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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
水鏡基地ミラクリース/ホライズン階層
233/507

233.天へ掲げ、友へ捧ぐ

【第90階層 水鏡基地ミラクリース】

──コロシアム観客席


三つ巴宝珠争奪戦


第一試合

クローバー勝利により、【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】の青の宝珠を【夜明けの月】が獲得。


第二試合

ブックカバーさんの勝利により、【夜明けの月】の白の宝珠が【象牙の塔】へ。


そして、第三試合。


「賭けるは我らが【セカンド連合】の緑の宝珠。戦うはこの伝智の神仔(みこ)。【象牙の塔】ギルドマスター イツァムナがお相手します」


相変わらずの子ギャルファッションながら、毅然と舞台に降り立つイツァムナちゃんさん。


「なれば!この三つ巴の宝珠争奪戦を締め括るに相応しい! 【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】大統領バルバチョフが受けて立つ!」


平安貴族降誕。

盛り上がりも最高潮。最後の一戦。

……だから仕方なく、って訳じゃない。ちゃんと勝算はあるわよ。


「メアリーさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫。やってやるわよ」


不安はドロシーに伝播しちゃうからね。しっかり虚勢張らないと。


「──【夜明けの月】からは当然! このギルドマスター メアリーが行くわ! 覚悟しなさいイロモノ集団!」


【チェンジ】で派手に空間転移。

──相手はどちらも怪物。イツァムナちゃんさんの実力はまだわからないけれど、バルバチョフはある程度知ってるつもりよ。

その上で……バルバチョフには空間作用スキルがある。イツァムナちゃんさんはどうか分からない。……同様に、向こうもあたしが空間作用スキルを使えるかどうか分からない。

実力はまだ追い付いてない。それ以外で勝負するしかない──!




──◇──




「ただいま」


「おっライズ。喧嘩は終わったか?」


「素手じゃ決着付かないな。【Blueearth】じゃ。一旦やめた」


「そりゃそうですよ……」


帰ってみれば山場だ。直前までカズハかメアリーかで悩んでいたが、自分が出る事にしたんだなメアリー。


「メアリーちゃん、勝てるんです? バルバは強いのですよ」


「元々相当の実力者な上に空間作用スキルまであるからな……。そもそも【スイッチヒッター】が泣いて逃げ出すオールラウンダーだ。ぶっちゃけ俺なら相手したくない」


「い、イツァムナちゃんも、凄いです……。まだ【真紅道(レッドロード)】にいた頃、セカンド階層序盤で散々戦いましたけど。【大賢者】を辞めた今でもあの強さは健在、です」


「そうね。お姉さんも一度手合わせした事あるけれど、歯が立たなかったもの」


【夜明けの月】の実力者組でさえこの評価だ。

……正直俺は【大賢者】時代のイツァムナしか知らないが、途中で転職していながらあの立場に居られる程度には強いのは間違いない。

さて、どう動く……?




──◇──




「では第二試合。──開始!」




開始を告げるブザー。──最初に動いたのは──




「先手必滅でおじゃる!【蒼穹の未来機関(ロスエネルゴアトム)】!」

「失礼。【森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)】!」




開幕空間作用スキルはズルいわよ!




