213.示された虹の地図
【第110階層不夜摩天ミッドウェイ】
【セカンド連合】の会議室
「帰ったか……【草の根】」
【セカンド連合】総司令アカツキ。不機嫌そうなのは相変わらずだけれど……開口一番に罵られるものだと思ったのだが。随分と落ち着いている。
「アカツキ……それに各ギルドの代表者も。普段はそこまで集まらないのに珍しいね?」
「皆心配してるんだろうぜ。だって今回は……文句なしに初めての"敗北"だ。我らがリーダーがどう落とし前付けるのか見極めたいんだろォぜ」
【バッドマックス】のギルドマスター マックス。
言いにくい事もハッキリ代弁してくれるし、そこがアカツキと相性が良い。
……天邪鬼のアカツキは、多分マックスの思い通りにやりたがらない。遠回しに助けてくれたのか。相変わらずいい男だ。
「んん……いやいや、俺は寛大なギルドマスター。とりあえず報告に耳を貸す男だぜ。話しなスワン」
「うん。弁明の余地を賜り感謝するよ偉大なるアカツキ。
……我々【草の根】は、未だ宝珠を発見できていないヘヴン階層に二つの任務を持ち突入した」
「ヘヴン階層の白の宝珠の発見・回収。そして【夜明けの月】の所持する赤の宝珠の奪還。それが任務でしたね」
【象牙の塔】イツァムナ。事実上の【セカンド連合】No.2。普段は会議でも口を挟まないのだけれど、今回は……マックス同様、気を遣ってくれているのかな。
「その二つの任務については、どちらも失敗に終わった。宝珠獲得クエストは最終的に【夜明けの月】が勝ち取り、宝珠を持っていないために赤の宝珠への挑戦権も得られなかった」
「うん。やっぱりどう聞いてもダメだろ。何も良い事ねぇじゃん。どうすんだ」
「haha.相変わらず我らが総司令官は短絡的だね。何も収穫は宝珠に限った話ではないだろう?」
【マッドハット】の……セリアン。
負けた手前、こちらからは言える立場では無いが。相応の収穫は持って帰ったつもりだ。
未知数の【夜明けの月】の戦力。武器や立ち回り。そして──謎の新人、ジョーカー。
「……そのジョーカーとかいう奴については、誰か知らねぇのか?」
「……【首無し】の情報網なら或いは、でしょう。かの首魁と直接交渉できる総司令が後で聞いて頂ければ」
【スケアクロウ】のイミタシオ。傘下に【井戸端報道】を抱える──つまりは情報通である彼こそが【首無し】の一員であろう事は、全員勘付いてはいるのだが。表立って言わぬが花、か。
「わかった。後で聞いておく。
……で。他になんかねぇのかよ。記念すべき最初の戦いに黒星飾ったんだ。もうちょっと欲しいんだがな?」
きっと、アカツキは子供じみた罰を下す。
ここにいる上位陣はいい。お互いにアカツキの愚かさを知り、カバーし合っているから。
だが問題は部下達だ。会議室を覗けない彼らにとって、格付けは重要なものだ。
……私の仲間達が軽んじられる事は、あってはならない。
だが、あの事を言うのはダメだ。流石に。
ならば。ここは私が背負えばいい。
「此度の失態、私一人によるものだ。指揮操作権を持っていながら成果を挙げられなかったのは私の責任だ。
ペナルティと言うのならば、どうか私だけに──」
「それはいけませんね、お嬢様」
扉を開けて現れたのは──私の側近、ヒョウ爺。
「……今日は同伴禁止のギルドマスター会議なんだがな」
「失敬。どうしてもアカツキ様のお耳に入れたい情報がございまして。お嬢様の口からは言い出し難いと思いまして、代理に」
「ヒョウ爺。やめてくれ」
「いや言え。俺が許可する」
ヒョウ爺が私の前に立つ。
会議主催者権限で私の声が出なくなる。おのれアカツキ。
それだけは、まだ言ってはならない──
「空間作用型のスキル。此度の《拠点防衛戦》にて、それが宝珠に由来するものだと分かりました。
ヤマト階層で見つけた赤の宝珠に対応するアイテム"赤髑髏"を持つスワンは【曙光海棠花幷】を習得。現在赤の宝珠を持っていないスワンでも発動可能であり、"赤髑髏"を奪い現在赤の宝珠を持つライズさんもまた発動できました。
即ち空間作用スキルは宝珠所持経験者が、何らかのアイテムを使用する事で習得できるものだと推測されます。
私の持つ"銀時計"も簡易的に空間作用スキルを発動できますが、背景を書き換える規模のものではありません」
今回最大の収穫。しかしそれは、彼女への裏切り。
「未だ見つからない120階層の宝珠。聞き込みでは対応色は黄色。
……いかがでしょうか。【Blueearth】で唯一空間作用スキル【黄金舞踏会】を使えていた──セリアン様」
唯一の空間作用スキル。
唯一見つからない宝珠。
セリアンが何を考えているのかはわからないが、これを公表すれば、面目躍如ではあろう。
