230."最強"を求めて
──記憶が戻ったところで、大した話は無い。
過去の苦労を誇るような歳ではあるかもしれないがねぃ。アラフォーよ俺っち。
過去の苦労は善くて笑い話に留める。それが大人ってもんだぜ。
色々思い出した訳だが、驚くほど周りは変わって無かった。
俺っちは直近のストリーマー生活で鍛えた陽気なキャラが根深く残っていたか……或いは、忘れられない程に気に入っていたかだな。
叔父貴は元からあんな人だったみたいだ。ありえねぇ。
レインは良くも悪くも子供だった。ちゃんと大人が何とかしてやらなきゃならなかったな。反省だ。
イツァムナは……どうだったんだろーな。元から記憶持ちだったもんで、慌てたりはして無かったが。
年齢は聞いてねぇが、幾ら何でも俺っちや叔父貴までは行かねぇよな。
年齢感覚を取り戻しちまったからにゃ、ちゃんと先達として守ってやらにゃな。……叔父貴はその辺ドライそうだが。
さて。
私情はここまで。
──俺は【象牙の塔】の三賢者。"破壊式"のアザリ。
勝つ式を解く事だけが、仕事だ。
「──【位相転換】!」
クローバーの通常攻撃。秒間1008発の連続クリティカル。防御貫通の単純な火力。塵も積もれば……どころじゃねぇよぃ。
タイマンじゃ勝てねぇ。結局は魔法使いだ。だから、不定値を利用する。
万物の属性を調整する【ジオマスター】の基本スキル【位相転換】。ある程度のアタリが付いているなら、発動と同時に多少の転換が可能。つまりは0秒世界への干渉。本当の最速技だ。
撃ち込まれる銃弾は無属性。だが【位相転換】中の俺なら視える。大抵熱持ってるもんにゃ火属性が含まれてんだよ。
弾丸中40%の火属性は、別へと転換しても僅かにしかならない。
だが──数があれば話は別だ。
──弾丸の火属性40%をアルバレストの槌に転換。
「………………ぬうっ!?」
弾丸から突如現れた炎がアルバレストへ向かう。攻撃にしか見えねぇよな。当然逃げる。
転換の宣言が終わり、転換自体が完了するまで──弾丸による火属性は常にアルバレストの槌へと転換され続ける。
"純無属性"に近付いた弾丸からのダメージは、【ジオマスター】の性質で軽減される!
「行くぜぃ"最強"!」
「げっ。アルバレスト! それは攻撃じゃねぇ!」
察しが良いねぃ。だが遅い。
クローバーの弱点、俺の長所。
通常攻撃で弾けないスキル攻撃で攻める!
「──【ピアッシング】!」
「チッ……ならこうだ!」
音に聞こえし四丁拳銃。追加で二つの銃を取り出し、ジャグリングしながらの射撃。俺とアルバレスト同時撃ちで火力を減らさないってか?
「甘ぇ! 【位相転換】!」
タイミングはシビアだし条件もあるが、接近すれば非接触でも属性を転換する事は可能。
──【地獄の番犬】の火属性20%を大地に転換。
「──これで元栓閉めたってな! あと3つだ!」
銃そのものを無属性にすれば、そこからの弾丸も無属性! これで無力化していきゃいいって訳だぜぃ!
「やっぱヒリつくなアザリィ! だがタイマンじゃねぇぜ!」
──影。
炎宿した鉄槌が飛来する。
「………………【激震鉄鎚】!」
振り下ろしに合わせて退避こそ出来たが、火属性が大地へと転換され……"焦土"状態へ。
「………………やってくれたな………………アザリ」
「口を挟む暇あるかぃ? 【スターラッシュ】!」
大振りの攻撃後には隙がある。連続突きのスキルで手数を稼ぎつつ──"最強"突破に必要な属性をアルバレストから回収する!
