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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
城下町アドレ/ウィード階層
21/507

21.イバラの鞭、ゲロ甘い飴

【ライズのログハウス】


「外はそこまで広くないが、庭も一応ある。ペットはそっちに頼むムネミツ」


「わぁー見たことない設備。そもそも攻略用セーフティエリアで《簡易ハウス》使うの、余程の大規模ギルドくらいでしか見た事ないですね僕」


「金はめちゃくちゃ余ってるからな。維持費の自動引き落としに1年間気付かなかったくらいには」


「……この規模だと【蒼天(ウチ)】の家賃すら超えるわよね、維持費だけで」


ロビーにはライズとアイザックさんとムネミツさん。

ナツさんと飲み物取りに来たけど、なんかオトナな組み合わせね。


「しかしムネミツのおかげで相当早く進んだが……やっぱり移動手段は必須だな」


「自前で用意するのならゴーストのサブジョブを【ライダー】にするしかないわよね。メアリーちゃんのサブジョブ解放までは遠いし」


「ゴーストはヒーラー路線が良いって言ったからな。本人の意思は尊重したいな……どこかでスカウトかけるか」


「そういえばセカンドランカーの《コントレイル》はライダー系が凄く多いらしいですね。何でも全員飛行部隊だとか」


「飛行系も必要にはなるが、それだけなのは頂けないな。空中戦は足場が少なすぎて連携が取りにくい。それにセカンドランカーまで行った連中はそう簡単に引き抜く事はできないよなー」


「新しい子を育てるしかないわね。でもサモナーやクリエイターは依然として不人気だからねぇ」


「サブジョブが発見されて一層ですね。メインに据えなくちゃいけない理由もなし。僕みたいな物好きのジョブですからね」


「あー……そうだな。せめてドーランで確保しておきたいな……ちなみにムネミツ君」


「あ、抜け駆け禁止。【蒼天(ウチ)】にも欲しいわムネミツ君。割高で契約するわよ?」


「僕はちょっと暴力沙汰がトラウマで……」


「「ごめんなさい」」


……押しの強い二人を一言で完封した。強いなムネミツさん。




「いい風呂であった。牛乳はあるか?」


「一通り冷蔵庫にあるぞ。自動補充契約もしてるから好きに飲み食いしろ」


「マジで?」


ベルグリンとニワトリ君が駆け足気味に冷蔵庫を開き、ゆっくりと閉じる。


「高級食材ばかりではないか! 気が引けるわ!」


「食べ放題だが?」


「「頂きます!」」


なんかさっきから凄いリアクションばっかり。

……あたし、このログハウスしか知らないけど。もしかしてかなり特例なの? ここ。


「ライズ。飲み物ある?」


「お、ベル。風呂上がったか。好きそうなの揃えといたぞ。

 リンゴジュースと、ドライフルーツスライスと、クルミと、ピスタチオと……」


「好みを把握されすぎてちょっと気持ち悪いわね。ゴーストとのんびりするからゴーストの好きそうなものも頂戴な」


「answer:好みは現在捜索中です。ベルと同じものを食べたいです」


「うちの娘可愛すぎない?」


「いや俺の娘だが?」


「あたしの娘よ散りなさい」


どうやらゴーストはベルの事をかなり気に入ったようで、暇さえあればずっと一緒にいる。

母性でも感じてるのかしら。あたしが母親なのに。

ゴーストはベルと一緒に部屋へ。今日はそのまま寝ちゃうかもね。あたしは……1人は寂しいからナツさんと寝よう。


「そういえばライズ。夜通し攻略するぜーとか言わないのね」


「悪魔か俺は。無理に頑張りすぎるとメンタルやられるからな。ここでリフレッシュしてもらう。

 メリハリが大事なんだよ。あのクエスト地獄の後に安物のテントで野宿とか嫌だろ。気分的に」


正論。それは言えてる。

ライズはこう……自分自身は結構捨て身な考えをしてるけど、それはそれとして他人には配慮してるというか、自分と他人の違いを弁えているというか。


本当にモテそうな性格してるわね。本性が妖怪だから振られそうだけど。


「お、そうだベルグリン。この《酒樽》……どうよ?」


「ぶはっ、それインテリアではないのか!」


明らかにデカすぎる樽を転がす。大男のベルグリンでも抱えるくらいよコレ。


「いやぁ〜買ったはいいけどウチの連中で酒飲む奴いなくてよ。お前は結構呑むらしいじゃん。どうだ?」


「いや嬉しいが、うちの酒怪が黙っておらん……」


「えぇ〜それもお酒なのかい? よこしなぁ!」


オオバさん乱入。既に酔ってる! そして樽で飲んでる!


