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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
煉獄都市ヒガル/ヘル階層
177/507

177.思い通りに行かないものだ

【第70階層 煉獄都市ヒガル】



──【夜明けの月】到着から数日後。

雑貨屋【黒髑髏】


「アンタ達いい加減にしな」


「「え?」」


今日も今日とて悪態を吐きながらハヤテと呑み明かしていると、遂にツバキが動いてしまった。


「あたしが欲しいんだろ? いい加減闘り合いな。

それともこのままズルズルと行くつもりかい?」


「……んー……そうだよなぁ。そろそろだよなぁハヤテ」


「そうだね。もう一杯飲んでから決めよう」


「お黙り。明日の昼、大鐘楼前の広場! 場所は確保したから、そこで決着を付けな」


「「はい」」




──◇──




と、言う訳で。


「ちょっとハヤテを潰してくる」


「なんかあっさりすぎない?」


そうは言われてもな。ほぼ形骸化してるんだよな。

解散のきっかけの原因も、ハヤテの正体も。記憶を取り戻した事でなんとなくわかるようになってきた。もうハヤテを恨む事も無いし、さっさと決めるに限る。


武器の選定中に珍しく、メアリーが近くにいた。普段は俺の武器なんて微塵も興味無いくせにどうしたのやら。


「ねぇライズ。ハヤテに勝てるの?」


「レベル差あるからな。厳しい戦いになるだろうな。

だが簡単には負けないぞ。まだ【朧朔夜】が決まれば勝ちの目はある。ちゃんとツバキを【夜明けの月】に連れてくるさ」


「……例えばだけどさ、ハヤテに負けたらツバキさんは【ダーククラウド】に行く事になるわよね?」


「そうなるな。とはいえここから【ダーククラウド】最前線までは遠いから、本隊合流には時間がかかるだろうな。そうすっと俺たちが協力する事になるかもな?」


「いや、そうじゃなくてさ。ハヤテに負けて、ライズが【ダーククラウド】に移籍したらさ。【三日月】復活よね?」


──手が止まる。


そうか。


いや、"そうか"じゃないが。

ふざけるなよ俺。


「クローバーはさ、もし【夜明けの月】を抜けたとしても【夜明けの月】に協力するって約束したじゃない。

ライズはどうなんだろう、って思って。

だってライズ、ずっと──」


「メアリー」


だめだ。

この期に及んで、元通りだと?

そんなの許されていい訳がない。

──いやだ。

違う。


「……負けたら、だろ? 負けねぇよ。この一年半、ずっとハヤテをぶちのめす事だけを考えてたんだからよ」


そうだ。

考えるな。

俺は【夜明けの月】のライズ。

俺は──のライズ。

黒木昇。

違う。

違う。考えるな。


メアリーを安心させろ。

そう思って顔を上げたのに。


「……そう。じゃあ、頑張ってね」


何でそんな泣きそうな顔をしてるんだ。

何でそんな辛そうな顔をしてるんだよ。




──◇──




──大鐘楼前の大広間。

【夜明けの月】も【ダーククラウド】も、後は話を聞きつけた冒険者やら鬼やらが集まっていた。

そりゃこんな目立つ所でやろうとすればなぁ。アクラもいるじゃねーか。サボるなよ。


「待ってたよ、ライズ」


「待たせたな、ハヤテ」


円陣の中、二人対峙する。

手加減も忖度も考えていない。どんな背景であれ、お互いに"こいつにだけは負けたくない"と思っているから。


「張り切りすぎよアンタ達。予定時間より20分も早いじゃないの」


──現れるは今回の優勝賞品、ツバキ。

泣いても笑っても、どっちが勝っても。ツバキにとっては転換期になる。

本当に申し訳ないよ。待たせすぎた。

俺は今、ここで──全てに決着を付ける。




──◇──




なんで。


どうして。


だって、彼女は。


……嗚呼、そういう事だったのか。


では──済まないね。


俺はもう、君達を許す事は出来ないようだ。




──◇──




【決闘】が始まる直前。

音すらも置き去りにして。

何が起こったかを理解できたのは、ログが流れたからだ。


「……なんで、だ?」


俺とハヤテが同時に倒れる。

この一瞬で俺達を蹴り飛ばして、あいつは──




──《冒険者ジョージに"敵対行動ペナルティ"を科します。24時間、この階層からの転移を禁じます》──




過去一番の冷たい目で俺達を睨んでいた。




「何で、か。それは俺の台詞だよ、ライズ君」


素手だったが、蹴りだけでは済んでない。首も目も狙われた。【Blueearth】じゃなかったら死んでた。

それだけマジになったジョージが、ハヤテを踏みつけて俺の胸ぐらを掴む。




「見間違える筈も無い。聞き違える筈も無い。

彼女は──ツバキは。()()()だ!」




──そこで、そうなるのかよ。

後ろでエリバが天を仰いでいる。エリバはジョージの娘──瞳と同級生なんだっけか。

あ? 同級生? いや待て確かジョージの娘って──




「瞳は18歳(未成年)だぞ! 貴様ら俺の娘に何をした!!!」




うそだろ。




──◇──




突然のペナルティ。

そして突然の宣言。

そうなりますよね、譲二さん。

でも堂々と言ってはいけませんよ。瞳ちゃん、まだ記憶戻ってないんですから。


アクアラでもなんとか直接の接触を避けるようにしてきました。【夜明けの月】でも【ダーククラウド】でもどちらにせよ入れば記憶は戻りますから、その後に会わせるつもりでした。

