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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
天上雲海エンジュ/ヘヴン階層

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203/507

203.何を目指して戦うか

──◇──

"白天宝珠争奪戦"

宝珠獲得クエストの発行を賭けた勝負


【ルール】

・"ヘヴンズマキナ"が提示する複数の競技を攻略していく。

・【草の根】21名と【夜明けの月】12名は1人一つの参加権を所有し、参加権を消費する事で競技に参加できる。参加権は譲渡不可。

・敗北したチームは【草の根】なら7名、【夜明けの月】なら4名を指名して"戦闘不可状態"となる。"戦闘不可状態"となった人は参加権が取り上げられる。

・参加権全てを失うか、全員が"戦闘不可状態"となったギルドの敗北となる。

・競技の参加人数は、現在の所持参加権の多い方から提示する。最低人数は2人とする。


【草の根】参加者21人

"戦闘不可状態"7人

参加権所持10人


【夜明けの月】参加者12人

"戦闘不可状態"4人

参加権所持8人

──◇──




──過去。

【第0階層 城下町アドレ】に、その男はいた。


私は普通の冒険者で、戦闘が下手で。

それでも周りに合わせなければと、慣れない武器を振り回していた。

……それで、序盤のゴブリンにすら勝てなくて。

既に半数近くの冒険者は攻略を諦めようとしていた。

私も、その中の1人だ。


まだまだ整備も線引きもしっかりしていなかったが、攻略をしない冒険者はアドレの北西に集まるようになってきた。

私も、そっちに行ってみようと思ったのだけれど。


──路地裏で、樽に頭を突っ込んでいる2人組を見つけてしまった。


「だ、大丈夫ですか!?」


小柄な少女と、男性。

じたばたと暴れる2人を、樽から抜き出した。


「ふぅ。危なかったなぁ。そっちは何かあったか? ラビ」


「何もありませんでした。それよりお礼を言わなくてはですよライズお兄ちゃん」


「そうだな。助けてくれてありがとう。こんな所に死の危険があるとはな……」


な、何をしているんだこの2人は。

樽から出るや否や、今度は樽の外側をまじまじと観察し……また男の方が頭から樽に。少女の方が必死に引っ張っているがパワーが足りない。

……あぁもう!


「いやいやすまんね」


「一体何をやってるんですか貴方達は」


あまりに浅慮。

みんなは冒険をしているというのに、こんな路地裏で何をしているのか。

2人は笑顔で答える。




「「探検!」」




──◇──




【第80階層 天上雲海エンジュ】


──────

第3競技"神経衰弱"

【草の根】参加者4名

【夜明けの月】参加者2名

──────


『……まーた最小人数かな【夜明けの月】は』


「そんだけいれば充分そうなんでね。こっちの代表者は──ツバキ!」


「はぁい。任せなさい」


残るメンバーの中で瞬間記憶能力がずば抜けて高い奴はいない。地頭の良いツバキかカズハの2択ってところだ。

その2人ならツバキが適任だ。後衛より前衛を後に残しておきたいし、何より──


「戦闘者は──ジョージ!」


「相わかった」


──戦闘者は最初からジョージ確定だからな。


「ジョージさんか。残念だけれど【草の根】で貴女を甘く見ている人は1人もいないよ。クリックではお世話になったからね……。

【草の根】の代表者はコスズ。君で行こう」


「…………………………はぇ!? わ、わたしですか!?」


後ろの方で大人しくしていた全身ピンクのふわもこガール。

【首無し】……デュークとの取引で階層の情報は手に入れたが、【セカンド連合】のメンバーの情報までは手に入れてはいない。デューク自身が【セカンド連合】なのだから割と当然ではある。


