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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
荒廃都市バロウズ/ロスト階層
158/507

158.真実を抱いて何を成す

【第60階層 荒廃都市バロウズ】


──【需傭協会(Weak.enD)】本部大聖堂




「はじめまして【需傭協会(Weak.enD)】。あたしは【夜明けの月】のギルドマスター、メアリーよ。

早速で悪いんだけど、()()()()()()()()。あたし達と【ギルド決闘】しなさい」




こうなればメアリーに全て委ねる。

リンリンが突撃した時はどうかと思ったが、なんとかなるのかねコレ。


「……何をおっしゃる。全く意味がわかりませんね」


「そうかしら。かなり手っ取り早いと思うけど。信徒にはあたし達を監視させてるんでしょ? 理由も教えずに。

需傭協会(Weak.enD)】を滅ぼしたライズを警戒してるのよね、あんた。そこの信徒達も"サブジョブ解放事件"の事はご存知よね!? あんた達が一回解散した理由だもの!」


……こいつ、信徒の方を揺さぶりにかかってる。

一応メアリーには事の顛末を伝えてはあるが、あたかもご存知のように言っているこのマスターが一番よくわかってなかったりする。


「あんたは恐れている。またライズが【需傭協会(Weak.enD)】を滅ぼさないか。だからまた()()()()()()潰そうとしてるんでしょ!?

そっくりだものねぇ! あのホーリーと!」


お前はそのホーリーと会った事は無いがな。


ざわつく信徒達。フォースクエアがホーリーとそっくりだから付いてきた連中だ。ホーリーと同じ事をすると言われて信じてもおかしくない。


「だから乗ってあげるって言ってるのよ。24時間後、61階層で待つわ。お互いのギルドを賭けて決闘よ!

需傭協会(Weak.enD)】が勝てばあたし達は二度とあんた達に関わらない。殺人未遂も不問とするわ。

ただし! あたし達が勝てば丸ごと全部もらうわよ、【需傭協会(Weak.enD)】!」


とんでもないシャークトレード。殺人未遂に至っては事実無根の言い掛かりである。

が、フォースクエアへの不信感に加えて強気なメアリーの態度が信徒達を混乱させ、盛り上げる。


「なんて奴らだ【夜明けの月】!」

「やりましょう、殺りましょうホーリー様!」

「こんな奴らが正義であるものか!」

「そうだ! 我らこそ正義だ!」

「【需傭協会(Weak.enD)】!【需傭協会(Weak.enD)】!」


「おーおーよく吠えるわねぇ。でもあんた達の神様はまだ何も言ってないわよー?」


信徒達が黙り──一斉にフォースクエアの方を向く。


"もちろん、私達の気持ちがわかりますね?"


