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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
天上雲海エンジュ/ヘヴン階層
208/507

208.その足は止められない


レイドボス。

ゲームである【Blueearth】において、10階層毎に纏められた大階層に一体設置された、特殊なボス。


その存在は【Blueearth】が侵攻している新世界サーバー【NewWorld】においてはセキュリティシステムの一つ、ウィルスバスターを基にしている。


そのため、レイドボスが冒険者に直接手渡したアイテムには"レイドボス特効"──より正確にはセキュリティシステムのワクチン──が付与されてしまう。


70階層(ヒガル)のレイドボス"焔鬼大王"は、宝珠がレイドボスと関係が深いと言っていた。

あとそもそも宝珠を持ち込んだ【セカンド連合】を追放するために《拠点防衛戦》を開催した。


「宝珠もまた、レイドボス特効なんじゃないか?」


「あながち間違いじゃないな。だが宝珠を持っているからといってお前がレイドボス属性を得る訳じゃないぞ」


ヒガルの大鐘楼で、焔鬼と世間話。

監視の目……はともかく、耳は届かないこの場所では、こういうシステムの根幹に関わる話も安心してできるってものだ。


「宝珠はレイドボスの半身と言えるな。だが意思を持たないデータの塊だ。

存在がコンピュータウィルスであるお前ら冒険者は、宝珠に触れると自動でその中のデータを読み込み突破手段を手に入れる。それがレベル上限解放の仕組みだ」


ゲーム攻略=【NewWorld】侵略。

故に、冒険者が強くなるという事はウィルスが強くなると同意味であるわけだ。


「ただ、宝珠によって初めて得られたボーナスならピンポイントに封じる手段はある。

……俺の判子のように、宝珠を抑える素材(データ)は一定数存在する」


焔鬼がレベル100の上限を突破させる時は、宝珠が埋め込まれた判子を直接当てている。

成程。宝珠は宝珠で対策手段がある訳か。


「だが宝珠を対策する必要は無いだろ。意思も無い、自動で強化できる便利アイテムだぞ」


「気になっただけだ。未知だった宝珠の情報が、また別の未知を明かす事もあるんだよ」


知っておく事に越した事はない。

……ひとつだけ、気になっている"未知"があったからな。




──◇──




【第80階層 天上雲海エンジュ】


──第4種目"紙相撲"

