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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
水鏡基地ミラクリース/ホライズン階層
219/507

219.柵の無い檻

──────


果てまで続く水平線。

歌姫達は海を愛し、海を恐れる。

海にも空にも逃げ場は無く、

彼女達は楽園を見つけた。

だが楽園にいる限り、恐怖からの侵略は終わらない。


──ここは【第90階層 水鏡基地ミラクリース】

逃避の楽園。終わらぬ悪夢。


──────




──で、ようやく辿り着きましたミラクリース。

一面の水平線の上に浮かぶ巨大な円盤。ここがミラクリース。拠点階層の規模としては歴代最小だ。


「ミラクリースにいらっしゃいませー、勇者さま!」


てちてちと集まるは──人魚。しかも羽が生えた。

人魚とは言ってもしっかりとした二足歩行。足先はヒレになっており、下半身は青い鱗に覆われている。

上半身は……耳がヒレのようになっている事と、背中から羽が生えている事以外は普通の人間と遜色ない。


「彼女達がミラクリースの原住民。翼を得た人魚"マーフリー"なのです」


ミカンはマーフリー達に囲まれて遊ばれている。全身を突かれている。なんだそのコミュニケーション。


「翼……というよりは、ヒレだね。飛魚のようなものかな? だとすると腕が四本みたいなものだけれど」


「正解ー。私達の先祖は飛魚の人魚だったんだー」


「というか、色んな人魚のうちで飛べた人魚しか生き残らなかったんだけどね」


「私達の手は擬似腕で、後から生えてきたんだってさー。本当の手は背中の羽なんだって。全部普通に動かせるけどね」


「ちなみに空を飛んでいたのは遥か昔の事だから、今の私たちは飛べないよ。擬似腕も弱弱だからそんなに重いもの持てないし」


「ぶっちゃけ泳ぎ方も忘れたし(えら)も閉じきってる子もいるから人によってはカナヅチだし」


「勇者さま達に守ってもらわないと絶滅しちゃうんだぁ。宜しくね!」


めちゃくちゃ気楽に言ってるけど生物として詰んでるだろ。なんだこの可哀想な生き物達。


「海にヤバいのが現れて、私達の先祖は空に逃げたの」

「でもこのホライズン階層に陸地は無いから結局海に戻るしかなかったの」

「でもこの円盤だけは唯一海に無かったから、ここに辿り着いたマーフリーだけが生き残ったの」

「でもこの円盤はヤバいのと繋がってるの」

「だから定期的に私達を殺すための刺客が海から送り込まれるの」

「でもここ以外逃げ場はないの」

「もう歌って踊るしかないのー!」

「踊れ踊れー!」


「ライズ。あたしなんか涙が出てきたわ」


「うん。サバンナ階層のガルフ族以上に詰んでる種族っていたんだな」


きゃいきゃいと踊っているが、かなり厳しい世界だ。

いや情報はデュークから貰っていたけどさ。直接見るとクるものがあるな。


──ミラクリースがクリックに次いで《拠点防衛戦》が多い、というのは【Blueearth】全体に知れ渡っているが……クリックのそれはバグによるものだった。それに比べてミラクリースのはもう普通に頻度が多い。多分本来の《拠点防衛戦》最多はミラクリースだ。

敵は古代文明。ミラクリースにいる限り狙われ続けるのに、ミラクリースの外には出られない。なんとも悲しいもんだ。


だが。本題はそこじゃない。

能天気なマーフリー達はともかくとして……。


「昨日くらいまでは戦争してたんじゃなかったか? 随分と静かすぎるんじゃねぇか?」


「そうなのです。冒険者達も随分と大人しいものです」


エンジュは【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】の面々で栄えていたが、ミラクリースは多数の傭兵で栄えている。冒険者向けの武器屋道具屋があちこちにあり、傭兵達が忙しなく闊歩している。

まるで日常のように。もう戦争が終わったのなら、少し情報を集めたい──




「よく来たのである【夜明けの月】!」




スポットライト。

クラッカー。

スモーク。

爆発。

うるせぇ……。


ちょっと小高い位置から逆光で顔は見えないが、十中八九あいつだろ。

マーフリー達は手を叩きながらきゃいきゃい歓迎している。見せ物扱いされてないか。


「とうっ!」


それなりに高度があろうに、飛び降りたその男は──平安貴族。


麿(まろ)こそが!

