201.遊戯の裏に駆け引きあり
──◇──
"白天宝珠争奪戦"
宝珠獲得クエストの発行を賭けた勝負
【ルール】
・"ヘヴンズマキナ"が提示する複数の競技を攻略していく。
・【草の根】21名と【夜明けの月】12名は1人一つの参加権を所有し、参加権を消費する事で競技に参加できる。参加権は譲渡不可。
・敗北したチームは【草の根】なら7名、【夜明けの月】なら4名を指名して"戦闘不可状態"となる。"戦闘不可状態"となった人は参加権が取り上げられる。
・参加権全てを失うか、全員が"戦闘不可状態"となったギルドの敗北となる。
・競技の参加人数は、現在の所持参加権の多い方から提示する。最低人数は2人とする。
──◇──
【第80階層 天上雲海エンジュ】
第一種目:"独楽遊び"
『ではでは早速。スタート!』
大仏──"ヘヴンズマキナ"の号に、一斉に飛び出す独楽達。上に乗っても一緒に回る事は無いみたいだけど、速度と独楽同士の衝突が怖いね。
「ジョーカー。いけるか?」
「どうやら僕の身体、結構強いみたいだからね。やってみせるよ!」
設定レベルは150。ジョブは……見間違いと信じたい。
どうやら僕は本当に、トップランカー【至高帝国】のスペードらしい。ステータスを見ると、ね。
今の僕にどこまで出来るのか、それは僕も確かめなくては。まずは独楽に乗る所から──
「あっ」
「え?」
歩幅を見誤りました。
独楽まで足が届かず、そのまますってんころりん。
『……【夜明けの月】ジョーカー。アウトー』
「……ええええええええ!?」
「なぁーにやってんのよ……」
ああ、メアリーが凄い顔でこっち見てる!
違うんだ、実力を隠そうとかそういうのじゃなくて素なんだよ! 信じてぇー!
──◇──
「なぁーにやってんのよ……」
今のは……わざとじゃないようにしか見えないんだけれど、どうかしら。
「天然ですね。メアリーさんの言う通りに監視は続けていますが、やはり記憶は無さそうです。何か隠そうともしていないように見えます」
ほぼ心が読めるドロシーでコレなんだから、多分シロっぽいんだけれど。
でもねー。あからさまなのよね、何か。
なんにせよ、まだ対話のテーブルにはついてないって事ね。じっくり行くわよ。
「しかし、それはそれとして戦えるのか見てみたかったんだけどね。あれじゃわかるもんもわからないわ」
「あら、そうでもないわよ? これであのスペードの自認する身体が元の大人のものだってわかったじゃない。でないと目測を見誤りはしないわ。
つまりあのスペードは、あの身体が出来てから生まれた人格ではなくて元のスペードから記憶が欠落した状態って事よ」
「……それ、何か違うの? ツバキ」
「違うわよぉ。……よっこいしょ」
ツバキが後ろから抱きしめてくる。なんでよ。
「【Blueearth】で記憶を失って、過去のことを思い出したら。記憶喪失の頃の人格は死ぬのかしら?」
「……思い出しただけよね。人格って言うほど?」
「そう。思い出しただけ。過去もひっくるめて1人の人間に戻るだけでしょ?
でももしあのスペードが、あの身体由来の新しい人格なのだとしたら?
