205.強く堅実だから"セオリー"
──◇──
"白天宝珠争奪戦"
宝珠獲得クエストの発行を賭けた勝負
【ルール】
・"ヘヴンズマキナ"が提示する複数の競技を攻略していく。
・【草の根】21名と【夜明けの月】12名は1人一つの参加権を所有し、参加権を消費する事で競技に参加できる。参加権は譲渡不可。
・敗北したチームは【草の根】なら7名、【夜明けの月】なら4名を指名して"戦闘不可状態"となる。"戦闘不可状態"となった人は参加権が取り上げられる。
・参加権全てを失うか、全員が"戦闘不可状態"となったギルドの敗北となる。
・競技の参加人数は、現在の所持参加権の多い方から提示する。最低人数は2人とする。
【草の根】参加者21人
"戦闘不可状態"14人
参加権所持6人
【夜明けの月】参加者12人
"戦闘不可状態"4人
参加権所持6人
──◇──
──過去。
あの日。アドレで見た光。
階層攻略をする訳でもなく、何故かアドレを捜索する変人兄妹。
そういうやり方もアリか、と関心した。
私は周りに流されてばかりで、視野が狭かった。
それからも定期的に街中で詰んでいる二人に会う機会があった。
向こうからしたら優しい一般市民Aくらいの認知度なのだろうけど。私は楽しかったよ。
「おや。ラビさん、今日は一人?」
暫くぶりに会えた可愛らしいラビさん。
ここは二人と出会った謎の樽があった路地裏だ。
ラビさんは……私が声を掛けるや否や、樽に頭を突っ込む。いやいやそれは詰みだと調べただろう!
大慌てで引っこ抜くと……ラビさんが泣いていた。
泣き顔を必死で隠そうとしたのか。とりあえずラビさんを抱きしめて顔を隠してあげる。
「どうかしたのかな?」
「……とてもめでたい事なんです。泣いちゃダメ、なんです」
「うん、うん」
この樽は何故かハマると自力で出られない危険な樽だと、ライズさんとラビさんが広めた。ここに来る人は少ない。わざわざここに来るという事は、誰にも会いたく無かったのだろう。
「……ライズお兄ちゃんが、ツバキお姉ちゃんと、ハヤテと一緒に出て行っちゃった」
「──そうか」
遅い出発ではあった。攻略を目指す人と、アドレに定住する人。もうハッキリと別れていた頃合いだ。
今にして出立とは中々どうして、決断できるものじゃない。
……祝福したのだろう。本人達の目の前では。
それでも、取り残されてしまった悲しさが抑えられず。誰にもそれを見せたく無いからこうしているのだろう。
強い子だ。本当に。
「私、私は、悪い子です」
「そんな事は無いよ。君はいい子だ。勝手に覗き込んでごめんね。独りでいたかったよね?」
「……いいえ、いいえ。こうしていてくれて、嬉しいです。ありがとう、お姉さん……」
──出会いがあれば別れもある。
ライズさんはラビさんの悲しみを背負わずに出発できたのだろう。
自由な旅には、重荷はいらない。その重荷を減らしてくれるのは、いつだって取り残された側だ。
あれから。
ライズさんの活躍はアドレにも伝わってきた。
やがて【井戸端報道】が結成され、詳細な情報が新聞で流されて来るようになった。
……アドレは一時期きな臭くなったりしたが、【三日月】によってその問題は解決された。それは新聞には載らなかったけどね。ラビさんは久しぶりにライズさんと会えて喜んでいた。
……【需傭協会】の騒動。そして、【三日月】解散の報道。
その頃にはもう私は、ライズさんへの憧れを抑える事が出来なくなっていた。情報通の仲間を集めて、ライズさんの動向を確認していた。
ライズさんはアドレに帰ってきた。
──全てを失って。
ラビさんには見せられなかった。少なくとも、最初は。
【祝福の花束】と【蒼天】に声を掛けておいた。ライズさんを独りにしておくとどうなるか怪しい。知人ではない誰かとの交流が必要だ。
彼が再び飛び立つのならば、その羽の泥を落としてあげたい。
少しでも軽くなってほしい。
彼が戻って来るまでは、私が彼の代わりとなろう。
【草の根】分けてでも情報を探そう。
そうして私は【草の根】を設立した。
純粋なかつての気持ちは、もう失われてしまった。
【草の根】を維持しなくては。
【セカンド連合】に与してでも、生き残らなくては。
泥に塗れて尚、白鳥は美しくあれ。
それが望みであろうとなかろうと、私は──
──◇──
【第80階層 天上雲海エンジュ】
──第4種目"紙相撲"
場外負けアリの乱闘。以上。
「そこまで広いステージじゃない。ミカン・リンリン・ドロシーで要塞作って、前衛に俺とカズハとアイコで出る。場外アリならアイコの独壇場だろ」
「お任せを。全部投げ捨てます」
心強い。本当に心強いけど"聖母"の発言じゃない。
「相手は俺と同じ【スイッチヒッター】のスワンだ。開幕は両手銃による遠距離合戦、距離を縮めたら近接武器だ。俺なんかよりずっと強いぞ」
「他で言うなら……【キャッスルビルダー】のアヤメちゃん、【サテライトガンナー】のフヨウちゃんが危険だよ。セオリー通り攻略の"三種の神器"はキッチリ仕上げてきてるからね」
