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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
水鏡基地ミラクリース/ホライズン階層
229/507

229.三つ巴の宝珠争奪戦

【第90階層 水鏡基地ミラクリース】


「いやはや、数日も空けてしまうと後処理が大変だねエリバさん」


「いやはや全く。そちらはペナルティ中でしょうスワンさん。迷惑をお掛けしました」


なんやかんやで巻き込まれた僕とスワンさん。

……メールが山積みだ。ハヤテ一人じゃどうにもならないと言うか、僕がいないとハヤテがどうにもならないと言うか。


「……エリバさん。一つ、聞いておきたい事がある」


眼下に広がる水平線。ここから見ると何も無いけど、ほんの数時間前まではあそこで大騒ぎしていたと思うと不思議なもので。

不思議ついでに、珍しいスワンさんの困り顔。


「……【Blueearth】の()を、覚えているか?」


──なんと。


「……スワンさん。そこに首を突っ込むと、とても面倒な事になります。一つ聞くならば……いつから?」


「まだ半信半疑だが……エンジュでライズさんと戦った時から、だね。……見た事のない光景が夢に出るんだ」


記憶の復活。不完全ですが。

……バグ側の接触……? いや、不可解。タイミングを考えてもスワンさんと接触する理由が見当たらない。

それにあの場にはバグ嫌いの"ヘヴンズマキナ"と、かつてバグの元凶だったスペードが同時にいました。レインを仕掛けた現在のバグの元凶によるものでは無い筈。


「……宝珠。そうか、過剰なデータの堆積。いやいや少々作りが雑すぎますね……!」


レイドボスの半身とさえ言われる宝珠。データを一定以上取り込んだ冒険者は、記憶のロックが外れて過去の記憶を取り戻す──。

あの時、スワンさんの手元には宝珠はありませんでしたが……かつて所持していた赤の宝珠と、"ヘヴンズマキナ"の頭上にあった白の宝珠。この二つが何らかの作用を──


──いや、だとするならば。ただ近くにあるだけで微かに記憶が戻るなら。

複数を所持している者は記憶が完全に戻っている?


「……スワンさん。この事は僕以外に言ってはいけません。このまま帰って、元通りの生活をして下さい」


「うーん……断る。あまりにも好奇心が掻き立てられてしまうからね。【草の根】として見逃せない」


でしょうね。


「ならば仕方ありません。強硬策です」


「ほう。私は弾圧には屈さないよ?」


武器を構えるスワンさん。

申し訳ありませんが、そんな暇はありません。




「全部教えた上で【ダーククラウド】に協力してもらいます。交渉の場を設けるのでそちらに……」


「あ、そういう。変に警戒してしまい申し訳ない」


「いえいえ。しかし交渉が終わるまでは他言無用でお願いします」


喧嘩している暇も無ければ、無理矢理言う事を聞かせる手段もありませんので。

それに、スワンさんを味方に引き込めるなら上々ですね。




──◇──




──2日後

【第90階層 水鏡基地ミラクリース】

中央広場


ミラクリース高度350m。

高度と共にマーフリー達のテンションも上がっていく。海面から遠ければ遠いほど安全だからな。

どうやら前回の《拠点防衛戦》でシステム面で相当無茶をしたようで、ここまでの高度だと《拠点防衛戦》には目算3週間程度の猶予があるとか。

……マーフリー達が歌って踊って騒いでいる最中、傭兵達も浮かれている。


「──では! これより【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】【象牙の塔】【夜明けの月】三ギルドによる、三つ巴の宝珠争奪戦を開催するのでおじゃる!」