場外負けアリの乱闘。


赤き庭園は砕かれた。

やはり。仮説は正しかったみたいだ。

あそこまで大見得切ってハズレだったら恥ずか死ぬ所だった。


拠点階層は例外なく、自らで辿り着かなければ転移する事はできない。

それに足す形で、攻略の優位性を得るためにトップランカーが情報を出し渋ったり、それをセカンドランカーが真似たり……。

そのあたりが原因で、セカンド階層以降の情報には謎が多い。

特に目立つのは"特定個人しか持っていない例外枠"の存在。

【至高帝国】ギルドマスターのスペード以外に存在しないジョブ【フェイカー】とか……

……謎の"空間作用型スキル"とか。


「やっぱりな。空間作用型スキルは宝珠と深い関係があるって事か」


130階層(サカズキ)の宝珠を見つけたのはスワンだ。今は宝珠を持っていないが……資格はあるって事か。


「【曙光海棠(あかきかいどうの)花幷(はなあわせ)】……破られるとはね。一度発動さえすれば逃げられないと思っていたけど」


「バランス悪すぎるだろ。あのミカンが苦労してやる事をそんな簡単に出来るとは思えないんでな。

大方、まだ俺たち冒険者が対抗手段を見つけられて無かったってだけの話だ」


あまりに発動者有利すぎるからな。

だからこそ焔鬼から判子の破片を貰っておいた。


少なくとも、今この場では──俺だけが空間作用型スキルを突破できる。


「仕切り直しだね。【スイッチ】──【月詠神樂(ツクヨミカグラ)】!」


「そうだな。【スイッチ】──【簒奪者の愛(ゲットバッカ―)】」


片手剣と短剣では、圧倒的に片手剣側が有利になる。そもそも短剣は武器同士のぶつかり合いなんて想定されていない。相打ちすら発生しない。


それでも。ダメージを受けてでも、【簒奪者の愛(ゲットバッカ―)】で挑む必要があった。


「──まさか、狙いは──【スイッチ】!」


「遅い! もう奪ったぞ!」


幾度か打ち合った後、こっちの狙いに気付いたスワンは【反重力(アンチグラヴ)電磁砲(・レールガン)】に切り替えて後方回避するが──


簒奪者の愛(ゲットバッカ―)】で付与される"窃盗"ボーナスで、もう狙いの物は頂戴した。


恐らく宝珠単体では使えない。むしろ一度宝珠を入手した奴なら、今宝珠を持っていなくても使える。

ならばトリガーは──この"赤髑髏"!


「スワンの赤の宝珠は俺が持っているからな!」


「まさか、そんな──」




赤き花道。出口の無い枯山水。

このスキルは、



「──【曙光海棠(あかきかいどうの)花幷(はなあわせ)】!」




──◇──




ドロシー&リンリンvsバン


「──【サテライトキャノン】!」


「"スライドギア"……っ!」


数度。"スライドギア"による回避を確認したので、もう回避させません。

今回の【サテライトキャノン】は──リンリンさんごと巻き込んだので。


「味方を……か。やりおる」


「でなければ勝てなかったので。強敵でした。バンさん」


「……ふん。ここまでして、1人と倒せんとはな。不甲斐ない」


バンさんが消滅。リンリンさんは──"腐食"の影響で耐久値が削られたためか、鎧も盾も壊れてしまいました。インナー姿のまま、僕に駆け寄って来ます。


「ご、ごめんねぇドロシーちゃん。怪我はない?」


「いえ、お陰様で無傷です。不意打ちで巻き込んでしまってごめんなさいリンリンさん」


「だいじょうぶだよぉ。【サテライトキャノン】掠ってもいいようにHP管理してたから」


そのまま僕を抱きかかえるリンリンさん。

感極まって、という訳では無く。現在僕を守る手段が無いから警護のつもりらしいです。凄い。本当に"防衛"のプロですね。窒息しそうですけど。


「リンリンちゃん、ドロシーちゃん! そっちは終わった?」


「あ、カズハさん。遠巻きながら見ていました。3人狩り、凄いです!」


リンリンさん、あの状況で余所見してたんですか。

……ミカンさんは脱落しましたが、あと1人。アイコさんは……?


「アイコちゃんはまだオニバス君と戦ってるよ。最後まで1対1でやりたいってオニバス君からの申し出があってね。こっちを優先する事にしたんだけれど……もう倒してたね。偉い!」


褒められるのは嬉しいけれど、やった事は苦し紛れに味方を後ろから撃っただけなので……。


ともかく、そうなると残るは──あの結界だけになる。


「一瞬見えたけれど、結界解除してまた結界張ったよね? 今度はライズ君が」


「は、はい……。わ、わたし達も準備しましょう」


破損した防具の残骸をインベントリに収納して、大剣【ディバインセイバー】を装備するリンリンさん。


カズハさんも、言葉を交わすまでも無く立ち上がる。

2人とも、"仕事として"ライズさんが負けた場合を想定しています。

……どちらも心の中では、負けるなんて微塵も思っていないのに。




──◇──




──枯山水に一本の木。

満開の桜……じゃなくて、海棠の花、らしい。知らんが。


「確か……【パラレル】だったか」


天国送り(エンジェル・バトン)】が。

月詠神樂(ツクヨミカグラ)】に【雪月花】。

【生き血を啜るデモンアクス】【灰は灰に(アッシュ・マッシュ)】【壊嵐の螺旋槍(タービュランス)】【簒奪者の愛(ゲットバッカ―)】【双頭の狂犬(オルトロス)】【封魔匣の鍵(パンドラ・カリギラス)】【煉獄の闔(ケイオス・エイギス)】【焔鬼の烙印】……。

