197.いじわる地獄
【第73階層ヘル:死獄三丁目 怖恐郡1-1-1】
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ヘル階層地獄巡りツあーへようこソ!
三丁目は恐ろしくも美しい亡者の巣窟。古代の建造物の隙間を掻い潜り、出口を探しましょう!
みつけられるものならね。
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これまでの古代文明とは大きく変わって……近代的なビルの廃墟。そして大量の魔物。
「この廃ビルのどこかに転移ゲートが隠されているってタイプのアレだ。
しかし実はどこにも隠されてなくて、四つのビルの屋上まで上がったら地上にゲートが現れるんだよな」
「性格悪過ぎない?」
「ヘル階層は亡者を厚生させるために"焔鬼大王"が作ったものらしいからね。難しくてもおかしくないと思うな」
「まんま地獄だな。そこに生身で入る冒険者の方がおかしいんだぜ……っと。ミカン、これでいいか?」
「ばっちぐーなのですクローバーさん。【夜明けの月】移動要塞"ベラシート"はワイヤーの位置を変えるだけで用途に合わせた変形が可能なのですー」
何かカズハとクローバーがさっきまで使っていた砦をいじってる。
"ぷてら弐号"の鞍に接続する部分はお腹の下側に。
「……よし。できたですよライズ」
「おう。まぁタネがわかればどうという事は無いな。屋上に行けばいいなら直接行けばいい」
"ぷてら弐号"が羽ばたく。
移動要塞"ベラシート"が垂直に浮き上がる。気球みたいね。
「垂直飛行モードなのです。【Blueearth】は結構な数の垂直移動ステージがあるのでなかなか重要なモードなのですよ」
垂直に、高く、高く。
……魔物がビルの壁に張り付いてるわね。
──【スキャン情報】──
《スパイダー:ヘルズロウ》
LV122
弱点:地
耐性:火/水/風
無効:光/闇
吸収:
text:
古代文明の建物外壁に張り付く大蜘蛛。付近の飛行物体を捕食する73階層の支配種族。73階層の全ての魔物は彼らを恐れ、建物内部に避難する。
吐き出す蜘蛛糸には重量増加と移動速度減少の呪いが付与されており、動きが鈍ったところを飛びついて襲撃する。近道はやめよう。
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「思いっきり対策されてんじゃないの!」
「倒せばいいだけだ。頑張れ遠距離火力部隊」
「垂直上昇ですから【サテライトキャノン】が使いにくいですね……」
「このくらい近いなら俺達も手伝えるぜー」
「ここはお姉さんの出番ね。ミカンちゃん、ジョージちゃん。帰り道はお願いね?」
カズハが砦から飛び出すと──大蜘蛛の糸をその身で受ける。
本来は砦に当てるところを、カズハにしか当てられなかった。大蜘蛛は切り替えて、カズハをそのまま釣り上げる。
が。
「やんちゃね。元気が良くていいと思う!」
呪いを喰らう妖刀【厚雲灰河】が蜘蛛糸を斬り、そのままビルの壁に着地。
自分より上の位置にいる大蜘蛛へ向けて、蒼の二振り目を構える。
──自らのHPを削る妖刀【分陀利】。しかしその発動コストすら【厚雲灰河】が呪いと捉えて喰ってしまうから……実質的に支払えるHPが増加しているようなもの。
カズハは自分のHPの30%──呪い喰いが無ければ300%ほどの支払いになる──を捧げて、3倍の火力を得る。
重量の落下が届くより早く。
ビルの壁から、侍が跳ぶ。
「──【灰燼一閃】!」
ダメージのみを残し、実体のみが敵をすり抜ける"エルダー・ワン"の【一閃】。
たった一度の抜刀で大蜘蛛を撃破したカズハは、そのまま空中に放り出される。
他のビルの大蜘蛛がそれを狙って蜘蛛糸を飛ばすけど──
「【建築】!」
立体勝負なら【建築士】の領分。ミカンとジョージのアシストで空中に壁が出現する。
ミカンのは煉瓦の壁。ジョージのは畳。チョイスが似合ってるわねジョージ。
「ありがとー! じゃあ次、行くわよ」
空中の畳を足掛かりに乗り継ぎ、見てみれば既に二刀を納刀しているカズハ。流石は【一閃】の達人。
「確実に敵をすり抜けられるのは使い勝手いいね! 流石"エルダー・ワン"ちゃん、いい仕事するわ!」
「ううむ褒められるのは嬉しい。また何か新しい技でも考えておくかな」
「本当? 嬉しいわ!──【虚空一閃】──【燕返し】!」
肩の竜と話しながら、空を跳び縦横無尽に大蜘蛛を刈り取るカズハ。
カズハ本人に飛行能力は無いのよね?