「戦闘者は3人。任せたよヘロン」


「お任せをォ! ヤキ入れてやんぜ!」


クリックでも協力してもらった【ビーストテイマー】のヘロン。ヤンキー然とした粗暴そうな男に見えて、可愛い魔物と甘いお菓子をこよなく愛する優しい男だ。

……見かけで判断できないヘロンは、人を見かけで判断しない。あいつは厄介だなー。


『では始めよう。代表者は前に』


ツバキとコスズが前に出ると、それぞれ雲の部屋に閉ざされた。


『それぞれの部屋には連動した40枚のカードがある。姿も声もお互いに確認出来ないが、どこをめくって何が出たのかは私から放送する』


「じゃあ宜しくねパパ?」


「任せろ。1人残らず殲滅してやるとも」


物騒。

ジョージは霧の舞台に登る。ヘロン達でさえ頭まで見えなくなる深い霧だ。ジョージなんてどこにいるやら。


『では──"白天宝珠争奪戦"第3競技"神経衰弱"……始め!』




──◇──




──【草の根】の雲部屋


コスズです。

最初は突然呼ばれて驚きましたけど、考えてみれば得意分野です。

私は【草の根】に常駐している【井戸端報道】の記録員。パンナコッタ先輩ほどではありませんが、記録と記憶は得意分野です!

こちらはヘロンさん、マガンさん、コウさんの3人。内訳は3枚・3枚・4枚。一番強いヘロンさんが3枚になるよう設定する事はできましたが、ヘロンさんを2枚にする事は出来ませんでした。残念。


さて、目の前には横に8列、縦に5列の40枚。

横には数字、縦には"あいうえお"と。ふむふむ。

最初に悩んでも仕方ありません。とりあえず端っこから。


「"あ-1"をお願いします!」


カード自体は映像のようで、触る事はできません。

宣言するとカードがめくれて──


"ヘロンの2"


いきなりヒットです!

このルール、一刻も早く誰かを揃えないといけません。普通の神経衰弱とは違うのですから。


「次は"あ-2"です!」


"ジョージの8"


ううん。ハズレ。最初はそんなものですよね。

神経衰弱は始まったばかりです。凡ミスの無いようしっかりしないと!




──◇──




──【夜明けの月】の雲部屋


『──"あ-2"は"ジョージの8"だ。次はツバキの手番だよ』


神経衰弱。とりあえずは適当にするしかないわよね。


「これ、制限時間とかあるのかしら?」


『おっとそうだね。長引かせても仕方が無い。手番宣言一つにつき一分としようか』


「妥当ね。それでいいわ」


……このルール。今の所、【夜明けの月】の方が有利。

普通の神経衰弱とは違う事が幾つかあるけれど、一番大きいのは──"ペア自体に意味がある"事よねぇ。

例えば……そうねぇ、ここからの一手目で公開済みの"ヘロンの2"を見つけてしまったとして、それを取ってはならない。というか、敵のペアを取れない。ペアが成立した時点でヘロンさんに発生ダメージ33%復活が確定するだけだからねぇ。

一応神経衰弱側が普通に勝利するって勝ち筋もあるから取らない事に越した事は無いのだけれど、多分神経衰弱より先に戦闘側の方が決着付いちゃうし。


「そうねぇ。"う-4"で行こうかしら」


捲られたのは──"ヘロンの2"。


あら。




──◇──




──霧の舞台


『ツバキが宣言した"う-4"は……"ヘロンの2"だ!』


「よっしゃぁ!」


……っと、デケぇ声が出ちまった。

いけねぇいけねぇ。折角の霧だってのに。


このルール、とにかく最初にペアが成立した方の勝ちだ。

現段階では舞台に立つ4人全員が発生ダメージ0。霧が無くても戦う必要性が無ぇ。

だが俺だけがペア成立したなら?

33%とか関係ねぇ。一方的にダメージを与えられるってもんだ!


とはいえ今は【夜明けの月】の手番。わざわざ敵のカードを揃える事ぁ無ぇだろうから、次のコスズの手番だな──




『え。……ツバキが宣言したのは──"あ-1"……"ヘロンの2"!ペア成立だ!』


……え?