今の俺のインベントリの25の武器が展開される。

そして最後に、【朧朔夜】。


「はは。これはこれは。相手にする側に立つと、たまったものじゃないね」


「だろ? 頑張って攻略してみな」


──使い方は、変わらない。勝手にインベントリ内が公開されている分、普段より弱体化しているまである。

だがこの力、ここでモノにしないとな。この後が控えている。


「──なぁ、ライズさん。楽しいかい?」


「ああ楽しいよ。初めてのセカンド階層、最初の相手が【草の根】なんだからな。楽しすぎて申し訳ないな」


「それは良かった。では──【スイッチ】──【月詠神樂(ツクヨミカグラ)】」


見慣れた剣も、俺以外が持っているのを見るのは新鮮なもんだ。

本当に、最初の相手がスワンで良かった。


「【スイッチ】──【月詠神樂(ツクヨミカグラ)】」


「いざ──」


二振りの宝剣。その打ち合い。

本日何度目だという話だが。これが最後だ。


七色七閃。その全てを、相手を倒すために。


「「【七星七夜】!」」




──◇──




──かつて。

彼の自由さに憧れた。

彼の奔放さに憧れた。

人知れず周りに助けられているその背中にも憧れた。


私は、そうなりたかった。


本当に?


そうでは無かったのかもしれない。


"あの人の代わり"から始まった【草の根】は、あの人が復帰してからもそのまま。


私は"私"になってしまった。


全てにおいて"あの人"に劣っているのに、"私"である事を望んだ。

それを、周りが原因かのように思い込んで。


勝手に背負って、自分を騙してきた。


だから。


かつて憧れた貴方。


変わらずに全てを楽しむ貴方。


貴方だけは、変わらないで。




──◇──




『──そこまで。第4競技"紙相撲"を終了とする』


"ヘヴンズマキナ"の宣言と同時に、空から機械天使──エンジネル達が舞い降りる。

俺たちを抱えてステージまで戻してくれるみたいだ。助かる。


「ライズさん。負けたよ」


「ははは。まだまだ後輩に負ける俺じゃないぜ」


武器損壊18種。

遂には【朧朔夜】まで使ったのでMP0のデバフ状態。

強すぎるぞスワン。こっちが有利だったはずなんだが。


「じゃあ、後は任せたよ」


「馬鹿言え。マスターに宜しくな」


客席のヘロンも連行されている。【草の根】はこのまま"ヘヴンズマキナ"の腹に格納されるのだろう。


中央ステージには、ミカンとジョージとツバキ。


『……さて。これにて"白天宝珠争奪戦"前半戦は終了となるね。ここからは──』


「その頭の宝珠を奪う戦い、か。このままやるのか?」


『いや、【草の根】との戦闘前の状態に戻ってもらう。でないとリタイアしたミカンが参加出来ないからね』


よし。

実は一歩も動けないのである。


エンジネルが何か光の波動を浴びせてくれると、壊れた武器達が元に戻っていく。

リンリンの鎧が戻ったのはデカいな。あれ修復にめちゃくちゃ時間とコスト必要だからな。


「ライズ君。さっきの、凄かったね?」


「ですです。空間作用スキル、超強いのです。これは勝ち確なのです」


「ははは。間違いない。──あっ」


インベントリを探す。


無い。


「【草の根】との戦闘前に、戻るんだよな?」


『そうだとも』


表情は変わらないのに、なんか腹立つ顔に見えてきたぞ"ヘヴンズマキナ"。


──【曙光海棠(あかきかいどうの)花幷(はなあわせ)】発動に必要な"赤髑髏"が、無い!


『ではでは──そろそろ始めようか。最後の戦いを』


くっそー。レイドボスなんて碌な奴がいないなぁ!