記憶を取り戻した時……あの身体に生まれたスペードの人格は、死ぬのかしら」
死と人格。
肉体的な死が存在しない【Blueearth】において、死とは記憶や意思の問題になる。
……あたしが記憶を復活させる行為は、実は殺人だったんじゃないか。そんな事を考える事もあったわね。
「つまり、あのスペードが記憶を取り戻したとて今の人格が死ぬわけじゃ無いって事か?」
「結局は考え方次第よ。自己満足のための。
それはそれとして、もっと仲良くしてあげてもいいんじゃない? 記憶を取り戻しても今のスペードがそのまま繋がるんだからさ」
……そうね。
流石はツバキ。あたしにアドバイスしてくれたのね。
「……2ヶ月ぶりの攻略で肩肘張りすぎたわ。みんなも変に緊張させて悪かったわね。
あいつが誰であれ、【夜明けの月】の一員よ。あっちが裏切るまでは仲良くしてあげましょ」
「おっ。いつもの大魔王に戻ったな。良かった良かった」
なによ。様子が変だったなら言ってよね。
……何と言うか、【夜明けの月】メンバーの大人組は一定の距離を大切にしてくれるし、未成年組は基本的にあたしを慕ってくれるし、注意や指摘はともかくアドバイスしてくれるのってツバキだけよね。凄い助かるわ。
「とりあえず情け無いところ見せたスペードには後でペナルティよ」
「お手柔らかにな」
……それはそれとして、未知なスペードの情報を公開せずに済んだのは良かったわね。
──◇──
「なんか知らねぇガキが知らねぇうちに落ちたぞ! 攻めろ攻めろ!」
「なにが"最強"だスカしやがって! なんだあの長い脚は各方面に無礼だよねぇ!」
「3人いれば勝てる相手ってのはバレてんだよォ! こっちは7人2回死ねぇ!」
おーおー言いたい放題だな。
スキル【乱撃錯乱】
──ヒット数3倍。
スキル【速射準備】
──通常攻撃速度2倍。
大独楽の上で考える。スペードは……もうアレだ。仕方ない。あいつはそういう所ある。
いた所で役に立ったかは怪しい。このルールは……銃と魔法と空中戦が中心になるだろうからな。
【草の根】もその辺はしっかり理解している。マジシャン系列に銃使い。どんな競技が出るかわからないが、後衛職を早めに消費したいって所か。人数残ってても後衛だけしかいなかったら終わりだしなぁ。
「撃て撃て!撃ち落とせー!」
「甘いわい初心者共。銃同士で俺に勝てるかよォ!」
アビリティ"クイックドロー"
──ヒット数2倍。
アビリティ"陽炎のガンマン"
──ヒット数2倍。
片手銃二刀流
──ヒット数2倍。
武器【地獄の番犬】二丁装備
──ヒット数3倍。
ラピッドシューターの基本攻撃速度
──秒間7発。
秒間1008発の弾丸は、今回は散弾化。
移動する足場で不規則方向から来る銃撃は、ちゃんと俺を殺せる火力だ。殺意があってよろしい。
──【Blueearth】において、攻撃同士が同じタイミングでぶつかれば相殺される。少なくとも通常攻撃なら散弾化した俺の銃で全て防ぐ事ができる。
そもそもが相手の行動より先に仕留めるスタイルだから使う機会がなかなか無いんだがな。
だが、俺のスタイル──通常攻撃超特化スタイルは、スキルを相殺できない。ある種の弱点ではあるが、俺はそこを狙う。
大独楽が【草の根】の1人が乗った大独楽とぶつかる。
それをわかっている敵は、通常攻撃が届かないと把握しているようでスキルを狙っている。
二丁拳銃。最高火力は【ゼロトリガー】だが、あれは0距離必須。いくらなんでもそこまで無謀じゃねぇか。
狙いは手数の【デスペラード】あたりか。最悪自分がやられても周りの射撃を通そうとしてんな。流石セカンドランカーまでくると覚悟決まった連中ばかりだ。
大独楽接触まであと10m。
この段階で俺は──相手の独楽目掛けて跳ぶ。
「は、はぁ!?」
焦って銃口を向けたな。終わりだ。
空中からそのまま、スキル発動の前に敵を撃ち尽くして──独楽に着地。不規則な移動は周囲の射撃を躊躇わせる。
「おっし。じゃかじゃか落としてくぜー。気合い入れな初心者共!」
「……な、舐めるなァ!」
ははは。楽しい楽しい!
やっと温まってきたなァ!