──◇──




──【夜明けの月】の観客席


「ツバキ、普通に神経衰弱やってんのか?」


「……いや、考えあっての事だろう」


俺も最初は呆気に取られたが、あながち悪い手では無い。


「敵のペアであろうと、ペアはペア。一点は一点だ。

神経衰弱はペアができたなら次の手番も貰えるだろ? わざわざ避けたところで最大一分で相手が捲って揃ってしまう。

だったらさっさとペア成立させた方がいい。次のカードに触れる枚数が1枚から2枚になるからな」


「で、ですがそれは……普通の神経衰弱、ですよね?」


「そうなのです。その間、ジョージさんは……」


霧が大きく蠢めく。

ヘロンの背後に空飛ぶ象。セカンド階層の魔物が霧を吹き飛ばしていた。


「はっはー! 見つけたぜジョージ!」


そもそも霧があったところで索敵に優れる魔物には無意味。相手が悪すぎる。


「……その辺は、もう信じてるんだろうなぁ」


ツバキの考えは、何と無くわかる。

あれでいて面倒臭がりなツバキの事だ。


多分、勝つ為の最善手を取っているんだろうが。信頼関係が無いと無理すぎる作戦だぞ。




──味方を無視して普通に神経衰弱するなんて。




──◇──




──霧の舞台


『"あ-6"は"マガンの4"、"い-2"は"ジョージの1"。ペアならず。次は【草の根】の番だよ』


ふむ。流石は俺の娘。かしこい。

さてさて。折角の霧も晴らされて絶対絶命といったところか。


「残念だったなジョージ! 作戦自体は合理的なもんだが、前提が崩れちまっちゃぁな!

コスズの体内時計の精度はスゲェぜ。二手きっちり二分! アンタはダメージを発生させられねぇ!」


【ビーストテイマー】のヘロン君。あのおおきな象は霧晴らし要員だとして、あと二体くらいは使役するだろう。本人の腕っぷしもなかなかだ。

左右から俺を狙うマガン君とコウ君。このルールに合わせてどちらも前衛戦闘職か。二丁拳銃と斧を持っているね。


──作戦が破綻しているのはその通りだ。

この"神経衰弱"では、戦闘者が少ないほどに有利になる。

3人参加している【草の根】は、それぞれ1組ずつ3組を獲得しなくては戦闘に参加できない。それに比べて1人なら、どれか一つでもペアが成立すれば良い。

僅か10%でも、一方的に攻撃できる状況を作れられれば有利になるからね。


と、まぁ、この理屈は……最初にペアを取りやすくなる理屈だ。現状最初のペアがヘロン君で、この霧を晴らす事が出来るのなら他2人もダメージ0ながらアシストに入る事ができる。


「行くぜお前ら! 畳みかけろ!」


神経衰弱の最短ターンは2枚めくって外した場合。つまり二手。それぞれ一分で一手番二分。

次のツバキの手番で揃うとも思えない。それに、全てのカードが俺である事にも弊害が出てくるだろう。だって全部"ジョージの◯◯"なんだよ? ややこしすぎる。


「──まぁ、どうという事は無い」


【草の根】はこの霧の舞台での戦闘で勝つ事を考えているようだが。

こちらとしては逆だ。ダメージが0だろうと関係無い。


俺が回避に専念したのなら、僅か3人など容易いものだよ。


──さぁ、父親らしく娘が遊ぶのを見守るとしようか。




──◇──




──第2順【草の根】コスズ

記憶の容量を圧迫させないよう"あ"列を順番に攻める戦法に。宣言は霧の舞台に少しでも時間を与えるため、きっちり2分丁度。

"あ-3"──"ジョージの2"

"あ-4"──"ジョージの4"


──第2順【夜明けの月】ツバキ

こちらは単純に神経衰弱を遊んでおり、悩む理由が無いため即決。

"お-1"──"コウの1"

"お-4"──"ヘロンの1"


──第3順【草の根】コスズ

変わらず2分で攻めていく。不規則なツバキの宣言に記憶が撹乱されているが、自分が規則的に捲っているので負担は半減している。

"あ-5"──"ジョージの3"

"あ-7"──"コウの1"


──第3順【夜明けの月】ツバキ

"あ-7""お-1"で"コウ-1"を成立。

【草の根】のコウに25%の発生ダメージが復活する。

その後の手番でも変わらず、不規則に宣言していく。

"う-1"──"ジョージの10"

"い-3"──"ジョージの3"