昨晩も、なんとか譲二さんだけは離そうと思ってお昼ご飯にお誘いしたのですが……ライズさん、ハヤテ。張り切りすぎです。柄にもなくおねだりしたというのに。


さてさてどうしたものか。

この譲二さんを冷静にするには……天の助けでもない事には、ですねぇ。


ふと。空を見上げてみると──




怒ってらっしゃる"焔鬼大王"のお顔が浮かんでいました。




──◇──




──ヒガルに蔓延る冒険者諸君よ。


──この俺の領地において、あろう事か()()()()()()()物を持ち込む輩が現れた。


──業腹だ。屈辱だ。許してなるものか。


──故にここに《拠点防衛戦》を発令する。




──◇──




数分前。


──裏通りの秘密料亭【六文銭】


【飢餓の爪傭兵団】。

真紅道(レッドロード)】。

【至高帝国】。


トップランカーの定例会が行われようとしていた。

【至高帝国】は姿や名前すら非公開の身。とにかく嗅ぎつかれないよう、場所も時間も凡そ伏せられており、闇ギルド【首無し】の助けすら借りている。この店が見つけられる事は無い。


はずだったのだが。


「……クローバー。どうしてここに」


かつてこの席に座っていた"最強"は、かつての主の前に立つ。

とは言えど、怒りや困惑の顔は無く。ダイヤは驚いているが、ハートに至っては笑っている。


「【首無し】とズブズブの仲間がいるんだよ。……まだ始まるまでは時間あんだろ。世間話に花咲かせようぜリーダー」


「……それは出来ない。残念だけれど」


この事自体は想定済なんだ。

だからこそ、もう少し早く来てくれればね。


扉が勢い良く開かれる。

現れたのは──




「お邪魔するぜトップランカー。【セカンド連合】のお通りだ!」




月面飛行(ムーンサルト)】ギルドマスターにして【セカンド連合】名誉会長アカツキ。

後ろには【マッドハット】総店長セリアン、【象牙の塔】枢機長イツァムナ、【スケアクロウ】代表イミタシオ、【バッドマックス】大頭マックス、【草の根】総隊長スワン……。錚々たる顔触れだ。みんな少し嫌な顔してるけど。


「……やあアカツキ。今日は貸切なんだ。帰ってくれるか?」


「いやこの期に及んで俺が迷子に見えるかよグレン! 宣戦布告に来たんだよ!」


「群れに囲まれて増長したかァ? テメェ一度でも俺達に勝てたかよ。調子乗るなよクソガキ」


「群れに囲まれてんのはテメェだろウルフ! あーもういい!お前らとお喋りすんのはヤメだ! デビル、あれ出してくれ」


「うむ。ハンケチだ」


「泣いてねーよ! それじゃなくてアレ!」


「うむ。目的のブツはお前が持っておったろう。朕には任せられんと言って」


「あ? ……そうだったわ。オラーこれを見ろ!」


勢い良く取り出すは──赤い宝珠。


「おお綺麗な石じゃねーか。河原で拾ったか?」


「露天で買ったんじゃないか?」


「ちげーよ! なんでそうガキ扱いするんだテメェらは!」


ははは。


本当に馬鹿な子だね君は。


「これはな──遂に()()()【草の根】が見つけた、レベル上限解放クエストのアイテムだ!」


ぴたり、と時が止まる。

ウルフもグレンも、先程までの笑顔は捨てる。

フレイム君が何度も味わった──敵と対する時の眼だ。


「……で? それを奪い取ればいいのか俺たちは」


「相変わらず野蛮だなウルフ。ちゃんと【決闘】で勝ち取るんだよ。何人相手でも構わないよ?」


「待て待て待て。そうは問屋が卸さねーんだよ。この宝珠を奪うには特殊クエストに参加してねぇといけないんだよ。そのやり方は教えねーけどな。

つまりはお前らトップランカーは指を咥えて見てるしか無いって訳だ。どうだ悔しいだろ!」


「……ほーん」

「へー」


「なぁんで生返事なんだ!」


うーん。面白い。

やっぱりアカツキ君は無様で面白いなぁ。


「だってその特殊クエストってレベル上限解放クエストって事だろ。でもって"奪うには"って言ってるって事は取り合い前提なんだろ」


「じゃあ君達が集めてから総取りする事もできるんだよね? なら()()()()()()()()。俺たちは攻略してるから」


「……いや、だからクエスト参加してないと奪えないって!」


「お前らより先にそのクエスト始めてる奴がいるだろうが。その辺はアイツに任せる。勝手にやってろ」


「……あいつ?」


目を丸くしているアカツキ君。周りは察しているみたいだが。


「【夜明けの月】サブマスター、ライズ。"ディスカバリーボーナス"でクエスト自体には参加してる筈だ。それに巻き込まれる形で、所属している【夜明けの月】も参加資格はあるだろうな」