──◇──




──空間作用スキル──隔離階層。

そも既存の階層に割り込めるほどに柔軟で小さな空間。同時に発動すれば──恐らくは。


「──成程の。こうなるか」


青の未来機関は大樹に砕かれ、無限に溢れる水が樹海を支配する。

隔離階層の共存。空間そのものに大した性質が無いからこそ、ね。

白の宝珠とカチ合ったら全て空に飛ぶのかしら。


「……ふむ。メアリー君は空間作用スキルを持っていないようだね。イツァムナ慧眼」


イツァムナちゃんさんはでっかい本に座って空中浮遊。ブラウザもやってたわね。【図書官(ライブラリアン)】の特徴かしら。


「……使うタイミングが合わなくて」


「あり得ぬ。貴殿が空間作用スキルを使えたのなら最速で使っておろうが。あまり麿(まろ)を甘く見てくれるなよメアリー」


過信……いや、適切な判断ね。


「完全なる善意の顕現。恵み深き伝智の神仔(みこ)。わたしは【象牙の塔】ギルドマスターのイツァムナ。決して侮りはしない。

天啓は万物に等しく、私は君臨する。──【共謀綺談(ヴァスコンセロス)】」


麿(まろ)は悪魔使い。快楽に身を燻し、世を掻き乱す悪喰(あくじき)よ。── 【2本の蝋燭(ポルドニツア)】!」


隔離階層限定の、ジョブ強化スキル。


イツァムナちゃんさんの周囲には無数の本が螺旋に浮かぶ。元の【図書官(ライブラリアン)】の戦い方から既にわからないんだけれど。


バルバチョフは……何かしら。真っ白な顔が真っ黒になってるけれど。悪魔達が出てきて無いのが、嫌な予感がするわ。


「──では征くぞ! 【悪魔憑き(コーリング):めーのふ】!」


バルバチョフの体に黒雲──羊毛?

……着火した!


「【チェンジ】!」


近くの樹上へ転移。

……"めーのふ"はバルバチョフが契約している悪魔。炎の遠距離攻撃が中心だったわね。

──爆撃が森を焼く。火力おかし過ぎるでしょ。


「うむ。逃げ足は天下一よの【エリアルーラー】。それも善し」


多分、契約している悪魔と一体化するスキルね。本体を狙われるサモナー系の弱点を補う方針か。イツァムナちゃんさんは──


「閲覧します。【チェンジ】」


──いつの間にか。いや、今この一瞬で。あたしの後ろに転移してる。


「……は?」


「それでは。閲覧します──【テンペスト】」




──◇──




──大嵐が吹き荒ぶ。

二つ合わさった隔離階層は、外からでも見えるようになった。随分と派手にやってるな。


「【図書官(ライブラリアン)】は、事前に収集した"蔵書"を閲覧(再現)する。本が擦り切れるまでは何度でも使えるが、しかして事前準備が必要である」


「ブックカバーなんでこっちにいるんだよ。帰れ」


「立ち寄りついでだ。こっちの方が今は見やすい」


【夜明けの月】の観客席に堂々と座るはブックカバー。ある種名誉【夜明けの月】と言えるくらいには協力してもらってきていたけどさ。


「どうやら【図書官(ライブラリアン)】の強化── 【共謀綺談(ヴァスコンセロス)】は、一瞬で収集・製本を可能としているようだな。一度見た【チェンジ】を再現できる、と」


()()()()って、知らないのか?」


「イツァムナはまだ発表段階に無いと言っておったのでな。他人の研究に口出しする訳にも行くまいて」


つまり……本邦初公開か。だがなぁ。


「もしそうだとするなら……弱すぎないか? その場で収集できるって言ったって、イツァムナなら元から色々収集してるだろ」


「んむ……確かにそうやもしれぬな。蔵書量を考えれば、普段のイツァムナと変わらんのである」


ジョブ強化スキルの厄介な所は、空間作用スキルと連動している事。条件を満たすか倒すかしないと隔離階層から逃げられないという点だ。

全く情報の無いスキルを攻略しないと勝ち目は無い。俺はスワン相手もブックカバー相手も途中退出だったから……今の所、正攻法で突破できた試しは無い。

……がんばれリーダー。




──◇──




──洒落にならない。

一度保存すれば何度でも使えるスキル?

それ自体は【図書官(ライブラリアン)】のデフォで、それを瞬時に引き出せる強化……?


いや、おかしい。


「──【チェンジ】!」


「手早い対応だね。イツァムナ感心」


まずは何より【テンペスト】を回避する。【エリアルーラー】ももう長い。ある程度複雑な位置への転移も容易いわ。

……その先に、二人とも回り込んできてるのは想定外だけれど!


「閲覧した。【チェンジ】──イツァムナからは逃げられない」


「ひょほほ! 飛んで火に入るにゃかにゃかにゃんでおじゃる!」


バルバチョフは──牛角。まだら模様の毛皮を羽織って、大きな斧を振り翳す。


「【悪魔憑き(コーリング):もーちょふ】──【デモンブルホーン】!」


いつもの両手銃は無く、両手斧の二刀流──本来のバルバチョフじゃ出来ないはず。つまりこれがジョブ強化スキルの効果……!

【チェンジ】はまだインターバルがあるし、イツァムナに追い付かれる。でも物理はあたしじゃ受け切れない──


「【召喚サモン:パン屋の精霊】!」


あたしとバルバチョフの間に呼び出すは、一斤パンを被った妖精。手持ちの袋が斧によって切り裂かれ──煙幕となる!


