172.激闘を終えて:色褪せない友情
「──ではこれより"審理"を開廷します」
【アルカトラズ】"審理"の輩 灰の槌のスレーティー。
その槌が空を叩くと、一瞬で周囲が法廷へと変化した。
審理は決闘についてではなく──【需傭協会】について。
「【需傭協会】はかつての審理にて大罪と下されました。その上で【需傭協会】を名乗り、【夜明けの月】への悪質な妨害行為を行った事は審議の必要があります」
「議長。発言の許可を」
「どうぞフォースクエアさん」
「今回の一件は俺によるもの。全ての責は俺にある」
「その通りです。この審理は貴方のためのものなので」
「あっはい」
元も子も取りつく島もない。
フォースクエア着席。
「今回の一件の問題は、かつて【Blueearth】において集団洗脳と監禁暴行・殺人未遂の事件を起こした【需傭協会】ひいては教祖ホーリーを故意に模倣し、【夜明けの月】に違法な妨害・攻撃を行った事です。
その責任は主犯であるフォースクエアに向かいます。当然です」
「はい」
「……ですが。フォースクエアのそれは洗脳ではなく説得・勧誘。【夜明けの月】ゴーストを執拗に追いかけた事も、最終的な【ギルド決闘】も、【夜明けの月】メアリーによる提案です。この罪状ではそれほど大きな罪とはならないでしょう。とはいえ再犯です。相応の罪は覚悟するように」
なんやかんやフォースクエアを心配していた【需傭協会】の連中。審理が始まる前に減刑の願書が届きまくっていた。
……仲がいいんだな【需傭協会】。
「──判決。【需傭協会】フォースクエアに1ヶ月の"禁獄"、6ヶ月の観察処分を科します。頭を冷やすように」
【Blueearth】最大級の犯罪の模倣犯、しかも当事者が主犯だと思えば、かなり優しい判決だった。
──【ギルド決闘】が終わってすぐの開廷には驚いたが、なんとかなってよかった。
──◇──
【第60階層 荒廃都市バロウズ】
──【需傭協会】拠点大聖堂
ベラ=BOXと【夜明けの月】で今後の相談をする事に。
あの大聖堂もガラガラで、人の影すら見えない。
「【需傭協会】は殆どがセカンドやトップランカーの人ですし、現地信徒も含めてほぼ解散しました。現状18名ですね。ふむり。
また今回の"審理"によってギルドとしての活動に大幅な制限が科されています。それでも報酬通り【夜明けの月】に下る事となりますが、宜しいですか?」
「構わないわ。脱退は自由にさせてあげて。
【需傭協会】の仕事は後ろから追って来る【朝露連合】の商業戦力要員よ。バロウズから抜けられる人はアクアラやドラドの商業に人員協力して欲しいの。
そのうち【満月】がここに来るわ。手伝ってあげて」
本命は【マッドハット】に席を持つベラ=BOX自身だが、それはそれとして人数が増えるのはいい事だ。ベルに恩を売るのも悪くない。てか必要だ。オーシャンの方で無茶なお願いしてるからな……。
「それでは改めまして。【需傭協会】より最初のお仕事です。こちらをプレゼントです。どどん」
──クリック以来、ドラド、オーシャンと来てご無沙汰だったが……ここに来てようやくだ。
「3人スタートからここまで来たか。結構ギリになったが」
「ギリギリだけどね。怪我の功名ってやつ?」
カーテンが勢いよく開かれ──2人の影。
「"最強の建城士"ミカンさんですよー。約束通り参加してやるですよ、【夜明けの月】。
まずは拠点の"簡易ハウス"を寄越すです。改造改築」
「無所属の傭兵、カズハお姉さんだよー。【需傭協会】の迷惑料金として【夜明けの月】に参加させてもらうね。というか観察処分なんだけれど」