「………………っ、甘い!【フルスイング・バスター】!」
スキル対抗の横薙ぎ。相殺は……しない。こっちの方が弱いからな。
そのまま吹き飛ばされて──クローバーの射程から離れる。
「………………しまった」
「漁夫もまた戦術よ。持ってきな!」
釣り銭不要の大盤振る舞い。
まだスキル継続中の秒間1008発が、アルバレストを襲う──
──◇──
──記憶が戻れども、やるべき事は変わらない。
考えている余裕は無い。
私の仕事は、"最強"を倒す事。
【水平戦線】の誰にも──バルバチョフは3人がかりでやったけど──出来ない。私の役割。
私はまだレベル135。他のカンスト勢には及ばない。
「まぁそう怯える必要なし。麿とて倒せた相手でおじゃる」
「………………バルバチョフは、最後の片手間で倒されたと、聞いたよ?」
「ぐっ。仕方ないのでおじゃる。混戦においてはクローバーだけをメタっても勝てぬ」
──そう。今回はガンメタを張っていい。
防御力が多少落ちてもいいから、クリティカル耐性を上げる装備で。
連続ダメージを軽減させるために、実数値のダメージカットのアクセサリー。一発毎にダメージ判定のある連続攻撃なら、割合ダメージカットよりも有効だから。
バフはスピード重視。長い詠唱の間に何度死ぬかわかったものじゃない。
勝つ。
私は………………正直、"最強"に及ぶ力は無いけれど。
その高潔で貪欲な強さには届かないけれど。
皆の願いは、叶えたい!
倒す。
否。
──"蹂躙"する!
「………………【バトルコロセウム】!」
クローバーの攻撃には数秒も耐えられない。
出来る事は、クローバーに私を攻撃させる事だけ。
【グラディエーター】専用スキル【バトルコロセウム】──強制的にお互いをロックオン状態にさせ、耐久値と火力を底上げする!
「マジか。捨てたか?」
「………………違う。私は、ここから耐えて生き残る……!」
クローバーの連続クリティカルは、ターゲット集中も弱点。
当然"最強"なんだから、その辺の対策もされてそうだけど………………。
でも、一瞬の隙さえあれば──"破壊式"は達成される!
「【位相転換】。これでお前は──"純無属性"になったぜぃ」
──クローバーの全属性の消滅を確認。
【ジオマスター】は、"純無属性"への超高倍率の特効効果を持つ──!
「二人掛かりかよ──!」
「………………みんなが、"最強"の倒れるところを、望んでいる………………!」
「討ち取らせて貰うぜぃ! 消し飛べ──【バニシングストライク】!」
全てを巻き込む銀の光。
どんな冒険者も耐えられない、余波に巻き込まれただけでも確実に死ぬオーバーキル。
私は、これを耐え切って──
「【エンチャント:ファイア】」
──え?
──◇──
見事なもんで。
アザリもアルバレストも、全然協力するつもりは無ぇのに結果的に2対1の構図だ。
弱いもの虐め?
いやいや、強いもの虐めだろ。
ターゲット集中へのメタ。
属性操作やらバフやらでの対策。
全部歓迎だ。
これが初見なら負けてたかもな。
案外そんなもんだ。
俺が"最強"だったのは……トップランカーという狭すぎるコミュニティの中にいたからだ。
手の内はしっかり調べればある程度の対策が出来た。そういう時にスペードは嬉々として情報収集に出かけていたが……まさか、ズルしてたか?
何でもいいや。
とにかく。
俺って奴ぁ、意外と臆病なんだぜ?
「【エンチャント:ファイア】」
自分自身に火属性を付与する。
これでもサブジョブ【エンチャンター】なんでね。お手のものだ。
普通の無属性でさえ細分化すれば属性があるってのが【ジオマスター】の"純無属性"理論。
普通の属性と別枠ではあるが……その【位相転換】が大地の物理的な発火まで作用しているのなら、外的要因で属性を変化させる事は可能な筈だ。
実際、アザリの【バニシングストライク】の勢いはまるで無くなった。それでも上級スキルだが。
銃は全てアルバレストを向いている。ターゲット強制の都合、アザリの攻撃は止められない。
──が。
左手から【地獄の番犬】を離し──槍の切先を、狙う。
マニュアル操作なら。ただの腕の動きなら、何とかなる。
俺がエンチャントしたのはこの左腕。これならギリ、攻撃中の武器に干渉できる。これしかできねぇ!