──◇──
『えー、【夜明けの月】の勝利だね。圧勝』
「そういう言い方ぁ無ぇだろう大仏メカ。しっかり強敵だったぜ。敬意の無い審判は印象悪いぜ」
『ううん確かに。改めよう。ともかく、敗北した【草の根】は"戦闘不可状態"とする7名を選出してね』
意外と聞き分けのいい"ヘヴンズマキナ"。
さて、これで【草の根】は7人脱落になるが……。
「今参加した7人を選ぶよ」
「すいやせん総隊長……」
「いやいやよく頑張ったよ。お疲れ様。あとは私達に任せてね」
【草の根】はまだ14人いる。こっちは参加権を二つ失って10対14。まだまだ不利ではあるが、近付いたな。
『では7人、そこに集まって』
【草の根】の7人がステージ中央に集まると──
──白い檻が彼らを閉じ込めた。
「……これは?」
『"戦闘不可状態"とするための檻だよ。そして──』
"ヘヴンズマキナ"の腕が動き、檻を掴んで持ち上げる。
空中を渡り、白籠は──"ヘヴンズマキナ"の腹の中へと吸収された。
「待て"ヘヴンズマキナ"! 聞いてないぞ! 私の仲間を──」
「落ち着きなさいスワン。別に何も困る事は無いわ。ルールを逸脱してもないし。ルール設定の時に"殺さない"って言ってたでしょ。無事よ」
「……メアリー……ここまで分かっていたのかい?」
「そうよ。あたしは【夜明けの月】ギルドマスターにして邪智暴虐の"盤上遊戯"メアリー様よ。
アンタの狙いもわかってるからね"ヘヴンズマキナ"」
『ほう。狙い……と?』
「すっとぼけるんじゃないわよ。この"白天宝珠争奪戦"は、アンタの発行するクエストの参加権を奪い合うもの。じゃあそのクエストって何か?
そもそも前提がおかしいのよ。クエストの参加者を決められるアンタなら、こんな回りくどい事しなくたって自分で勝手に決めればいいのに。
アンタはクエストを攻略して欲しくない。でもクエストの発行そのものを止める権利は無い。だからこんな面倒な事してるんでしょ?」
『……さて、どうだろうか』
これはまぁ上がった意見だな。クエスト発行の前に妨害するしかないと。
「……で、クエストを発行しなくちゃいけないアンタは考えた。どうやれば確実にクエストを失敗させられるか。だからこその《拠点防衛戦》なんでしょ?
おそらくそのクエストのクリア条件は──"ヘヴンズマキナ"の討伐。それを万全な体勢で挑まれたらキツいから、《拠点防衛戦》として丸ごと包んだ。
【草の根】と【夜明けの月】で潰しあって"戦闘ダメージ0状態"を増やして、少しでも自分と戦う相手を減らそうとしてるんでしょ?」
『………………うん、まぁそうだよ』
認めた。
……成程。負けた奴の無力化は、自分と戦う時の保険か。セコいなー。
『わかったのなら辞めるかい? そちらがリタイアしてくれればクエストは発行せずに済む』
「ばかたれ。逃すと思ってんの?
──あたしはそこまで読んだ上で参加してんのよ。【草の根】も"ヘヴンズマキナ"も、両方倒してやるわよ」
流石は男前な俺達のマスター。
……え、本当にわかってた上で作戦立ててたの?
その上でクローバーを初戦で消費したの?
『ふむ……【草の根】はどうだろうか』
「うん。話はわかった。あたかも悪辣な作戦のように言っているが、タネがわかれば割と常識的なクエストだね。負けたとて何度も挑むだけだが、せっかくなので初回攻略を目指させて頂こうか」
スワンの言う事ももっともだ。ルールを隠してただけで、クエストとしてはそこまで難易度は高くない。色んなクエストを経験した【草の根】の長としては、だが。
……"ヘヴンズマキナ"は何か複雑そうだが。世の中にはお前では遠く及ばない意地悪な連中がいっぱいいるぞ。一つ前の拠点階層とか特に。
『では……続行するよ。第2の競技は──"凧揚げ"と行こうか』
独楽舞台が消え、次に現れたのは──"ヘヴンズマキナ"の頭よりも高く高く連なる、複数の凧。
『最も高いところまで辿り着いた者の勝ち。勿論妨害アリだよ。【草の根】から参加者を表明してね』
「では私が」
動き出すは【草の根】サブリーダー、ヒョウ爺さん。
ジョブは【聖騎士】だったはずだが。そこまでの機動力は無さそうだがなぁ。
【草の根】はヒョウ爺さん含めた4人。こちらは──
「ゴースト。それとあたしが出るわ」
……え。
「いやお前出るの!?」
「出るわ。意地でも出る。指揮は任せたわよライズ」
「えぇー……。いいけどさぁ。それも作戦なんだろうし」
ふんすふんすと前に出るメアリー。なんであんなに自信満々なんだ……。
……ん?
