148.旅立ち:亀は虐めるし案内もさせる
【第51階層オーシャン:常夏のビーチ】
「そういう訳で、今回の協力者はこちらのお二人」
「元セカンドランカー【鼠花火】のリューゲよ。ライズさんとは個人的に仲良くさせてもらってます。どうぞよしなに」
「メンチラでス! えーっと……元人売り業者で今は日陰者でス!」
「こらこらメンチラちゃん。それじゃ今も昔も日陰者でしょ」
「おおっとそうでしたタ! ハハハハハ!」
「……どこで拾ってきたのよこの人達」
「日陰」
「……でしょうね」
うん。癖が強いなぁ。
─────────
パーティ 10/10 ▼[レベル順]
【ラピシュ:クローバー:150】
【フォート: リンリン:128】
【スイッチ: ライズ:115】
【聖騎士 : リューゲ:112】
【リベンジ: ゴースト:100】
【マーメイ: メンチラ: 98】
【エリアル: メアリー: 96】
【仙人 : アイコ: 95】
【サテライ: ドロシー: 95】
【ビースト: ジョージ: 95】
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「出発の前に! このギルドのライダー担当はどちら様様ですカ?」
「俺だよ。ジョージです。どうかしたかなメンチラ君」
「ほわぁぁ可愛いでス! ……このギルドの使役動物の管理はジョージ様様が?」
「そうだね。俺直営の"まりも壱号"と"ぷてら弐号"、クローバー君の"スメラギ"の三騎を面倒見ているよ」
「ふム……【ビーストテイマー】なら直属使役魔物の最低数は3体。ではここであと一体捕獲しましょウ!」
「ほう。その心は」
「オーシャン階層は殆ど海中でス。無論魔物に頼らずとも移動は可能ですガ、ギルドの運搬係ならば水中水上移動の手段が必要でス!」
「海水ステージでは"まりも壱号"も泳げない。道理だね。ライズ君、この辺りのレアエネミーは?」
「うーん……次の階層に良い感じの奴がいるからそれ狙ってみるか」
「……なにゆえレアエネミーなのでス?」
「【夜明けの月】に常識は通じないようですね。手強いですよメンチラ。インパクトを刻んでいきましょう」
「どこを目指しているんでスかリューゲは……」
──◇──
砂浜を滑走する"まりも壱号"と屋台車。
アクアラの目標レベルは95。目標は全員達しているけど、かなりガッツリとデスマーチをする予定らしい。
「レベル制限の話はしたな。レベル100を突破するにはレベル上限解放クエストを受けなくちゃならないが……それは70階層に行かないと無理だ。そしてこれから向かう60階層の最終的な魔物レベルは105。つまるところが基本的に格上と戦わなくてはならない。全ての野生の魔物がボスエネミーやレアエネミー級の強さに感じると思う。61階層の時点でレアエネミーなら100レベルを超えてるぐらいだ。
よって可能な限りここで鍛えておく。下は98か99ぐらいまでならオーシャン突破に間に合うはずだ。気合い入れていけよ」
「100レベル突破できないのに周りは100レベル超えてるわけ? 理不尽じゃない?」
「そう。だからレベル上限突破はアクアラかバロウズにあると踏んでいたんだが、まさかヒガルにあるなんて誰も思わなかった。発見者の俺だって、全然違う事をしてた時に偶然見つけただけだ。
……今の最前線は魔物のレベルが150を超えたと言っているが、もしかしたら次の拠点階層に自力で辿り着かないと見つからないかもしれないんだ。150レベルの上限解放クエストは」
ライズがやたらレベル上限解放に積極的じゃないのはそれもあるのかしらね。普通にトップランカーが自力で見つける可能性もあるって事ね。
「か、階層攻略の冒険者はここから一気に数が減ります。過酷な環境の60階層、セカンドの入り口であり最初の関門70階層の二重構造で攻略を諦める人も少なくありません……」
「まぁ当時の【三日月】が3人で突破できたくらいだ。今のお前らなら問題無いが……一体あたりの所要討伐時間が伸びるって事はレベル上げのペースが下がるって事だ。レベルはさっさと100にして、すぐ通り抜けてレベル上限解放を優先するぞ」
アクアラで出会った人が結構な割合でセカンドランカー以上だったけど、少し納得。
セカンドに辿り着くまでアクアラから見て30階層分。ここにいる冒険者自体が少ないって訳ね。
「今日は32階層で魔物捕まえて時間いっぱいデスマーチだ。海中ステージは明日からになるから覚悟しとけよ」
「はーい」
……今更だけれど、デスマーチでも水着なの違和感あるわね。ゲームだから着崩れたりしないけどさ。
──◇──
【第52階層オーシャン:岩礁のスパイク】
──────
海の入り口、陸の防衛戦線。
海を裂く岩山は美しき浜辺を守る番人。
即ちこれよりは荒々しき魔の世界。
足を滑らす事なかれ。
──────
防波堤のように並ぶ岩山。
これまでのビーチと違い、力強く波が打ち付けられている。
「──出た! 誰も該当クエスト受けてないな?」
「問題なし。完全に天然物よ! やっちゃえジョージ!」
現れるは大亀。背中に張り付いた貝達が青く光り──高速回転しながら巨体が飛来する。
飛ぶ亀はダメでしょ!
