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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
水鏡基地ミラクリース/ホライズン階層

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231/507

231.勝利の女神は鮮やかに


log.冒険者"ゴーギャン"。

【第90階層 水鏡基地ミラクリース】にて雑貨屋"芸術肌"を営む、マーフリー族後援組織長。


ジョブはクリエイター系第3職【幻想絵筆(アーティスト)】。ジョブ専用武器"筆"は小筆と大筆があるが、ゴーギャンは大筆使い。ジョブとアビリティによって効果が付与される武器なので、ライズのような【スイッチヒッター】は装備出来るが扱う事は出来ない。


【Blueearth】にて本格的に攻略を開始したのは一年経過後。【真紅道(レッドロード)】が本格的に序盤階層の攻略補助を始めた際に一念発起。

サバンナ階層の"マッチングパーティ"の段階で既にソロプレイヤーであり、諸々の情報をあらゆるギルドから頂いた上で本格的に傭兵稼業を開始。とはいえレベル上げのお供が殆どで、階層攻略は基本的にソロ。


【第90階層 水鏡基地ミラクリース】到着段階ではそのままセカンド階層を攻略するつもりだったが……マーフリー族と出会う。

そのあまりにもあんまりな境遇に感化され後援組織を樹立。そのままミラクリースに定住する。

後援組織はミラクリースに形だけ存在していた傭兵組織と合併され、【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】となる。


──ここまでの経歴において、彼女は全ての階層攻略で一度の帰還も無く成功させている。入念な事前調査の賜物でもあるが、傭兵としての彼女に付いた呼び名は──




──"勝利の女神"ゴーギャン。【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】序列第3位。




──◇──




【第90階層 水鏡基地ミラクリース】

──コロシアム観客席

side:【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)


観客席に戻ると、【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】の皆が迎えてくれた。

早速【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】の所持する青の宝珠を失ったというのに、優し過ぎる。涙が出てくる。


「………………ごめんね。負けてしまった」


「気にするな……。"最強"相手に切れるカードなぞ……お前しか無い」


「そうである。いや麿(まろ)なら行ける」


「馬鹿タレ。お前は敵でも味方でも付き合い過ぎた……。手の内を知られてるだろうが。

クローバーの坊主、あの肩書きにして"自分は強い"なんて微塵も思って無い……。対策出来るもんはガッツリしてくるような奴だ」


「かぁーっ。みみっちぃ"最強"であるぞよ。もっとこう、強さ故の弱さとか見せて欲しいのでおじゃる」


「だから"最強"なんだろうよ……。ほら、第二試合だ」


タイカイさんは……黎明期最前線を走った傭兵界の始祖。とはいえ人を選ぶやり方で、【真紅道(レッドロード)】【飢餓の爪傭兵団】【象牙の塔】くらいとしか組んでなかった。"影の帝王"の傭兵組織とか【需傭協会(Weak.enD)】には関係していない。

本来なら【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】第2位に相応しいポジションなんだけれど……バルバチョフの方針で、ランキングは完全実力制。

第1位がバルバチョフ。第2位が私。第3位がゴーギャン。

……つまり彼女は、私の次に強い、のだけれど。


「………………ゴーギャンちゃんともしも戦う事になったとして。混戦だったら私は勝てないよ」


「それは【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】全員が承知でおじゃる。タイマンで無いのなら麿(まろ)とて勝ちは狙えぬ。故に三つ巴を提唱したのだ」


