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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
荒廃都市バロウズ/ロスト階層
159/507

159.人脈は全てを解決する

──"エターナルメモリー"は投影する──




──◇──




【第60階層 荒廃都市バロウズ】


──地下洞窟


ツバキと一緒に、入り組んだ地下道を進む。

ライズの地図があれば、この地下道を上手く利用すれば61階層にも行けるはずだ。"敵対行動ペナルティ"くらってるから、24時間待ってライズと合流して……61階層に逃げておきたいな。


「まずは61階層行きの隠しゲートまで行って、ツバキは1人で61階層に潜伏してくれ。安全そうな所で"簡易ハウス"を使えば安全は保証されるはず」


「いやよ。あんた1人じゃまた無理してペナルティ重ね掛けしちゃうでしょ、ハヤテ」


……そのつもりではあったけど、見抜かれると何も言えないね。


「【需傭協会(Weak.enD)】を撃退しても解決にはならないわよ。ちゃんと相手の目的を考えなさいな」


「そうだね。とはいっても目的は……サブジョブ解放の阻止、だよね。最前線が多い相手さんなら、今別行動中のライズに目を付けるべきってわかってるだろうから……ボク達は人質かな?」


「誘拐って言ってたからねぇ。無闇に61階層に行くのは悪手かもね。拠点階層にいれば"敵対行動ペナルティ"或いは"PKペナルティ"があるから、少なくとも敵からの攻撃は抑えられるんじゃないかい?」


「いや……【需傭協会(Weak.enD)】はあの"影の帝王"を抱えている。暗殺組織も従えていると思うよ。連中はお構いなしに殺しに来る」


「とにかくライズと合流しないとね。でも多分ちょっかいかけられてるよアイツ。あたし達が向かうべきは過去階層じゃない?」


「……表の転移ゲートは抑えられているだろうね。そもそもライズが抜けて来てもここで着地狩りされてしまう。

ああ〜もう詰んでるなぁ! 今回は流石にとばっちりだろう! ライズ無事かなぁ!」


本当にどうにもならない。外部の協力を申し出たい所だけれど、人徳は向こうにあるし。【真紅道(レッドロード)】も渋られるだろうなぁ。


外部。外部の協力かぁ。

……やってみるか。




──◇──




【第49階層サバンナ:静かな荒野】


「オラオラ行くぜぃライズ!【フリジングダスト】!」


「ごめんなさいね〜。【セイントピラー】!」


輝ける光雪、光の柱。

視界と行動範囲の規制。狙いは──


「【スイッチ】──【煉獄の闔(ケイオス・エイギス)】!」


背後からの刃を受け止める。

唯一空いている後方への退避を狙った襲撃だろうからな。


「……よく受けた、な」


「接近戦はお前にさえ気を付ければいいんでね、"四枚舌"!」


──ブックカバー、ルミナス、アザリという【大賢者】三枚看板の相手は……キツいけど、そこまで厳しくは無い。全員距離取ってくれるからな。

警戒すべきはマジシャン系でも希少な近接戦闘要員【マジックブレイド】……その中でも最高位、物理も魔法も二刀持ちの四刀流のクワイエット!


「【スイッチ】──【簒奪者の愛(ゲットバッカ―)】。【影縫い】!」


「チッ……【クロスフレイム】!」


対象の動きを封じる【影縫い】は投げた短剣を弾き落とせば防げるが──【簒奪者の愛(ゲットバッカ―)】に触れると武器を奪われる恐れがある。完全に俺の手の内を知ってる相手用のやり方だ。クワイエットが俺に興味無かったら終わってた。


二の矢……というか三の刀で交差炎を飛ばして来るが、後方爆撃部隊よか威力は低い。クワイエットを抑えた事で距離を稼いで──


「──【テンペスト】!」


「甘い!【スイッチ】──【宙より深き蒼(ディープ・ブルー)】!」


魔法用ジャストガードで受け切る。ブックカバーは読みやすい。複数人で来ても仲間に気遣って魔法を出し渋るような奴じゃない。だから受け切れる……。


……声、近くね?


「死ねぃライズ!」


光雪を掻き分けて目の前に現れたのは──ブックカバー。

何故ここまで近くに、と思案する暇は無い。


「【スイッ──」


「ずえぃあぁ!」


「ぐげっ」


拳。


ただ思いっきり殴られた。


魔法使いがよぉ! 暴力に訴えんなよ!