「あぁ……程々にせよオオバ」


「あによ。あたしの酒が飲めないってぇの〜?」


「お前の酒ではないのだ……」


「ヒャッハー! ライズさん、ちょっとチーズとかお借りしますね。おつまみ作るんでご要望あれば」


「君本当に良い奴だね」


「ナツちゃん。大人共はほっといて部屋いこう」


もう逃げよう。絶対面倒になる。

何故ならほろ酔いのアイザックさんが厨房に行ったのが見えたから。




──◇──




──翌日

【第5階層ウィード:魔蟹の滝壺】


「はい、ではクエストを再開していきますね」


あんなに苦戦したセルナンツ川も、川自体を横断できる上に足場にもなる《イグアノドラン》三兄弟のおかげであっという間に攻略できた。

ここも川にイグアノチームが待機してくれるおかげで、川に突き落とされてもすぐに復帰できた。すごいヌルゲー。


なお、レアエネミー《セルナンツ・キングクラブ》が出現すると《首領(ドン)・ドラゴニカ》がブチ切れタイマンしに行った。キリがないので途中でムネミツが呼び戻したが、満足した模様で随分と上機嫌だった。


「……《蟹の王》の称号貰っちゃったんですけど、僕が倒したわけでは……」


「まぁムネミツのペットがやった事だからな。それより構えとけよお前ら」


ライズはムネミツさんを近くの木まで誘導して──縄でくくりつける。


「当然っちゃ当然だが、《蟹の王》の称号を持った奴は執拗にセルナンツクラブに襲われる。てわけで、蟹の食べ放題だ。一気に討伐系クエストを稼ぐぞー」


襲いかかる蟹達。川を埋め尽くす甲羅。これはキモい。


「ちなみにムネミツが称号取らなかったら俺が囮になって戦闘は任せるつもりだった。運が良かったな」


ナイスムネミツさん!




──◇──




【第6階層ウィード:枯れ木野原】


「やっと帰ってこれたわね」


ここからは陸路なので再びスベスベカタツムリの《らせん丸》とウィードホースの《冥王》《海王》に出番が回ってくる。


……もう出てこないわよね? 何となく空を見上げる。


「至って快晴である。まぁあの日も晴れていたが」


「やめてよ。マジで」


状況が状況だったから、突然天気変わる可能性だって否めないんだからね。勘弁してほしい。

しかしまぁ、ちゃんと元通り。至って普通の景色だ。魔物の姿もちらほらちゃんとある。


「来たか【夜明けの月】」


待ち構えていたのは自警団【アルカトラズ】のブランさん。調査は完了したとは言ってたけど、まだ顔のない部下を引き連れている。

なぜかベルグリンは一歩引いているけど。


「ベルグリン。かつての毒牙よ。貴殿の裁決は下った。新たに罪を犯さない限り、我々《拿捕》の輩が不当に貴殿を捉える事はない」


怖がらないで出ておいでって事ね。

【アルカトラズ】は冒険者間のいざこざを解消するための組織だから、ちゃんと冒険者自身で解決できるなら強硬手段には出ない。《拿捕》の輩といえど強制執行まで行くことはほぼ無いらしい。

数日間王宮でお世話になったけど、ブランさんは割とユーモアのわかる優しい人だった。立場上厳格にしなければならないが、肝心な所が甘くてスレーティーさんに怒られたりしてた。