その代償として──
「wow.バレちゃった?」
変わらず飄々とした態度。
しかし、アカツキの目は惑わされない。
「どういう事だセリアン。つまり何だ。この1ヶ月近く、最後の宝珠を探していたのは……無駄だったって事か!」
「宝珠を持っているか、なんて聞かれなかったからね。たまたま持っていたから交渉材料にしようとね」
「最初にその階層の宝珠を獲得した者には特殊クエスト【願い叶うは七色の宝珠】が発行される。つまりテメェは最初から! 宝珠の存在も数も知っていたって事かよ!」
「haha.その通り。別に違反はしていないだろう? 我々はお互いを利用し合うために集まっている。ワタシにとってこのレベル上限解放クエストは切り札だったのだが、【草の根】によって全員に公開されてしまったからね。なんとか価値を落とさないよう隠していたのだよ」
「だがそれもバレちゃおしまいだよなァ! どうするつもりだオイ!」
「どうすると思う?」
「えっ」
燃え上がるアカツキ、変わらないセリアン。
……それは、そうなのだけれど。
「ワタシが宝珠を持っていたとして、どうするんだい?」
「……よこせよ」
「hun.嫌だねぇ」
「宝珠持ちに決闘させて──」
「それは外部ギルド同士の話ですよ愚かなるアカツキ。【セカンド連合】内部ではその譲渡方法は使えません」
「今さらっと俺をdisらなかったかイツァムナ。
……えーっと、じゃあ【セカンド連合】から【マッドハット】を追放すればいいだろ!」
「オイオイ【セカンド連合】の財布番を追い出すのかよォ。資金繰りどうすんだ」
「えーっと……セリアンだけ追放だ!」
「ギルド連合では他ギルドの一個人を追放する事は出来ませんね。それにセリアンはギルドマスター。追放権を持っているのはセリアンの方ですね」
「むぬぬぬぬぬ……じゃあなんだよ。なんのペナルティも与えられねぇし、宝珠も手に入れられねぇのかよ!」
「non.宝珠は7つ【セカンド連合】が揃ったら必ず渡すよ。交渉で有利に立つための独占なのだからね。というより敵味方問わず所在不明である方が得とも思っていたんだよ?」
「えっ。……いや信じられるか」
「信じなくても変わらねーよアカツキ。【セカンド連合】が6つ宝珠を手に入れたら【マッドハット】を追放すりゃいいじゃねぇか。【セカンド連合】はその後間も無く解散するんだからよ」
……【セカンド連合】は本来トップランカーに追い付くための集まりだったが……もしレベル上限が解放したなら、その必要も無くなる。圧倒的なレベルで個々人で攻略すればいいだけなのだから。
「そういう訳さ。結局は変わらないだろう?」
「……いーや、大きく変わった。少なくともお前の評価は激落ちだ。俺は勝ち逃げだけは絶対に許さない。覚悟しておけよ。
今日はもう解散だ! おつかれさん! 俺はトップランカーに喧嘩売ってくる!」
飛び出して行ってしまった。
……結局はなあなあで済まされてしまったな。
「すまないセリアン。君にとっては損でしか無かっただろうに」
「haha.そろそろ公表するつもりだったとも。というより何故言わなかったんだい? それではいつまでたっても執事離れできないぞ?」
ぐっ。大人。
悔しいが……今回は皆に助けられた。何だったらアカツキのガキっぷりにも助けられた。お恥ずかしい限りだ。
隣のヒョウ爺も笑顔だが。そもそもこんな無茶をヒョウ爺にさせた事自体を恥ずべきだ。
「oh.そうだ。申し訳無いと思うのならば──"赤髑髏"を借りたい。ようやく大っぴらに空間作用スキル専用アイテムの研究が出来るようになったからね。量産出来るかどうか、私の物と一緒に試してみたい」
「勿論だ。どうせ私は暫く戦いに参加させて貰えないだろうしな。持っていってくれ」
「なぁセリアン。そのアイテムってよ、宝珠持ってたら誰でも空間作用スキルが使えるのか?」
「non.やや間違いだよマックス。宝珠に対応したアイテムを所持しなくてはならない。ワタシは"赤髑髏"を持っていても空間作用スキルは使えないし、宝珠を持ち回しているここのメンバーでも対応する色のアイテムを見つけない事にはね」
「……となれば、やはり【草の根】の出番ですね。【セカンド連合】副司令として枢機たるイツァムナが命じます。【草の根】は今回のペナルティとして未だ宝珠対応アイテムが見つかっていない階層へ赴き、それを見つける事。いかがです?」
「……その命、しかと」
落とし所はイツァムナが。ここまで読んで参加したのだろうか。
……救われた。今後しっかりと挽回しなくてはね。
──◇──
──攻略階層【満月】仮拠点
タルタルナンバンの小部屋
タルタルナンバンです!!!!
現在、【満月】【バレルロード】連盟にお邪魔させて頂いていますが!