超優秀な戦力を2つ確保。ミカンは元より【需傭協会】のゴタゴタが片付いたら参加したいと表明しており、ここでようやくの加入。
カズハについては"エルダー・ワン"が取り憑いている事が問題であり、スレーティー越しに天知調と相談した結果【夜明けの月】預かりの観察処分という扱いになった。
「よろしくねミカン、カズハ。盛大に歓迎会をしたい所だけれど、【夜明けの月】に入るには洗礼があるから……こっち来てもらうわ」
──勿論、記憶の件も慎重に。
問題はやはりカズハ。"エルダー・ワン"が混ざった結果として記憶の蓋が緩んでいる状況らしい。どちらにせよウチに引き込むのは確定事項だったわけだ。
ひとまずはミカンの作った小部屋にて、【夜明けの月】以外誰も覗けないようにしてもらったあたりで──ぬるっと天知調が出てくる。
「真理恵ちゃんタンマ。ミカンちゃんは特例です」
「うわっ。どうしたのお姉ちゃん」
正にミカンの頭にリモコンを刺そうとしていた所だった。
特例とは、あまりいい予感はしないが。
「ミカンちゃんがそのまま記憶を取り戻すと……ちょっと良くないの。具体的に言うと人格ごと心が壊れます。私がギリセーフの所まで調整して戻すからリモコンはストップです」
「レッドカードは相当ね……。ミカンの安全が優先よ。任せたわお姉ちゃん。成功率は?」
「お姉ちゃん天才ですから100%!……時間と集中力が必要なので、うっかりミスるかもですが」
「え? ミカンさん殺されるのですか? 洗礼って新手のリンチ?」
「お姉さんがおてて握ってあげるねー」
「不安解消ならず。こわすぎですが? そしてその人誰なのです」
……とまぁ、ちょっとしたトラブルもありつつ。至って健全に記憶の復活が行われた。
「ミカンちゃんは本来の年齢段階だと壊れちゃうので、18歳までの記憶を復元しました。あまり良くない記憶もあると思いますが……」
「んー……問題なし、です。【Blueearth】は安全ですから。ましてやリンリンちゃんの近くなら尚更、です」
今回の新人、肝が座りすぎている。
微塵も驚いてないんだが。
「18歳って、ミカン本当は何歳なの?」
「本当のミカンさんは22歳です。精神や記憶はともかく、このもちもち卵肌は22歳の肉体年齢です」
「では年上ですね。メアリーちゃん。敬語」
「なにおうミカンのくせに。わしゃわしゃしてやる」
「あうあうあ」
仲がよろしくて何より。
そしてカズハの方は……
「………………昇君?」
………………なんだと?
──◇──
──数分後。
カズハの衝撃的な発言。そしてそこからのライズのリアクション。
あたしとクローバーは爆速で理解した。
──カズハとライズには何らかの関わりがあると!
そして名前。お兄さんが黒木翔だからライズは黒木昇になるわね。日が昇るからライズなのかしら。安直。うける。
……とにかく、あたしとクローバーにからかわれると思ったのかライズはカズハを連れて逃亡。しかし【夜明けの月】からは逃れられないわ。既にドロシーが大聖堂屋上から捕捉済み。クローバーの"スメラギ"を活用してジョージが接近し音を拾い、残るメンバーは大聖堂で傍聴中よ。
『よし、ここまで来れば大丈夫だろ』
全然だいじょばないわ。ガッツリ聴いてます。
『……昇君はずっと記憶あったのよね? 私の事気付かなかったの?』
『俺たちが顔合わせてたのって高校の時以来だろ。それも途中からは文通だ。正直顔をあんまり覚えてなかったよ。
俺にとっての宮司は……品行方正な高嶺の花で、実はゲームが好きな奴だ。姉を名乗る怪物扱いはされてなかった』
『女の子の顔を忘れたとか言っちゃダメよ』
『はい会長』
……こ、これは……青春!?
