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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
煉獄都市ヒガル/ヘル階層
189/507

189."今日"から"明日"へ

【第70階層 煉獄都市ヒガル】

──大鐘楼中庭


「──【決闘】終了。勝者ライズ(無所属)」


おい語尾。

……【決闘】が終わって、消費した装備やらMPやらが元に戻るが……精神的な疲労がキツい。ハヤテも俺もその場に座り込む。


「──最後の。サティスのお家芸だよね。アビリティ【アンストッパブル】で【一閃】の初撃が前方移動になるの。それでタイミングズラして来るなんてなぁ」


「先生はいっぱいいたからな。アクアラで暇してたサティスにやり方を教わって、バロウズのモナールオ先生にご指導賜って、昨日までは毎日カズハと手合わせしてた。お前に勝てるとしたら【焔鬼一閃】しかないからな」


「【サムライ】四天王3人がかりかー。そりゃ贅沢な事だ」


このために一年半【朧朔夜】を鍛え続けてきたからな。デカすぎるデメリットを抱えた【朧朔夜】を超強化したなら、トップランカーにだって通用する火力になる。ならないと俺が死ぬし。


「……それにしたって! いつから気付いていたのかな」


「どれだよ」


「ボクが、ほら、お兄ちゃんだって事」


「アドレでメアリーにリモコン刺された時だな」


「最初!!!!!! 言えよ!」


「"お前の事殺したいほど憎んでるけどそれはそれとしてお前兄貴じゃね?"とか聞けるか馬鹿!

"LostDate.ラブリ"と会うまで確証は掴めなかったんだよ!」


なんで女なんだよ、とか背ェ伸びすぎだろチビ兄貴、とか色々ツッコミ所はあるが、明らかに夢物語すぎる。ジョージという前例はあるが、それにしたって信じられるかよ。


「──黒木翔。馬鹿兄貴。いつの間にか凄い所で働いてたんだな」


「昇。それはこっちのセリフなんだけど。よく【Blueearth】に来れたね」


「……今にして思えば、天知調さんからの介入があったのかもな。ほら、かわいい弟がいればモチベ上がるだろ兄貴」


「ぶはっ。そうだね、かわいいかわいい弟だ」


……やっぱ兄貴じゃねーだろ。素直すぎか?


「兄貴こそなんで言わなかった。ドラドあたりで確執は解けたろ」


「……"LostDate.ラブリ"に包まれて、不足分は彼らに補ってもらって、それでも身体の損傷か激しくて調さんにイジってようやくこの姿だ。正直中身だって本物の"黒木翔"なのかどうか、ボクですら半信半疑だよ。

自信が持てなかった。ボクがお兄ちゃんですって言えるだけの自意識が無かった。

それに、弟の怨み怒りの矛先が自分に向いてるならそのまま受けようと思ってたんだ」


「感動的ねぇ。私も混ぜてよ()()()()()()?」


のしっ。

後ろからツバキがのしかかってくる。


「ねぇ、勝手に盛り上がってさぁ。先にあたしに記憶ちょうだいよ。話に混ぜて」


……本当に可愛い妹だなぁ。

兄貴も懐からリモコンを出して、ノータイムでツバキに差し出す。

キャミィみたいに記憶こそ無いが現状は把握しているパターンになっていたが、やはり一部のモラルや感性に制御がかかってるからな。外すだけ外すのは悪くない。


「……なるほどね。これはびっくりだわ」


「落ち着いてるなぁ。どうだ?」


「あたしのパパ、想像の数倍大きかったわ」


「そりゃあね」


あの女児ボディでマジで父親だと思ってたのか。色々と寛容すぎるだろ。


「……さて。そろそろ行くんだろ?」


「そうだね。その前に……一応、あの時の話をしようか?」


「大体わかってるよ。俺から言ってやる」


あの日。

【三日月】が雲に隠れた、解散の日。


「兄貴はある人を殺そうとしていた。リスポーンするゲーム的な死じゃなくて、二度と蘇らない死だ。

兄貴の今の立場を考えればわかる。運営側が殺さなくちゃならない相手とは──バグだろ?」


焔鬼は腕を組んで静観する。

【Blueearth】によって物理化させられたバグは、ちゃんと倒せる存在のはずだ。兄貴──ハヤテは、そのために天知調が改造した。【Blueearth】スタート段階では存在しなかった後天的冒険者。その役割は今の【アルカトラズ】の前身と言える。


