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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
煉獄都市ヒガル/ヘル階層
195/507

195.無垢なる災厄は眠る

【第70階層 煉獄都市ヒガル】

大鐘楼"焔鬼大王"執務室


──"【セカンド連合】追放戦"から45日。


「そうかぁ。いよいよもって出立か」


最後の挨拶に"焔鬼大王"に顔出し。

クローバーとゴーストも一緒だ。なんでか。


「焔鬼はヒガルから出られないんだよな?」


「例外はある。サバンナ階層で別階層のレイドボス呼び出し事件があったろ? ああいう事は仕様上可能だ」


そういえばあったな。"テンペストクロー"と"ミドガルズオルム"と"スフィアーロッド"の呼び出し。

……バグとはいえ、システム上可能だからできた事だ。つまりこれからどこかの階層でレイドボスの呼び出しが起きる可能性があるのか?


「それに今は散歩道も出来たしな。ベル社長はすげぇなぁ。大鐘楼そのものの敷地を広げるとか横暴すぎんだろ」


「明らかに使われてない山もあったしな。そんなデカさじゃ元の大鐘楼は狭すぎるだろ」


「病気とか無いからな【Blueearth】。俺はシステムエンジニアだったからよ、座り仕事なんて慣れたもんだ」


メンタルが凄いな。


……焔鬼は小さく一息吐いて、クローバーの前に一つの弾丸を落とす。


「これは?」


「……スペードの形見だ」


拾おうとするクローバーを止めたのはゴースト。

ウィンドウを開いて解析を始めた。


「会ってたのか」


「【セカンド連合】追放戦の時にな。俺は……というか天知調は、スペードがバグの親玉だと睨んでいた。

【Blueearth】のゲームシステムに潜入した……つまり冒険者ではない人間は俺含めて2人だけ。そして記憶持ちは俺だけだ。ヒガルの"焔鬼大王"という【Blueearth】において超重要なポジションだけは確実に抑えておきたかったんだ。

レイドボスのフリをしていたのは全て、あの日スペードを釣り出すため。実際追い込まれていたスペードは、これを最後の望みとして俺に接触してきた」


【至高帝国】謎のリーダー、スペード。

クローバーでさえ詳細は把握できていないが、まさか存在そのものがバグだったとは思わなかった。


「俺が天知調の仲間だって事を告げると、奴は諦めた。ハヤテが追っている事を理解した上で、最後の時を仲間と過ごすってよ。流石の俺も見逃しちまった」


「その見逃し中にバックアップ取ってたりしないか?」


「ゴリゴリに監視してたから大丈夫なはずだ。ここを出てからは天知調からの監視も付けている。

……唯一の懸念が、ソレだ」


「search:超圧縮されたデータの塊ですね。映像記録等が殆どです。言うならば、アルバムですね」


「アルバム……」


解析が終わったようで、ゴーストはその弾丸を拾い上げ、クローバーに手渡した。


「曰く、生きていた証を残したかったとよ。無害ならもらってくれねぇかクローバー」


「……勿論だ。あいつの事なんて絶対忘れねぇしな」


バグの親玉とはいえ、【至高帝国】の事は利用とか支配とかはしていなかったようだ。というかしていたらクローバー加入の時点でバレるし。


クローバーがヒガルを出る前に渡したかったんだろうな。連れてきて良かった。


「改めて確認だが……本当にスペードは消えたのか?」


「正確に言えば"天知調並の知能を持つ、バグにより発生した擬似人格"は消滅した。ゲームである限りバグはどこかで生まれるもんだ。

あの"冒険者スペード"は間違いなく消滅した。追い縋るバグ人格も存在しない。よってこれまでのように故意的な嫌がらせは無くなるだろうな」


言うならば【Blueearth】始まって以来初の死者だ。例えバグであろうと。ましてやクローバーは親友だった。

そして、ゴーストはその親友にトドメを刺した。本人達で納得いってるらしいから深くは追求しないが……お互い話題に出し難い話だ。


「──ま、やりたい事やっただけだ。あの馬鹿は。

あいつは毎度毎度とんでもない事ばっかりやらかすからなぁ。未だにあいつのアホ面が脳裏に焼きついてるぜ」


笑うクローバー。

俺は遂に会う事なく終わってしまったが、クローバーの親友。一言くらい挨拶しておきたかったな。


と。



「大変っス大変っス大変っスーーーー!!!!」

「大変よ大変よ大変よーーーー!!!!」


騒がしく飛び込んで来たのはメアリーとレン。それとドロシー。どうしたどうした。


「なんだうるさいなお前ら。ドロシーがついていながらどうした」


「人を攫ったわ!」


えぇーどういう報告?

