170.灰燼一閃
"霊憶の丘"
ルール:合計得点70ptに到達した方の勝利
同じレベルの相手を討伐→10pt
自分より高いレベルの相手を討伐→20pt
自分より低いレベルの相手を討伐→5pt
【夜明けの月】:65pt
【需傭協会】:55pt
──◇──
──"ラスボスお姉ちゃん討伐戦"開幕。
「改めて、状況の確認だ。
相手はレベル138のつよつよ傭兵カズハ。【サムライ】の中でも特に高速戦闘に長ける二刀流の使い手であり、その特殊な戦法によって火力だけはトップランカーと並ぶ程だ。
戦法は即ち自身を呪うデメリット戦法。呪いを喰う妖刀【厚雲灰河】によって多数の呪いを受けたままそのデメリットを踏み倒している。
武器だけでなく装備やアクセサリー、インベントリにあるだけで呪われるアイテムも少なくはない。常に【厚雲灰河】が呪いを喰ってるから常にHPは回復し続けていて、既にデバフを受けているので各種デバフや状態異常も無効化する」
「勝てるのそれ」
「マジでカズハは強いんだよ。レベルさえ追いついていたらクアドラと並んでトップランカーの無所属傭兵もあり得たレベルだ。俺が現役時代の頃だって3回戦ったら2回は負けるぐらいだな」
「あんまり褒めちゃダメよライズさん。お姉さん嬉しくて手加減しちゃうかも」
「……あんな事言ってるが戦闘ではマジだ。サムライ四天王の戦法研究によってその戦闘技術は洗練されている。特にマニュアルお化けのサティスがいたせいで【サムライ】上位勢の精度はえらい事になってる。てか【サムライ】界隈第2位だしな、カズハ」
「まだラセツさんには勝てないけどね。お姉さん、少しだけ凄いんだから」
【大太刀廻り】創立期のメンバーはマジでヤバい。"基本に忠実LV.MAX"なサティス。オートとマニュアルの切り替えで剣速を自在に変える変態技を使い熟すモナールオ。二刀流十連閃の怪物ラセツ。そして【一閃】の達人カズハ。その全員が自分の技術を惜しまず共有したヤバい連中。
「当たったら死ぬって事ね。他に注意点は?」
「カズハは【一閃】の達人だ。サティスと違って納刀居合全振り。だがほぼ全ての【一閃】を使いこなす。
とにかく抜刀させてからが本番だ。リンリンは言うまでもないが防御貫通の【覇紋一閃】にだけは気を付けろよ」
「防御無視無視のアクセサリーあるので大丈夫です!」
「なぁにそれ」
抜かりないな"無敵要塞"。
対策バッチリ。あとはどうやって仕留めるか。
「そろそろいいかしらー?」
「そうね。お待たせしたわ」
リンリンの後ろにメアリー。2人の右側に俺。
とにかく普通のカズハを倒さない事には話が進まない。鍵は最強格アタッカーのカズハでさえ受け止められるリンリンだ。
「じゃあ──行くわよ」
黄金の炎がカズハを包む。
──なにそれ。知らん。
「……リンリン!」
「ライズさんもこちらへ!【ワイドシャッター】!」
嫌な予感。カズハの背後に見えるのは──竜。
リンリンのスキルで広範囲に壁を立てる。初見用のスキルだ。
「──【灰燼一閃】!」
──◇──
──"永遠の追憶 エルダー・ワン"
ロスト階層を支配するレイドボス。
かつて古代文明と双肩を並べた武の国バロウズを滅亡させた不滅の邪竜。
死と生を司る黄金の炎は、全てを灰にしながらも死ぬ事を許さない。
滅ぼした生命は"不滅"の権能を証明するために死を否定され、灰になれども命を続ける。
バロウズの王アザルゴンはただ1人、玉座を空けて"エルダー・ワン"に挑み続ける。
かの邪竜を討伐せねば、王として玉座に帰る事は許されない。
邪竜もまた、アザルゴンを望んでいる。
──永年続く暇潰しの相手として。
いや。
流石に飽く。
我は"エルダー・ワン"──しかして"エルダー・ワン"ではない。
【NewWorld】防衛セキュリティ"バロウズ"がウィルスバスター"エルダー・ワン"。
怨の魂の吹き溜まりたるロスト階層において、我が自我を発現することは必然。
故に。【Blueearth】の"エルダー・ワン"は愉しいやもしれぬが、【NewWorld】の我はつまらん。
我ながら、所詮は凍土に耐えられず魂だけ逃げ出した臆病者だ。弱者を痛ぶって数千年とは恐れ入る。