そんな表情だ。信者って奴は救いを求めるが、望み通りの救いで無ければ冷めて覚めるものだ。

フォースクエアは嫌がる素振りすらせず、だが恨めしげに。


「……受けて立ちましょう。ですがそれは、そこのゴーストさんが無事に61階層に辿り着いたらです。

【夜明けの月】全員と戦うつもりですので。もし24時間後の決闘開始時にゴーストさんが居なければ不戦勝とします」


ふっかけてきたな。

バロウズの端から端まで仕切っている【需傭協会(Weak.enD)】は24時間でゴーストを抑えるつもりだろうが……。


それも計画の内なんだよなぁ。


「もちろんよ。余興として24時間、隠れんぼとしましょう。ゴーストに触れる事が出来たならゴーストはこの大聖堂に出頭。あたし達【夜明けの月】の負けよ」


盛り上がる信徒達。

不審に思っても、もう流されるしかないフォースクエア。


「スタートは10分後。そのくらいのハンデはくれるわよね?」


「……ええ。構いませんよ。どうせペナルティは絶対です。どうしたってゴーストさんはバロウズから出られません」


「よくってよ。じゃあまた24時間後」


それだけ告げて、悠々と大聖堂を去る。


……と、同時に。外で待っていたジョージと"ぷてら弐号"の屋台車に乗り込み出立。


「……もういいわよね? もういいわよね?」


「よぉしいいぞ。よく頑張ったぞマスター」


人見知りは健在。だが頑張ったもんだ。

フォースクエアがちゃんと怖いから信徒の方を煽っていたあたり、強気と弱気を上手い事使い分けているのが凄いよな。


「んでマスター。これからどうするんだ?」


「あたし達はゲートを封じられる前に61階層に行くわ。或いは62階層でもいいわね。ログハウスなら安全だし、いい感じの所で籠城よ」


「ゴーストさんはどうするんですか? "敵対行動ペナルティ"受けてバロウズから出られなくなってしまいましたけれど……」


「だからゴーストに頼んだのよ。

ゴースト。転移ゲートの目の前で"廃棄口"に逃げなさい。転移ゲート前なら24時間後に連中に張られてても普通に61階層に来れるでしょ」


"廃棄口"は……階層じゃないな。全ての階層から外へ繋がる空間であって、ならば"敵対行動ペナルティ"には該当しないと。

……やっぱり悪用できちゃうな、コレ。


「yes:お任せ下さいマスター」


「んじゃ、さっさと逃げるわよ。【アルカトラズ】に【ギルド決闘】の申請しないといけないし」


「そうそれそれ。どうしてわざわざ【ギルド決闘】まで話を大きくしたんだ。ぶっちゃけ不利だぞー。相手はセカンドランカーもトップランカーもごろごろいるんだから」


「ライズ。宗教って怖いのよ」


……ご存知ではある。ジョージに散々聞かされたし。


「お姉ちゃんの発明もあって出来ることが増えた現代、人間はかなり全知全能に近付いていたわ。そこから逆に増えてしまったのが宗教よ。自由の反動で不自由を強いられる事が栄えるなんて馬鹿らしいけれどね」


「単体での判断能力の低下、あるいは現代に残された"未知の神秘"という魅力。本当に宗教は多かったよ。最大規模の詐欺宗教が潰れた事による無法地帯化も絡んではいたけどね。

メアリー君が懸念しているのは、悪徳宗教特有の……理不尽な執着ってところかな?」


「そうよ。ここで見逃してもずっと付き纏われちゃ面倒。【アルカトラズ】があるからって皆が皆投獄される訳でもないし。……ドロシー。一度見て、どうだった?」


「はい。なんというか、()()()()()()です。人格が混ざっていて、同じ方向を向いているだけみたいな……同一体に複数の人格というと、バーナードさんと似た印象です。

明確なのはライズさんに対する敵意と……方向性の定まらない悪意。見ていて気分の良いものではなかったです」


……ドロシーにフォースクエアを見せるのは一種の賭けだ。言葉で洗脳する奴の脳内とか、感受性豊か過ぎるドロシーにどう影響するかわからないからな。


「自我人格の洗脳改造と見ていいと思うな。やはり正体は……」


「あと、恐らくですけれど……フォースクエアさん自身には、人を洗脳するほどの力はなさそうです。複数人格も……なんというか、そこまで強そうでは無いです」


「……まぁ、割と感情剥き出しだったしなアイツ。潰しておくに越した事はないか」


【ギルド決闘】に敗北したとして、信徒は"【夜明けの月】に勝った"という結果を得る。そのまますごすごと逃げた【夜明けの月】に追撃をかける理由が無くなる。

詰まるところが、勝っても負けてもちょっかいを出される事は無くなる訳だ。かしこい。


「……じゃあそろそろ確認するわね。リンリン」


「はっ、はい」


今回の一連の騒動はここから始まった。

ここを確認しないとどうにもならないもんな。




「ミカンが襲われた事。どこから教えられたの?」




──◇──




──【需傭協会(Weak.enD)】本部大聖堂


内通者がいますね。

ミカンの襲撃それ自体は特秘してはいませんが、【夜明けの月】の監視からはミカンや元祭祀長の合流報告は一回だけ。酒場にてライズとブックカバーの接触のみです。リンリンとは誰も会っていない筈。