見るにレンが背負っている黒髪の少年がそうなんだろうが。意識が無さそうだ。


「拾ったっス。街中でぶっ倒れてたんで運んできたっス。死んではないっスけど、意識が無いっス」


「そりゃあ大変だ。どれどれ」


「ちょっと待てライズ。全員離れろ」


制するはクローバー。続いてゴースト。焔鬼はメアリー達を摘んで俺の隣に降ろす。

ゴーストは双剣を構えて、横たえる少年に警戒する。


「……誰なんだその子は」


「ゴースト。どう思う? 俺ぁ頭がイカれたのかと思ったが、お前も動いてるって事は……」


「answer:yes:アバターサイズこそ違いますが、根幹データは98%一致します」


「……チッ。やっぱあの弾丸、厄ネタだったんじゃねぇだろうな」


状況の説明は無いが、ここまで3人が警戒するなら……俺でも、メアリーでもわかる。ドロシーも真っ先にレンを庇う位置に立ったあたり、確定か。




「……そいつが、スペードなのか?」




──◇──




緊急召集。

【夜明けの月】の残るメンバーに連絡を回す。今回は記憶関係の話になるから、レンには一旦帰ってもらった。エリバさんはジョージとツバキが近くにいたので一緒に来てくれた。


「自由行動の最中に悪いわね。緊急召集よ」


「【ダーククラウド】通信繋がりました」


映像先のハヤテも信じられない物を見る目で、未だ眠ってる少年を見ている。


「はい。こちらスペードらしいわよ。どうなってんの?」


『それはボクも聞きたい。あの時【Blueearth】の"冒険者スペード"は滅したはずだよ。証人はボク達【ダーククラウド】とそこのクローバーだ』


「おう。その後どうなったかはゲームマスター側にしかわからねぇが、最終的に看取ったのはゴーストだよな?」


「answer:yes:"廃棄口"にてデータの分散消滅を確認しています。僅かなデータも【Blueearth】に持ち帰らないよう"廃棄口"の時間を調整し72時間データ洗浄をしてから帰ってきましたので、"廃棄口"からの復活の可能性はかなり低いと思われます」


お姉ちゃんからしたらここが最大の障害。少しの隙も許さなかったはず。

……それにお姉ちゃん並に賢いスペードが、あまりにあっさりと死を受け入れていたというのも気になるわ。


つまり問題は、ここにいるスペードが何者なのか、という事。


「──真理恵ちゃん! 無事!?」


地面から飛び出してきたのはお姉ちゃん──ゲームマスター天知調。

ここ最近ずっと忙しくて、顔を合わせるのも久しぶりね。


「大丈夫よ。それよりお姉ちゃん、これ」


「……そうですね。確かにこの子の構成データはスペードのものと同じです。より正確に言うのであれば、"バグ"スペードが依代にしていた、冒険者としてのアバター。それもデータ総量が足りず大人の姿を保てないようですね」


「依代……アバターね。つまりバグや人格は無いのか?」


「そうなりますね。あくまで外側だけ。目が覚める事があったとしても記憶は無いでしょう」


見つけたのは【ダーククラウド】と【至高帝国】が戦ったという料亭【六文銭】の近く。中身の回収に急ぎすぎてアバターが放置されているのに気付かなかったって事かしら。

……2ヶ月も?