歓声。通り越して怒号。なんでだよ。


享楽主義のマーフリーと傭兵達の相性は良いみたいで、よくわかってないマーフリー達と傭兵達が肩を組んだりしてる。


「第一試合は我らが青の宝珠を賭ける。参加者の発表は何処からでも良いが、合計3試合でそれぞれ最初に表明するギルドは異なるものとする」


基本的には最初に発表した奴のメタを張る事になる。今回の3ギルドはそれが出来る程度には層が厚い。

だから一番リスクを背負う最初の一人は、それぞれのギルドが1回ずつ担当する事になるのか。


「──くだらないわね。ここは【夜明けの月】から行くわ。出し惜しみ無しのクローバーよ!」


他のギルドにとって最も警戒したい人物。だがバルバチョフもイツァムナも眉ひとつ動かさない。

……クローバーの"最強"神話を維持しないと行けない【夜明けの月】は、不利だとしても派手にクローバーを扱わなくてはならないと思っているからだ。


実際は、不利な方が燃えるタチというだけだが。


「──では、【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】はアルバレストを当てようぞ」


「………………まさか"最強"に挑むチャンスが来るとはね」


「【象牙の塔】は我が愛児(まなこ)──慧眼なるアザリに任せます」


「あいよぉ。その席貰うぜクローバー!」


ある程度想定済みだったが……圧巻のメンバーだ。

説明不要、歩く神話"最強"クローバー。

ミラクリースの英雄"蹂躙"アルバレスト。

マジシャン最高火力"破壊式"アザリ。

過剰火力の揃い踏みだ。こーれは【セカンド連合】立ち入り禁止になってるのが悔やまれる。誰だって見たいぞこんな試合。


「──では、【ギルド決闘】を受理しました」


光の扉から現れるは"審理"の輩。今回はスレーティーではなく、その手下の一人。面を付けているが……曰く、量産型NPCだとか。


「ルールは事前申請済みです。フィールドは……そちらの空中を使います」


中空に現れるは巨大なコロシアムの廃墟。

……崩れた岩壁が多少の障害物にはなるか。


「結界で囲まれていますので、場外はありません。純粋に最後まで残っていた人の勝ちとなります」


「うむうむ。あの観客席には行けるのであるか?」


「はい。ここからでも見える事には見えますが、ミラクリースは小さい拠点ですので。スレーティー様のご厚意で、観客席を設定させて頂きました」


これは嬉しいサービス付きだ。

……多分俺も立つステージだ。よく見て学ばないとな。


「では参加者三名はコロシアムの中へ。麿(まろ)達の準備が出来たら開始とする。酒と飯を用意するでな」


もう完全に遊び感覚じゃねーか。こっちも色々ログハウスから持ってきてるけどさ。




──◇──




──コロシアムの中央に、標的2人。


「そんなに近くていいのかよ。俺のやり方知ってるだろ?」


「まぁねぃ。セカンドランカー以上ならお前の対策くらいしてるもんだぜぃ」


「………………手加減はいらない。蹂躙する」


油断も慢心も無しだな。悪くねぇ。


……実の所、この宝珠争奪戦はそこまで頑張る必要は無ぇ。

幾つ宝珠を持っていたところで、最終的には全部手に入れなきゃダメなんだからな。ここで総取り4つってのは理想だが……現状維持でも充分だ。

それよりも注視すべきは、空間作用スキル──隔離階層の所持。

宝珠の所持履歴を持つ者が、専用アイテムを使う事で発動出来るようになるスキル。"どの階層とも違う特殊な階層に強制転移する"仕様は、今回レインによるミラクリース破壊計画を初手で潰せた実績がある。

つまりは、空間作用スキルはこっちの手札として持っておきたいんだよな。


赤の宝珠に対応するアイテム"赤髑髏"はそもそも【セカンド連合】のスワンが使ってきた。これが【セカンド連合】に渡れば空間作用スキルも使われちまうのは確定。

白の宝珠に対応するアイテム"白天燐鈴(はくてんりんりん)"は【夜明けの月】が独占しているし、【セカンド連合】はエンジュに簡単には入れねぇ。つまりこれが取られても空間作用スキルは使われねぇ。


宝珠所持経験さえあれば手元に宝珠が無くても空間作用スキルは使える。スワンがそうだしな。

だからこっちの宝珠は奪われても構わねぇ……って事だ。


で、奪う宝珠の方。

【象牙の塔】の緑の宝珠はまったくわからん。対応アイテムがあんのかどうかも不明。

水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】の青の宝珠は、バルバチョフが空間作用スキルを使えていたあたり対応アイテム自体はバルバチョフが持っている。それも手に入れられれば空間作用スキルは可能そうだ。


第一試合に賭けられてんのはその青の宝珠。これは勝たなきゃなぁ?