〜【夜明けの月】サプライズ戦争6〜


【第30階層 氷結都市クリック】

"アイスライクサプライズモール"

B4F メイド喫茶【萌え萌えQ.E.D】


「最高の仲間に感謝」


「早い早い早い。店の前で膝をついて祈るな気持ち悪いなぁライズ」


数時間クローバーとモールをうろつき、足湯を堪能し、俺は何故わざわざ野郎とデートしてんのかと思っていたが、最後にここに到達した事で全てを理解した。


なんだよもう最高だな【夜明けの月】いやっほう。


……と、舞い上がっていたものの。少し冷静になる。


「【夜明けの月】って……お前と俺くらいだよな。外見が普通な男なの」


「俺も今や古参の方だと思ってんだがなぁ。まさかあれから1人も男が入ってこねぇとは」


「……感謝してるわ本当。ありがとな」


「まァ……俺が着るのは流石に違うだろ。メイド服」


「そんな事されたら流石にぶちのめす」


かの"最強"とまるで友達みたいな感じなのは如何なものか。

……と、気にするほど浅い関係でもなし。


意を決して、天国の門を開く──




──ここが楽園か。


「おかえり。まぁ座りなさいよ」


「信じられないほど態度悪いなメイドメアリー。アリだな」


「……マジでメイド服着るだけで判定甘くなるじゃないの。これ悪用されない?」


ゴーストはいつもの事だが。

【夜明けの月】女性陣──ドロシーやジョージまで、全員がメイド服。

え、わざわざこの為に店を貸し切ったのか?


「こ、こちら、オムライスです……」


「いやデカいな。いやデカすぎるだろ。何書くつもりなんだよリンリン」


「ら、らぶらぶお絵描き、します。みんなで」


「それはもう寄せ書きなんだよ。やってもらうけども」


引っ込み思案のリンリンも、その隣のミカンもメイド服。ロングスカートで露出を抑えたリンリンのクラシックメイド服もいいし、人形のように可愛らしいフリル満載メイドのミカンもいい。

……が、どちらも率先してメイド服を着る性格じゃない。わざわざこのために着てくれたというのは、なんというか父性が湧き出てくるものがある。


「……どうですかライズさん。楽しいですか?」


「やはり送るなら物より体験だと思ってね。ライズ君はそういうの、好きだろう?」


ドロシーにジョージ。発案者はお前達か?

……2人は前にここでメイドをした事もある経験者だ。もうなんか性別で2人を見ていないフシがあるが、2人とも男……だよな。いやジョージの身体は間違いなく女の子なんだが、あぁややこしい。

2人とも気遣いの達人だ。ドロシーに関しては"嫌でもわかってしまう"所もあるのだろうけど……


「そういうの、今日はナシですよライズさん。お願いですから楽しんで下さい」


……言われてしまった。そうなるとまぁ、従うしかないか。


「ほらライズ? あたしのメイド服、久しぶりじゃない?」


「あはは。高校の時にメイド喫茶やったの覚えてる? 昇君」


──性癖の破壊者2人。ツバキとカズハの襲撃。

衝撃で椅子から転げ落ちる。危ない危ない。両サイドから来たから後ろに倒れるしかなかった。


この2人は間違いなくノリノリで着る。そして絶対似合う。

というか【三日月】時代と高校時代に見た2人のメイド姿の記憶が脳にこびりついている。忘れるわけ無いだろ。


「……で、ライズさん。ここで主催者のメアリーちゃんから一言ですよー」


アイコも、自分が着替えるのはあまり好かないらしいのにメイド服。優しさが染みる。


……で、主催者。メアリーが俺の前にドカっと座る。態度。


「……ライズ。今後も励みなさい。期待してるわ」


気恥ずかしいのか、ただそれだけ。

言い切ってからはすぐにゴーストとチェンジして後ろに逃げる。可愛らしいところあるなメアリー。


「……わかったわかった。俺のためにここまでやってくれてありがとうな、お前ら」


流石にここまでされちゃ仕方がない。

こいつらに返せるものがあるのかわからないが、一所懸命に頑張らせてもらうとしよう。


……時に。


「クリックNo.1メイド喫茶であるここを貸切にする程の金はどこから?」


「………………必要経費よ」


いや、異論無いけどさ。


やっぱ俺必要だわ。

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