──────
『現実において、刃渡り30cm以上の武器を相手取る事は少ない。槍なんて以ての外だね』
『確かにそりゃそうだな。片手剣の刃渡りすらあり得ねぇか』
『だから現実の記憶があったとしても対処を知る者は少ないだろう。俺はその少数側だよ』
『心強すぎんだろ"人類最強"』
『ははは。さて、長物における利点は突きだ。薙ぎ払いとかは避ければ良いが、突きは避けた先で薙ぎに繋がる。可能ならば槍そのものを弾く必要がある』
『どうやるんだそれ』
『相手の突きに合わせて腕を伸ばす。切先の平面に沿って腕をすれ違わせて、手の甲で弾く。これだけ』
『できるかぁ』
『【Blueearth】ならそう難しくないよ? こうやればいい……』
──────
ジョージ。これヒットしたら俺死ぬんだが。
実戦の実践が命懸けなんだが!
左腕をアザリの槍に向ける。
すれ違いは考慮しない。俺はゲーマーだ。感覚を研ぎ澄ませろ!
左腕に、アザリの槍が刺さる。
左腕の中へと槍が入ってくる。
俺が待つのは──たった一つのタイミング。
1フレ以下の一瞬──!
「……っしゃぁ!」
槍の中腹。これ以上は俺の本体にダメージ判定が届く。
手の甲で、槍を弾く!
左腕から、左肩から槍が通り抜けて──僅かに軌道を逸らした!
「………………まさ、か!」
【バトルコロセウム】は、外部からの攻撃を受けると解除される。
貫かれた左腕だが、損傷は無い。ゲーム世界だからな。
空中に放り投げていた銃を左手でキャッチ。左はアザリに、右はアルバレストに。
アビリティ"クイックドロー"
──ヒット数2倍。
アビリティ"陽炎のガンマン"
──ヒット数2倍。
武器【地獄の番犬】二丁装備
──ヒット数3倍。
スキル【乱撃錯乱】
──ヒット数3倍。
スキル【速射準備】
──通常攻撃速度2倍。
ラピッドシューターの基本攻撃速度
──秒間7発。
「一人頭秒間504発だ。沈みな!」
情けも容赦も不要。俺の前に立つなら、誰だって好敵手だ。
──クリティカルを彩る光が壁となり、柱となり──敵を鏖殺する。
──◇──
「──決着。第一試合は、【夜明けの月】クローバーの勝利です」
"審理"の輩が旗を上げる。
少しヒヤヒヤしたが……流石は"最強"。勝ちは勝ちだ。
第二試合までのインターバル、クローバーは観客席へと戻ってきた。
「悪ぃ。青の宝珠、所持しちまった。これで俺の空間作用スキルは【蒼穹の未来機関】固定になっちまったな」
「いや充分過ぎる。だがアイテムだけはホライズン階層突破前に確保しなくちゃな。何にせよグッジョブだ」
最初に手に取った宝珠の空間作用スキルしか使えない制限。最強戦力のクローバーが固定されるのは痛いが、最強戦力が宝珠を所持している事自体はかなり良い事だ。そのシステム上、あまり気軽に渡し合う事が出来ないからな。
「──さて、第二試合だけれど……」
リアクションもそこそこに。
【象牙の塔】から知った声。
「そろそろ良いだろう! 闘るぞライズ! ここで決着である!」
ギルドマスターのイツァムナを差し置いて、ブックカバーが立ち上がる。というかコロシアムに飛び込んでる。
「……宣言は【象牙の塔】から。第一試合では2番目の発表が【水平戦線】でしたので、【夜明けの月】がどうぞ」
「あーはいはい。ライズ出ますよっと」
面倒そうにはしているが、正直楽しみではある。
やっと決着だ。長い長い腐れ縁だった。