ライズのくせに生意気な。
「もしもしドロシー、何か知ってたか?」
『いえ全く。ライズさんとカズハさんが会う所は何度か見ていますけど、本当に本心から気付いてなかったみたいです』
「まーじかあいつ。こんな美人と縁があっておきながらガチ忘れ? 死刑だぜマスター」
「女として普通に処刑するけど、問題はやはりどのくらいの仲なのかってところじゃないかしら?」
「ラ、ライズさん、文通って言ってましたよね? それってつまりアレなのでは?」
「アレね。これはもうアレよ。間違い無いわ」
湧き上がるフロア。
前々からそうだったけど、ライズの現実での身の上話は殆ど話してないから知らないのよね。こんなところでここまで濃厚なものをお出しされるとは。
『本当の事を言ってくれないとお姉さん怒っちゃうぞー。何で私って気付かなかったの?』
『あー……ほら。いいだろそんな事。それよりどうする? 【夜明けの月】は訳アリだ』
『あー誤魔化した。駄目よ。ちゃんと褒めて?』
『………………ほら、宮司ってずっとポニテだったろ。服も、制服のお前しか見た事無かったから。途中からは学校で顔を合わせるのも避けてたし。ゲームもネトゲ中心になってきたし』
『それで?』
『…………………………俺の想像よりずっと美人になってて気付きませんでした。ごめんなさい』
『ふふふ、どういたしまして!』
どうしよう。
一周回って死にそう。
「──これはもうアレでしょ。確定よ」
「そうだな。大丈夫かゴースト」
「ゴーストちゃんには刺激が強すぎるので、外で待ってもらってます」
「賢明。グッジョブよアイコ」
聞くだけで耳が溶けてしまう。現地のジョージは無事なのかしら。
『…………あーそうだ。ホーリーの事。宮司、彼氏出来ないって言ってたろ。アレ本命か?』
『うん。もう会えないかもだけれど、記憶の無い私の方が恋愛上手だなんて悔しいなー』
──あれ、話が変わってきたわ。
『昇君は彼女の一人でも出来たのかしら?』
『いや全然。お前と知り合ってから女にゃ嫌われっぱなしだ。【Blueearth】でも同じ。非モテは辛いぞ』
『なんでか声を掛けられる事は少なかったわよね私達。昇君と学校で直接お話するのを辞めてからも変わらず』
『そうだよなぁ。イジメは減ったが俺の印象は"宮司の取り巻きA"扱いのままだったからなぁ。謎の喧嘩はよく売られたが』
それはアンタ達が付き合ってるようにしか見えなかったからじゃないの!?
「なんてこった……こいつら、鈍感だ」
「まさかマジで付き合ってなかったの? これで?」
「うーん……そりゃ誰も近寄れませんよね、こんな雰囲気を振り撒いてたら……」
もう我慢ならないわ。
と、思う間もなく。
『……貴様ら、我もいる事を忘れてないだろうな』
『おお"エルダー・ワン"。元気?』
『気安いわ。元気ではあるが』
──もう1人の新人の声。
……すっかり忘れていたわ。
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ギルド名:【夜明けの月】
ギルドランク:A
ギルドマスター:メアリー
サブマスター:ライズ
ギルドメンバー:10名
メアリー LV100【エリアルーラー】/【ハイサモナー】
ライズ LV115【スイッチヒッター】/【鍛治師】
ゴースト LV100【リベンジャー】/【シスター】
アイコ LV100【仙人】/【ナイト】
ドロシー LV100【サテライトガンナー】/【エンチャンター】
ジョージ LV100【ビーストテイマー】/【建築士】
クローバーLV150【ラピッドシューター】/【エンチャンター】
リンリン LV128【フォートレス】/【シスター】
ミカン LV128【キャッスルビルダー】/【ライダー】
カズハ LV138【サムライ】
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~【夜明けの月】は今日も仲良し~