「で、なんでここに?」


「一応安全は確保したが、それで手を引けば冒険者は不安だろうと思ってな。志願者には階層を通り抜けるまで警護を預かることにした。貴殿らはどうする?」


「そうだな……確かにあんまここには滞在しない方がいいな。言う通り、護衛を依頼しよう。頼むブラン」


「請け負った。この白き(つるぎ)のブランに任されよ」


ライズは一応の安全策を取る事にしたみたい。

ブランから差し出された手に少し戸惑って、キョドりながら握手した。情けねぇ〜。


「……一応、何があるかわからないからな。この階層はクエストを受けずにスルーだ。《拿捕》の輩の連中にも1人以上は荷台に乗ってもらうか……どう割り振るかな」


また脳トレみたいな編成考慮ね。

何かが起こった時の対処もできる編成にしないといけない、とごちるライズ。めちゃくちゃ警戒してくれてるわね。


ベルの《らせん丸》にはベルグリンと監視役のゴーストとアイザック、そこに《拿捕》の顔のない兵士さん。

緊急時にライズの指示無しでも動ける大人組に、指示に的確に従うゴーストを配置した。


《冥王》は自動操縦でライズとニワトリ君とナツさん。そこにまた顔のない兵士さん。

レベルに不安のあるチームをライズが直接指揮取って行動できる。数も最小限に。


《海王》はムネミツさんとオオバさんとあたし、そこにブランさんを乗せた。

1番安全圏となるブランさんの側に、比較的直接戦闘のできないメンバーを集めた。

……多分、ライズはなんやかんや言ってあたしがブランさんと同じチームになるようにしたんだろうけど。1番安全に気を遣われていて、悪い気はしないわね。




出発。枯れ果てた湿地を駆け抜ける。

クエスト地獄の時は馬車で死んだように休憩しながら景色を見ていたけど、今日は余裕があるので雑談していた。


「……ちょいと【アルカトラズ】に聞いてみたいんだけどさ。あたし達【草原の牙】って結構やらかしてたってか、『冒険者同士の争い』の見本みたいな事してたけど。何で見過ごされてたんだい?」


「ふむ。具体的な選定基準は秘匿なので答えられないが……大雑把に言えば、『特に違反してないから』だな」


ブランさんは1番後ろ、直ぐに外に出られる位置を陣取り答える。


「確かに冒険者同士の争いに派遣されるのが我々《拿捕》の輩だ。度が過ぎれば強制執行も止む無し。実際に【草原の牙】に対する要望書も【アルカトラズ】には数件届いてはいたしな。

 だが、君たちは基本的に【決闘】で話を進めていたからな。まぁ受けざるを得ない状況を作る際にやんちゃしていたのは事実だが、拠点階層で《敵対行動ペナルティ》を受けた訳でもなく……まぁつまり、罪の観点で観たら誠実なギルドだったのだ君たちは。困った事に」


攻略階層では(当然だけど)《敵対行動ペナルティ》は発生しない。【草原の牙】が拠点階層に全然帰ってないから、ペナルティなんて発生する筈も無かった。


「例えばPK(プレイヤーキル)などの人道に反する悪き行いは直ぐに止めるがね。……君達の計画が上手く進んだとして、【蒼天】とのギルド決闘もまあ合意の範疇なら動かなかったかもしれないし、【蒼天】に通報されて強制執行したかもしれないね」


……結構綱渡りね。オオバさんは何かを考えているけど。


「……ねぇ、例えばさ。この先のドーランなんだけど──」


「──言いたい事もわかるが、アレは法に則った()()と《審理》の輩が判決を下した。ルールの上では、少なくとも冒険者同士の争いとは判断できない」


オオバさんも、ムネミツさんも少し表情が曇った。え、どうしたの?


「ねぇ、何の話? あたしにも教えてくれない? ……話し辛いならいいけど。黙ってるから」


「あぁごめんなさいメアリーさん。そうですね。ドーランへこれから向かうなら知るべき情報です。ライズさんからは何か聞いてませんか?」


「着いたら説明するって言ってたかな」


あぁ〜、と頭を抱えるムネミツさんとオオバさん。どゆこと?