「更に言うなら、宝珠を集めて終わりじゃないだろう? ライズさんの"ディスカバリーボーナス"は恐らくその宝寿を集めた後の話だ。まだまだスタートラインに立っただけだねアカツキ。頑張りたまえ」


「ぬぬぬぬぬぬ……! だ、だが【夜明けの月】は俺たちが宝珠を見つけた事は知らねぇだろ! バレねぇうちに集めきってやる!」


「俺、今は【夜明けの月】なんだが」


「うわぁ普通にいるじゃねーかクローバー! 何でだよ!」


「ははは」


「はははじゃねーよ! くそぅ……」


既にへこたれている所悪いんだけれど、アカツキ君の災難はむしろこれからなんだよね。


──重圧。

ソラからの圧が空気に伝わり、我々を物理的に封殺する。


ほーら、来た。




──◇──




──大鐘楼奥:"焔鬼大王"執務室。



宝珠。

それは力の源泉。

レイドボスの持つ権能の象徴。

ヒガルの宝珠はこの判子に埋め込まれており、冒険者が触れるだけで潜在能力を解放させる程の力を持つ。


つまり、宝珠が別の階層にあるというのは……侵略行為と同義。


「なあアヨサト。俺は偉いよな」


俺の腹心、一本角が今日も美しい美人"赤鬼"のアヨサトに俺は問う。


「はい焔鬼サマ。今日もバチクソ偉くてグレートです」


「だよな? だったらよぉ……侵略を許しちゃいけねぇよな?」


「マジ仰る通りです。前回の《拠点防衛戦》からそれほど期間は空いていませんが」


「お。やっぱやめとくか?」


「いえやっちまいましょう。シャバ僧にヤキ入れなきゃナメられますよ」


「よしやろう。お前がそう言うならやろう」


サカヅキん所の馬鹿野郎がよぉ。目にモノ見せてやんよ!




──◇──




──ヒガルに蔓延る冒険者諸君よ。


──この俺の領地において、あろう事か()()()()()()()物を持ち込む輩が現れた。


──業腹だ。屈辱だ。許してなるものか。


──故にここに《拠点防衛戦》を発令する。




〜大鐘楼攻略秘伝〜


【三日月】ライズによって発見されたレベル上限(100)突破手段。

その全貌が明らかに!




Lesson1.【大鐘楼に潜入せよ】

そもそも外部からの侵入が禁止されているため、正攻法での侵入は不可。

新入経路は地下水路か塀を飛び越えるか隠し扉の3つ。

安全に侵入できるのは地下水路だが、一番距離がある。

隠し扉は入ってすぐに見張りに見つかる可能性があるので力自慢でもない限りは選ばないようにしよう!

ちなみに番人がアクラの時は塀の上ルートが、アヨサトの時は地下水路が侵入即確保の死にルートになる。


Lesson2.【隠れながら進め】

3ルートの全てにおいて、目的地である大鐘楼執務室へは最低3つの施設を通らなくてはならない。

大鐘楼敷地内にある3つのポイントを解放する事で警備が緩み、執務室への道が開くからだ。

なお、担当番人がアヨサトの場合は鼻の聞く鬼犬が放たれるので隠密は不可能。


Lesson3.【番人を出し抜け】

執務室前の番人を突破しなくては"焔鬼大王"には出会えない。

なので最後の番人をどうにかしないといけない。

力自慢のアクラとは真っ向から勝負を挑み五分間生存すれば通してくれるぞ。

タイガーベアは遊び好きなので近くのボールを投げると警備をすっぽかす可能性があるぞ。半々くらいの確率でボールの代わりに自分で遊ばれる事になるが。

ヤセの時は賄賂を渡すと目を瞑ってくれる。向こうの提示金額を僅かでも値切ったり定額通りに払うと、払った挙句後ろから刺されるぞ。提示金額の2割増しを目安にしよう。

アヨサトの時は諦めよう。何が何でも補足されてボコボコにされるぞ!


Lesson4.【"焔鬼大王"と会おう】

ここまでやって"焔鬼大王"が判子を降ろしてくれたら合格!

"焔鬼大王"の機嫌が悪いと判子をくれないぞ。

こればっかりは運ゲーだが、"焔鬼大王"は《拠点防衛戦》直後が基本的に機嫌が良くなるのでそれを狙うのもアリだな。

ここまでやって最後運ゲーなの最悪だよな!

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