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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
煉獄都市ヒガル/ヘル階層
182/507

182.勝機を待ち、地に伏せる

【第70階層 連獄都市ヒガル】

──湖上、"シェルフライト"残骸


「……ぷあっ。危なかったです」


「アイコさん! 無事でしたか」


ど真ん中に風穴が空いてしまった"シェルフライト"から、アイコさんとマスタングさんが出てきました。【サテライトキャノン】に巻き込まれてしまったかと思いましたが、無事だったようです。よかった。


「一応聞くけど、最後まで闘うか? お父さん」


「んにゃ、やめとく。俺は沈みゆく"シェルフライト"と心中するわ」


「馬鹿言ってないでアイテム化して回収した方がいい。沈んだら本当に回収できなくなるぞ。陸までは私が運ぶから……」


「ばかやろめぃ。んなせせこましい真似ができるかぃてやんでぃ」


「【コントレイル】を路頭に迷わせたいか? 【夜明けの月】はともかく、【ダーククラウド】に負けたらアカツキは五月蝿いぞ〜?」


「ぐぎぎぎ……」


マスタングさんの降伏で事実上【コントレイル】は撃破。湖の真ん中では陸に戻れるのはキャミィさんだけですが、まずはマスタングさんを助けるみたいです。

ある種ここが安全ではあります。あとは陸の皆さんに任せつつ──ここから"神の奇跡"も視野に入れておきましょう。


「ドロシー。久しぶり。びっくりした?」


「えっと、はい。公表するんですね」


クアドラさんが後ろから抱きついてくる。

……アクアラでクアドラさんと会った時、【ダーククラウド】に入っている事は読み取ってしまった。

でもその後【井戸端報道】の新聞とかを確認しても公表はされていなかったので、秘密にしているんだろうなぁとは思っていました。


「宿にいたままだと【セカンド連合】に観則されちゃうから。外に出て隠れるつもりだったけど。

眩い私の星に、つい飛びついてしまったよ」


「ちょっとクアドラちゃん、いいですか」


ひょい、と。

僕を抱えるクアドラさんを、一纏めに抱えるアイコさん。


「アイコ。アイコの位置だけは観則できなかった。巻き込んでごめんなさい」


「いえ、無事でしたから。それにドロシーちゃんを助けて貰いましたし。ありがとうございます」


半無重力の【サテライトガンナー】2人を持ち上げるのは簡単ですが、なんとも見た目が変な感じに。

アイコさんは……あ、えっと。妬いています。


「ごめんねアイコ。ドロシーもらうね」


「ダメです。共有財産です。2人とも纏めて私がもらっちゃいます」


「宇宙船は定員に限りがあるよ。座席は二つ」


「力技で広げましょうか」


目を閉じる。耳を塞ぐ。

口では険悪な感じですけれど、2人とも、頭の中が、その。

僕への好意を全然隠してくれなくて、ちょっと耐えられないです。


たすけて。




──◇──




──宿泊宿【賽の河原】


「どうしたミカン! 防衛の供給が追いついておらんな!」


「単調な攻撃に一々全面防御なんて勿体無いのです! ばーか! レインの劣化!」


「もう煽っても無駄だぞ! 謝ってもな! 怒髪天を突き破り元に戻らぬ!」


全ギレのブックカバーからの特大魔法の連続。嵐、炎の矢、氷の槍、雷撃、光線。

もう持ち前の資材は使い切ってしまったので、ゴローさんの竹を即席で資材化して運用。防御は最小限に、的確に、です。

ごめんなさいカズハちゃん。貴女の化け物スペックを竹狩りに使ってしまって。罰当たりこの上ないのです。


「ミカン君。ずっと煽っているが大丈夫なのか?

