17.大嵐一過
隔絶された【第6階層ウィード:枯れ木野原】
──元【草原の牙】のセーフティエリア
「ダメでやすね。テントも何も使用できやせん」
サモナーのシノさんの馬車のおかげであたしとスレーティーさんは一足早く目的地に着いたけど、状況は良くない。
今は7人でセーフティエリアを探索してる。
「はいはい! 使えないくらいで何か問題あるんかいシノやん」
飴が大好きなマジシャンのパイレンちゃんが元気よく挙手。
シノさんは【草原の牙】の古株で、みんなから慕われているらしい。
「へぇ。攻略階層でセーフティエリアが開かないという事は、テントやベッドで眠れないって事でやす。つまり回復できないんでやすね」
「アイテムとか回復魔法とかあるじゃーん」
「それが尽きたら終わりって事でやす。この階層からいつ出られるのか、全く見当も付いてないんですから」
あ、そっか。と納得して、飴をポケットから出して……仕舞い直したパイレンちゃん。
「魔物も居なくなってやすから素材を回収する事もできやせん。そもそももし兄貴達がやられたら、俺達の方にあの怪物が来るんでやすよ」
「兄貴負けないもん!」
「そりゃあっしも信じてやすが、信じるだけで救われてたらあっしら【草原の牙】やってないでしょうが!」
声を荒げるシノさんにビクッとするパイレンちゃん。と、あたし。
「……あぁすいやせん。大丈夫。兄貴は負けないすから……」
パイレンちゃんだけじゃない。この異様な状況に不安を隠さずにはいられないよね。
……だから、あたしがやらなくちゃ。
「スレーティーさん。お願いがあるの」
──◇──
「なぁんでオレ様が引っ込まねばならんのだ!」
サメゴリラを呼び戻す。当然テンペストクローもこっちに来るから、すれ違う形で俺が出る。
「今! やっと回復が追いついただろアンタ! ……【スイッチ】!」
武器を【壊嵐の螺旋槍】に切り替える。このままだとテンペストクローが俺の背後の連中に突っ込んでしまうので、ダメージを与えつつ背後に回る突進攻撃しか択が無い。
──高速の突進技【スターレイン・スラスト】!
「っ……つまり! アンタはちゃんとダメージを受けていて! あのまま長期戦してたら死んでたって事だ!」
もしただテンペストクローを討伐するだけなら、あるいはサメゴリラ一人で討伐できたのかもしれない。それほどの技量と力を見せてくれた。
だが、そんな楽観視はできない。
テンペストクローはちゃんと俺に狙いを移してくれたが……。
【スターレイン・スラスト】に対応して爪で攻撃された。しっかり2割くらい削られた!
「とにかく! アンタの言う通りちゃんと使ってやるから! 指示に従ってくれ! ……【スイッチ】!」
呼び出した片手盾【宙より深き蒼】でテンペストクローの突進を防ぐ。これも効く……が、ここからが本番だ。
チャットは脳内で入力可能。手を開ける必要はない。
[ライズ]:
『俺とベルグリンとゴーストで前衛。3方向から囲む形で配置。アイテム班は前衛3人のうち2人に対応できる位置で待機』
テンペストクローが右前脚を下げる。
──3択。
1.左から爪による払い攻撃。俺に届かん。ナシ。
2.全方位咆哮攻撃。今俺しかいない。ナシ。
3.突進。最悪。でもコレしかない!
「【スイッチ】──【煉獄の闔】!」
[ライズ]:
『サメゴリラは俺の後方で待機。俺メインタンクでタイマン。俺回復中だけベルグリンとゴーストがタゲ取り』
大狼の突進。嵐風を纏い、大地ごと巻き返さんとする凶風。
ここで吹き飛ぶ訳にはいかない。惜しみなく最強の両手盾を呼び出し、防御──!