──第4順【草の根】コスズ

この手番にて、神経衰弱は姿を変える。




──◇──




──【草の根】の雲部屋


現在、"ジョージの3"が成立しています。

この2分後、ジョージさんには10%の発生ダメージが復活する。それは確定です。

ここまで来たらわかります。【草の根】と【夜明けの月】で狙いが真逆であるという事。

我々は霧の舞台での勝利を、ツバキさんは神経衰弱での勝利を狙っている。

しかし。既にヘロンさんとコウさんには発生ダメージが復活しています。ツバキさんのスタンスが()()なら──




「私が宣言するのは──"()-2()"です!」




ごめんなさいツバキさん。私は勝たなくてはならないのです。


〜【夜明けの月】サプライズ戦争1〜


──【夜明けの月】のログハウス


「ライズにサプライズプレゼントをして泣かせたいわ」


ドロシーです。

またメアリーさんが変な事言い出しました。


階層攻略再開に向けての準備が一通り済んだ昨今、やや暇になってきた【夜明けの月】は割と自由時間がありました。

今日は偶然ライズさんだけが居なかったので、これ幸いと提案したのでしょう。


「ほら、あたし達ってライズの事が大好きじゃない? そしてライズもあたし達の事が大好き」


「……間違っちゃいねぇが、随分と吹っ切れたなマスター。大鐘楼で何があったんだ」


クローバーさんはあの時【至高帝国】の方に行っていたので知らないですよね。

……ハヤテさんとの【決闘】が控えていたあの日、ライズさんは我々【夜明けの月】の他メンバーに対して負い目というか、心理的距離を拭えない状況にありました。

なのでそのあたり諸々を暴力で解決するため、メアリーさんは【決闘】でライズさんを【夜明けの月】から追放したのです。


「あいつ、あたし達との仲についてはなんとか自覚してくれたけど……【夜明けの月】としては、まだ自分の存在が必要不可欠じゃないとか思ってるでしょ?ドロシー」


「まぁ、はい。概ねそんな心理状況でした」


ライズさんの根底にあったのは、自嘲と自罰と謙遜。自己肯定感が恐ろしく低いし、それが"そういうもの"だと思い込んでしまっていたからこそその感情そのものを悪と判断する事ができず抱え込んでいました。

【夜明けの月】は自分がいてもいなくても変わらない、自分の居場所など無い、ここまで活躍できたのは例外中の例外……そんな感じの事を、いつも考えていました。性質上それを直接指摘しても"ドロシーに言わせてしまった"と塞ぎ込む事は目に見えていたので、僕は指摘出来ませんでしたが……。

メアリーさんはその事についてを、暴力と共に"あたし達がライズ本人を必要としている"と直接叩き込む事で解決……しました。はい。しました。治療とは痛みを伴うものです。


ですが、ライズさんは今度は"人として評価されているのは嬉しいし、【夜明けの月】に居場所ができて嬉しい。でもそれはそれとして別に俺が凄い訳じゃない"みたいな感じで……ライズさん本人の事はまだ低く見積もっています。人間間としての自己は赦したけど、組織内としての自分は赦さない。そんな感じです。


「正直な話、【夜明けの月】はライズ抜きじゃ成立しないわ。冗談抜きに」


「answer:yes:個人的な話を抜きにしても──レベルアップやスキルアップの方針/デスマーチの考案、それに伴うクエスト受注の最適化、各拠点階層や攻略階層での知人との人脈、金銭面援助、アイテム武器防具etc.……」


「とりわけ資金なのです。【夜明けの月】はライズさんの財布以外、財源がないのです。全ギルドで一番お金持ちなのに、ライズさんが抜けた瞬間ぶっちぎり貧乏ギルドなのです」


たしかに。


「金は……うん。そりゃあ重要な一因だぜ。【夜明けの月】の強みって殆ど財力とライズの持つ情報だからな。何を思って自分の事を下げてんだあいつ。馬鹿か?」


「馬鹿なのよ。だから殴らないと治らないの。つまり……やるわよ、サプライズプレゼント!」


異論無し。ここにいる全員が、本心からライズさんには幸せになってほしいと思っています。ここにいて心地いいと感じるほどに。

しかしそうなると困る事がありますね。


「……あいつ、何が欲しいのかしら」

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