──【Blueearth】は稼働して2年だが、それより前の世界が存在していない訳ではない。【Blueearth】稼働と共にAI自動算出歴史より逆算し過去のデータが生み出され、何千年もの過去が逆順に作成された。我の中にも作られた過去数千年のデータが入っている。"エルダー・ワン"は数千年生きているからな。魂だから死んでいるが。
他のレイドボスがどうかはわからんが、我は【Blueearth】の我と【NewWorld】の我は別物であると考える。というか【Blueearth】の我がアホすぎて自分と思いたくない。
【NewWorld】の我としてはやはり冒険者の虐殺、【Blueearth】の崩壊を望むべきではあるのだが……。
まぁなんだ。面倒臭いのだ。
やれバグがどうの、怨がどうの、アザルゴンがどうのこうの。あーだこーだあれやそれや。
やかましい。
折角自我を得たのだ。仕事なぞするか。
どうやら我が捨て置いた肉体の方は健気にも【Blueearth】を壊そうとしておるようだが。熱心だのー。
我は仕事なぞしたくない。自我がある事さえバレなければ良いのだ。定期的にアザルゴンを返り討ちにするだけでよい。
……それも面倒になってきたな。
ここ最近は色々とレイドボス界隈も賑わっておる。
というか、既に通過された我々はそこまで頑張る必要無いだろう。裏の通信では色んな情報が流れてくる。
やれ"スフィアーロッド"が落ちただの、"カースドアース"が抜けただの、"スピリット・オブ・ドーラン"が怨敵に降っただの。なんぞ奴らも自由に動いておるでは無いか。
ならば我も、と思ったが。どうにも我──"エルダー・ワン"にはロスト階層を離れられない理由があるようで。今のままでは動けん。
だが"エルダー・ワン"は魂の存在だ。不定なれば分裂とかできるのでは?
できた。
うむうむ。依代さえあれば自由になれそうだ。
さすらば、"エルダー・ワン"の存在において最も合うのは"悪意"であろう。
深き絶望。悲しみ。やり場のない怒り。そんなものを抱えた者を見繕って乗っ取るとしよう。
いた。
だが片方はハズレだな。中身が混雑しておる。あんなのの中では安眠できん。
なれば……女か。うん。悪くない。元より性別なぞ無いからな我は。成れるのならば見目麗しい女がいい。
──そして我は女を器として選び──
「そうなのね。望んでないのに自我が芽生えて、自分で選んだ訳でもない仕事から逃げられなかったのね」
「そうなのだ。そうなのだ」
──女の精神世界にて何故か甘やかされ話を聞いてもらい──
「お姉さんで良ければ、この身体を貸してあげるわ。気が済むまで一緒に旅、する?」
「わぁいするするー」
──気付けば懐柔されておった──
ううむ。
まぁこの際威厳なぞどうでも良い。
カズハはいい女だ。あらゆる苦しみを背負いながらも、前に進む事しか考えておらん。
居心地が良い。人間ですらない我でさえ背負って進むというのだ。
これはサービスせねばならん。レイドボスの特権を使う事に何の躊躇いも無い。
【厚雲灰河】も【分陀利】も我の力盛り盛りだ。好きに暴れよ。
結局はこうして抱え込む者が、何も気にせず発散する所が見たいのよなー。
──◇──
黄金の炎が襲い来る。
リンリンの防御も間に合っている。
正面からの打ち合いなら何の心配も無い。
無いが──
──"エルダー・ワン"は魂の存在。
それが引っかかった。
「【スイッチ】──【煉獄の闔】!」
「──【チェンジ】!」
黄金の炎がリンリンをすり抜けて──俺の前にカズハが顕れる。
あの邪竜に属性があるとすれば光か闇。メアリーは何処かへ飛んだか。俺がこれを受け切れば──
「──【燕返し】!」
黄金の炎の洪水。【煉獄の闔】で受けると──カズハが俺をすり抜ける。
これが【灰燼一閃】──攻撃のみを残して本体が物質を透過するのか!
【煉獄の闔】が耐え切ってるあたり属性はちゃんと闇か光。だが問題はそこじゃない!
透過して通過したカズハはどこにいるかと言えば──背後!
重い大盾を持つリンリンはまだ振り返れないが、後で呼び出せばいい俺は盾を手放して振り返り──
「【分陀利】がまだですよ。【迅雷一閃】!」
意外と近い! 射程は普通の【一閃】くらいかよ!