「そして兄貴が今日まで俺との【決闘】を引き伸ばしていたのは、チャンスを待っていたからだ。……これから行くんだろ?」


「……うん。ボクは、これから()()()()


……バグを人と呼ぶ。その純真な感性で、覚悟を決めたんだ。もう何も言えねぇ。


「じゃ、行くか。見送るよ」


身体を起こす。【三日月】揃って大鐘楼から出て行くなんていつ以来か。


「焔鬼もありがとうな。色々と……とりあえず、ツバキを守ってくれてありがとう」


「ケッ。感謝する暇があるなら、もう泣かせるなよお騒がせクソ兄弟」


「肝に銘じるよツンデレ馬鹿傘座」


「なんだとへなちょこヘタレの翔がよぉ」


仲がいいなぁ。




──◇──




──大鐘楼大門前


「遅いですよハヤテ」


待ち構えていたのは、エリバ。

シーナ、ゴロー、キャミィ、クアドラ、ツララ、ラセツ、フミヱ。

【ダーククラウド】のメンバーだ。


そして、何故かゴーストとカズハもいる。


「エリちゃん。久しぶり」


「ツバ──瞳ちゃん。思い出したんですね」


ツバキが、エリバを抱きしめる。

抱きしめる!!!??!?!!?


「エリバ。もしかして……」


「違います。これ瞳ちゃんのスキンシップです。誤解を招くのでやらないよう教育してきたのですが、僕にだけはするようになって。いらない事まで思い出したんですね瞳ちゃん」


「ふふふ。傷が無いエリちゃんなんて変な感じねぇ」


「まさぐらないで。瞳ちゃん。あっそこはマズイ。ちょ、瞳!」


エリバが焦ってる。よかった、ツバキがおかしいだけか。……がんばれエリバ。ツバキを抑えられるのは君しかいない。


「それで、翔君は負けたんですか?」


「ズバズバ傷をえぐるねツララ。負けたけど何か?」


「つーん。調様という者がありながら他の女を奪い合うなんて、バチが当たったんですよ」


「ちょっと何言ってるのかわからない」


「大事な曾孫に手ェ出すならあたしを倒していきな、はやてちゃん」


「フミヱさん。ご容赦を……」


中々面白メンバーだな【ダーククラウド】。

……良かった。本当に。


「じゃあボク、行ってくるから。みんなは──」


「何言ってるんですか。我々も行きます。【ダーククラウド】としてのお仕事でしょう」


「我々はハヤテにとって"仲間"ではありませんからね。眼中に無いのでしょう。【三日月】総取り失敗おめでとうございます我らがギルドマスター。これから人殺しに行くのに幸先が悪いですね。お祓いにでも行きますか? いや半分悪霊みたいな貴方では消えてしまいますね」


「シーナさんが凄い刺してくる! 物理的に短剣でも!」


「ははは。それはシーナさんなりのスキンシップだ。私もかつてはペーパーナイフで刺されたなぁ」


「藤䕃堂家寛容すぎない!? 被害がここにきて出てきてるんだけれど社内教育はどうなってるの!?」


「指導総監がまだ記憶ありませんから。私は自由。止められる者はいない」


「【草の根】のヒョウ爺、あれ藤䕃堂財閥の指導総監。執事長なんだよ」


「よって【草の根】が相手だと私は泣きながら隠れる。運が良かったですね黒木」


「頑張って対抗して? あと苗字呼びやめて?」


「失礼。円滑なスキンシップです。二度としない」


「そこまではいいから……」


……仲良し!