だが体勢を崩してしまった。遠くのルミナスとアザリが俺を狙っている。


測り間違えた。ブックカバー、ちゃんとリーダーしてんじゃねぇかよ!


「復帰はさせないぜぃ!【フリーズリンク】!」


「撃ち抜きます。【ソーラーレイ】!」


灰は灰に(アッシュ・マッシュ)】に持ち替えるまでは行けたが、足元を凍らされて防御姿勢が間に合わない。


光が俺を狙って──




「【チェンジ】!」




瞬間。視界が広がる。

一瞬で場所が変わった。これはいつぞや俺が見つけた──


「お待たせしました我が運命」


後ろにいたのは3人の人影。


ルミナスとアザリがこっちに気付くが、一旦停止する。

──マジシャン系の最強格が揃っていた。


「やって下さいレインさん」


「わかったよ。もう詠唱済だ──【コスモスゲート・フラッド】」


「貴様──ぐぉ」

「ブックカバー!……手を……!」


魔法一つで窪地にいたブックカバーとクワイエットは星海に沈む。

超大規模魔法を好き放題使う【ロストスペル】──その使い手、レイン。マジシャン界隈では最強の男。


「ルミナスさんもアザリさんも、ここで止めてください。手荒な真似はしたくありません」


「手荒……これよりも、ですかぃ?」


「はぁ。ここまでですね〜」


予期せぬ助け舟に救われた。

【ロストスペル】のレイン。

【エリアルーラー】のナギサ。

そして【大賢者】の──




「改めまして。完全なる善意の顕現。恵み深き伝智の神仔(みこ)

わたしがイツァムナです。よしなに」




──◇──




【第60階層 荒廃都市バロウズ】


──【需傭協会(Weak.enD)】本部大聖堂


「そこ、通してもらえませんか?」


出入り口を塞ぐは死体の山。

犯人はたった二人──ウルフとサティス。


「やぁ〜〜〜だねっ!」


「いやはやウチのがごめんね。それはそれとして殺すね」


"敵対行動ペナルティ"も"PKペナルティ"もお構いなし。2人とも凄まじい数のペナルティを受けながらも、ザクザクと信徒を殺しています。


……何故?


ウルフは私を目の敵にしてはいますが、今この状況でここまで強硬手段に出る理由がわかりません。


「こんな事する合理的な理由は何か。とか考えてんだろお前。自分は色々と考えてんのに、他人は全て単純で論理的な思考をしてるって信じて疑ってねぇ。傲慢なんだよテメェは。