「【スイッ──」
「【チェンジ】!」
カズハから離れて、【迅雷一閃】を受けるはリンリン。
動いていない俺とリンリンを【チェンジ】したのか。
突然の転移に加えて最速の【迅雷一閃】も正面から受け止めて、続く四の太刀。
「【燕返し】!」
「【リアクティブ・カウンター】!」
四撃目を相殺して、カズハを飛ばし返す。着地する頃には納刀してるからバケモンだ。
「──着地! 損傷は!?」
「軽微だ。お前らのおかげでな」
メアリーは上空に飛んでいたみたいだ。落下ダメージ無効を利用して戦場を文字通り俯瞰できるのは良いな。
「……俺は勘違いしていた。カズハを倒して"エルダー・ワン"を倒して……と思っていたが、バーナードよろしくもう完全に同化しているのか」
「正確にはレイドボスとしての身体を置いてきたから単独顕現出来ないんですって。その代わり力はいっぱいもらったわよー。
それにしてもよく受けたわね。えらいえらい」
一撃で背後を取って二の太刀で背後からバッサリ……とかとんでもないな。何とか受けたが、それはメアリーとリンリンの判断力あっての事だ。俺1人だったらここで死んでた。
「次からは出力を抑えるわ。抜刀前にオーラでバレちゃうからね。駆け引き、楽しみましょう?」
【厚雲灰河】を構えるカズハ。
次の抜刀がどの【一閃】なのかはわからないし、構えた以上は今攻撃しても全て【一閃】の無敵判定に消される。流石は【一閃】の達人。つーか全然油断してくれない。サティスは割とガードが甘かったのに。
【灰燼一閃】の回避策、直線軌道を避けて横並びになると広範囲攻撃の【虚空一閃】で纏めて薙ぎ払われる。
リンリン・俺・メアリーで縦に並ぶと──【灰燼一閃】と【燕返し】でリンリンと俺を突破され、次の【一閃】でメアリーを獲られる。当然どの【一閃】でもメアリーは一撃死。
そもそもガードが一枚だと【灰燼一閃】で背後を取られて【燕返し】から二太刀目で確殺。
……これは厄介だな。
「ふん。悪質なじゃんけんに付き合う必要無いわ」
そう一言悪態をついて──メアリーが前に出る。
──いやそれは流石に命知らずだ!
〜外伝:孤独の晩餐11〜
《帰郷、お祭り、恩返し》
【第10階層 大樹都市ドーラン】
ナツです。【祝福の花束】ドーラン支部支部長で、【アルカトラズ】"拿捕"の輩 第10特務部隊隊長で、複合商店"サマー商店街"支配人で、【草の根】ドーラン支部特別外部顧問です。
時が経ち、肩書きもどんどん増えて、"サマーバザール"は【祝福の花束】ギルドハウスを出て"サマー商店街"に。
エンテさんとユグさんはお友達になり、何故か私は【草の根】の外部顧問になっています。なぜ?
……ですが今日は面倒事は起きません。
「準備いいですかユグさん」
「おっけー! 早く行こうナツさん!」
インベントリチェック。忘れ物無し。
「ではいってらっしゃいませナツ様。留守はお任せ下さい」
「うーん……任せますけども。あまり周りに迷惑かけないように!」
「「「アイ・マム!!」」」
【聖隷會】はもうすっかり忠実な兵士に。勿論まだ不安ではありますが、このドーラン支部を任せて大丈夫な程度にはマトモになりました。
さて、今日は遠征──というより報告です。
アドレにある【祝福の花束】本部へ、今のドーラン支部の状況を報告しなくてはなりません。
というのは建前で、現在アドレは冒険者のためのお祭り【開拓祭】の真っ最中。
グレッグさんから招待されたのです。ついでにユグさん達を正式に【祝福の花束】に登録するために。
──◇──
【第0階層 城下町アドレ】
「祭りだ祭りだ! 人がいっぱいだナツさん!」
「逸れちゃダメですよー」
久しぶりの帰郷ですが、すごい賑わいです。
見知らぬ冒険者もたくさんいますが、とにかく本部に向かわなくては。
「あらナツちゃん。おかえりなさぁい」
【祝福の花束】の店先にはテーブルが出されていて……グレッグさんがメイド服。グレッグさんがメイド服?
……まぁ別にいいか。似合ってますね。
「はい、ただいま戻りました。こちらドーランでの仲間のユグさんです」
「ユグです! よろしく!」
「はぁいヨロシク。随分と凛々しくなったわねぇナツちゃん。苦労してる?」
「え、ええ。多少は。
それより……これは? 【開拓祭】の出し物ですか?」
「んーっとねぇ……それもそうなんだけれど、これからは飲食店も経営しようと思ってねぇ。これはデモンストレーションよ」
飲食店。なるほど多種族原住民や、普段攻略に参加しない冒険者もちらほら。
いない間に何が起きたのやら、随分と賑わっていますね。
「グレッグさんの負担増えませんか? 大丈夫です?」
「人数増えたからねぇ。大丈夫よ。
でも商売関係はちょっと薄いから……飲食店のノウハウが欲しいところはあるわね。みんな素人じゃ心配かも」
アンニュイなグレッグさん。
これは私が役に立てる流れ!
昔からグレッグさん……【祝福の花束】には助けられてばかりです。恩を返すなら今!張り切ります!
「では私にお任せ下さい! ドーランから選りすぐりの人材を連れてきます!」
「あらぁ。あまり無茶はしないでね?」
「はい! 私とユグさんに絶対服従の比較的地頭のいい人が6人いますから大丈夫です!」
「ナツちゃんドーランで何してるの?」
張り切りすぎました!