今こいつ、負けるの前提で話さなかったか?
〜ギルド紹介:【ダーククラウド】2〜
・ゴロー
【TOINDO】初代社長。藤䕃堂財閥の重鎮。藤䕃堂五郎。記憶持ち。
楽しく余生を過ごすおじいちゃん。めちゃくちゃムキムキマッチョで若々しい70歳。別に天知調の若返り実験とかは受けてない。
基本的には享楽主義で、共同開発者ながら世界ごと会社を裏切った天知調に対しても"騙されるとはまだまだ青いな五二郎"と他人事。
……初代【TOINDO】の財源が不明である事と、ゴローの背中にそれはもう立派な竜が彫られている事にはなんの因果関係もない。ないったらない。
フミヱが闇のおばあちゃんに対してゴローは光のおじいちゃん。どちらも面倒見が良い。特にツララの面倒を良く見ている。"何度か殺されかけた経験はあるからね。はっはっは"との事。
一介のゲーム開発者が何故命の危機に……?
・キャミィ
"鬼教官"。【ダーククラウド】のマトモ担当。記憶なし。
元【コントレイル】で、勧誘を受けて移籍した。癖者揃いの【ダーククラウド】においては貴重なマトモな纏め役。
何につけてもサッパリキッパリ。決断の速さときたら一流。コミュニケーション適正も高く、【夜明けの月】との外交がエリバとキャミィの二本柱になっていたあたりでわかる通りである。
外見の小ささは受け入れているが、子供扱いされるのは仕方ないと受け入れてはいる。しかし身長が小さいだけで大人の女性としての魅力を無自覚に振り撒いているのでファンがすこぶる多い。本人は未だにそれを"少女趣味の危ない男達"と見ているが……。
・エリバ
木原エリバ。記憶持ち。
【ダーククラウド】創立者。とにかく癖の強いメンバーを纏める参謀。一番厄介なハヤテをしばく事ができる希少人物。
なお、【ダーククラウド】ぶっちぎり最年少の18歳。他は全員成人済。だが一番大人なのはエリバ。
記憶持ちは"流石に未成年にあれこれやってもらうのはナシだろう……"と自制するが、その圧倒的神父パワーに誰もが甘えてしまう。今日も老人コンビは将棋の相手をしてもらうし、暗殺者は汚い部屋を掃除してもらうし、爆睡しているサブマスターは優しく起こされている。
・シーナ
藤䕃堂財閥の秘書。【ダーククラウド】サブギルドマスター。
思った事をズバズバ言うハイパー秘書。前線拠点では纏め役としてギルドマスターよりマスターをしている。
かつての上司であるゴローに対しても良好な関係。恐れというものを知らない有能秘書だが、唯一教育総監だけは怖く、【草の根】にいるヒョウと顔を合わせられない。
すごく料理が下手。なのに料理をしたがる飯テロ(文字通り)。
ハヤテが男である事は出会った瞬間に見抜いていた。なんとなくだが。どういう勘だ。
・ハヤテ
お騒がせ大将軍。ほっとくとすぐ面倒事を起こすので、バグより先にこいつを追放しろと言われる始末。
うっかり【TOINDO】の初代社長の記憶を戻したり、適当にバーナードの記憶を戻してドラドでの騒動のトリガーになったり、おせっかいでリンリンの記憶を戻して怒られたり。その他諸々。
死ぬほど人選が下手と評判。ちなみに黒木翔として天知調達の近くにいる事となった警備会社は、同級生に騙されて入社した。あいつだけは裏切らないと思ったのに!
身体が女の子になってしまって困惑していたが、ツバキに褒められ倒されて育ったのでもう完全に気持ちが女の子。ヒガルでライズに"兄貴"と呼ばれてからは"冷静に考えたらボクって男じゃん。男らしくしないと"と変なことになっている。
天知調の願いは全て叶えるが、ライズだけは傷付けられない。なのでアクアラでライズを犠牲にされた時は、あとで天知調に怒ろうとした。
結局無理でデコピンで収まった。よわよわあにき。




