18.暴力と陰謀と奸計の町、アドレ
【第0階層 アドレ城下町】
──【アドレ王宮 客間】
テンペストクローが消えた直後、自警団【アルカトラズ】の白服連中──《拿捕》の輩が突入してきた。
先導はブラン。配下の数は初めて見る多さだった。
『ライズ! 無事か!』
『俺はいいんで、あっちの方に……ゴースト達が……』
『当然保護済だ。キミが最後だ』
『あぁそう……じゃこっちのサメゴリラは……あ? いねぇ』
その後、ブランの特権で全員アドレまで強制帰還。滅多に入らない【アルカトラズ】ギルド本部の控室──アドレ王宮の客間に待機する事になった。
「キミ達が重要参考人である事は確かだが、どちらかというとこれは保護だ。どんな影響を受けているのかわからないし、誰の差金かもわからない以上は解放したくない。せめて我々の現場検証が終わるまではアドレを出ないで欲しい」
ベルグリン達は初めて王宮に入れられておっかなびっくりといった感じか。
いや俺だって初めてだよ。冒険者が入る機会無さすぎるからココ。
「スレーティーは消耗しすぎて眠っている。《審理》が止まっている以上はキミ達を罪に問うつもりはないが、暴れないでくれたまえよ。《拿捕》はできるからな」
ベルグリン達に厳しく釘を刺す。ともかく、なんやかんやで帰ってきたし、攻略もお預けか。
「ライズ。家引き払ったじゃん。どこに泊まるの?」
「あ。」
──以下、ダイジェストである。
──◇──
《【草原の牙】のアレコレ》
【祝福の花束】
「そういう訳で、新入りを20人連れてきました」
「ライズちゃん?」
【草原の牙】の連中を連れてきた。普通に入り口から入っただけなのだが、ちょっとした騒ぎになってグレッグが斧持ち出した時はビビったが、土下座する事で事なきを得た。あぶねぇ。
「いやグレッグ気にしてたじゃん。知り合いなんだろ? 諸々の犯罪行為はちゃんと清算してもらうからさ。置いてくれよ」
「犯罪者と一緒に正面から来ないでねぇ。みんな怖がっちゃうでしょ?」
「はい……。俺が軽率でした」
「原因は俺にある。裁きたくば俺を誅すればいいだろうグレッグ」
ベルグリンはふんぞり返っているが、俺の横で座ったまま、首に【生き血を啜るデモンアクス】を当てられた状態である。ほぼギロチンなのよ。処刑前なんよ。
「……うちにもアナタに虐められた子がいるのよ?」
「謝罪もさせてもらう。……怒りが収まらんか。【祝福の花束】1期生にして最大の汚点だからな、俺は」
そんな話は聞いた事無かったな。……まぁ、そんな理由で気にしてるんじゃないだろうが。
グレッグは呆れたように一息ついて、斧の向きを変えてベルグリンの頭を叩く。
「反省しているなら良し。歓迎するわ。全員コキ使ってやるから覚悟しなさい?」
「……配慮、痛み入る」
なんとかなりそうだ。水を差さないうちに外に出るか。クールに去るぜ……
「ライズちゃん。ギルドハウスの借用書出しなさい。アタシが管理するから」
あっはい忘れてたごめんなさい
──◇──
《アイザックのお礼》
──【蒼天】アジトの水車小屋
「レンは無事、ドーランに着いたわ。そのままあっちのギルドに入る事になったの」
アイザックから呼び出され、アイザックの執務室へ案内された。
なんというか、子綺麗ながらアンティークな小物がオシャレに並んでるというか、なんか海賊船の作戦会議室みたいな感じだ。どういう例えだよ。
で、ソファに座れと言われたから座ったが、何故かアイザックが隣に座ってる。向いの席が空いてますよアイザックさん。
「助かったわライズ」
「何のことやら。って話じゃなかったでしたっけアイザックさん。覚えがないなー」
「さっきベルグリン達が来たわ。半年間ウチの仕事を手伝うって事でチャラにしてあげたけど、あの謝罪はアナタの差金でしょう?」
首に手を回さないで。肩を抱かないで。ドキドキしちゃうでしょうが。
「ねぇ、何か欲しいもの無い? ……物でも、人でもいいのだけれど」
耳元で囁かないで。これ以上はアカン。
アイザックの手を、出来るだけ優しく解く。
いや力強っ。優しくは無理だ。力入れる。
いや強い強い強い。もう全力なんだけど?