「害はありませんが……こちらで引き取りますね。もう心配しなくても大丈夫です」


「ちょっと待ってお姉ちゃん」


丁度いいわ。お姉ちゃんには悪いけど──


「このスペード、【夜明けの月】が預かるわ」


──ここらで()()が欲しかったのよね。




──◇──




──宿泊宿【六文銭】


スペードを連れて宿へ。

お姉ちゃんはギリギリまで食い下がったけど、あたしのおねだりには勝てないのよ。無事勝ち取ったわ。

正直あのままお姉ちゃんに渡したら念入りに消されそうだったし。"焔鬼大王"もその辺勘付いていたからかフォローしてくれたわ。優しいわね"焔鬼大王"も。


「……で、そのお荷物抱えて行くんです?セカンド階層。 冒険者なのかどうかも怪しいのです」


ミカンは冷静で客観的な意見をズバズバ言ってくれるから助かるわ。

クローバーのため……なんて優しい事は言わないわ。


「……【夜明けの月】の最終目標! 改めて説明するわ。

あたし達は【Blueearth】を支配する。お姉ちゃんの椅子を奪い取る。それが終着点よ」


「それで、そのために階層攻略を停滞させるのよねぇ? トップランカーを全員倒して、攻略の手綱を握る。そういう話じゃなかったかしら?」


「そうよツバキ。その後が重要になってくるわ。

……つまりお姉ちゃんとの交渉の手札。ここまでの計画はお姉ちゃんと取引できるようにするための手段であって、交渉するための手札そのものはほぼ皆無よ。

攻略してほしかったら席譲れ、なんてチープすぎるわ。他にも手札が必要なの」


ライズが提案してくれたこの作戦も、テーブルについてからはあたしに丸投げ。こっちで考えなきゃね。


「しかしメアリーさん。()()は無茶なのでは……」




「無茶じゃないわ。あたしは──スペードを()()()()()!」




あ。ライズが"また馬鹿な事言ってるよ"みたいな顔してる。許せん。


「スペードは植え込みの中に落ちていたわ。明るいけど物陰。"焔鬼大王"の目も届かなかったでしょうね。

それでも2ヶ月放置はありえないでしょ。あたしに見つけて貰うために誰かが仕込んだのよ。

そしてお姉ちゃんが急いで回収しようとしていた事。本当にアバターだけならあそこまで焦らなくてもいいと思わない?」


「つまりアレか。本当はこのスペード(小)はまだバグの力を残しているって事か?」


「お姉ちゃんの態度からしてそうだと思うわ。でも()()ただの冒険者アバターだってのも正しいと思う。

流石に本当にスペードそのまんまだったら我儘も通らないわよ。今のままではね」


「……なるほど、あらかじめ蘇生するための仕掛けを仕組んでおいて、その仕掛けは小分けにしてあると。それぞれ単体では大した脅威にならないが、集まれば復活できる、という仕組みかな?」


「多分そう。お姉ちゃんを出し抜くには一回死にでもしないといけないわ。だからこのアバター以外にもいくつか、スペードが復活するための鍵があるはずよ」


「あー……待てマスター。つまりなんだ。生き返るのか。スペード」


クローバーは……察してるわね、これは。

まだ全部憶測でしかないけれど、信じたいわよね。


「どこまで戻るかはわからないわ。自我を持ったバグとしてだけなら過去の記憶は蘇らないだろうし、【至高帝国】のスペードとしてなら完全に記憶が復活するだろうし。

だけどどちらにせよ、【夜明けの月】は対お姉ちゃんとの最終兵器としてスペードを手に入れる。そこは決定よ」


「……俺は異論無ぇ。だがよ、一応バグの親玉だろ? ゴーストが頑張って処分した相手だ。復活して【夜明けの月】に危害を加えたらどうする」


「その辺は交渉ね。可能ならアンタが手綱を握りなさいクローバー」


「無茶言うぜ。……いいか、みんな?」


真っ先に飛びつきたかったろうに、ゴーストや仲間の心配をするクローバー。

流石の大人ね。だからこそスペードを任せるのだけれど。


──満場一致。

これより【夜明けの月】はスペード(小)を加えて、階層攻略を再会する──!