これから人殺しだってのに随分と気のいい仲間だ。本当に良かった。

安心して兄貴を任せられる。


「──じゃあ、行ってくる」


「あいよ。サクっと殺ってこい」


「打ち上げは【黒髑髏】でね」




いつも通りの雰囲気で、【ダーククラウド】は歩き始める。

……今度は見送れて良かった。


「あれ、翔さんだったんだ。私じゃ気付けなかったなぁ」


「カズハは一度くらいしか顔を合わせた事無いだろ。そりゃわからないって」


「ふふ。ライズ君はお兄さんの事を良く話してたじゃない? だから詳しくなってたつもりなんだけどなー」


「……そうだったか?」


残されたのは俺とカズハ、ツバキ、そしてゴースト。

ゴーストはここまで押し黙っていたが、遂に俺の手を取って口を開く。




「──question:ライズ」


「おう。行っておいで。待ってる」


「…………はい。必ず帰ってきます」


言葉は不要。ただ、お前が消えて嬉しい訳が無い。だから必ず帰ってきてくれ。そう思いを込めた。なんなら握る手に力が入ってしまったかもしれない。


ゴーストは──笑顔を一瞬だけ見せて、空間の亀裂に飛びこんだ。




──【アルカトラズ】無の帳のゴースト。"廃棄口"の番人。

今から【ダーククラウド】はバグの元凶を殺す。死後、バグは──多分物理的に【Blueearth】から追放するため、"廃棄口"に落とされる。

そこで確実にバグを殺すのが、ゴーストの仕事なのだろう。


──頼むぞ兄貴。ちゃんと殺してこい。




「それはそうと、【夜明けの月】に戻るための手土産でも買って帰るか」


「もぅ。ライズ君が帰ってくる事が一番のお土産だよ。寄り道なんてしたら怒られちゃうよ?」


「乙女心のわからない男だねぇ。あたし達が矯正してあげるから覚悟しな?」


「……お手柔らかに」


美女二人に挟まれてるのに、何故か背筋が凍るんだが?




──◇──




──隠れ料亭【六文銭】




戸を開ける。

本日貸切。店内の真ん中には──四人。


「一人じゃないんだね。今日こそ僕を殺せるかな?」


「言っても聞かなくてね。そちらは?」


「うん。同じ同じ。さっき説明したんだけれど、全然帰ってくれなくて」


立ち上がるは──【至高帝国】ギルドマスター、スペード。

僕の目的地。全ての元凶。


「スペードが何者かなぞ興味無い。ただ、ここに来て見捨てる必要も無い。本気で殺しに来るのなれば、さぞ美味な喧嘩となろうよ」


いつもの被り物を捨てた黒髪の男。【至高帝国】前衛タンク【オーガタンク】のハート。

──本名 黒木 隆起(りゅうき)。非常に不服だが……ボクと昇の、父だ。記憶は戻ってないと信じたい。記憶があった上でこの半裸ならもうボクは直視できない。


「あーしは【至高帝国】が大好きなだけだし。スペードを殺すなんて、許す訳ないじゃん。帰ってよ」


黄金のドレスの【エリアルーラー】、ダイヤ。

──本名 水郡(みごおり) (なぎさ)。生まれつき脚と眼が弱く、事故で両腕を失った少女。現代の超医学で標準的な人間にまで戻り今となっては普通の少女だが、治療の都合で他人と関わる事が少なかった子だ。スペードに騙されて無いかと心配したけど、ちゃんと信頼関係による仲間だったみたいで安心した。


「帰ったらまた殺しに来るんだろ。だから受けて立つ。ここで殺し返す。だろ?」


殺意を隠そうともしない【Blueearth】が誇る"最強"、クローバー。

──本名 檜佐木 宗一。最強のゲーマー。

スペードが仲間に選んだのは、彼の事を知っていたからなのだろうか。それとも偶然か。

【夜明けの月】で抑えておいてくれれば良かったのだけれど。まあこれでもいい。こっちには打倒クローバーのラセツがいるし。


「……そういう訳で」


空間が割れる。

先程まで店内にいたのに、いつの間にか草原にいた。




「僕は【至高帝国】のギルドマスター。

【Blueearth】唯一の【フェイカー】。


そして──【Blueearth】のバグ、その大元。


悪性因子の王、天知調の反証!


──名をスペード!


