇(しらくも)渦毱(うずまり)

現状最大の空間作用スキル。何も無い天空にポイされるクソスキル。発動しただけである程度の冒険者を詰ませる持ち物検査スキル。ばか。

マジで足場も何も無い。落下死とかはしないが、浮遊したままの戦闘を余儀なくされる。発動者側は当然そんなリスク想定した上で発動してるので対策済って訳だ。

これが【セカンド連合】に渡ってなくて良かったと安心するのと、これに匹敵するクソスキルがまだ眠ってる可能性がある事を考慮しなくてはならない面倒さが……。


・青の宝珠

対応アイテム不明

蒼穹の未来機関(ロスエネルゴアトム)

円柱の空間に水が満たされている水中ステージ。現実ならとんでもない即死スキルだが、【Blueearth】において水中はそこまで脅威じゃない。行動に多少の制限がかかるが、空中と違って対策した上でも発動者側が絶対有利になるのは難しい。【マーメイドハープ】とかの完全水中ジョブでもなければ完全には使い熟せないだろうな。

白曇(しらくも)渦毱(うずまり)】に落下死が無いように、こちらには溺死が無い。ただ動きにくい半重力空間って感じだな。


・緑の宝珠

対応アイテム"深く若き苗木"

森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)

密林に飛ばされる。

これまでの空間作用スキルには無かった障害物がふんだんに存在する。ローグ系みたいな障害物を利用できるジョブが有利だろうな。少なくとも広範囲高火力の【大賢者】が使うもんじゃない。ハズレ引いてやんのブックカバー。

ブックカバーにやられて、対応アイテムを獲得してないのでまだ研究は進んでいない。密林は何処まで続くのか、樹上に出る事は出来るのか。色々調べたいんだがな。


・黄の宝珠

対応アイテム不明

金色(こんじき)舞踏会】

長らくセリアンの専用スキルと思われていたが、性質から空間作用スキルである事が判明した。

他の空間作用スキルでは見られない、"ステージ"と"観客席"の二つの隔離階層を持っている。

発動時の位置によってどちらに飛ぶかは決まっていて、セリアンは必ず"観客席"に。"ステージ"に立たされた者は終わるまで演劇に付き合わされる……って感じ。

珍しく明確な弱点があり、"観客席"側に誰かが紛れ込んだら終わる。セリアンの攻撃の一切は"ステージ"側にしかできないので、"観客席"の敵には無抵抗になる。

だから発動は慎重になるんだろうな。よく側近を"観客席"に連れて行くし。

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