207.曙光海棠花幷
──◇──
"白天宝珠争奪戦"
宝珠獲得クエストの発行を賭けた勝負
【ルール】
・"ヘヴンズマキナ"が提示する複数の競技を攻略していく。
・【草の根】21名と【夜明けの月】12名は1人一つの参加権を所有し、参加権を消費する事で競技に参加できる。参加権は譲渡不可。
・敗北したチームは【草の根】なら7名、【夜明けの月】なら4名を指名して"戦闘不可状態"となる。"戦闘不可状態"となった人は参加権が取り上げられる。
・参加権全てを失うか、全員が"戦闘不可状態"となったギルドの敗北となる。
・競技の参加人数は、現在の所持参加権の多い方から提示する。最低人数は2人とする。
【草の根】参加者21人
"戦闘不可状態"14人
参加権所持6人
【夜明けの月】参加者12人
"戦闘不可状態"4人
参加権所持6人
──◇──
第4種目"紙相撲"
場外負けアリの乱闘。
──ライズvsスワン
鎬を削るは七色の宝剣【月詠神樂】。
──貴方の見つけた剣。
「【ピアッシング】!」
「【スイッチ】──【封魔匣の鍵】!」
突きを回避され、銃に切り替えられる。
接近戦の片手銃──ゼロ距離放射【ゼロトリガー】か!
「【スイッチ】──【反重力電磁砲】!」
常に敵と反発する両手銃。
武器の装填0秒の【スイッチ】なら緊急回避になる。そのまま銃を構えて──
「【パワーショット】!」
「うっ……!」
そのまま撃たれた……!
緊急回避策を読まれていた? 何故──いや、照準に影響無し。そのまま最高火力で!
「【デッドリーショット】!」
「【スイッチ】──【煉獄の闔】」
──大盾で防がれ、て、し、まっ……
押し出されている!【反重力電磁砲】の反発性が適応されているという事は、ライズさんはあの大盾を構えたまま突進して来ているのか!
このままだと盾弾き系のスキルで吹き飛ばされる──
「「【スイッチ】!」」
同時。
私の手には【月詠神樂】と【黄金牡丹】。
ライズさんの手には大槍──【壊嵐の螺旋槍】。
「【スターレイン・スラスト】!」
「ッ──"スライドギア"!」
120階層で発見し量産化に成功したアクセサリー"スライドギア"。瞬間的に数mの移動を可能にする特殊アクセサリー。
ライズさんの突進スキルを回避して──武器が近接だから追撃できない!
なら距離を取って……
「何をそんなに焦ってんだスワン。らしくない」
──焦る?
「何を。私は……」
「【草の根】の団長様は大変なんだな。背負ってる奴は苦労するね」
──背負う。
その言葉を貴方の口から聞けたのは良かった。
あの日のラビさんの涙を、貴方はまだ知らないから。
自分の背中の重荷を他人が引き取ってくれた事を、他人が貴方の背中に重荷を背負わせないようにした事を知らないでいてくれるから。
「──そうかもしれないね」
ライズさんのように、周りに恵まれて重荷を背負わない訳ではない。
アカツキのように、我儘にも大胆に自分の重荷を投げ捨てる度胸も無い。
私は、全てを背負って進むしかない。
私のような凡庸な存在は、そうするしか無いだろう。
「情け無い所を見せてしまったね。憧れの君の前で、礼を欠いたようだ」
「いいよ。そういうの俺も覚えがある。
……先輩からの忠告だが、眩しいものの見過ぎは目に悪いぞ」
「とっくに瞳孔を灼かれているのでね。もう盲目だよ。その上で──ライズさん。貴方に勝つ」
【スイッチヒッター】同士の戦いなんて滅多にないが、要するに0秒じゃんけんだ。
武器とそこからの行動の相性次第。そこを読むにはライズさんのように相手を恐れ入念に観察するか、アカツキのように一切の迷いを捨てるか。どちらも今の私では追い付けない領域だ。
だから、【草の根】らしいやり方で行こう。
「このままだとカズハがここに来てフクロだな。どうする?」
「雑なフリだね。どうもありがとう。とっておきの探検成果の発表だ!」
取り出したるは赤の髑髏。
130階層で赤の宝珠を見つけた後に気付いた、ある特殊クエストの報酬。
「スキル──【曙光海棠花幷】!」
──◇──
赤き花が吹き荒ぶ。
枯山水の庭園に、俺とハヤテが取り残される。
「空間作用スキルか。体験するのは初めてだな」
「私も使うのは2度目でね。仕組みはここから調べるところだよ」
空間作用スキル。
現状は【マッドハット】のセリアンの【黄金舞踏会】ぐらいしか前例の無い希少スキル。
今のスワンの口ぶりからして、その性能は今から推測するしかない。
【黄金舞踏会】は──セリアンのジョブ【マリオネッター】に作用していた。本来数体しか出せない人形を無数に呼び出して、全ての人形を倒すまで出られない。
強制的に空間隔離できる以上、なんらかの解除条件がある……と思いたい。
【スイッチヒッター】に作用する……となると、見当が付いてくるな。
「お手並み拝見だ。【スイッチ】──【月詠神樂】」
「──【パラレル】!」
スワンの周囲に武器が浮かぶ。
【ブラックスミス】の【武装錬鉄】と同じ感じか?