【草の根】は純粋な戦闘特化ギルドではないが、だからこそセオリーに忠実。中々簡単に倒せる相手ではない。
カズハは過去の傭兵稼業の経験からか、【草の根】の事について多少は詳しいみたいだ。こういう生きた情報は助かる。
「あとは……前衛【オーガタンク】のオニバス君、【ソードダンサー】のバン君。【ロストスペル】のヒシクイちゃん。ここまで温存しているだけあって実力者揃いね」
「前衛も後衛もガッツリ固めてきてるな。隙が無い。
……だとすると、戦略の要はカズハだな」
「え、私?」
この手のギルド戦、重要なのは──どこでセオリーを外すか、だ。
──◇──
──side.【草の根】
「相手の情報は割れている。戦闘の得意ではない我々は、セオリー通りに挑む。
尻込みする事はないよ。"最も確実に勝てる戦術"というのが"セオリー"だ」
仲間を鼓舞する。自信を持って、凛とした態度で。
ヒョウ爺に叩き込まれた、リーダーとしての立ち振る舞い。ちゃんと出来ているかな。
「セオリー通りと言うなら、まずは俺の突進だ! 【サテライトガンナー】と【ロストスペル】が動くまでの防衛! 引きつけは俺に任せろ」
「相手の遠距離攻撃はそこまで厚く無い。前衛をオニバスが食い止めている間に俺が後衛の【サテライトガンナー】を仕留める。それで行こう」
誰が前衛で、誰が後衛で、誰が一番危険か。その選定は大体固定されている。あとは情報量の差だ。
「後続襲撃要員は増やそう。ドロシー君を守るのはあの"無敵要塞"だ。一度の【サテライトキャノン】は受ける覚悟で、戦場をバラけて戦おう。
こちらの利点は後衛火力が2人いる事だ。フヨウ君とヒシクイ君は左右に散会。敵の前衛は中央位置でオニバス君が食い止めて、突破されたとしても後衛火力どちらかが通るようにしよう。
私とバン君で前衛を抜いて"無敵要塞"を超え、ドロシー君を討つ。その後切り替えて【夜明けの月】を後ろから攻めるから、オニバスは抜かせた相手を後ろから追って構わない」
「全員止めない方が都合が良いって事だな。わかったぜ。……お前らもいいか?」
「はい。どちらかは囮、ですね」
「並行詠唱で二の矢がある私よりはフヨウちゃんの方に行きそうだけれど。まあ仕事はキッチリするわ」
フヨウ君、ヒシクイ君。どちらも己が犠牲を厭わない。
負ける筈が無い──負けてはならない。
「後は……【キャッスルビルダー】。いけるね、アヤメ君。相手は"最強の建城士"だが」
「おおおお任せ下さい! 個人で勝てなくとも、チームならばっ!」
そう。
レベルでは我々が勝っているだろうが……【夜明けの月】はそれ以外の強みがある。
それを補うのはチームとしての団結力しかないだろう。
さあ、ライズさん。
私は勝つよ。背負う物が多すぎるからね。
──◇──
──真円の舞台。
【草の根】と【夜明けの月】が配置される。二つの間の距離およそ300m。
『では。いよいよ最後の競技となるね』
"ヘヴンズマキナ"も観客席の楽団達も、緊張が走る。
というか"ヘヴンズマキナ"、お前もう普通に楽しんでるよな。いいけどさ。
『それでは──第4競技"紙相撲"──始め!』
「「【建築】!」」
同時。
ミカンとアヤメが壁を点々と作りながら前進する。
リンリンとドロシーには最低限の要塞で囲みつつ。
アイコとカズハはミカンの護衛。俺は【天国送り】に切り替えて、ミカンの作った斜めの壁から空中に飛び出す。
──戦場を高所から見渡す事が司令官の仕事だ。
相手方も手早い対応。作った壁に隠れてはいるが──見逃さない。
「後衛は二手に別れた! 左に【サテライトガンナー】右に【ロストスペル】だ!」
「了解!」
第一の壁。
【キャッスルビルダー】と戦う時、最も有効なのは【キャッスルビルダー】をぶつける事だ。
味方同士の建築物は権利を委託しないと改造出来ないが──敵同士の【キャッスルビルダー】なら、お互いの建造物を"物資"として改築できる。
つまり【キャッスルビルダー】の弱点は【キャッスルビルダー】。お互いの有効建築範囲100mに侵入して、相手の建造物を消していくのが【キャッスルビルダー】同士の戦いだ。
が。
「──行くぞォ! 【オーガチャージ】!」
中央突破。真っ直ぐこちらへと突き進むは【オーガタンク】のオニバス。
ハートとは異なり、両手斧の重量級にして火力特化。
手数も小細工も無しのパワーファイターだ。
対応するはアイコとカズハ。
その後ろのミカンに攻撃が届くとかなりキツイが──
出し惜しみ無しで二人掛かりなら、止められない相手ではない。
「──【灰燼一閃】!」
黄金の炎。赫き妖刀【厚雲灰河】の一閃は──オニバスをすり抜けて敵陣の中へ。
「すり抜け……てっ!?」
ダメージのみをオニバスに残す。即ち対方向からのダメージの衝突──相殺。オニバスの【オーガチャージ】が解除され──ただの突進が慣性のままに、アイコの方へ。
「【瞑想】──では、いきます」
「んぬっ、まだまだァ!」
赫の"仙力"を身に纏うアイコ。瞬時に通常攻撃に切り替えて大斧を払うオニバス。
アイコの手とオニバスの大斧が衝突する──!