負けたら喰われる! あっ強い! 負けられるかぁ!
「ねぇ……なんで相撲してるのかしら私達……!」
「手を解いてくれたら……終わるんだけどな……!」
「あらコレ恋人繋ぎじゃなくて?……フンッ!」
「痛い痛い痛い痛い! こんなSMカップルあってたまるか!」
──なんとか逃げおおせた。
だがアイザックの自室からヘトヘトになって出てきた所を目撃され、アドレ中に変なウワサが立ってしまった事に気付くのは、ずっと先の話である。
──◇──
《デュークさんちょっとお話いいですか?》
──ある裏路地。
「デューク。お話しようぜー」
「へえここに」
マンホールから出てくるMr.ブラックマン、デューク。
どこから出てるんだよ。
「おや旦那。ヘトヘトでして」
「休憩だ。お前とのんびりベンチで寛ぎたいんだよ」
「こんな胡散臭いあっしに癒しを感じたら末期でして。クリックにでも行ってメイドカフェに行かれては?」
「出禁だ。知ってるだろうが」
「へへへ」
近くのベンチに二人で座る。デュークがインベントリから飲み物の缶を取り出した。
《緑色トマトジュース(激辛)》
《おしるこスムージー(果汁入り)》
「チョイス終わってる〜〜(笑)」
「へっへへへぇ。どちらに?」
「お汁粉に何の果汁が入ってんだよ。俺こっち」
「あっし辛いの無理でして」
「嘘つけ〜」
いかん。本当に癒される。
こう、高校生の友人みたいな気軽さと空虚さを感じる。
二人で(大ダメージを負いつつ)完飲し、なんとなしに一言。
「で、終わりか?」
「実はおかわりが……」
「そっちはもういいって。そうじゃなくて、イベントだよ。もう腹一杯だぞ俺は」
そろそろ身が保たない。【夜明けの月】の今後のためにもケリ付けとかないとな。
「【夜明けの月】結成の日を【象牙の塔】と【パーティハウス】に伝えたな?」
「あと【井戸端報道】にもリークしまして」
「お前ん家じゃねぇか」
「あっしは裏社会の帝王【首無し】のデュークでして」
……うん。もうそこはいいや。
「ベルグリンに入れ知恵したのもお前だな。あれは何が狙いだったんだ?」
「いやいや【草原の牙】に? まさかぁ」
「こっちは本当に狙いが見えないんだよ。だが結果、俺は死にかけた。狙いがわからない以上、お前を疑いたくなっちまうだろ」
軽薄な笑いがピタリと止む。真顔。怖い。
「……ベルグリンは【飢餓の爪傭兵団】傘下【蒼天】のレンを襲い、人質にして【蒼天】を乗っ取ろうとした。俺が止めたが、結果としてあの階層で俺たちは怪物とぶち当たった。
頼む。デューク。これだけ聞かせてくれ。
どこまでが狙いだったんだ?」
デュークはこの一年つるんできた悪友。性格が終わっているが、俺にとって親友だ。
俺がそう思っているだけなら、ここでそう言ってほしい。
デュークは真顔のまま、黒の丸眼鏡を外して俺を見る。
……いや、俺を見ていないのか?