[ライズ]:
『サメゴリラおしかえせ』
「応ともさ! 【オーガチャージ】!」
既に配置に付いていたサメゴリラがテンペストクローの鼻頭を捉え、またしても押し相撲。
テンペストクローが俺の前まで押し戻され、その間にニワトリ君が走ってくる。
「ヒャッハー! 乾杯!」
回復アイテムを勢いよく顔面にぶっかけられた。3本同時に。
回復量……まだ足りないのかこれで。消費激しいな。
「ありがとう。離れてくれ……もういない」
「ヒャッハー! おかわりを楽しみにしてなァ!」
想像よりずっと優秀だな彼。
「これでいいのだな」
サメゴリラが既に戻ってきている。前線はゴーストとベルグリンが交代しながら押さえつけてくれる。
次の行動までに戻らなくちゃな。
「ああ、これでいい。こんな適当な指示でよく理解してくれたな。助かる」
「いやお前……オレ様はドン引きだぞ。なんで戦闘しながらチャットできるんだよ」
「え? いや手使わないんだから別にできるだろ」
[ライズ]:
『もどる。さがれ』
盾は吹っ飛ばされたが、【スイッチ】で初期化するので問題なし。次は近接戦だから片手剣かな。
結構慣れてきたからチャットも落ち着いてできるようになってきた。情報共有は大事。
[ライズ]:
『前衛3人でバカ犬をここに留める。バカ犬が包囲網を突破する可能性のある技は3つある。その時はサメゴリラが担当する』
「【スイッチ】──【月詠神樂】」
[ライズ]:
『一つは突進。確実に包囲網を突破されるがサメゴリラが元の位置まで押し返す。定位置に戻ったら俺が回復するまでゴーストとベルグリンで維持。ベルグリンはバフに気をつけて』
テンペストクローの連撃を躱し、いなし、時に直撃。
引いてニワトリ君のウェルカムドリンクを頭から被る。今度は全回復。
[ライズ]:
『一つは咆哮の全体攻撃。前衛3人一気に吹き飛ぶ。復帰するまでサメゴリラがタゲ取る』
「【スイッチ】──【封魔匣の鍵】」
時に一歩引いて銃弾で注意を引いて。
引きつけ過ぎた所でベルグリンの大剣投擲がヒットする。
助かった。気が抜けてた。
[ライズ]:
『一つは眷属召喚。これはアイテム班でも倒せるウィードウルフを呼び出すやつ。サメゴリラ単騎でバカ犬を抑えて、俺達は全員離れて各自眷属を殲滅。眷属全滅したらバカ犬が吠えるから、それ合図に再集合』
テンペストクローが小さく唸る。前足で地面を掻き始めた。
──2択。
一つは眷属召喚。攻撃チャンス。
もう一つは突進噛みつき。受けたら即死。
「【スイッチ】──【煉獄の闔】!」
流石に防御! そこまで勝負強くはない!
ここからどのくらい戦うのかわからないんだから安全策だ。
テンペストクローの顎が俺を捉え──
──バツンッ。
──◇──
「メアリーさん。お願いとは?」
スレーティーさんと二人だけで、効果を発揮していないテントの中に入った。
シノさん含めた他の皆は外で待機してもらった。聞かれちゃマズいからね。
「──ゲームマスターと話をさせて。ライズから聞いたの。スレーティーさんって、お姉ちゃんと繋がってるんでしょ?」
鋭い眼がうっすらと開く。こ、怖い。スレーティーさん目力強い。
「……可能です。先程から通信は来ているんです。緊急事態である事と、貴女がマスターの妹である事から……灰の槌の名の下に許可します」
スレーティーさんが両手を合わせると、目の前にウィンドウが現れる。映っているのは、お姉ちゃん。
『真理恵ちゃん大丈夫!?』
「大丈夫じゃないわよ! どうなってるの!?」
『バグなの。私のせいで生まれたバグだから手強くって。消しても消しても出てくるのー』
こっちをチラチラ見てるけど、ずっと指が止まってない。本当に大急ぎで、現在進行形でバグを解消してるのね。
お姉ちゃんがこんなに苦戦してるの見た事ない。
……お姉ちゃんが作った最強サーバー【NewWorld】を、お姉ちゃんが使った電脳ウィルス【Blueearth】で侵略している。それによって起きているバグで苦しんでる。
自業自得って言うか、相手もお姉ちゃんじゃないの。
「……とにかく、お姉ちゃん! あたしにも手伝わせなさい! 内側からも操作できれば何か変わるかもしれないでしょ!」
あたしにしか出来ない事。なんて事ない、姉へのおねだり。
『……真理恵ちゃん。私は世界一すごい人です』
知っとるわ。そんな一言で済ませられないわよ。語彙力鍛えなさいよ万能の天才。
『真理恵ちゃんに何とかできるとは思えません。
……真理恵ちゃんだけでは無いのよ。私はこれまで他人に期待できた事がないの。だから……』
泣きそうな声で精一杯ワルぶらないでよ。
「うるさい! いいから貸しなさい!」
画面の向こうのお姉ちゃんとは触れられない。でも、掴みかかってやるくらいの勢いで叫ぶ。
生まれてずっと抱えてた気持ちを、一度もぶつけた事は無かった気持ちを。
「あたしは! 世界で唯一【Blueearth】に侵入できた最強のハッカーで! 世界で唯一! あんたの……お姉ちゃんの! 妹なんだよ! 認めろよ!」
言葉が上手く出ない。上手く選べない。
熱い。苦しい。でも、頑張らないと。
「いいからあたしを信じろ! ばかお姉ちゃん!
早くしないと……あたしを信じてくれた人が死んじゃうよぉ!」
口を開けば憎まれ口で、弱いのに意地っ張りなあたし。
ライズも憎まれ口は一緒だけど。
ライズが死ぬのは絶対嫌!