ブックカバー氏は私達も相対した事はあるが、彼が怒ると手が付けられない」


「大丈夫ですゴローさん。元は同僚、よく分かってますです。プライドの塊、切り捨てられた導火線。歩く爆弾男です。ですが所詮1人。

ここで恐れるべきは"三賢者"全員による全方位からの同時攻撃です。耐えきれず瓦解必死。

なのでブックカバーを煽り、あえて防衛の耐久値を下げる事で劣勢を演出しているのです」


まるで作戦のように言ってますが、耐久値を下げているのは破壊時間に差異が無いからです。全力防衛しても同じくらいの時間で壊されるので、MPと資材を限界まで節約してるだけ。それを言って不安にさせては事なので、言いませんですが。


「成程。【象牙の塔】にブックカバー1人で任せられると誤認させようという訳か。策士だなミカン君」


「下策です。こっからの作戦が無いので。

ですが耐えるだけならミカンさんとリンリンちゃんは無敵最強。活路の無い無限地獄となりますが、ご一緒に如何です?」


「喜んで。こちらも意地を見せるとしよう」


広範囲高火力の魔法使いは、ミカンさんの防衛戦略にとって急所です。建てたそばから壊してくるので。ばか。あほ。ブックカバー。

資材生産と破壊消費が釣り合えば負けないのです。そして負けなければ、こいつらは他には行かないのです。


ヒガルの市街地で戦うならば、広域破壊が可能な【象牙の塔】は抑えておかなければならないのです。


「──ぬああああ鬱陶しい!【テンペスト】!」


「ヨシキタ大当たり! やーいワンパおじさん!」


「ぐぬおおおおお!!!!」


ブックカバーのお家芸【テンペスト】さえ引き出せばこっちのもんです。守るべき要所はわかってますから。


……でも。多分イツァムナちゃんあたりはわかってるのです。我々に打つ手が無い事は。


「イツァムナちゃん! ミカンさんにはわかりますですよ。そんなにやる気ないんでしょ?

ここいらでそのおじさん止めて、一緒にご飯でも食べましょーよ。無為無駄無謀なのです」


「ミカンは聡明です。しかしイツァムナは【セカンド連合】の柱ですので」


「アカツキに怒られるのが嫌だからポーズだけでも戦おうって腹なのですよね? そんなビビる相手でも無いと思うのです。適当に言いくるめて吸収すればいいのです!」


「そうもいきません。イツァムナは【セカンド連合】を見守らなくてはならないので」


「難儀ですね! イツァムナちゃんが何を考えてるのかわかりませんが、叡智の象徴が停滞を望むのですか!」


ブックカバーは平常運転。

アザリはブックカバーに逆らわない。

レインはどっか行った。

イツァムナちゃんはやる気ない。


硬直でヨシとするしか無いです。


……しかし、そこまでして【セカンド連合】の席にしがみつく理由ってなんなんです?

正直、ライズさんと敵対しようなんてイツァムナちゃんが耐えられるような事じゃないと思うのですけど。




──◇──




──隠れ料亭【六文銭】

店前広場


"最強"の称号を相手にするのになりふり構ってはいられねぇ。

俺とした事が初手で出し抜かれた。確かに、おっ始めるなら店内ですべきだった。

クリックで再起した【バッドマックス】だが、まだ腑抜けてるのかもしれねぇな。


「プリメロ!シーザー! 気ぃ張れよ!一手間違えりゃ俺ァ蜂の巣だ!」


「任せな」

「アイアイキャプテン!」


女装ゴリラ(プリティ⭐︎メロン)金ピカ全身タイツ(シーザー)。対クローバーを想定した支援組が残っていたのは運がいい。


プリメロは【幻想絵筆(アーティスト)】。作り上げたアートがクローバーの照準を逸らす。ヘイト管理だけで【需傭協会(Weak.enD)】をやり抜けた猛者だ。クローバーの攻撃は俺にゃ届かねぇ。


シーザーは【呪術師】。デバフの専門家だ。プリメロの妨害を超えてもダメージを激減させりゃ耐えられる。それでも3秒も浴びれば死ぬ火力だが。

特にクリティカルダメージの激減が重要だ。俺の装備はクリティカル率を捨てる事で火力を上げているタイプにカスタムしてある。これで五分ってとこか?


「──やりにくいな! 流石だマックスよぉ!」


「応よ! 俺たちァ獲りに来てんだよ!"最強"の座をなァ!」


とにかく攻撃。ひたすらに攻撃。

クローバーが逃げに徹するなら攻撃の頻度は下がる。

即ちダメージを抑えられる。攻撃的防御だ。


「テメェの戦術はルガンダの"巌窟大掃除"から全部調べた!