「……想像より人間離れした挙動してるな。ジョージみたいな立体戦闘だな」
「アシスト付きとはいえ、【夜明けの月】の前衛組ではゴースト君とカズハ君は実戦可能なレベルまで辿り着いた。自動で移動補正の入る【襲牙】や【一閃】があるからというのもあるだろう。ライズ君も【スターレイン・スラスト】を使い熟せられれば可能なはずだよ」
「立体戦闘はマニュアル操作だろ。大槍持ってアレは正直キツいなー」
……【夜明けの月】の前衛チームがどんどん人外になっていくわね。
──◇──
【第74階層ヘル:焔獄四丁目 怒山3-1】
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ヘル階層地獄巡りツあーへよウこソ!
四丁目は火山と竜のパラだいス! 弱肉強食のサバイバル!
弱い者が淘汰されるのなら、弱い者だけを倒し続ければ生きられるって事だよね!
噴火まで僅か! 急いで急イで!
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噴火する火山。
……いやもう噴火してるじゃないの!
大量のトカゲドラゴン。ウィード階層攻略でお世話になったイグアナ達の進化系みたいね。
「74階層は制限時間付きの階層だ。大量にいる魔物の中から弱い順に10体連続で撃破しないといけない。
基本的に弱い奴は隠れているし、ちゃんと少しづつ強い奴を見つけないといけない。
時間切れの大噴火は"焔鬼大王"送り確定だ。大体2時間くらいだな」
「メアリーちゃんは【スキャン】使えるからそんなに難しくは無さそうですね」
「そうね。レベルが高すぎる相手でもこのメンバーなら倒せるし、さっさとやっちゃうわよ」
「ふっ。そう簡単には行かないんだよなぁ」
なんでしたり顔なのよライズ。
……クローバーもリンリンもミカンもカズハもげんなりしてる。経験組が……。
「気を抜いちゃだめよメアリーちゃん。来るわ」
「来るって何が……」
──地響きに紛れて、溶岩の中から何かが飛び出てきた!
──【スキャン情報】──
《チキンリザード》
LV1
弱点:火/水/地/風/光/闇/斬/打/突
耐性:
無効:
吸収:
text:
溶岩に潜む小さなトカゲ。びっくりするほど弱いのに物音に反応して飛びかかってくる。
悲鳴が新たな仲間を呼び、次々と葬られていく哀れすぎる非力生物。
その正体は転生を諦めた亡者の怨念が溶岩火の粉に宿ったもの。足を引っ張るくせに実力はからっきし。
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「……馬鹿馬鹿馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの!?」
襲い来る小さなトカゲの群れ。もう杖が触れただけで纏めて吹き飛んでいく。これはこれで爽快だけどこんな所でやらないでよ!
「ちょっとコレどうするの──」
振り向くと──移動要塞"ベラシート"が飛んでる。
あたし1人を残して飛んでる!
「理屈さえわかれば難しい事じゃない。お前は【スキャン】でレベルがわかるから高見台のドロシーと連携して一体ずつ倒してけ。俺達は変なヘイトを集めないようログハウスに隠れてっからな」
「いやライズも両手銃使えるでしょ! サボるな!」
「チッ。しゃーねーなー。【スイッチ】」
というか残すべきなのはあたしじゃないわよね!
やるけどさ!