セカンド階層の行く末を真に憂う者!

傭兵達の救世主!

【セカンド連合】に抗うレジスタンス!

水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】の大統領!

即ち!!!!

バルバチョフである!!!!!!」


うるせぇ……。


度々【夜明けの月】に協力してくれた元【月面飛行(ムーンサルト)】の傭兵、バルバチョフ。

確かにここで会う約束はしたが、随分と立場が変わったな。


「久しぶりだなバルバチョフ。まさかの大統領か」


「ほほほ。麿(まろ)は声を掛けただけなのであるがな。

【セカンド連合】の強硬策の結果、セカンドランカーは【セカンド連合】に敵対するか与するか、どちらにせよ回答を求められてしまった。

傭兵のような中立は答えるわけにはいかぬが、答えぬは悪であるからな。開き直って新しいギルドを立ち上げ自衛したのである。

元よりミラクリースは傭兵による自治区。【セカンド連合】も手出しができんのである」


なるほど、元【月面飛行(ムーンサルト)】のバルバチョフなら【セカンド連合】と面と向かって敵対してもおかしくない。看板に最適だな。


「じゃあ宝珠を手に入れたのもバルバチョフか?」


「うむ。これでおじゃる」


バルバチョフが腹から出したるは、青の宝珠。


……。


……えっ、あるの?


「……戦争はどうした!?」


「ライズよ。戦争したら麿(まろ)が負けるの前提で話しておらぬか」


「……いや、ほら。相手がお前ってわかってたらアカツキも全力で潰しにくるだろ。それはそれとして良くない態度だったな。ごめん」


「ほんまであるぞ。ゆるせん」


予想外すぎる。……が、バルバチョフは【Blueearth】有数の実力者。かつて何度か協力してもらった時に【夜明けの月】式武器強化術によって武器も+50くらいにしておいた。本人の才能も相まってかなり強くはなっている。傭兵達をちゃんと指揮すれば出来ない事も……ないか?


「ちなみに誰だったんだ【セカンド連合】側は」


「【象牙の塔】である。イツァムナから三賢者までそれはもう容赦のない絨毯爆撃であったぞよ」


「どうやって勝った!?」


【セカンド連合】No.2……というか火力だけなら【Blueearth】トップ集団だろ。


「うーん……バルバロスは戦闘センスもあるし人望もありましたが、流石に()()()【象牙の塔】を退けるパワーはないはずなのです。どうやったのです?」


「てか勝ったんなら【象牙の塔】の宝珠も持ってる筈じゃねぇ?そっちはどうしたんだんだよ」


「うん? 麿(まろ)達が【セカンド連合】と戦ったのは一度だけであるが」


……うん?

少し噛み合わないな。


「ねぇバルバチョフさん?」


「ぬおぉツバキさんお久しぶりです。【黒髑髏】をご閉店されたと伺いまして、心の拠り所を失った悲しみと新たなる門出を祝福する気持ちで織り混ざってございます」


「ごめんねぇ。また個人的にお食事しましょう?」


「むほぅ!」


弄ぶな。ジョージがバルバチョフに攻撃したら拗れるでしょうが。


「それはともかくとして……ねぇバルバチョフさん?

【セカンド連合】から宝珠を賭けた戦争の話、来て無いかしら?」


「ん? いや全く。我々【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】は先日の《拠点防衛戦》で忙しかったから連絡を見逃したのやもしれぬな」


……そんな事ある?




──◇──




【第90階層 水鏡基地ミラクリース】

──何も無い空。

黒い影を踏み台にして、そこに立つ。


戦争は起きなかった。

宣戦布告は【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】に届かなかった。

宝珠は奪われなかった。


何故?