「──【チェンジ】!」


まずは調査。これ以上直接相手は出来ないわ。




──◇──




隔離複合階層

蒼穹の未来機関(ロスエネルゴアトム)】跡地


円柱状の建造物は樹木によって引き裂かれても尚、水を流し続ける。

建造物の側面、樹木の隙間。隠れられる場所ならいくらでもあるわ。


「……何となくわかってきたわ」


図書官(ライブラリアン)】の"閲覧"の仕組み、そして【共謀綺談(ヴァスコンセロス)】によって強化された部分。


だとするなら、勝ち目は──




「見つけたのでおじゃる」




水中から。

山羊の頭蓋を被って、背中から二本新しい腕が生えた、推定バルバチョフ──!


「【悪魔憑き(コーリング):やぎちゃふ】──【四色魔統合(クアトロ・ショック)】!」


四属性の魔法が立て続けに襲ってくる。ここに【チェンジ】は使わない!


「【召喚サモン:魔法喰らい(マギイーター)】!」


口だけの精霊。魔法をある程度吸収してくれるんだけれど……"やぎちゃふ"は最高位の悪魔。そう易々と吸収仕切れない……!


「後ろが! お留守である!」


飛び出したのは──羊のバルバチョフ。

やっぱり、契約した悪魔の数だけ分身できるのね! 多分牛バルバチョフはまだ向こうの煙幕の中でイツァムナと戦ってる。


「でもその位置はダメよ」


あたしと羊バルバチョフの間に──光の立方体。


「閲覧します。【チェンジ】──む」


そこはあたしがここに転移した位置。

──これで確信が持てたわ。


「閲覧します。【スターレイン・スラスト】」


「ぬげーっ!」


イツァムナでは無く、アザリの幻影が羊バルバチョフを吹き飛ばす。


「イツァムナ、後は宜しくね。【チェンジ】!」


「む。逃しません。閲覧──」


「甘い! 【カースドメア】!」


「……っ、重力魔法……閲覧、します! 【浄化の炎】!」


やや下方。瞬時の【チェンジ】じゃそこまで遠くには行けない。

上の方でイツァムナとバルバチョフが戦うけれど──今度は、ちゃんと()()()()


「閲覧します。【チェンジ】──」


イツァムナが着地したのは、あたしの目の前。

来ると分かっていれば──こっちのもんよ!


「真っ二つよ!【次元断】!」


空間ごと、イツァムナを叩っ切る!

【エリアルーラー】の必殺技。とはいえ隔離階層、多分イツァムナは不死身だろうけれど──隙があれば、飛ばす事はできる!


「あっち行っててね。【チェンジ】!」


「なっ、しまっ──」


イツァムナを、限度いっぱい100m先へ飛ばす。

──【図書官(ライブラリアン)】の閲覧は、厳密にはスキルのコピーではない。

"その場で起きた事象"をコピーすると言った方が正しいわ。

"あたし自身が遠くへ飛ぶ'【チェンジ】を閲覧したら、今のイツァムナの位置を基準に同じ距離と方角へ飛ぶ。だから【チェンジ】をコピーする時は、できるだけあたしの発動した場所の近くで使う。地面に埋まったりしそうだし。

だから……"イツァムナを何処かへ飛ばす"【チェンジ】を閲覧したところで、不発にしかならない。


「次は麿(まろ)である!」


飛び込んで来る3人のバルバチョフ。

受けてたら間違い無く死。

だから──もう、本気で行くわ。


紫蓮の(ヴァイオレット・)晶杖(ロータス)】アイテムスロット、オープン!


【朝露連合】鍛治チームのお陰で強化されたこの杖には、後付けでアイテムを装着する事ができる。

あたしのとっておき、友情の証──ドラドでシギラから受け取った、"赤き大地の想い"をセットする。


紫蓮の杖に、誇り高き牙が生える。

ほんの数十秒だけの、あたしだけの武器──大鎌【紫蓮赤染(ヴァイオレッド)の大晶鎌(・デスサイズ)】。


大きく。大きく振りかぶる。

狙うのは、バルバチョフ──ではない。




レイドボス特効。それは"赤き大地の想い"の中の、レイドボス(シド)の役割。

シドを抑える存在であったシギラの力は──即ち、宝珠を抑える力でもある。


理論上は可能。実践は初。通らなければ、ここで負ける!