「──我が穢れた誇りに賭けて、旦那には真実は伝えられません。ですが旦那に仇なす存在をあっしが許すわけないでしょう。
……こんな事は、これっきりでして」
……何か、気配がした気がする。振り向こうとする俺の手に、缶を一つ握らせるデューク。
「ま、今後ともご贔屓にしてくださいや。旦那の活躍、遥か低みから楽しみにしてまして」
あっはっは、といつもの胡散臭さを取り戻して路地裏の闇に消えるデューク。
手に残された缶は──空き缶だ。
中には……トランプが2枚。
……あいつ、やっぱ親友だわ。
──◇──
《共闘の代償》
【アドレ王宮 灰色の部屋】
「メアリーちゃん、どうしたの?」
「ブランさんにお願いして様子見に来たの。大丈夫?スレーティーさん」
天蓋付きのめちゃくちゃでっかいベッドで横になってるスレーティーさん。名画でしょ。
あたしは少しだけ気になる事があって、看病の名目で部屋に入ったんだけど。
でもネグリジェ姿のスレーティーさんはちょっと犯罪的。《審理》されたら何かしらの処罰が必要でしょ。
「聞こえてますよ、メアリーちゃん」
「ええ、心が読めちゃうんでしょ?」
びっくりした表情。ふふん。いいもん見れたわ。
「とりあえず、体調は大丈夫なの? あたしのせいよね、間違い無く」
スレーティーさんは数時間、あたしとお姉ちゃんを繋げ続けてくれた。バグの影響を強く受けてしまったようで、しばらく動けないって聞いたけど。
「……はい。私は【アルカトラズ】でも特にマスターに近く、多くの特権を有していますが……本体性能が耐えられなかったようです」
お姉ちゃんに近いっていうのは何となくわかってた。なんか対応の仕方もお姉ちゃんぽくなってきてるし。
「私の事はお気になさらず。それよりどうして私の読心を……?」
「データ読み込んだ時に片手間で見たわ。どこにバグいるかわからなかったから最初はしらみつぶしにデータ漁ってたのよ。
……ま、あたしは空に太陽のテクスチャ張る事だけが狙いだったからマトモにバグの相手なんてしてられなかったし、全部は見れてないんだけどね」
そう。嵐の夜にしか出ないテンペストクローを消すなら、晴れにしちゃえばいい。現在の天気の上から嵐のテクスチャが貼られているなら、更にその上にテクスチャを貼っちゃえばいいだけよ。
お姉ちゃんの目的はバグの除去だけど、あたしは最初からバカ犬退治さえできれば良かった。後でバグを消せばいいやって思ってたんだけど。
──でも、テンペストクローの消滅と同時に空のバグも、転移不可のバグも消えたのよね。
「スレーティーさんが良くなったら、お姉ちゃんに伝言して欲しいんだけど」
「──いえ、大丈夫です。ここに繋げます」
「えっ、無理しないで……」
『大丈夫よ真理恵ちゃん。スレーティーが弱った原因はコレじゃないから』
またしてもウィンドウ越しにお姉ちゃん。少しは余裕ができてるわね。
「手間が省けるわね。じゃあ聞くわお姉ちゃん」
本当は聞きたくないけど。
一番最初にデータを漁っている時に気付いてしまったから。聞かなくちゃ。
「なんであたし達を閉じ込めたの?」
〜速報:第6階層の異変:解決済〜
《執筆:【井戸端報道】記者T》
号外です! 号外ですゥン!
今配信は緊急報道です。
【井戸端報道】がアドレ王家より賜った特権により、ウィード階層およびドーラン階層、0〜19階層の全ての冒険者に配信しています。
本日早朝の速報で通達しました【第6階層ウィード:枯れ木野原】へ向かう【第7階層ウィード:ゴブリンの砦】【第5階層ウィード:魔蟹の滝壺】の転移ゲートに異常が見られ、使用不能となった問題ですが、先程【アルカトラズ】《拿捕》の輩が突入に成功しました。
階層内の冒険者は全員保護が完了し、転移ゲートの正常起動も確認できたとの事です。
現在は《拿捕》の輩にて原因を調査中のため、【第6階層ウィード:枯れ木野原】は調査報告が上がるまで封鎖すると発表されました。
第6階層を通り抜ける予定の冒険者は、各前後階層の転移ゲートに《拿捕》の輩が配置され、階層を飛ばして転移する事で対応するとの事です。
また、初報の後に多数お問い合わせ頂きましたが、保護された方々の個人情報につきましては発表を禁止されておりますので、ご容赦下さい。
現在、たまたま近くにいた筆者が【第5階層ウィード:魔蟹の滝壺】に待機しております。偶然ですゥン。
新たな情報が入り次第ご連絡します。後報をお待ち頂きますよう、お願いします。