ウチは【井戸端報道】第1編集部編集長補佐。そっちのお仕事もあるのです。
アドレの第6第7編集部からの記事を纏めて、ついでにヒガルの第3編集部の相談に乗って、第1編集部のシュケル編集長と進捗確認と情報交換して、バロン局長の暇潰しを横に流しつつ自分の記事を纏めています!
健全な取材は健全な肉体から。睡眠時間を削る訳にはいきませんので、あと一時間半でこれらを纏めます。毎日の事なのでどうって事ありませェン!
……おや。バロン局長からメールが届いています。またイタズラメールでしょうが、局長からのメールなればすぐ確認せねば。
──────
[バロン]:
『通話できる?』
──────
怖すぎィン!
しかし上司。爆速で通話を繋ぎます!
『……お疲れ様ナンバンちゃん。忙しいタイミングで悪いね?』
「いえ! 丁度耳が空いている時間でしたので! 緊急事態ですか?」
『いやね、お願いがあってね。【夜明けの月】関連なんだけれど』
「……今の私は、その辺がかなりグレーラインですけれど大丈夫でしょうか?」
【井戸端報道】は【スケアクロウ】に間借りしている団体。大枠では【セカンド連合】に属します。しかし私はバロン局長の勅命を受けて【井戸端報道】に合流するための手段として、【セカンド連合】と敵対中の【夜明けの月】……と関係の深い【満月】にご協力頂いています。
一応ポジションとしては中立なので、【井戸端報道】本部までは背反行為とカウントされない事になったのですが……かといってあまり【夜明けの月】に偏るのも宜しくないのです。
『いやいや、君にしか出来ない事だ。
【夜明けの月】に一人、新しいメンバーが増えている。恐らく彼への取材は君を指名されると思うんだよね。【夜明けの月】は情報統制が厳しいから』
「それは確かにそうですね。【夜明けの月】とはよく独占取材させて頂いてます」
『そこで、その新入りの情報を【セカンド連合】として収集して欲しい。勿論聞ける範囲で構わないが──』
「わかりました! 何から何まで毟り取ってやりますゥン!」
これは腕が鳴るってものです!
『……いいのかい? 【夜明けの月】とは良好な関係を築いていただろう』
「いくら仲良くても私は【井戸端報道】で、ポジションは【セカンド連合】。そこを履き違えるメアリーさんじゃないので! 元より【セカンド連合】に流せる程度の情報しかお出しされませんよ!
嘘だけは回さないようしっかり見極めさせて頂く所存ですゥン!」
『そ、そっか。じゃあ任せたよ』
さぁて、最近は仲良しさせて頂いてましたが、私はマスコミ。取材という舞台で戦う孤高の戦士ィ!
……おっ。メアリーさんから連絡きました!
よーし。やったるでー!
──◇──
「いやー……ナンバン君を選んで良かったなぁ」
「【首無し】候補ですか?」
「んにゃ。シュケルを蹴落として【井戸端報道】を任せようと思って」
「えっ初耳なんですが」
〜その者達、自由につき1〜
セカンド階層。
第80階層〜トップランカー3ギルドまでの間がそう呼ばれている。
レベル上限、階層攻略難易度、フロアボスの挑戦権制限。全てにおいて大きな壁となる79階層。
そして誰もが手を伸ばすも届かない遥かなる高み、トップランカー。
この二つの壁に挟まれた奈落こそが、セカンド階層である。
そして今その奈落を支配しているのは【セカンド連合】。
即ち奈落からの脱出を目的としたギルド連合である。
セカンド階層には既にソロプレイヤーや解散してしまったギルドの溜まり場みたいな所はあったが……丸ごとひっくるめて巨大な組織となってしまった。
長い物には巻かれろ。最後に巻き返せ。誰もが【セカンド連合】に属しながらも出し抜く気満々。
【セカンド連合】に属さないセカンドランカーは非常に少ない。【飢餓の爪傭兵団】傘下の常駐ギルド、トップランカーへと駆け抜けた【ダーククラウド】、商人という中立ポジションで手を出し難い【満月】とその相方【バレルロード】、最近目の敵にされている【夜明けの月】……。
そして、最後。これらとは一切の関わりが無く、理由も無く。【セカンド連合】に属さず好き勝手やっている連中がいる。
その名は【喫茶シャム猫】。
艱難辛苦乗り越えたり越えられなかったりする他のセカンドランカーを横目に、連中だけは何故か飄々と攻略を続けている。
勿論【セカンド連合】からの圧力もある事にはあるが……あまりにもあんまりな連中なので、総司令アカツキをして"あいつらは別にいらなくねーか"と言わせしめているのだ。
遅くなったが、俺の名はカズィブ。
【首無し】に属する情報収集班だ。【セカンド連合】結成直前に【象牙の塔】を脱退し、傭兵として90階層に拠点を構えつつセカンド階層の各所で情報を集めている。
今の俺の仕事は【セカンド連合】に属さない者の動向を探る事。目下担当は【喫茶シャム猫】だ。
これは、俺がただひたすらにふざけた連中の行動を殴り書いた呪いの文章である。