「──では、第一試合。始め!」




開始のブザー。同時に動くは──俺だ。


アビリティ"クイックドロー"

──ヒット数2倍。

アビリティ"陽炎のガンマン"

──ヒット数2倍。

片手銃二刀流

──ヒット数2倍。

武器【地獄の番犬(ケルベロス)】二丁装備

──ヒット数3倍。

ラピッドシューターの基本攻撃速度

──秒間7発。


スキル無しでも秒間168発。火力申し分無し!

が──


「【スターレイン・スラスト】!」


槍の突進スキル。中級ながら出の速さが優秀だよな。ライズもよく使ってる。

突進スキルを中断させるのは難しい。アイコみてぇに身体そのものを合気で吹っ飛ばすとかならともかく、ゲームに則した銃弾じゃ何発当てても無理か。


攻撃は中断──しない。

アビリティ"バックステップ"。──後方へ飛ぶ事で攻撃を回避したり、敵と距離を取ったり。それを()()()()()

高速の突進術。ダメージの計算は物理判定も含まれる。後方に飛んで、物理的に存在する槍の切先に銃口を合わせる──!


「……っ、まじかよ"最強"!」


そのまま【スターレイン・スラスト】の勢いを利用して後方まで飛ぶ。片手で攻撃を忘れずに。


飛行中、一瞬の隙が出来た。ここだ。


スキル【乱撃錯乱】

──ヒット数3倍。


「……んなら、もう一発食らえ! 【バニシングストライク】!」


武器スキルか。銀の光を纏った突進スキル。

多分上級。なんちゃって回避じゃ耐えられねぇな。


……だが。秒間504発だ。撃たねぇのは勿体ねぇな。

着地。インベントリから()()()()()()


銃を構えて、待ち受ける──




「………………準備完了。潰す。【激震鉄鎚】!」




アザリと俺が衝突する直前。

空から振り下ろされるは──隕石が如き金の鉄鎚。

両手槌専用の上級スキル。問答無用の超火力振り下ろし攻撃!