「……賭けるのはあたし達【夜明けの月】の白の宝珠よ。勝って取り戻してきなさい」
「はいよ。任せな」
「……では、【水平戦線】からは……ゴーギャン。頼む」
「……っええ!? 私ですか!? タイカイ親分では無く!?」
「お前さん、【水平戦線】No.3だろう……。舞台も水上じゃ無いしな……。気合い入れてけ。お前さんは強い……」
「お、親分……! 不祥このゴーギャン、誰も彼も虹祭りに上げてみせますぞー!!!」
……変なのが出てきた。
そうなんだよ、これ三つ巴なんだよな。
小柄なゴーギャンは、大きな筆を背負ってコロシアムに飛び込む。
「……お主、【需傭協会】におったか?」
「いえ! ゴーギャンは黎明期の頃は冒険者やってませんでしたので! 後追いのソロでしたぞ!」
……ゴーギャンのジョブは【幻想絵筆】だったよな。
それで、ソロで、【需傭協会】みたいな後押しも無し?
……こいつ、強くね?
「では第二試合。──開始!」
〜ただいまロスト階層3〜
クロスです。
現在、ふくよかな侍に詰め寄られています。
「んむぅ。本当にホーリーの洗脳の影響は無いと?」
「信じてもらうしか無いけどな。モナールオにも……迷惑を掛けたもんなぁ」
侍ギルド【大太刀廻り】。その首領、モナールオ。
なんとも形容し難い男だが……仲間想いで、力強い男だ。
【需傭協会】がガタついている間もずっとバロウズに構えている、バロウズの表の顔と言える存在だな。
「ほむほむ……どうやら悪さはしなさそうですな。もしまたやらかした時には、ヘソ中心に四分割ですぞ」
「綺麗に十字に切ってくれ。名前に合う感じで」
「でゅふふ。センスありますな。そのように」
散々バロウズを荒らした俺の事も、問題を起こさなければ良い……と言ったところか。助かった。
「しかし……バロウズも様変わりしたが、モナールオ達はそこの所どうなんだ」
「余所者が幅を利かせるなどバロウズでは日常茶飯事。そんな事よりベラ=BOXたそもベルたそも推せる……萌え……といったところでつな」
「……そうか。ほどほどにな」
こいつだけは昔から変わらないな。
サムライ四天王のトップとまで呼ばれた実力者ながらこの人格。慕う仲間も多い。
……ホーリーの洗脳を目の当たりにしたからこそ、そういう人徳による集まりは見てて嬉しくなるな。
「……で、普段何してるんだ。アザルゴンの"エルダー・ワン"討伐に手を貸し続けているのは知ってるが」
「バロウズツアーが基本的な収入源ですな。最近はアクアラからの観光客が増えたので。地理に明るい我々がツアーガイドをしていますぞ。向こうのタルパー代表とはマブですぞ」
……ふくよかな二人が笑顔で肩を組んでる写真を見せつけられた。何を見せられてるんだ俺は。
「後は攻略補助でつな。クロス氏が居なかった1ヶ月の間も新人冒険者達が相当数通り過ぎましたぞ。タルパー氏も何故か69階層までは行きましたし」
「……とりあえず攻略しとけ、みたいな風潮か。良いことだな」
【朝露連合】のインフラによって、冒険者の攻略の難易度は劇的に低下している。昔のバロウズなら対冒険者商売とか売れる気配もしなさそうなのに。
「……待て。そのテンションでツアーガイドしてるのか?」
「……いえ。流石に漏れ一人では……キツイと、言われたので。基本的には同胞達が」
何か済まない。
……その日は一緒に、ちょっと高い寿司屋に行った。
ベラ=BOXには怒られた。