俺ァな、お前を殺したかった。今ならチャンスって()()()からよォ! 本当は脅す程度だったんだが、盛り上がっちまったんでブチ殺しちまったよ!」


「あはは。そういう訳で殺すね。本当に悪いと思ってるよ。殺すけど」


……【三日月】に踊らされているのか。この狂犬コンビが。

困りました。ここまで意思の強い二人は洗脳に時間がかかる。その間に私が殺される。

もはやバロウズは安全ではなくなってしまいましたね。手を考えましょう。

ウルフとサティスは単純です。ペナルティでバロウズからは出られない。バロウズから逃げるだけで対処可能。ハヤテさんとツバキさんの捜索は信徒に任せましょう。

ブックカバーさんはライズさんを抑えに。残りもそれぞれで役割はありますが……決戦は61階層になりそうですね。


上等です。この私を超えてもらいますよ、みなさん。




「ホーリー。ここで止まってくれ」


……わかりました。この的確に嫌な人選。人を選ぶ事が絶望的に下手くそな感じ。それが転じて私に都合悪く流れてきた感じ。

【三日月】のハヤテですね。彼女は何というか、致命的に頼る相手を間違えてしまうところがあります。

だからこれは奇跡なのでしょう。


「……グレン。通してくれ」


「君の"王道"にケチは付けない。だがその道を見過ごす事もできない。だからここで止まってくれ、ホーリー」


「退けよお上品な騎士サマがよォ。殺しの経験も無ェだろうよ」


「おや。小さすぎて見えなかったよ野良犬。殺す事しか出来ない未熟さを誇るのか?」


「……すげェ苛ついてんじゃん。俺好みだ」


「そこで喧嘩してる場合じゃないよね? 余所見してると足元掬われるよ」


そう。今正に逃げ出そうとしていたが、ずっとサティスが抜刀の構えをして目を離してくれなかった。

窮地を脱するには、手段を選べないか。


「やって下さい。ミカンさん」


「……【建築ビルド】」


轟音と共に歪む大聖堂。

【キャッスルビルダー】最高峰の傭兵ミカン。"影の帝王"の配下だった彼女だけは、いつでも使えるように洗脳していた。

大元の大聖堂そのものを改造する事は出来ませんが──内壁にミカン製の壁を重ねてあります。厄介な敵の上に道を作ってもらいました。


「くっ……逃すかァ! やれサティス!」


「方角固定──【虚空一閃】!」


「バルバロス。頼みます」


教科書に載っているなら机上の空論でも再現可能なマニュアル妖怪サティスによる、理論上可能なだけの空中方向【一閃】。可能性としては考慮していたのでバルバロスに抑えてもらいます。


【デビルサモナー】としてのバルバロスの強みは、デメリット度外視の悪魔多重召喚。軍師としての采配に優れる彼は、射程範囲75mにおいて最大7種の悪魔を瞬間的に配置する事が出来ます。今回サティスを食い止めたのは身代わり性能の高い"藁の悪魔"──ダメージ全てをバルバロスが肩替わりしますが、それを厭わないのが強みですね。


「……任された。行け、ホーリー」


「二の太刀を受け切ってから言いなよ。【燕返し】!」


「ペナルティが重すぎたなサティス。全然受けられるぞ!」


サティスを抑え、ウルフを乗り越え。

──グレンを飛び越える。


彼が何を思っているのか、私にはわからない。

……わかってはいけない。




──◇──




──大聖堂最上階

封印の間


老婆が一人。

立ったままの死体が数体。

ホーリーの洗脳により自我を失い、ただ立つ事しか出来なくなった者達。

老婆は嗤う。その隣に、一つの宝玉を浮かべて。


「おぅおぅ死体だらけだねぇ。これがホーリーの正体さね。どうだい? ()()


『──そうですね。私が取り返しのつかない事をしてしまったと、後悔するばかりです』


宝玉の先には【Blueearth】の創造神天知調。

老婆の正体は──【NewWorld】計画で天知調に協力した7人の1人。"日本を動かせる大地主"小峠ヨネ。

天知調の不老不死実験の被験者2号。【Blueearth】開始時点で82才(倍速年齢逆転装置により肉体年齢は52歳まで戻っていたが、【Blueearth】においては元の老婆の方が良いという希望により外見を変化させている)。

【NewWorld】創立チームの中でも珍しく記憶を持ったまま【Blueearth】に潜入し、こうして有事の際は天知調のサポートをしている。が、普段は【真紅道(レッドロード)】で好き放題しているため必ずしも味方とは限らない。


『ヨネさん、よく耐えましたね洗脳』


「アタイの時代からあったよ、洗脳教育。アタイもよくやってたし。アンタの爺ちゃんとかずっと庭の手入れやってただろう? あれはアタイとフミヱの洗脳教育さね。まぁつまり、慣れってもんさね」


『ひいおばあちゃん、何してるの?』


天知フミヱは天知調と天知真理恵の曽祖母であり、ヨネの親友。自分の息子に洗脳教育を施したというカミングアウトはどこまでが本気なのか。


「……つまりね、洗脳され切る前に自分を洗脳するのさ。あとは黙って従っておけば洗脳されたと勘違いされっからね。

アンタもそうやって耐えたんだろ? ババアの小言もわるいもんじゃぁないだろぅ? ブラウザ」


新しくこの部屋に押し込められたブラウザは、大きな溜息一つ、前に出る。

どうやら黙ってやり過ごすつもりだったみたいだが、アピー/ヨネの下に着いていたためか対策を立てていたようだ。


「アピーお婆様。そちらの方は?」


「何か聞こえたのかい? これはアタシの爺さんのタマだよォ」


「……いえ、何も聞こえませんでした」


『気を遣わせてしまってごめんなさい』


「返事するんじゃないよォ!」


『あっごめんなさい』




……なお、この日の出来事はブラウザは口外していないが、ガッツリ覚えてはいる。

【Blueearth】の仕組みなどについては勿論わからないが、アピーの底知れなさが頭に刻み込まれ、その後今に至るまで事あるごとにアピーにこき使われるのだが、それはまた別の話──。