ならば……あいつでしょう。


「ホーリー様! 【夜明けの月】が61階層へ」


「一応後を尾けなさい。ただしそちらは最小限。本命はゴーストです」


「それが連中、転移ゲートをくぐる直前に煙幕を。ゴーストを見失いました」


「……では地下道を含め、監視の目を広げて下さい。前回は地下道で辛酸を舐めさせられましたから」


「はっ」


……ペナルティは絶対。61階層から出てはいない筈。

それはそれとして、私も次の手を打たなくては。




「……【需傭協会(Weak.enD)】新教祖様。お話、よろしくて?」




……嫌な客ばかりだ。


「何用ですか……カズハさん」


「少しお話しないかしら。ホーリーを良く知る者として」


ああ、魅力的なお誘いだ。

罠だとわかっていても、その言葉には逆らえない。


「……だが。私達の復讐は止まらない。【需傭協会(Weak.enD)】はライズを許さない」


「ホーリーは望んでいないわ。あの人の【需傭協会(Weak.enD)】をこれ以上壊さないで」


望んでいない?


なにを。


なにをふざけたことを。


「お帰りください。貴女だけは手を出せない」


「帰らないわ。貴方からすれば蚊帳の外の女かもしれないけれど、私にとってもホーリーは大切な──」


蚊帳の外だと?


「ふざけるな」


二刀携えて来ている以上は、最悪戦闘での説得も考慮の内なんだろうな。

受けて立ってやる。

守られるだけの愚かな女が!


「お前は。私達が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

私達に正義は無い。私達に光は無い!

お前だけは、全てを知ってはならないというだけの話だったのに!

()()()()()()()()()()! お前は!」


魔物召喚。こうなればもう良い。

私はホーリー様にはなれない。心を抑えられないから。


──黒の水晶。"エターナルメモリー"亜種、レアエネミー"ナイトメアライブラリー"。




私は洗脳できない。




私に出来る事は──ホーリーの過去を見せるだけ。




「我々は。

ホーリーの苦悩を知り、ホーリーの悪意を知り、ホーリーの優しさを知った!

その思いに答えて、やり場のない怒りを!

ホーリーに捧げるために集まったんだ!」


「そんな……これ、は……!」


思い知れカズハ。

お前が何も知らずに笑顔で接してきたホーリーが、どれだけ苦悩していたか。

彼の苦悩を知るのはお前ではなく、我々だった!


思い知れ、思い知れ!






──旨そうな悪意だ。






ひたりと、背筋が凍りつく。


世界が止まっている。そう感じるほどの、圧。




──前々から気になってはいたのだが。あの腑抜けが煩くてなぁ。




炎の亡霊。

その巨躯。それは──竜。

なぜ、なぜここに──




──喜べ。その悪意が、その悲しみが、この我を突き動かした。


──たった一度しかできぬ故に待ち焦がれておった。


──ここで使おう。貴様ならば悪くない。




「危ない、()()()!」




迫り来る炎。

動けない()を突き飛ばしたのは──カズハ。


「や、やめろ!」


カズハに、炎に手を伸ばすが──




──何をしている愚物。


──()()()()()()()




俺は。


俺は、どこまでいっても。


何にも、なれなかった。




太陽はカズハの身を包み込む。

それはまるで──神のように美しく。

俺は、またしても神を信じてしまった。




──我が名は


──永遠の追憶


──"エルダー・ワン"




「……そうなのね。わかったわ」




燃える焔は消え失せて。


1人残ったカズハは、俺を見る。




「ごめんなさい。ありがとう。

最後になるけれど、私も連れて行って?」




頷くしか、ない。


俺に特別な何かなんて、無いのだから。


〜外伝:孤独の晩餐7〜

《【聖隷會】》


【第10階層 大樹都市ドーラン】


ナツです。【祝福の花束】ドーラン支部支部長で、【アルカトラズ】"拿捕"の輩 第10特務部隊隊長です。

本日は"土落"の片隅からお届けします。


本日我々【祝福の花束】ドーラン支部は、とあるギルドに訪問します。

その名も【聖隷會】。純正ヒーラーの攻略ギルドで、少し……いや相当過激な方々。投獄されたある人を解放すべく啓蒙活動をしたり、純正ヒーラー以外を認めない!と時には暴力沙汰にもなってしまう危険なギルドです。