「ライズさんはアレだね。説明苦手なタイプだね。あたしが教えてあげるよ。ドーランはね、商人が牛耳ってんだよ」


「……その反応からしてオオバさんもアレから逃げたクチですか? 少なくとも僕はそうです。もう戦うの嫌だなーってなって降りてきちゃいました」


「あたしは……あたしも逃げたね。下の階層なら追ってこないと思ってたけどまだ追われて。空腹のベルグリン達が助けてくれてね。それで【草原の牙】に入ったんだっけか」


なんか、凄い嫌な感情を感じる。ブランさんもそれを見て辛そうだ。


「……私は、《拿捕》の輩は争いをこの白き劔で収める事しかできない。傷付いた君たちを救う力が無い。申し訳ない」


「いいんだよブランさん。結局手を出したのは僕だから」


「あたしは手を出さなかったけどね。……ま、メアリーが置いてかれてるからちゃんと説明しようかね」




──その後、あたしは聞いた。

次の階層、ドーランで何が起きているのか。

どんな悪意が渦巻いているのかを。




──◇──




次の転移ゲートまで辿り着き、全員馬車から降りる。

ブランさんとはここでお別れだ。


「では、良き旅路を。【アルカトラズ】は裁定者だ。悪き行いを裁きたい時は頼ってくれ。──執行の許可さえ降りれば、必ず結果を出そう」


さっきの話もあるからか少し険しい表情のブランさん。

あたしも少し眉間に皺が寄ってたかも。ライズが変に心配してる。


「ライズ。ドーランの話、聞いたから」


端的にそれだけ伝える。ライズは小さく頷き、あたしの頭に手をのせる。


「いい話は聞けなかったろ。モチベ下げたくなくて黙ってた。ごめんな」


「いらない気遣いを辞めろっての。モチベはこっちでコントロールするからちゃんと情報流せ。悪い癖よきっと」


「……言われた事あるわ。散々。治す治すって言ってまだ治ってないな俺。ごめんな」


……撫でんなロリコン。



〜おもしれー魔物達〜

《寄稿:【頂上破天】ギルドマスター スパイラル》


スパイラルです。セカンドランカーになりました。

ギルドマスターのスパイラルです。そうです。元サブマスターの。出世ではなく繰り上がりです。

元マスターは一時的に【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】へ出向していますので、この短き天下を満喫しますスパイラルです。


今回は面白い魔物! の、紹介です。

階層攻略には必須となる足、あるいは【サモナー】系列の武器。我々と敵対する事もあれば味方にもなる、美しい魔物達。

そんな中で面白いと思ったものをご紹介します。スパイラルです。ギルドマスターのスパイラルです。


・《まんまんぽてまる君》

全ての階層に生息する、争いを嫌うフライング餅。いいえ餅なのかどうか判明しておりませんが。

謎生物。そう呼ぶより他ありません。

わかった事といえば、本当にどんな階層でも出てきます。尻すぼみ的に減っていく冒険者と比べ、彼らの出現率はどの階層でも同じだと思います。

最近判明した事ですが、サイズ差があるように見えた彼らは、ただ気分で膨張収縮をしているだけで元のサイズは個体差がないようです。

だからなんなんですか。


・《フォレストタンブル》

10〜19(フォレスト)階層に出現する、風に揺れて地を回転する植物系魔物です。

核となる部分を覆うように、蔦なのか根なのかわからない触手で身を守っています。しかしその職種の攻撃はぎこちなく、直線的な動きしかしません。

フォレスト階層でセーフティエリアを展開せずに休憩していると、静かに忍び寄る彼らに栄養を吸われ倒されてしまうなんて事も。こわいですね。


・《エアシェル》

50〜59(オーシャン)階層にて出現する、空気を生み魔法の泡を作る貝です。

彼らは外敵から身を守るため、自身の周囲を陸と同じ環境にしたとされています。陸に上がった魚など恐るるに足らず。

オーシャン階層の水中戦では生命線です。点在するエアシェルを活用し酸素を補給しなくては、やがてスリップダメージで倒れてしまいます。

超大型種の《コロニーシェル》はセーフティエリアの展開すら可能ですが、陸に適応した魔物が生息している事もあります。ご注意を。


・《ウォーキングハエトリグサ》

40〜49(サバンナ)階層に生息する、歩く巨大ハエトリグサです。ハエじゃなくても食べます。

サバンナは食物連鎖が逆転しているので、動く植物というのはマジでヤバいです。

超速回復する5mくらいの肉食植物があっちこっち彷徨いてる様は地獄です。

変異種ダッシュウツボカズラも面白いです。こいつはチーターより早く走り、そのまま袋に獲物を閉じ込めるサバンナのひったくりです。笑えるけど洒落にならない光景です。


・《エターナルメモリー》

60〜69(ロスト)階層に出没する、浮遊クリスタル。滅びた都市のロストテクノロジーです。

魔法で攻撃してくるので早期撃破が鉄板ですが、今回説明したいのはその性質です。

過去の現象を記録し再現する性質があり、それで魔法を放ってくるのですが……

稀に、ここで攻略していた冒険者の言葉を記録しているものがあります。

なんと我がギルドの元マスターはここで同僚に愛の告白をし、盛大に振られて泣き崩れたんですがね。

それ記録されてたっぽいんですよね。

さぁ皆さんも、どいつが記録してるか探してみて下さい。きっと攻略のモチベーションも上がりますよお。



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