〜外伝:孤独の晩餐8〜

《大樹の夏祭り》


【第10階層 大樹都市ドーラン】


ナツです。【祝福の花束】ドーラン支部支部長で、【アルカトラズ】"拿捕"の輩 第10特務部隊隊長です。


「ナツ様! 本日はどうしましょうか!」


「様付けやめてください。帰ってください」


お騒がせ集団【聖隷會】6名を加えて、8名のそこそこ規模になってしまいました。

ここ数日、ユグさんによる健全な教育の結果、【聖隷會】のみなさんは徐々にマトモになってはきていますが……ドーラン支部の評判はガタ落ちです。

ドーランではそれなりに有名だったならず者"草原の牙"を抱えている【祝福の花束】が、ガッチガチの危険人物【聖隷會】を配下にすれば当然です。


「……イメージアップ! です!」


私のミスで【祝福の花束】の評判を落とすわけにはいきません!

ここは何としても復権させなければ!


「しかしナツ様。ドーランでは祭りがありません。ドリアードやエルフが交代で政権を握ってしまうので固定イベントが定着しないんですよね」


「だってさ。アピールするイベントも無いんじゃあねー」


うう。【聖隷會】のみなさんはマトモな時は普通に賢いです。ユグさんもその傾向があります。


「信仰を集めるならば何につけても宣伝でございますナツ様。階層攻略が流行すれどもドーランに定住するメンバーはそう変わりません。つまりはかつて【鶴亀連合】に在籍し、【朝露連合】──ひいてはそれに手を貸した【祝福の花束】にとって敵である者。それがドーランの半数以上と言えます。

【朝露連合】は【鶴亀連合】を吸収しているため我々ドーラン在住組にとっては上司の首がすげ替わっただけなのでそこまでの抵抗感はありませんが、やはり外部から来た【祝福の花束】を怪しむ者はいるでしょう。

我々のようなものを引き込めば尚更」


「わかってるなら帰ってくれませんか?」


「悪評だけ広めるだけ広めて帰るのは流石に……。これでも罪滅ぼしのつもりです」


ううん。優しい。


「……しかしドーランは【Blueearth】屈指の商業大国。半端に商業に出ては痛い目に逢うでしょう」


「というか我々【聖隷會】が店頭に立っていたら誰も来ませんな!」


「違いない。ははは」


はははではないのですが。


……店頭に立てば逃げられる。

店員が顔を出さない仕事か、客側に選択の余地が無いような仕事ならいけるのかな。


「……商業大国という事は、出店のハードルそのものは低いという事です。魔物料理店【川鍋】がお店を構えられるように。

しかしそれには一芸が必要です。ハードルはそこにあるのでは?」


ドーランに新しく居を構える人は、大抵は商人。いや、ドーランに住み着く以上は商人でなければならないと言うべきてますか?

ですが【Blueearth】屈指の店舗数を抱えるドーランで、あまりに複雑に入り組んだ"天秤"エリアで、皆が皆うまく商売できる筈が無いと思います。

仲間が足りず商品を入荷できない。商売のノウハウが無い。致命的に上位互換的な同業他社が存在し売れない。

そんな惜しい商人が、いっぱいいるのでは?


「決めました。【祝福の花束】ドーラン支部の興業は──」




──◇──




──その後。

【祝福の花束】ドーラン支部の広いギルドハウスを利用した複合商店"サマーバザール"が開業する。

小規模な露天であるが、気軽に店を開く事ができるという利点をアピールする事で商人も客として来る冒険者も賑わう事となる。

収益は店内飲食ブースのドリンク販売などで賄っており、出店費や場所代をかなり抑えた事で参加者は急増。

運営としては商品から売買まで勝手にやってくれるので負担が少なく、【聖隷會】は出展側の受付として働く事になる。損得利益を重要視する商人達は比較的【聖隷會】を嫌っていなかった。


……そしてどんどん規模が拡大した"サマーバザール"はドーラン支部の外へと広がり"サマー商店街"となり、そして未来には"サマーモール"となりドーランの商業界隈においてベル社長と抗争する事となり、ナツは泡吹いて倒れる事になるのだが、それはまた別のお話……。

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