連続クリティカルを確定させる速射連射の戦法! 確かに火力は【Blueearth】随一だろうなァ!」


無気力の霧(ダウン・タウン)

──通常攻撃のダメージ減少。

脱兎の足跡(バッド・スタンプ)

──クリティカル確率・ダメージ倍率低下。


どちらも空間作用型の呪いだ。俺達にもかかるが、その分確実にクローバーに当たる。

元々【夜明けの月】がヒガルに来てるって聞いた時点でクローバーとは喧嘩するつもりだったんだがな。まさかこうなるとは思いもしなかったぜ。


「お前の"最強"の所以は純粋な強さだけじゃねぇ!

【ギルド決闘】のシステムと【至高帝国】の人数が噛み合った少数撃破戦! トップランカーという情報の秘匿性! しっかり対策すりゃあ倒せない相手じゃねぇ!」


そう。ちゃんと追い詰めてる。あと数分と経たずクローバーは撃破される。

──なのに、その目には未だ"最強"がいやがる。


「そうかもな。だがお前らが勝てる理由にゃならねぇなぁ!」


狙うは奇襲。先の【需傭協会(Weak.enD)】戦で見せたカズハの奇襲で、クローバーは倒れた。

ちゃんとすりゃ3人で倒せる相手なんだよ。この情報は【首無し】を経由すれば誰でも知れる──情報戦に厚いギルドなら誰でも知っている情報だ。

だから、勝てる、はずだ。


()()()()マックス!

ここまで来てまだ俺を恐れてんのか!?」


たった一言。

致命的な煽りを、この俺に。


「──殺す! クローバァァァ!!!」


そうだ。キレはしたが俺ァシャバい臆病者(チキン)だ。クローバーは的確だよ。


それが何かの誘いだとしても突貫する。それこそが【バッドマックス】だろうが──!




「──【虚空一閃】」




──突風が巻き起こる。




──◇──




いや、勝ち目無かったんだがな。

せめて殺しに来た奴と後ろの2人、【バッドマックス】くらいは死にながら全滅させようと思っての挑発だったんだが。


最早見慣れた【虚空一閃】。

彼方より飛来したのは、口髭のイケてる紳士。

一太刀でマックスを押し返し──返す刀で、プリメロとシーザーを巻き込む。


「──【燕返し】!」


「チッ……シーザーは退け! マトモに喰らったら──」


「もう遅い!」


紳士の左腰には二刀。カズハと同じ二刀流だ。

【燕返し】で返ってきた刀は納刀できない。左手で返る一刀を掴み、そのまま二閃。


「【巖烈一閃】!」


大地ごと斬り上げる打ち上げの太刀。【虚空一閃】で詰めた距離が、そのまま3人纏めて空中へ浮かせる。


「させるか。【虹のカーテン】!」


「──【燕返し】」


プリメロが展開したのは防御スキル。虹色のカーテンが3人を包む。二刀流の四連閃を受けきった──


──が。紳士の左手は、一刀目を構えていた。


通常、【燕返し】後には隙が生まれる。【一閃】を逆再生した【燕返し】はシステム上納刀する事は出来ず、二刀流なら左手で逆手持ちに受け取り、一刀流ならそのまま薙ぎ払いの通常攻撃にしか繋げられない。ここが隙だ。

刀武器は逆手持ちだと通常攻撃に移行できない。なので二刀流二連続【一閃】の後は、握ったままの二刀目で薙ぎ払いをするしか無い。薙ぎ払いには1秒程度かかってしまうので、マックスもそこを狙って大砲を構えていた。


が。紳士は二刀目の【巖烈一閃】中に左手の一刀を逆手から持ち直した。勿論そんな挙動は【Blueearth】システムじゃできねぇ。絶対マニュアル操作だ。


よって、四連閃に続く五太刀目は──出の早い左の突き!

ここまでノータイムで【一閃】から通常攻撃に繋げられるのは見た事無ぇ。理屈理論の模倣ならサティスができるが、多分これはこいつのオリジナルだ。


「うぬっ、まだまだァ!」


マックスの砲撃。だが左の突きでタイミングをずらされたか、右の薙ぎ払いが間に合ってしまう。

二刀流の通常攻撃が左右開始された。後は普通の攻撃へと自動で繋がる。

左の斬り下ろし。右の斬り上げ。左右の挟み狩り。

左の通常攻撃の連続。【虹のカーテン】にヒビが入る──右は?