「任せたのです!」
二人の隙間を掻い潜り、ミカンが遂に敵建造物の範囲内へ。
俺が狙うべきは──カズハが追わない【ロストスペル】か。
と。
「余所見はいけないな。私の旦那様」
「──【スイッチ】【煉獄の闔】!」
混沌の大盾を構える。
少なくともカズハの【灰燼一閃】は読まれてなかった筈だが、奴らは──もう目の前にいたか!
スワンが俺の正面に降り立ち、大盾に銃口を突きつける。
盾の上には双剣を構えた男──【ソードダンサー】のバン!
「では隊長。ご武運を」
「任せたまえ──【ゼロトリガー】」
大盾を踏み台に後ろへと通過するバン。
対応する間も無く──片手銃最高火力の近接攻撃、【ゼロトリガー】が火を噴く。
「──【スイッチ】──【簒奪者の愛】【封魔匣の鍵】」
「【スイッチ】──【月詠神樂】【黄金牡丹】
少々のノックバックを利用して距離を取りつつ、中距離対応可能な短剣と片手銃。
だがスワンは追撃せず片手剣と盾。
ここでの戦闘が望みか。
「僅かな時間。素晴らしい対応だ。ライズさん。
だがバンを追わせはしないよ」
「追わないよ。あっちにゃリンリンがいるし──熱烈なお誘いを断るほど甲斐性なしに見えるか?」
「……割とね」
「そんなぁ」
──正直、戦いたいとは思っていた。
俺の後追いで【スイッチヒッター】になったとか、嘘か誠かわからないが嬉しいだろ。
それも俺と同じ趣味の奴が。
「決着付けようぜスワン!」
「望む所だよ、ライズさん!」
剣撃が鳴り響く。
戦闘は、始まったばかりだ。
〜【夜明けの月】サプライズ戦争3〜
財源。
ギルドとして活動するならばお金は必要になってくる。
例えば【象牙の塔】が魔法書店を営んでいたり、【飢餓の爪傭兵団】が各地の階層で民間クエストの斡旋をしていたり。副業をするギルドも少なくない。
さて、そうなると【夜明けの月】の収入源は?
「answer:そんなものはありません」
バッサリね。そうだけども。
【夜明けの月】の財源は──ライズの財布100%。
稼ぎなんて事にかまけている暇があったらレベル上げ!実戦練習!って感じだから、本当に財源0。クエストで獲得した素材は全部強化につぎ込んでるから売ってすらない。
「ライズにプレゼントするのにライズの財布から使うのは違うわよねー」
「でも、突然予定外の魔物討伐をしてその素材を売ったりしたらライズ君は疑うと思うの」
「で、ではアルバイトで稼いだらどうでしょうか? 【朝露連合】から【マツバキングダム】【需傭協会】……商業展開している知り合いも多いですし、きっと受け入れてくれると、思いますぅ……」
「うーん……ライズはあまり鍛錬に繋がらないのは好かないんじゃないかしら。効率厨だし」
「あらそんな事無いわよぉ。嫌な顔はするだろうどねぇ」
ツバキがあたしの後ろから寄りかかってくる。
最近気付いたけど、ツバキのコミュニケーションって物理的な肉体接触が基本ね。ベッタリ抱きしめてくる。
「ライズ君はほら、皆が楽しんでくれるなら別に実益のない行為も許してくれると思うの。でもその目的がライズ君の為だと知ると、なんというか良い顔しないと思うなー」
「あぁ……確かにね」
効率厨とは言うけど、前提としてあたしが【Blueearth】を楽しめるようにプランを組んでくれるのがライズ。優しいのよね。
「そもそもライズさん、お金に頓着無いと言っても"必要な物は普通に買う"タイプですから。所謂"欲しい物"をプレゼントというのは難しいのかもしれませんね」
「物のプレゼントじゃダメって事?」
「あくまで一意見ですが。プレゼントは何も物に限ったものでは無いという事ですね」
「あー……なんだか方向性が見えてきたわねぇ」
「男の子達が何か収穫あればいいんだけれどね」
……なんとなく、やる事は見えてきたけれど。
多分ライズをバチボコに感動させる事はできるだろうけど。
やれるかなぁ。覚悟的な問題で。
……やるしかないかぁ。