非戦闘ジョブ【幻想絵筆(アーティスト)】。その真髄は、混戦にあり──




「では第二試合。──開始!」




──◇──




開始のブザーが鳴る。


どうせブックカバーは変わらない。変えられない。開幕の【テンペスト】はあいつの矜持だ。


「【テンペスト】!」


ほらきた。


「【スイッチ】──【宙より深き蒼(ディープ・ブルー)】!」


魔法反射の青い盾。まずはこれで──




「【芸術創造(アーティック):嵐を征く海賊船】!」




【テンペスト】の大嵐を掻き分けて。大渦に巻き込まれて──否、乗りこなして。

巨大な緑の海賊船が、その姿を現す。


「ぬっ──」


「いい()してますぞブックカバー氏! インスピレーション湧きまくりですぞー!」


海賊船にはゴーギャン。背中に巨大なカラーパレットが浮いている──あれはデュークの知識にあった、最近発見された【幻想絵筆(アーティスト)】専用アクセサリーか。


嵐は海賊船により踏破され霧散。海賊船も役割を終えて消える──


「ちょこざいな。纏めて潰す! 【ブラックホール】!」


「また良い()ですぞ!【芸術創造(アーティック):星旅の夜扉】!」


全てを呑み込むブラックホールは、黒色の扉へと描き変えられる。

扉をくぐるゴーギャンは──俺の隣に出てくる。


「【スイッチ】──【封魔匣の鍵(パンドラ・カリギラス)】!」


「【芸術創造(アーティック):見返り美人】!」


攻撃のターゲットが、ゴーギャンの隣に出現した女性像に移り変わる。

──建造が早すぎる!


「行きますぞ! 【赤色:芸術爆発】!」


筆の先端が赤く染まり、俺の前に一筆一閃。

赤い絵の具が光り──爆発!


「芸術は──爆発ですぞー!」


……シャレにならん。強いぞこいつ!




──◇──




side:【象牙の塔】


「……【幻想絵筆(アーティスト)】って非戦闘ジョブだったよな?」


正直、叔父貴とライズの一騎討ちになると誰もが思っていた。だが実態は、ダークホース大暴れ。イツァムナも怪訝そうにしてるねぃ。


「はい。とはいえ非戦闘推奨というだけで、戦えない訳ではありません。……【幻想絵筆(アーティスト)】は()を使って芸術を仕上げる。あのカラーパレットはその色を補充できるものなのでしょう。

恐るべきはその対応力。【テンペスト】を見てからその色を採取し、不足分をカラーパレットで補い、【テンペスト】を乗り越えられるイメージを描き上げる。恐らくは想像力に依存します」


「想像力依存? ……あぁいやそうか。【幻想絵筆(アーティスト)】で同じ物を作り上げた奴はいねぇって聞いた事あんなー。まさかそれぞれの想像するもん創られてんのか?」


「判例が少な過ぎますが、恐らくは。

故に対応力。基本的には同じ色をぶつければ相殺出来ますが、そこに"海賊船"をイメージした事で空中へと移動。船には船乗りがいるものですから」


「【ブラックホール】は同じ色で相殺できるイメージが湧かなくて、"中心に引き込む"性質を"入り口"にして"扉"……"何処かに繋がる"イメージから、ライズの側にワープしたって事かぁ? やりたい放題すぎねぇ?」


だが【Blueearth】は人類の新世界計画のための礎だ。"新しい世界ならこんな事出来ますよ"アピールをゲームに落とし込むなら、こんくらい自由でもおかしく無い……かねぃ?


「我々魔法使いにとって【ロストスペル】の【エルダーワン:ロストフレア】は天敵。全ての魔法を打ち消してしまいますので。

……豊かなる絵画ゴーギャンは、それを成し遂げてしまう魔法使いの天敵でしょう」


「じゃあ物理かって言われれば、【幻想絵筆(アーティスト)】のお家芸であるターゲット集中オブジェがあるって訳かぃ。……ズルすぎねぇ?」


「しかしそれだけでは勝ち切る事は出来ません。攻め手が不足していますから。

……だからこその三つ巴、ですか」


不足した火力はどう補うか。

そりゃ勿論、そこにあるものを使うのが【幻想絵筆(アーティスト)】か。

……こりゃ厄介だぜぃ、叔父貴……!