【NewWorld】をモノにしたいのなら、まずは僕を倒してみせろウィルス共!」





──◇──




──大鐘楼中庭


"焔鬼大王"は空を見上げる。


「──終わりか?」


《拠点防衛戦》の最中。

スペードが俺の所にやってきた。

トップランカーは封印したつもりだったが、【至高帝国】ではないクローバーを経由する事で脱獄したらしい。

理由は明白。俺が意図的にスペードを避けているからだ。


スペードはこのチャンスを活かして"焔鬼大王"を説得し味方にしようとしたのだろうな。"スフィアーロッド"の時のように。


だが、俺はそれを読んで"焔鬼大王"になった。


──────

『残念だったな。俺ぁ天知調の仲間だ。何があってもお前とは手を組まねぇ』


『そうか……。じゃあここまでだね』

──────


随分とあっさり引き下がったもんだ。

ゲーム気分だったのかね。天知調レベルの頭をしてるなら何か企んでると思ったが、案外素直に退いた。


──これからスペードは翔に殺される。

【アルカトラズ】を経由し、データを解析されたら"廃棄口"に棄てられる。

"焔鬼大王"に干渉したのは多分、バックアップを俺に植え付けるためだ。


だから。


──────

『これだけ受け取ってくれないかな』


『んだこれ……ただの弾丸に見せかけてデータが詰まってやがる。死んだ時の保険か?』


『それ単体で僕が復活する訳でもバグが消える訳でも無いよ。ただ……僕が生きていたっていう何かを残したかったんだ』


『それを敵の俺に渡すかね』


『君、義理堅いだろ。僕は天知調の反証で生まれたバグなんだからさ、当然君の事も良く知ってるとも、那桐(なとう)傘座(さんざ)君』


『……持ってるだけだぞ』

──────


こんなもん、持ってるだけで天知調への裏切りだろうに。


あーあ。


頼み事に弱ぇなぁ俺。


〜朧月夜2〜


──過去。


「焔鬼サマ! 侵入者です!」


「あー……どうせその内帰る。適当に相手してやれ」


ここ数日、大鐘楼には謎の侵入者が報告されるようになった。

レベル上限解放ラッシュも落ち着いたというのに、毎日毎日侵入しては死ぬ訳でも無く俺の前に辿り着くでも無く帰る、不思議な奴だ。


……冒険者が侵入中は"焔鬼大王"は執務室から動けない。早く帰ってくれ。


「……ん。この道も執務室に繋がってんのか」


丁度目線の高さ、棚の上に──ライズがいた。


「……侵入者ってお前かライズ! んだよ顔くらい──」


──言葉に詰まる。

顔というか、目が死んでる。

アドレに逃げ帰ったというライズ。結局今日に至るまで顔を見れた事は無いが、ここまで心が壊れているとわかるもんなのか、人の顔って。


「──なぁ、ライズ。何をしてるんだ? もう一度攻略するのか?」


「……しない。ただ、素材を集めにきた」


「素材? 武器屋にでもなるつもりか」


「それも悪くないが……それより、こいつを鍛える」


ライズが見せてきたのは、俺が嫌がらせに渡した刀──【朧朔夜】。


「鍛えるって……嫌がらせの返しにしちゃ悪い冗談だ。そのジョークグッズなんていくら鍛えても売れねぇぞ」


「誰にも売らない。俺は本気で、これでハヤテを斬る」


目が据わってる。

本気、なのか。


「【朧朔夜】は発動条件が厳しいし、一度しか使えない。だがその代わりに威力は凄い。モナールオに手伝ってもらって使ってみたが、防御に優れるモナールオがガードしていても一撃だ。

ハヤテがどんなにレベルを上げても、【朧朔夜】さえ鍛えればワンチャンある」


「なんだよ。リベンジするつもりか?」


「……そうだな。しない。俺はハヤテともう会えないからな」


支離滅裂。だがそれでも、まだ執着は残っているか。

なら。


「……おいライズ。一度【朧朔夜】をよこせ」


「いやだ」


「じゃあお前ごと」


指で摘める程度のサイズの分際で偉そうに反抗すんな。

ライズを持ち上げ──【朧朔夜】にデータを注入する。


「何をした?」


「おまじないだよ。ほら今日は帰れ」


……【朧朔夜】に色々と注入してやった。お陰でもう俺はヒガルどころか大鐘楼から出られなくなった。あーあ。馬鹿だ俺。


「お前のせいで被害が出てる。だから明日、宝物庫の鍵を外しておいてやる。勝手に入って必要なだけ持っていけ。だから素材狩りに来るのはやめてくれ」


「……いいのか」


「いい訳無いだろ。簡単に辿り着けると思うなよ。明日の番人は最高難易度のアヨサトだ。鍵を外すのは明日だけだ。ほらさっさと帰れ」


「……ありがとう」


それだけ言い残して帰るライズ。


ありがとう、とか。そういうのはもっと俺とかじゃ無くて……ああ、クソ。


翔。お前もお前の弟も面倒臭ぇよ。




──◇──




一年後。

ライズ、ヒガル再訪。

【黒髑髏】にて、ツバキに宣誓。


「立ち直るのに一年とか、腰が重すぎんだろ」


"焔鬼大王"は──久しぶりに、笑った。


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