「ライズは、あたしのわがままを本気で聞いてくれた! 本気で手伝ってくれてるの! 絶対死なせたくないよぉ!」
お姉ちゃんの顔がよく見えない。
どんな顔で聞いてたのかな。後で聞いても教えてくれないか。
『……わかったわ真理恵ちゃん』
スレーティーさんがハンカチで目元を拭いてくれた。ハッキリした視界が捉えたのは、電子キーボード。
『見てる余裕は無いの。好きにして。
でも一つだけ言っておくわね。【Blueearth】に不正アクセスまで持ってこれたのは真理恵ちゃんだけだから。私、悔しくて泣いちゃったのよ』
予想外すぎる、お姉ちゃんの嫉妬。
……何よりも嬉しい激励。
キーボードに手を伸ばす。やる事は決めてる。どれだけ早くシステムを理解できるかが勝負!
「まずセキュリティ強化するわ。なんか変なウィルスぽいのあるからシャットアウトしとくわね」
画面を拡張。データを解析。思考をフル回転じゃ足りないくらい、脳の全てを使う気持ちで全てを観る──
……お姉ちゃん。ごめんね。本当は、バグを消せるかはわからないの。
あたしがやろうとしているのはたった一つ。
お姉ちゃんを騙してでもこの力を手に入れなくちゃいけなかったの。
おい聞いてるかバグ。お姉ちゃんから生まれた傍迷惑な問題児。
──夜更かししてんじゃないわよ!
──◇──
──その狼は、嵐の夜にしか現れない。
回復アイテムも底をつき、もう俺とサメゴリラしか戦えなくなった。
「随分と遠くまで来たな。オレ達が死んだら、こいつはどこへ行く?」
「どこだろうな。そのまま見失ってくれりゃいいが」
もう何時間戦ったか覚えてないが、リアル時間も夜になったんじゃないか?
武器も耐久値が尽きて壊れまくり。サメゴリラに俺の斧を渡したりして時間を稼いだが、もう限界だな。
バカ犬が一際大きく吠える。勝利の雄叫びか?
「……あぁ、俺たちの勝ちだな」
テンペストクローの動きが止まる。
生物的なソレではなく、時が止まったかのように。
「なんなのだアレは……空が、書き換えられていく」
真昼を塗り潰した嵐の夜は、更に晴天の空へと塗り潰される。
「じゃあなバカ犬。後で絶対お礼してやるからな」
その場に座り込む。久しぶりに本気で疲れた。
持ち込みの回復薬全部使ったとか、武器防具修理の費用とか素材とかの調達とか、何もかも今は考えたくなーい。
あとサメゴリラが何者なのかとか、もうどうでもいいや。
──張り替えられる空とともに、消える嵐夜とともに。
──嵐の王は、その姿を消すのだった。
〜ジョブ紹介【オーガタンク】〜
《寄稿:謎のチワワヘッド兄貴》
このオレ様が! 説明しよう!
【オーガタンク】とは!
ウォリアー系第3職! 系列で言えば第2職【バーサーカー】より派生せしジョブだ!
【第70階層 連獄都市ヒガル】にて解禁されし隠しジョブである!
適正装備は斧、剣、槌、盾。全て片手も両手も装備可能だ。後は槍。基本的には【グラディエーター】と変わらん! ので、【グラディエーター】から味変すると良いだろうさ。
特徴! 即ち【グラディエーター】よりタフである!
アビリティ【超再生能力(鬼)】により、常に受けたダメージの倍回復し続ける。つまりどんどんダメージを受けた方がいい!
このアビリティを以てして、常に殴り殴られながらタンク役となる事ができるのだ!
そして専用スキル!即ち【オーガチャージ】!
ウォリアー系の突進技【チャージ】系列の派生である。
特色として、まず速度自体はそれほどではない!
敵を弾き飛ばす速度と同速でズンズン進む!
即ち、常に相手を押し飛ばしながら近接攻撃を与え続けるのだ!
一般的な突進術は接触時しかダメージが入らないが、【オーガチャージ】は常に相手に張り付くためダメージを与え続ける事ができる!
或いは避けられれば暫く解除できぬ故、隙が大きい技である。
まぁ肉料理は雑な味付けが合うものだ!
スキル【鬼哭轟咆】もクセがあるが優秀だ。
ウォリアー系スキル【ウォークライ】の派生だな。叫び注目を集めつつステータスを強化するアレより進化し、声量で周囲にダメージを与えられるようになった。
物理攻撃しかないウォリアー系列には範囲攻撃が希少だ。確実で出の早いこのスキルは有用!
味方が近いと使いたくないな! 気をつけよ。
武器の種類が多いのはウォリアー系列の良いところだが、オススメは一発の威力の高い斧・槌系だな!
ダメージを受けただけ火力の上がる槌スキル【リベンジバスター】や、攻撃中にスタンやノックバックを受けなくなる斧スキル【かまいたち乱舞】などが相性が良いな!
尚、ジョブ獲得に伴う条件は内緒だ。是非、自分で見つけてみて欲しい。
目的の店を探す間こそ、至高の時間であるからな!