《ミカンと各メンバーの絡み》
・ライズ
絶対に女に手を出さないヘタレの金持ちだと思っている。だからリンリンを安心して預けた。散々利用しまくっていたが、精神年齢が18歳まで落ちたからか少し遠慮というか尊重するようになった。
カズハというグレーゾーンの出現により、男として警戒する必要があると感じている。
性格的には、客観視が得意でいざとなったら悪事も辞さないところが共感している。割と似たもの同士。
物作りが好きで変な所が凝り性なところも似ている。気の合う同僚感覚。
・メアリー
親友のつもり。実年齢は自分の方が上だったが、精神年齢引き下げに伴い同年代感覚でつるむようになった。リンリンと一緒にJK同盟結成。
又の名を"灰色の青春同盟"。主に身内の恋愛模様を執拗に調査し薄暗い部屋でニヤニヤする活動が中心となる。
・ゴースト
友達の妹。メアリーと仲良しだと必然的に妹扱いになってくる。
ゴーストはミカンの事をメアリーの友人として扱うので、ゴーストを甘やかすミカンをもてなすゴーストの図になる。
ゴーストの趣味に合うアンティークのティーセットをこっそし作成中。
・アイコ
ファン。めちゃくちゃファン。
実はアイコと直接会った事があるが、復元されなかった4年間の中での出来事だったのでミカンは覚えてないし、アイコもミカンの事を思い出していない。出会った時のミカンはかなり衰弱していたので……。
それはそれとして着せ替え人形にはされる。アイコさんには逆らえないし逆らうつもりも無い。
・ドロシー
推しのアイコからの矢印が生まれつつある微妙な存在。関係を後押ししたい気持ちもあれば、くっつかないで欲しい気持ちもある。そんな事を考えていたら真っ赤になって突っかかってきたので素手でしばいた。ジョージやアイコほどではないが素手の護身術を極めている。
理不尽な姉ムーブ。ドロシーの事は軽い気持ちで振り回せる弟扱い。度が過ぎる事はしないのでドロシーからも嫌われてはないが、この手の強い女性と当たるのは初めてだったので少し苦戦している模様。
・ジョージ
ちっちゃいもの同盟。【Blueearth】は年齢制限があるので、発育不良の自分より小さい人とは初めて会った。ので喜んでいたが、後付けの肉体である事が発覚。しかも正体が"最強の人類"と知り二度驚愕。
護身術の稽古を付けてもらっている。ミカンの過剰なまでの"身を護る"性格が気に入られ、かなりハードな特訓も受けている。
・クローバー
悪ノリ友達。メアリーと一緒に悪ガキトリオ。よく3人でつるんでセコい事を考えつつも、根がいい子なので実行はしない無意味トリオ。
しかし綿密な準備と防衛が得意なミカンに対してアドリブと適応力のクローバーは戦闘において相性が良くない。嫌がらせに割り振る魔物の数を増やしても平然と倒すし。
・リンリン
大親友。元から妹扱いしていたが、実年齢がわかると輪をかけてかわいい妹扱いに。
それはそれとしてドMを矯正しようとはする。【夜明けの月】は性格について放任放置が基本だが、ミカンは怪物級のプロポーションを持つリンリンを最強の女に仕立て上げたい。
ログハウスに専用の部屋を割り当てられたが、ほぼリンリンと同居している。
かつてからそうだったが、リンリンを脅かす存在は許さない。リンリンだけでなく【夜明けの月】女性陣は割とガードが緩いので、よくボディガードをしている。
・カズハ
姉。
カズハ自称の姉なのだが……何故か義理の姉の感じがする。なんとなく甘えてしまう。
それはそうと【需傭協会】関係者として、ホーリー関係者としての話で今も盛り上がったりする。色々あったが今となってはいい思い出という事にした。
お互いにホーリーに人生めちゃくちゃにされたので、どこかで【黒の柩】に面会に行こうと約束した。勿論大監獄【黒の柩】に面会のシステムは無いが。