──◇──
【第75階層ヘル:針獄五丁目 目痛4-1】
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ヘル階層地獄巡リつあーへよウこソ!
折り返し五丁目は針山地獄の目痛!
とは言ってもただの針山では飛んで避けられてしまいますので。
針の方を飛ばしてみました。天才!
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ウニが飛んでるわ。
一面の剣山の上をウニか飛んでいるわ。
「ここは素通りするだけだ。だが針に触れる=罪人として更生に参加したと見なされ、もう一度最初からやり直しになる」
「イライラ棒じゃないの」
「なので大きく迂回する。いい具合に夜だしな。ジョージとミカンとツバキで交代しながら"まりも壱号"を操縦して明日の朝までかけてゆっくりと進む。ここは比較的安全な階層だからな」
「めちゃくちゃ物騒なんだけど。ウニ爆発してるし」
「階層の端ギリギリを走れば当たらない。めちゃくちゃ時間はかかるがな。というわけで休憩だ」
やったー。休憩だぁ。
「では俺が操縦しよう。ミカン君は休んでくれ」
「そうですね。0時交代とするのです。ワイヤー切り替えシステムにしたので砦のカスタムはミカンさん抜きでも出来ますですから、出発の8時に交代して朝寝させてもらうのです」
ミカンとジョージがこういう時に本当に頼りになるというか、大人よね。
──◇──
"【夜明けの月】のログハウス"
リビングフロア
「エンジュの立ち回りをそろそろ決めないとね」
晩御飯はカズハの和風御前。みんなのお姉さんは料理だって完璧ね。ご馳走様でした。
「まずはエンジュについて、お姉さんが説明するわね。
【第80階層 天上雲海エンジュ】は雲の上。セカンド階層とは思えないほどに平和な階層なの。
原住民はアンドロイド天使のエンジネル。雲の上に作られた古代文明のアンドロイド製造工場が自動稼働して作られた階層ね」
「レイドボスは焔鬼に引き続き拠点階層で統治している。でっけぇ大仏メカの【天上機構 ヘブンズマキナ】だ。平和主義でエンジネル達の親玉だ。
つまりはレイドボスの脅威は無い。セカンド階層で住むならエンジュだな」
「普段は【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】が取り仕切っているの。流石の【飢餓の爪傭兵団】もセカンド階層以降は各階層に配置できないから局所的に設置しているんだけど、ここは……セカンド階層で攻略を断念した子達の受け皿って役割もあるの」
現段階で"羅生門"を潜り抜けセカンド階層に属するギルドは18。でもそれは、今存在出来ているギルドの話。
「アクアラで会ったリューゲは元セカンドランカー【鼠花火】だったけど、解体されて【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】に吸収された。エンジュはそういうのばっかりだ」
「人数がいるって事ね。それで【セカンド連合】が階層漁りをしてるのに、宝珠が見つからないの?」
「……そうなんだよな。セカンド階層で一番人数がいるのにまだ見つかってないってのは変な話だ。誰かが既に持っているって方がありえる」
宝珠の話はもう【井戸端報道】から【Blueearth】中に広まっている。人数がいるならその可能性は高いわね。
「現状の宝珠出現条件としては民間クエストが大きく関わってきているらしい。その辺を考えると【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】の連中が持ってると思うが……」
「或いは、根本的に何かが足りてなくて見つけられなかったのか、とかね」
どちらにせよ【セカンド連合】が手に入れてないというのは事実。宝珠の所在がわかるまでは【夜明けの月】が有利になるわ。
「ベル達が支配してるってのも気になるけど……気楽に行くわよ。
そういえばスペードは?」
「まだ寝てるな。スペードをどうするかもまたポイントになるよなぁ。見た目でバレる事はあまり無いと思うけどよ」
手駒にしたいと言っても油断はできない。まだスペードがどこまで記憶があるのかわからないんだから。早く起きて欲しいわね。
〜特集:【夜明けの月】2〜
《編集:【井戸端報道】第1編集部タルタルナンバン》
・"宙を追う者"ドロシー
レンジャー系第3職【サテライトガンナー】
可愛い可愛いドロシーさん! しかしその正体は【Blueearth】三種の神器【サテライトガンナー】という遠距離超火力!