「吹き飛びなさい()()()()!」


獣の牙。紫の光。

刈り取るは──この空間。

ライズの【焔鬼の烙印】と同様の、()()()()()()




「── 【赤き大地の(デディケイテッド・)輪廻戒天(シギラ=ファング)】!」




空間が割れる。

世界が戻る。

バルバチョフも一人に戻る。

そして──そのままバルバチョフを吹き飛ばす!




「……ど、どんなもんよ!」




実験は成功。でも……戦いは終わらない。

〜空間作用スキル:宝珠編〜


宝珠と空間作用スキル、そしてその為に必要なアイテム。

【セカンド連合】との取引材料となっているこの宝珠は、【夜明けの月】にとって色んな意味合いを持つ。


レイン会合時のように「隔離階層への強制転移」という性質を利用したり、レイン戦でリンリンがやったように「敵一人を完全に詰ませる」ために使ったり……。

【夜明けの月】は専らこんな感じの使い方をしてきたが、空間作用スキルのヤバい所はここだけじゃない。


まず真っ当に、使用者が超絶強化される。

これが大問題だ。スワン戦やブックカバー戦では対隔離階層用兵器【焔鬼の烙印】で強引に途中退出したが、正直マトモに取り合ってられん。巻き込んだ側が勝ち確すぎる。

なので、現在のような宝珠の取り合いの際には如何に相手が使えない宝珠を渡すかがポイントになる。

まぁ勿論全部奪えるならそれが1番なんだが。


まず【夜明けの月】が所持している赤の宝珠。これはヒガルで【セカンド連合】から奪い取ったが、宝珠の委託方法を知ったのは【夜明けの月】に渡ってから。そして発見者のスワンがそのまま直前まで所持していたから、【セカンド連合】の赤の宝珠対応者はスワンだけという事になる。

【夜明けの月】では俺。そして赤の宝珠の空間作用スキル【曙光海棠(あかきかいどうの)花幷(はなあわせ)】を発動するためのアイテム"赤髑髏"は【セカンド連合】しか所持していない。

ややこしいが、空間作用スキルの発動に必要な条件は「初めて触れた宝珠の色」と「所持しているスキル発動アイテム」が一致しなくてはならない。つまり一度触れれば現在宝珠を所持している必要は無い。

と言う事で、赤の宝珠のスキルが使えるのはスワンだけ。そして【セカンド連合】に赤の宝珠が渡った瞬間、対応者の数は爆増する。だから今回は賭けなかった。


次にエンジュで手に入れた白の宝珠。これは宝珠も対応アイテムも【夜明けの月】が独占している。対応アイテムの回収手段はエンジュの仲間達が確立してくれて、エンジュは【セカンド連合】お断り状態だ。つまりもしも宝珠が【セカンド連合】の手に渡ったとして(というか渡った。俺が負けたから。不服ながら)、対応アイテムが手に入らないので空間作用スキル【白曇(しらくも)渦毱(うずまり)】は発動できない。

対応者はジョージとミカン。かなり扱いにくい空間なので、対応者はかなり絞って管理していた。


ミラクリースでバルバチョフが所持している青の宝珠は【夜明けの月】が受け取った。この後バルバチョフが対応アイテムの入手方法を教えるかどうかはわからないが、【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】は【夜明けの月】の味方寄りだ。教えてくれないとしても自力で見つける。

対応者はバルバチョフとクローバー。うちの最高戦力を補強できるってんなら、是非にも対応アイテムを確保しておきたいところだ。


【象牙の塔】が持ち込んだ緑の宝珠。対応アイテムはブックカバーが持っていた苗木だな。これが第三試合で賭けられる事になる。

誰が見つけたのかは知らないが、少なくとも探索に興味の無いブックカバーが持っていたあたり【セカンド連合】ではこの宝珠の対応者が相当数いるだろうな。

これを手に入れた所でこっちが有利になる事は無いが、【セカンド連合】からしても最悪失っていい。対応アイテムが【夜明けの月】に流れなければ空間作用スキルを使われる事は無いからな。


後は理屈上宝珠も対応アイテムも所持している筈の【マッドハット】セリアン。ここがどうなってんのか未知数だ。

そして後二つの、【セカンド連合】が所持している宝珠。ここが未知数なのが怖すぎるな。


……そもそも対応アイテムを見つける事自体が大変なんだが、残る対応階層はセカンド階層後半。エンジュやミラクリースのように反【セカンド連合】の面々が殆どいない、【セカンド連合】のホームだ。見つかってる事は前提に考えた方がいいだろうな。


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