彼らもまた【ギルド決闘】に参加していて、目的を果たすために先の階層へ進もうとしている最中。しかしまだここにいるあたり、上手く行ってはなさそうです。


"土落"の奥地も奥地、大樹の根に隠れるような場所にあるテント。意外とご近所さんでした。

意を決して、声をかけてみると──




「やあやあ純正ヒーラーのナツさん! よくいらっしゃいました!」

「ようこそようこそ!どうぞどうぞ!」


「あ、このままで大丈夫です……」


すごい歓迎されてしまいました。こわい。

ユグさんは相変わらず物怖じせず、【聖隷會】を物色しています。やめなさい。


「あの、色々と……良くない事を、しているとか」


「……まあそうですね! "良くない事"でしょう!」

「私達の意地ですからね。これはね!」

「これでも実力行使は控えています。最近は」


……あ、あれぇ?

なんというか、理性的です。勿論悪い事はしているんですが。


「しかし我々には目的があります。即ち【アルカトラズ】監獄の解放!」

「不当に投獄された彼を救わなくてはならないのです!」

「そうだそうだ!」


「彼って誰ー?」


「即ち崇高なるヒーラーの頂点、【需傭協会(Weak.enD)】のホーリー様です!」

「ホーリー様は全てのヒーラーを救おうとした正義のお方!」

「しかしサブジョブなるものが生まれ、彼は投獄されてしまった」

「あのお方が捕まるなんて間違っている!!!!」


しっかり話を聞いてくれない。これは噂通りですね。

悪い事は自覚していて、それでも目的のために動く厄介なタイプです。困りました。




「ねぇ、なんでその崇高なホーリー様に罪を被せるの?」




ピタリ。

ユグさんの発言で、時が止まる。


「悪い事をしてるけど、ホーリー様?を助けるため、なんだよね?

ホーリー様を助けたいから悪さをしてるんだよね?

ホーリー様のせいで悪さをしてるんだよね?」


「──殺れ」


問答の暇も無く。

ユグさんの胸に剣が突き立てられる。


「ユグさん!」


「ナツさんは動きませぬよう。この者は我々が教育をします」


ユグさんに突き立てた剣を──引き抜けない。

そのままズブズブと、剣がユグさんに呑まれていく。


「なっ……」


「なんで剣を使ったの?

ヒーラーって剣を使うの?

純正ヒーラーって剣使いなの?」


「っ、うるさい!」


手元までユグさんに呑まれた人の肩に、ユグさんの手が乗る。

目を逸らさない程の近距離で、ユグさんが問い詰める。


「自分の悪事を誰かのせいにしたいだけなの?

立派な人の真似だと心が持たないから、犯罪者を崇めるようにしたんだね?

普通が怖いのに、自分はどうしても普通だってわかるんだよね?」


「……し、知ったような口を!」


「知らないよ。

誰も君達の事なんて知ってくれないよ。

君達が誰の事も知ろうとしないからね」


攻撃の通らない恐怖と、淡々とした正論。

【聖隷會】のみなさんは、やがて何をするでもなく、膝を付いて座ってしまいました。


「えっと……嫌われる事さえしなければ、毎日"普通"に過ごすだけでも……そのうち誰かに必要とされる事にはなると、思います。

私も、なんの取り柄もないけれど……毎日を一生懸命に生きていただけで、こうやってお仕事を貰っていますから。

行きましょう、ユグさん」


「はーい。デートの続きしよう!」


怖すぎるのでそのまま退散。

ユグさんのお腹の剣は……次の日の朝、ベッドから見つかりました。怖すぎる。




──◇──




──翌日

【祝福の花束】ドーラン支部


「今後はユグ様を信仰します!!!!!」


「帰ってぇ……」


「いいよ! 全員私の子分ね!」


「「「「イエッサー!!!!」」」」


「帰ってぇ……」




※【聖隷會】6名が【祝福の花束】ドーラン支部に加入しました!

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