同時複数の武器の操作?
「行くよライズさん。【デスペラード】!」
最初は二丁拳銃。乱射しながらの前進攻撃。方向転換は難しい──スカーレットみたいな力技でもしない限りは。
攻撃範囲と方向さえ見えれば避けるのは容易いが──あの浮かぶ武器達の動きがわからない。ここは手堅く──
「【スイッチ】──【壊嵐の螺旋槍】」
突進には突進を。【スイッチ】のクールタイムを稼ぐために2歩3歩と下がってから──突撃!
「【スターレイン・スラスト】!」
銃撃と槍が正面衝突──相打ち。【スイッチヒッター】の独壇場だ。
「【スイッチ】──【封魔匣の鍵】!」
先程の【ゼロトリガー】偽装がここで効く。今度は本当だが。
銃口をスワンの腹部に押し当てる──
「吹き飛べ。【ゼロトリガー】!」
「──【スイッチ】」
スワンは。
逃げるも避けるも無く、手に呼び出すは──大槌【ドラドルグ・ハンマー】。
ゼロ距離放火をその身で受け──竜の怒りを振り上げる。
──マズい。避け切れない──
「【ドラグニック・スタンプ】!」
──竜の鉄槌が振り下ろされる。
──◇──
──オニバスvsアイコ
「隊長、アレをやったのか」
【草の根】のオニバスさんと組み合いながらの現状維持。なかなか肉体の使い方を分かっている人のようです。
視界の端には赤い結界。先程ヒョウさんが展開した結界と似た感じですね。
「ご存知、なんですか?」
「あれ見つけた時にいたからな。あれを発動したならもう勝ちだぜ……っと!」
一瞬後方に引いて、身を捻って私の拘束から流れるオニバスさん。
前蹴りは回避、そのまま足を掴んで背負い投げます。
……着地と同時に落としていた斧を回収。瞬時に旋回の大振り。
判断の速さは素晴らしいですが、今私の拳にはダメージ判定が乗っていますので。
──斧と拳を正面衝突。即ち相打ち。
システム上可能とはいえ、刃物に手を出すのは慣れが必要でした。ジョージさんとの訓練の賜物です。
相打ちでお互いに発生する停止時間は、マニュアルに切り替えて──タックル。オニバスさんを押し倒します。
「んぐ……"スライドギア"!」
着地寸前に、オニバスさんの姿が消えます。
あの瞬間移動アイテムは厄介ですね。受け身を取って前転して復帰します。
「一つ言っておく。隊長のアレは発動回数に制限は無い。つまり一人一人確実に倒す事が可能って訳だ」
「なるほど。捨て鉢になるおつもりですか?」
「まさか。それでも隊長の負担を軽くするのが部下というもんだろう。カズハが来るまでに消耗くらいはしてもらうぞアイコ!」
──"仙力"の持続時間も残り僅かです。
時間稼ぎが目的なら、付き合うとしましょう。
──◇──
【曙光海棠花幷】
「……成程な」
【封魔匣の鍵】の残弾が2発だった。それが幸いした。
1発を【ゼロトリガー】に使い、残弾1発になった事で【封魔匣の鍵】にダメージボーナスが発生。
スキル直後の硬直も、マニュアル操作の通常攻撃──引き金を引くだけならなんとかなった。
銃弾はスワンを貫き──スワンの大斧が消滅した。
大斧の振り下ろしは空振りに終わり、何とか距離を取る。
──最初の二丁拳銃も、さっきの大斧も。スワンの周囲には浮かんでいない。
「武器が命を肩代わりしてるのか。この空間から出る方法は……全ての武器の破壊、とかか?」
「ご明察だ。まさかあの状況で私本体を狙うなんてね。流石はライズさんだ」
「マジで偶然だ。最後っ屁のつもりだったよ」
……この空間作用スキル【曙光海棠花幷】。
セリアンの【金色舞踏会】の様に複数人相手に発動できるかはわからないが……解除条件はほぼ似たようなものだ。
あるいは【金色舞踏会】の人形達もセリアンのHPと繋がっているのか?