大きな強みと言えば、あのクアドラさんに続き2人目の"動きながら【サテライトキャノン】が撃てる【サテライトガンナー】"という事ですねェン!
【サテライトキャノン】に頼りすぎる事も無く、両手銃での戦闘も得意! 小さな身体で戦場を駆け抜け潜伏し狙撃する【スナイパー】としての戦闘も可能です!
可愛いですが、戦場でその姿を見た時は死の瞬間でしょう!
・"聖母"アイコ
ヒーラー系第3職【仙人】
私達の聖母!アイコさんです!
ドーランにて【朝露連合】発足のきっかけとなった彼女は【夜明けの月】を支える大黒柱!
戦場に聖母の姿あれば、その前線を崩す事は容易ではありません。
希少な【仙人】であるアイコさんは、自らの肉体を武器に物理で敵を薙ぎ倒します。何故か彼女に対して攻撃するとダメージが通らず投げ飛ばされてしまうのですが、これは神のご加護か何かでしょうか!?
なお、【夜明けの月】のファッションリーダーでもあります。実は私も世話になってたり……。
・"冥土送り"ゴースト
ローグ系第3職【リベンジャー】
黒髪靡く美人メイドのゴーストさん! 魔法も物理も近距離も中距離も、戦闘も回復も火力も支援もなんでもござれ! 【夜明けの月】において潤滑油となるオールラウンダーです!
【リベンジャー】ながら機械のように正確なHP管理によって長期戦すら可能にする実力を持っています!
【夜明けの月】最古参ながら彼女の経歴は一切不明であり、ミステリアス&クールなその立ち振る舞いにファンも多いです。
特にギルドマスターメアリーさんとの相性は抜群。この主従コンビ、顔が良すぎます!
・"妖怪再鬼"ライズ
ローグ系第3職【スイッチヒッター】
【夜明けの月】サブマスターにして立ち上げ人。【夜明けの月】の中核に立つライズさん!
一度アドレまで降りたものの、その経験や伝説をフル活用し【夜明けの月】を立ち上げヒガルまで戻って参りました!
妖怪は死なず、再起するのみ。ライズさんは【夜明けの月】では軍師として収まっており、毎度驚きの作戦で行く階層行く階層で騒ぎを起こしていました。
戦闘においては近距離から遠距離まで全ての範囲をカバーするオールラウンダー!【スイッチヒッター】の十八番です!
あらゆる武器を瞬時に切り替え、戦場の隙を自らで補う技巧派。ライズさんがいる限り、【夜明けの月】との集団戦を突破する事は難しいでしょう。
かつて所属していた黎明期のギルド【三日月】での膨大な研究データと資材資金は未だ底なしといったところで、未だに最前線のランカーですら知らない秘密のアイテムがぽんぽん出てくるとか。恐ろしいですね。
・"盤上遊戯"メアリー
マジシャン系第3職【エリアルーラー】
【夜明けの月】ギルドマスター! 可愛くも恐ろしいメアリーさん!
その経歴は一切が不明ですが、ライズさんとゴーストさんを引き連れて立ち上げた【夜明けの月】の数々の功績は彼女によるもの。
人材、環境、戦闘においては配置まで全ては彼女の手のひらの上。メアリーさんにとっては全てが盤上の遊戯に過ぎません。
トップランカーに喧嘩を売り、【セカンド連合】と敵対し、どこから手に入れたかわからない大量の物資で悠々と攻略していく恐怖!
恐れ知らずの彼女にとっては全てが遊びなのでしょうか!【Blueearth】を手中に収めてしまうのも近いか──!?
──◇──
「なんであたしだけ悪役みたいな書き方してんのよ」
「いいじゃんカッコいいじゃん。二つ名が"マジカル⭐︎メアリーちゃん"にならなくて良かったな」
「アンタなんてずっと妖怪扱いじゃないの」
 