──◇──




ちなみに。


「多分この弾丸が、今言ってたパーツの一つだよな」


「じゃあこれ撃ち込めばいいんじゃねーか?」


「流石に眠っている少年に銃を突きつけるのはアウトでしょ。"羅生門"突破段階でまだ寝てたら撃ち込みなさい」


「らじゃ」




「……焔鬼のやつ、普通に利用されてんじゃねーか」


~【夜明けの月】は今日も仲良し~


《ツバキと各メンバーの絡み》


・ライズ

【三日月】時代と変わらず積極的におちょくり回しているが、ライズ側は相手が18でしかも同僚の女なのでかつて以上の鋼の意志でガードしてくる。

ツバキからすればライズはライズなので、記憶を取り戻したところで対応を変える事はない。

だがジョージが止めてくるのでライズを部屋に連れ込む事は減った。

恋愛というより小悪魔系の妹。兄妹感。


・メアリー

18歳同盟。

ツバキのあまりの風格に尻込みしていたメアリーだったが、ツバキのいい加減でズボラな面を見てきたり振り回されたりしているうちに仲良くなった。

ライズの昔話で盛り上がるコンビ。意外と悪巧みは苦手なツバキからしたら、メアリーは頭がよく回るし"ワル"でかっこいいと思っていたりする。

体温が高いので抱き枕にされる事が多い。


・ゴースト

最初は"ライズが自分の理想の女を作った"と思ったほどにあまりにもライズの性癖ど真ん中。

そんなゴーストの恋愛を応援すべく、色々とライズにイタズラを仕掛けている。

BARのマスターだったツバキは恋する人の味方。そして鈍感にぶちん男は悪。滅。殺。

ツバキが髪を解くと後ろ姿がそっくりになってしまう。並ぶとツバキの方が背が低いが。


・アイコ

お互いにお互いの身体を尊敬している。

ツバキは基本的にファッションの趣味が大人っぽいもので統一されているので、良くアイコの着せ替え遊びに付き合っている。ファッションセンスはアイコ任せ。

ただし、アイコの世話焼きレベルが高すぎてツバキが堕落してしまうので接触を控えるようにと【夜明けの月】全体から言われている。

ツバキは甘え上手。


・ドロシー

愛玩生物。恋愛模様を無理矢理聞き出したりして遊ぶ。

ツバキもカズハ同様に悲しい過去とかは無いが、あまりにもメンタルが超然としすぎておりドロシーはまだビビっている。そりゃエリバと親友なだけはある。

また、どちらも"相手の求める事がわかる"力を持つ。ドロシーは観察と理解による読心術だが、ツバキは共感と経験による推理。"今考えている事"がわかるのがドロシーで"無意識に求めてるもの"がわかるのがツバキ。隙無し。


・ジョージ

パパ。女児化しても対応は変わらない。

元々家に帰る事が少なかった父だが、自分の事を愛してくれている事はわかりきっていたので寂しく無かった。が、その態度が誤解されていたのかもしれないと反省。

今は昔より"自分"に目を向けてくれるようになったので、よく一緒に遊んでいる。

ジョージの部屋にあった着物とは別に、ツバキ用の物を一着追加で購入してジョージの部屋に飾った。ついでにジョージの甚平も飾っている。

服だけでも、家族一緒に。


・クローバー

ツバキは避けられていると思っている。

実際はジョージから釘を刺されているから近付けないだけ。

ジョージがいなくとも、クローバー曰く「美人は好きだが美人局が怖すぎて避けちゃう」との事。

その後クローバーはメアリーにしばかれた。


・リンリン

ツバキがドSだと思って近付くリンリン。ツバキの部屋に誘われ、何が起きたか翌朝以降めちゃくちゃ懐いたし仲良くなった。尚、ツバキは別にSではない。

お姉様呼びが定着しているが、同年代である。


・カズハ

現実ライズの話を良く聞く。

【三日月】時代からライズは基本的に女慣れしてないのにどこか根底で女性の扱いをわかっている感じがしていたが、原因が良くわかった。

こんな幼馴染がいるのにアレか……と思う盤面、こんな美人が幼馴染なら恋愛感がぐちゃぐちゃになるのも納得である。

女性陣最年長のカズハを甘やかすツバキの図。そしてツバキのピンクい部屋のオーラを無効化できる唯一の人。


・ミカン

愛玩生物2。

ツバキは完全後衛職なのでミカンと組む事が多い。

結構素直じゃないところのあるミカンが、ややライズ味があると思って可愛がってる。

ミカンに意外とからかい耐性が無いので、ちょっとしたイタズラをよくする。絶対にやり返して来ないところが本当にライズそっくり。

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