「要するに倒れるまで倒せばいい。武器はどんどん減っていくからこっちが有利になっていく訳だ」
「そうなるね。だけれど──私の武器は、あと48個あるよ」
勘弁してくれ。
【草の根】のスワン隊長による武器披露会とか、興奮しちゃうだろ。
「空間作用形スキル……2例目で傾向が掴めたな。ジョブ専用の"奥義"ってところか。
【スイッチヒッター】の行き着く先がここなのか、それともスワンだからこうなるのか。興味深いな」
「ふふ。こんな時でも考える事を止めないんだね」
「そりゃそうだろ。未開拓の中に飛び込むのが一番楽しいんだから」
……それはスワンもそうだろうが。
趣味の合うスワンの事だ。色々抱えるものとか、悩み事とかも俺と似たようなもんだろう。
だとしたら、俺だけ楽しむのは情け無いよな。俺もスワンが楽しめるような"未知"を見せてやらないと。
「……これはまだ誰にも見せてない、とっておきなんだ。是非とも楽しんでいってくれ」
この2ヶ月、何もしていなかった訳じゃない。
ベル達のお陰でここまでの階層の多くを支配できたので、改めてめちゃくちゃ探索しまくってきた。
それこそドラドの"巫女の岩戸"の様に、まだ俺が知らない場所はいくらでもある。
……特に宝珠関連の話とかな。かつての俺が一切気付かなかったジャンルだ。拠点階層しか探索はできなかったが──
「【スイッチ】──【焔鬼の烙印】!」
呼び出すは金の大槌──"焔鬼大王"の判子、その破片から作った武器。
「なっ──それは……っ!」
「スワンも俺と似てるなら──散々振り下ろされたんじゃないか?」
宝珠争奪戦の切札。
宝珠を封じ込めていた判子。その欠片ならば。
「レイドボス特効の次は──宝珠特効だ!」
「させない! 【チェンジ】──【与一の弓】!」
速射の弓。選択が冴えているな。
だが──俺が狙うのは、この空間。
「砕けろ──【鬼冥鏖胤】!」
黄金の槌は虹の炎を纏い──やがて黒へと染まる。
色の無い焔は地を。空間を。世界を塗り潰し──
「ば、かな……!」
──元の空を取り戻した。
〜【夜明けの月】サプライズ戦争5〜
ライズです。
なんやかんやあってログハウスに帰ってきたら手紙が一通机の上に。
『果たし状
クリックは"アイスライクサプライズモール"にて貴様を待つ』
物騒すぎる。
とはいえ好奇心止められぬ。
行かねば。
──◇──
【第30階層 氷結都市クリック】
"アイスライクサプライズモール"入り口
「待っていたぜライズ!」
何故かクローバーが1人。
有名人が単独行動すんな。
「【夜明けの月】からの果たし状を受け取ったなァ! 第一の刺客は俺だぜ!」
「いきなりクライマックスすぎるしナチュラルに俺を【夜明けの月】から外して話すのをやめろ。悲しい」
「悪い悪い。ちなみに第二の刺客は残り全員同時な」
「バランスゥ!」
てか全員敵対してんのか。
え? ドロシーも? アイコも? カズハも?
悲しい。
──◇──
──2F ゲームセンター
「待っていたぜクローバー! そしてようこそライズ!
"アイスライクサプライズモール"ゲームセンターの番人! 【マツバキングダム】のレッドキャップだぜ!」
……なんかいるぞ。
"イエティ王奪還戦"では裏方としてそれはもう活躍してくれた信号機トリオの1人。
「第一の試練は……なんと、俺とゲーム勝負をしてもらうぜ!」
「微塵も予想外じゃないし理不尽すぎる。勝てるわけ無いだろ」
「おいおいクローバー! 随分とシャバい仲間だなぁ! このゲームセンターにあるゲームは全部俺がルール知ってるからアシストするぜぇ!?」
ヤンキーだと思ったらインストラクターのお兄さんだった。
「じゃあライズとレッドキャップの2人がかりな。俺ぁ片手目隠し耳栓でやるわ」
「それでまだ勝てるだろうなって思うのはおかしいんだろうか」
「前は小指縛りで負けたぜ俺は。クローバーの実力は想像を超えてくるな」
……ちょいちょい遊びに来てるんだなクローバー。
──◇──
その後。
ありとあらゆるゲームにおいて蹂躙された俺とレッドキャップ。
しかし"最強のゲーマー"と肩を並べてゲームができるなんて、貴重な経験ではあったなぁ。
……俺は30分でリタイアしたけどね。