それは、影で手を引いていたからだ。


その存在がそこに在る限り。

【Blueearth】は揺らぎ続ける。

【夜明けの月】は巻き込まれ続ける。


果たして。

彼らの道に立ちはだかるのは誰なのか。


少なくとも、今は誰にも気付かれず。

その存在はミラクリースから姿を消した。




──◇──




──【夜明けの月】がミラクリースに到着して2時間経過。


「うむ。わかったのでおじゃる。連絡が来てはおらぬが、情報は今届いた。【セカンド連合】は確かに麿(まろ)達と戦争しようとはしておったのであるな」


バルバチョフの秘書……【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】のサブギルドマスターである超長身の女性。2mはあるだろ。【バレルロード】のコノカさんすら超えるレベルの女性は初めて見たぞ。

マスクで口元を隠し、鋭い目付きで……バルバチョフのウィンドウをバルバチョフの後ろから操作する。

バルバチョフ、これでいて機械音痴である。いや見た目通りか?


「流石はアルバレストさん! 相変わらず頼りになるね!」


「………………カズハちゃん程じゃ、ないよ」


声が可愛い。

言ってはならない気がするので平常心で対応するが。


──"蹂躙"のアルバレスト。

ミラクリースの英雄と呼ばれる、《拠点防衛戦》長期功労者。あまりにも物騒な二つ名に遜色無い活躍をもう一年以上続けている、ミラクリースにとっての大黒柱だ。

【グラディエーター】の槌使い。その長身から振り回される槌から巻き起こされる惨状は正に"蹂躙"……とか、あまり穏やかじゃない話ばかり聞こえてくるんだが。


「本当はアルの姉御がギルドマスターをする予定だったのでおじゃるが、【セカンド連合】に睨まれるなら麿(まろ)の方が良いと言う事での」


「………………バルバチョフは、纏め上手、だよ。

わたしは……纏める事は、出来ない。

………………傭兵は、自由だから」


「アルバレストさんはミカンさんやリンリンちゃんがここで活躍してた頃からずぅーっと《拠点防衛戦》をしてるエリートなのです。人望だって凄いのです。ミラクリースの傭兵を纏められたのは多分アルバレストさんの人望なのです」


「………………ミカンちゃん。高い高い」


「うにゃー高い! 本当に高いのです! さっきまでヘヴン階層にいたのに怖い! おろしてー!」


なんとも容赦無い制裁だ。

……しかし、そうなると不思議だな。


「【セカンド連合】側からは宣戦布告が発表されておきながら【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】には連絡が届かなかった。それはそれとして、【セカンド連合】自体もまだ来て無い。どういう事だ?」




「いえ、来てはいますよ」




──すぐ近くに、そいつはいた。

青の髪を靡かせながら、紅茶を飲んでいた。

すぐ目の前のカフェで。

マーフリー達に角砂糖をあげながら。


「……【象牙の塔】の、レインか!」


「おや。随分といい眼を持っているようで。流石は天下の【夜明けの月】の()()()()()()()のライズさんだ」


「ギルドマスターはあたしよ」


「おやおや……うっかりしていたよ。失礼した」


【象牙の塔】初期メンバーにして、マジシャン系列最強の男。

敵意を隠すのが上手いのか、しかしその胡散臭い言動は油断を呼ばない。


「……【セカンド連合】の遣いでおじゃるか?」


「いいや。宣戦布告には価値が無い。それに第一優先事項は【夜明けの月】の方だからね」


「こっちか?」


レインはゆっくりと立ち上がる。杖すら構えず、まるで無抵抗を主張するように。


「そう。これだよ」


レインの手元に現れたのは──緑の宝珠。


「この次の階層──【第100階層 密林祭壇ウェンバル】の宝珠だよ」


「それを持ってるあたり、狙いはバルバチョフの青の宝珠じゃないのか? ウチの宝珠を狙う必要があるのか──」


「いやいや、取引だよ【夜明けの月】」


レインの細い瞳が捉えていたのは。

俺でもメアリーでも無く。

真っ先に全員の前に立っていた、リンリン。


「宝珠は君達に譲る。勿論【決闘】を通す必要はあるけれど。その代わり──」





「──そこの()を私に()()()欲しい。たった1人の()()なんだ」


〜おいでませミラクリース〜


水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】の特攻隊長! ゴーギャンですぞ。

傭兵闊歩する冒険者の楽園ミラクリースのPRをバルバチョフ殿に任されましたぞー!