おお。通常攻撃のついでに納刀してやがる。当然マニュアル操作だ。こりゃやるな。


「──【覇紋一閃】」


防御破壊の【一閃】。遂に【虹のカーテン】が砕け散り──


「【燕返し】!」


──返す刀で、プリメロを斬り捨てる。




「すまねぇ兄貴。俺ァここまでだ……」


「よくやったプリメロ。寝とけ」


厄介なプリメロを撃破して、ようやく紳士が俺の隣に立つ。


──その顔は、知っている。忘れる訳が無い。


「よぉ"最強"。俺の事なんて知らないだろう。俺は【ダーククラウド】──」


()()()()"()()()"だろ! アンタなら納得だ!」


何を白々しい事言ってんだよ!

アンタにしか出来ねぇだろあんな芸当!

〜ギルド紹介:【バッドマックス】〜


セカンドランカー:攻略序列8位

お騒がせ超爆発ギルド。正規ギルドとしては【アルカトラズ】指導数ナンバーワン。

黎明期から最前線を走り抜けていたマックスのカリスマに惹かれて集まりできたギルド。あくまでマックスの意思での行動がギルド活動になるので、善行も悪行もマックスの気分次第。

だがあまり大々的な悪事はマックスが気に入らないのでやらない。

……というかマックスの根っこが善良・純粋・臆病でかなりマトモな思考をしているため、そんな悪い事はしない。

クリックでライズに発破をかけられて再燃してからは破竹の勢いで階層攻略。かつて自分達を倒した【ダーククラウド】に追いつくほど。


・マックス

ウォリアー系第3職【ヴァイキング】/クリエイター系第2職【鍛治師】

我らがマックス。超絶俺様主義の我儘無双かと思わせながらも、根には仁義と謀略がしっかり詰められている。

かつてはブックカバーよろしく思うがままに暴れていたが、【三日月】の解散やらなんやらつまらない事が多発し攻略への意欲が削がれ一時期無気力に。そこからの再燃なので、かつてのような考え無しではいられなくなった。

今の彼は発破をかけてきたライズや、既に攻略を諦めてしまった皆に見栄を張るために動いている。お前たちの思い出の中の俺は、今も鮮やかに爆発してるぞ。

戦闘スタイルは花火による広範囲殲滅と、カトラスによる近距離格闘。相反する二つの戦術を補うのは、花火の中にノーガードで突っ込む度胸と、煙で使えない視覚を捨て位置を割り出す勘。とても戦略とは言えないので【ヴァイキング】最強の称号はバーナードから奪えてはいないが、バーナードは自分と同格と認めている程の実力者。


・シーザー

マジシャン系第3職【呪術師】/ヒーラー系第2職【司祭】

金色全身タイツの爽やかおじさん。プリティ⭐︎メロンと並ぶイロモノ枠。

信じられないほどのノーコンで対象付与呪いに抵抗があり、無差別広範囲の呪いを振り撒く疫病神。

しかしその辺を丸ごと受け入れた(呪われても気付かない)マックスに心酔する。

アウトロー集団である事は百も承知だが、自分を受け入れてくれた【バッドマックス】には感謝と忠誠を誓う。

服装には特に意味とか過去とかは無く、普通にファッションセンスが死んでいるだけ。


・プリティ⭐︎メロン

クリエイター系第3職【幻想絵筆(アーティスト)】/ローグ系第2職【ハンター】

クソデカハードボイルド八尺様。ホワイトワンピースのイケおじ。

元【需傭協会(Weak.enD)】。マックスに雇われ意気投合し転職。するまでもなく【需傭協会(Weak.enD)】は潰れたが。

ヘイト管理やバフデバフを使い熟すオブジェ使い。単体では戦闘は難しいが、ヘイト管理役の時は単独で中衛〜前衛を駆け回る。靡くワンピース。視覚攻撃。

女装には特に意味とか過去とかは無い。女装してるだけでファッションセンスはわりとある。

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