──◇──




「ぬぅ……【アースフラッド】!」


「【芸術創造(アーティック):火山昇竜晴天花火】!」


吹き出す大地は竜となり、天へ昇り、そして弾けて流星群となり降り注ぐ。


「うおおおブックカバーこのバカ! 利用されてんじゃねぇよ危ねぇ!」


「ええい喧しい! なれば手数で勝負である! 吾輩の魔法という芸術に水を差しおってェ!【テンペスト】【ホーリーブラスター】!」


大嵐の中央を貫く光の砲撃──


「荒れる海! 灯台の光のみが道を指し示す──【芸術創造(アーティック):岬の希望】!」


【ホーリーブラスター】はただの光になり、灯台が生えてゴーギャンを高位置まで避難させ、大嵐は灯台により脅威では無くなる──背景となる?

とにかく。たった一手で全部無力化した上に、俺が狙撃しようとしていたゴーギャンの位置が変わっちまった。


「──だが魔法三つ使ったよなぁブックカバー! 【デッドリーショット】!」


「愚か! 【陽炎演舞】!」


7体の炎の分身で無理矢理攻撃を受け流したブックカバー。

だが並行詠唱の限界、四つの魔法を使い切った。狙うならブックカバーだ!


「【スイッチ】──【壊嵐の螺旋槍(タービュランス)】!」


「「どれが吾輩か判るまいて!」」


「その魔法は欠陥だろうがよ! ()()()()奴が本物だ!」


ブックカバーの魔法講演は履修してんだよ。

【陽炎演舞】の分身はあくまで壁。本当に分身として使うには、見分け方が存在する時点で無理!


狙いを定めて──


「【スターレイン・スラスト】──」


「【芸術創造(アーティック):苔の叛逆】!」


風を纏う突進は、爆増した苔によって覆われて動きを止められた。


「なっ……マジか!」


「ブックカバー氏、今ですぞー!」


ゴーギャンからしたらどうしても火力が足りない。俺達の力を利用しようってか!


「ブックカバー……!」


「ふん。3()()()。──【テンペスト】!」


大嵐が、またしても──




「……えっ」


──ゴーギャンを襲う。


「鬱陶しいのだ! 誰も彼も、吾輩達の邪魔ばかりしおって!

吾輩は! そこな愚物と! 決着を! 付けたいのだ!」


熱烈にして切実。

悪かったって。"霊憶の丘(バベル・ヒルズ)"でさえ一騎討ちはしてあげなかったしなぁ。


「ぬぬ……致し方なし! 【芸術創造(アーティック):嵐を征く──」




「【スイッチ】──【天国送り(エンジェル・バトン)】」




……実は俺も、似たような事考えてたんだよ。


「──【デッドリーショット】」


黒き稲妻が芸術家を刺し貫く。

灯台が消え、海賊船が霧散し、大嵐がその身を巻き込み──


「うぬー……最後まで描き上げられねば、芸術に価値、無し! ですぞ!

芸術創造(アーティック):淀みの坩堝(るつぼ)】!」


正に消えようとするゴーギャンの遺作は──カラーパレット全ての色を使い切った、しかし鮮やかとは言えない──絵の具を塗り重ねた、黒に等しい乱雑な色の街並み。


身体にのしかかる重圧。【幻想絵筆(アーティスト)】は使った色で威力を調整するが、カラーパレットにある全てを使い切ったならその影響力は絶大──!


「芸術家の遺作は呪いとなりますぞ! ではではご両人──良い余生を! あっははははは!!!」


「すっごい嫌な遺言だな芸術家ぁ……!」


「ええい、芸術という分野はこれだから! 派手に遺せば誰かが評価するなどと、他人依存にも程がある! 生きている内に結果を遺せ!」


「それ色んな方面に喧嘩売ってるー! やめとけおじさん!」


重圧。移動速度の減少か制限?