興奮してきましたぞー!


・"円盤型簡易拠点ミラクリース"

まずミラクリースと呼ばれているこの円盤について説明しますぞー!

ミラクリースは一面の水平線であるホライズン階層を飛翔する唯一の建造物。

しかしてその正体は、古代文明の移動拠点の一つだったのですぞ!

古代文明がホライズン階層に侵略しに来た際、海上部に設置した使い捨ての拠点だったのですなー。

古代文明の侵略から逃れたマーフリー族が到着する頃にはもう破棄されており、そのまま空へと打ち上げられそうになっておったそうな。

しかし海底まで侵略した古代文明の者どもはそれに気付き、遠隔操作でミラクリースを海底に引き摺り落とそうとするのですな。

その頃にはミラクリースの中枢にまで辿り着いたマーフリー族。的確に機械を操作し、永遠に上昇し続ける設定にしてからは機械を破壊し立ち入りを禁ずるようになったとか。現段階ではミラクリース内部に入る道は全て塞がれておりまする。

こうして常に上昇し続けるミラクリースと、それを遠隔操作で海面に下ろそうとする古代文明の構造ができたのですぞー!

この綱引きは古代文明側が常に優勢。故にミラクリースが海面に着水してしまった際は多数の魔物からの侵略が開始されてしまうのですな。

それが故、我々冒険者で《拠点防衛戦》を発令する事となるのですぞー!


・マーフリー

ミラクリースの原住民……より正確に言ってしまえばミラクリース自体の原住民ではなく、ホライズン階層の原住民ですな。

羽の生えた妖精のような人魚ですぞ。

しかし空を翔べないどころか泳ぎも得意ではありませぬ。長きに渡る陸上生活でその辺りは退化してしまったとか。

はてさて、悲しき運命を背負う彼女らですが、性格は実に陽気前向きなものですぞ。

冒険者と共生関係にあるためか、とても有効的。定期的に音楽祭も開かれており、殺伐とした背景を忘れさせてくれるムードメーカー達ですぞー!

……しかしその根底には生への諦観があるようにも思えまする。

どうせ死ぬなら楽しく!といったフレーズが常に出てくる、意外とシビアな歴々です。

だからこそ助けたいと思ってしまいますし、マーフリー達もその辺は理解してくれてますがなー。


・特産品

ここまでの話で一つ問題がありますな。

円盤の上で生活しているのならば、食生活はどうしているのか。

ずばり輸入ですな。

アドレ軍がミラクリースに到着する事で様々な食料を手に入れられたのですな。

見返りに出せるものが何も無いので、完全にアドレ軍の無償奉仕ですぞ。マーフリー族は歌と楽器で歓迎する事しか出来ませんのでな。

……それまで?

半月に一度の着水日に古代文明の追っ手から必死に逃げながら調達しておったそうですぞ。恐ろしいことに。

その結果として殆どの泳げるマーフリーが居なくなってしまったとか……。

最近は冒険者のお陰で犠牲者が出なくて嬉しい、とか……そんな事言わないでほしいのですぞ。

唯一の特産品といえばマーフリー族の鱗で作ったアクセサリーや衣類ですな。数が限定されるためか超高価となっておりますぞー。


・総括

マーフリー達のために! ミラクリースに来て欲しいんですぞ!

ゴーギャンの経営する雑貨屋"芸術肌"は売り上げの85%がマーフリー族に還元されますぞ! どうか、どうかお買い求めを!!!!!

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