突進スキルは正面以外からの攻撃に弱い。ましてや回避不能の上からの攻撃だ。




「合理的だな"蹂躙"!助かったぜ!」




槌使いは希少だ。偏見だが、まぁ人気出ないわな。研究も進んで無い。

だが俺が知る限りアルバレストは最強格の槌使いで、槌の出来る中距離攻撃は振り下ろしくらいなもんだ。




だから──"爆破薬莢"を落としておいた。




アルバレスト着弾と同時に着火・爆発。

大したダメージにはならないが──距離と時間は稼げる。


スキル【速射準備】

──通常攻撃速度2倍。


「これで秒間1008発。準備完了だぜ」


「………………こちらもまた、準備完了だ」


アルバレストは……サブジョブが【エンチャンター】だな。出の遅い両手武器は本来俺のカモだが……装備とアクセサリー、それにバフで盛り盛りに守ってんだろうなぁ。

当たれば勝ちの両手槌。ロマンがあって宜しいじゃねぇか。


アザリはその辺の準備時間は無かったが、最速起動の【スターレイン・スラスト】の無敵発生が厄介か。"純無属性"まで持ち越されたら俺だってタダじゃ済まねぇ。


……瞬間最高火力のぶつけ合いか。楽しくなって来たな。


スキルの制限時間も考慮すると、硬直は数秒も無かった。

動きを見せたのはアルバレスト。この三人の中じゃ一番攻撃が遅いからな。


横薙ぎの攻撃。アビリティ【アンストッパブル】で踏み出しながら、距離と攻撃範囲を稼いでいる。

アザリは動かない。攻撃範囲に含まれているが……俺が動くのを待ってるのか。


乗ってやるよ。乗り越えてやる。




「──【フォールウォールパルス】!」




「は──()()()だぁ!?」


使うは【ラピッドシューター】最終スキル。

銃の連撃で壁を作る──普段の俺が通常攻撃で成し遂げている技。

だが、スキルである事が重要だ。

通常攻撃至上主義の俺という印象が広まった今なら、まさか使うとは思われねぇ!


「引っ込み付かねぇ……【スターレイン・スラスト】!」


通常攻撃はスキルに勝てねぇ。それがアザリの俺対策。

だがスキル同士なら話は別だ。

アルバレストの攻撃もアザリの突進も弾くし──アザリとは相殺される事で、スキルは強制中断。

スムーズに通常攻撃に移行できる!


「しっかり喰らってけ! これが本場の"最強"だ!」


光の壁が敵を討つ──!


〜ただいまロスト階層2〜


フォースクエアを名乗るクロスです。


「せっかく投獄させたのに何でホーリー様と会って無いんですか。何しに監獄に行ったんですか。ぷんす」


「罪を清算しに行ったんだよ。無茶言うな」


カヴォスに突かれながらも、どうやら仕事は回してくれるらしい。

……監獄にもレベルがあり、"影の帝王"とホーリーは無期懲役。かなり深い所に閉じ込められているらしかった。

いや、土産話はあったな。


「看守曰く、【夜明けの月】との喧嘩を傍聴していたらしい。言葉も手紙も残しちゃいけないらしいから、ホーリーがどう思っていたかはわからないが」


「──それ、凄いイイですね。そっかぁ。見てくれてたんですね。にへら」


うん。救われた気持ちにはなるな。俺もなった。

……やっぱあの看守長、優しすぎるな。


「さって、クロスには色々と働いて貰います。まずば雑用。各所に挨拶がてらアイテムを届けるのです」


「アイテムって……これか?」


リヤカーいっぱいの灰。

え、何?


「ほらほら行くのです」


「ええ……」


もしかして嫌われてんのか?




──◇──




【朝露連合】傘下鍛治ギルド【珊瑚商】特設鍛冶場"超最強鍛治神殿"


……圧巻だ。

そうそう見られないレベルの鍛冶場が10個、円になって設置されている。効率以外の全てを捨てている。


「……ハゼはいるか?」


「親方は鍛治の最中は話聞かないし、ずっと鍛治してるんで俺たちが受け取りやす」


じゃあずっと話聞かないじゃないか。

……ドーランで幅を利かせていた【珊瑚商】の中心人物、ハゼ。どんなものかと思えば、狂気的に鍛治をする妖怪だ。


「ベラ=BOXさんの部下なんすよね。【ブラックスミス】っすか?」


「いや【ビーストテイマー】だが……バロウズでの騒動、知らないのか?」


「親方ほどじゃ無ぇですが、俺たちも大概鍛治バカなんで……有名人でしたか?」


「……いや、チンケな悪党だよ。覚えなくていい」


少しだけ。

ほんの少しだけ悔しいとか思ってしまったあたり、俺はまだ反省してないのか? と反省する。


……バロウズはめっきり【夜明けの月】のための基地となっていた。拠点階層そのものを丸ごと手に入れるとか中々前代未聞だな。


「ベラ=BOXさんにも宜しくお伝え下せぇ。あの方、鍛治したり商業したり【需傭協会(Weak.enD)】纏めたりでいつも忙しそうですから」


……うーん。今度は申し訳無く感じてきた。

俺がいらん事してる間、ずっとバロウズにいたんだもんな。反省。


「ところでこの灰なんだが」


「親方の最近の趣味っすね。手遊びにガラス細工で遊んでるっす」


「俺は趣味のために働かされてたのか……」

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