天国送り(エンジェル・バトン)】の浮遊効果も発揮されてない。つまりは物理的重力。

俺がここまでキツイなら、ブックカバーはそれ以上だ。あと街がどんどん狭くなってる気がする。家すら重力に耐えきれて無い気がする。


「……愚物! 恐らくは最終的に崩落し我々を押し潰すぞ! なんとかせい!」


「なんとかって言ってもな、こっちはそんな派手な事出来ねぇよ! 空間作用スキルでも使えれば話は別だがな!」


「……成程。なれば仕方あるまい」


ブックカバーは観念したように、懐から──苗木を取り出す。


「……なんだそれ」


「とっておきであり、余計なお世話である。こんなもの頼らずとも貴様くらいなら潰せると、自負しておった。……さりとて、使わねばならんのだろう!

征くぞライズ! "深く若き苗木"よ、繁栄の時だ!」


苗木が緑に輝くと──密林に覆われる。

空の光も届かない、暗黒の森。

つまりは──緑の宝珠の、空間作用スキル!




「──【森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)】!」



〜ただいまロスト階層4〜


クロスです。

挨拶回りが終わって帰ってきたぞ。


「ただいまカヴォス」


「今ベラ=BOXなので。ちゃんと切り替えなさい。ぷんす」


「ごめん」


数時間かけての挨拶回り。分かった事といえば、俺の事を知らないバロウズ初心者がめちゃくちゃ多いという事か。

現在の【需傭協会(Weak.enD)】には知り合いも多く、何というか思ったより気楽だ。モナールオの様にちゃんと警戒してくれる奴もいるしな。


「……で、今後はどうするんだ。まさかずっと【夜明けの月】の配下のつもりか?」


「誰の下だろうと関係ありません。私は【需傭協会(Weak.enD)】を維持します。ホーリー様が帰ってくるまで」


……変わらないな。

俺があれやこれやと迷走している間、こいつだけは一貫していた。

帰ってくる訳が無い……とは言い切れないにしても、絶望的なのに。狂信でしかない、と思っていたが。


「……どうすれば良かったか、なんて聞くまでも無いよな。あの時あの日、俺達にホーリーを止められるだけの覚悟があればよかった」


「……ですです。一緒に牢屋にぶち込まれれば良かった。やり口は違いましたが、貴方も私も……生き残ってしまった事を悔いていただけですね。なやみ」


……だとするなら、【夜明けの月】に手を貸すのも悪くない。


「カズハちゃんは、大監獄からホーリー様を脱獄させようとしてるらしいです。おそれ」


「ぶっ飛んでんなあいつ。一番狂ってんじゃないか」


「ホーリー様に狂ってるのは私もですよ。ぷんす」


「なんでそこで怒るんだ。……で、どうする」


「どうする、とは。はてな?」


「ホーリーが帰ってきたとして、どうやって出迎えるかって話だよ。迎え入れるだけじゃ寂しいだろ」


どうせカズハは……【夜明けの月】は成し遂げる。

だったら待つだけなのもつまらないだろ。


「……驚きました。耐えかねて爆発したクロスが、待てるんですか?」


「舐めるな。終わりが見えないなら耐えられなかっただけだよ。ホーリーが帰ってくるって分かってたらそりゃ準備くらいするさ」


「……なんか、変な感じなのです。クロスは冗談通じないガキって感じだったのに。ほろり」


「どこに感涙してんだよ。……俺だって本当はさ、お前達ともっと一緒に飯行って、どうでもいい話で盛り上がりたかったよ。【需傭協会(Weak.enD)】全盛期は……ちょっと窮屈すぎたからな」


「……ですです」


灰色の空。

バロウズは姿を大きく変えた。

数少ない、あの頃を知る仲間と一緒に……。

この平穏が、あと少しでも長く続きますように。




──◇──




「──フォースクエア名乗ってホーリー様の真似事してた時、全員笑い堪えるのに必死でしたよ。ぷぷぷ」


「馬鹿な。俺の真似は完璧だったろ!」


「いや元を知ってるからさ。あのクロスがこんな真剣に……って感じだったよなぁ」

「本当だぜ。ベラ=BOXなんて耐えきれなくて別行動始めたし」


「……あれって作戦じゃなかったのか!?」


「作戦と笑いで2:8ってとこです。ぷぷぷ」


「くそぅ。……物真似には自身があったんだがなぁ」


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