──【スキャン情報】──
《バリアシェルターボ》
LV102
※レアエネミー
弱点:打
耐性:水/火/風/斬
無効:水
吸収:水
text:
海の走り屋"エアシェルターボ"の変異種。
ただサイズが大きいだけだが、背中で共存する"エアシェル"の数が多くなる事によってエアターボの速度・持続力が大幅に上昇。本来は緊急回避にしか使えない回転飛行を常に使えるようになった。
甲羅に篭っている間は全てのダメージを半減し、カウンターの熱戦を手足頭の穴から放つ事が可能。
手足頭の穴に攻撃するか、甲羅に打撃攻撃を与えると甲羅から出てくる。
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回転飛行する巨大亀。どうやらアレに打撃を加えないといけないみたいだけど──
「【建築】──上を取った。【紫呪竜の髭鞭】装備完了」
瓦礫を作っては飛び乗り、太陽を背にするまで高く翔び、飛行する大亀の回転をものともせず──その拳が甲羅の中心を狙う。
「元より鞭は打撃武器。まずは当たりやすい所まで落ちてもらおうか」
打撃を受けて手足頭が出た大亀はそのまま落下。悲しいかな、打撃が弱点ならジョージに勝てる訳が無いのよね。
大亀が目にしたのは──修羅の拳。
「いざ──」
【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】【調教:失敗】──────
──◇──
【調教:成功!】
「おっ。意外にもかかってしまったな。すまないね皆」
「あ、終わった?」
ドン引きするメンチラ、感心するリューゲ。慣れたものだからノーリアクションのメアリー。
もう当然のように三体目のレアエネミー。普通10人を引っ張るなら二体くらい魔物が欲しいところだが、それを一体で補えるって考えたら得ではある。他の奴に真似できるかと言われるとまあうん。
「"うらしま参号"だ。これしかない」
うーん妥当なネーミングセンス。とても良い。
"バリアシェルターボ"は出現率がそれなりに高いものの、ほぼ常時無敵なので倒しにくい事から厄介者扱いされている。今回はジョージが相性良すぎただけで。
「じゃあ手伝ってジョージ! 魔物多すぎるわよ!」
「とは言っても"イエティ王奪還戦"ほどじゃないだろ。いけるいける」
「鬼ぃ!」
ジョージと言えばその戦闘スタイルにも変化がある。これまでは【ビーストテイマー】としての能力は一切戦闘に活かす事は無く、高速立体機動アタッカーとして独自の進化を進んでいたが……。
ジョージ単体では絶対に出来ない事が、ジョブの力を使えば可能になる。
「いざ──【建築】!」
空中に足場を作り、天高く飛翔するジョージ。
現在メアリーとメンチラが岩の魔物"シーサイドグレイブ"に囲まれているが──その上空で、ジョージは両手を広げる。
「来い……"うらしま参号"!」
ライダー系列お得意の魔物召喚。
だが呼び出されるはレアエネミーの巨体。回転のオマケ付きだ。
「ちょ──【チェンジ】!」
"うらしま参号"の押し潰しを間一髪回避したメアリーの空間転移。ちゃんとメンチラも助けてやっている。
……そう。手っ取り早く面制圧が可能な広範囲質量攻撃。軽量化してしまったジョージには、いや元より人間一人分の質量しか持たない以上は出来ない芸当だ。
サバンナ階層のレイドボス祭りの時は"まりも壱号"をミドガルズオルムに突貫させて隙を作ったが、やはり分かりやすくデカい質量を呼び出せるというのは強みだな。
「あっぶないわねジョージ!」
「随分スムーズに転移できるようになったね。流石は俺たちのマスターだ」
「褒められるのは悪くないけどね──【チェンジ】!」
戦術といえばメアリー。今度の狙いはもう一体現れた"バリアシェルターボ"か。
ブックカバーと長く師事してきたメアリーは、普段ポーターとして活躍する事が多いから忘れがちだが……実はゴリゴリの高火力アタッカーだ。
「最初は派手に! 【テンタクルフリーズ】!」
上空へと転移したメアリーが放つ10本の氷脚。本来は正面方向へ氷の鞭を放つ上級魔法だが、直前で【チェンジ】転移によって自分の方向を下へ向ける事で、さながらカゴのように敵を包囲する。
──初撃は派手に、しかし二手目の布石となるように。ブックカバーが【テンペスト】で二手目を隠すのと同じ手法だ。
氷の檻に囚われた巨亀は上方を見上げる。
だがその瞳に映るは氷の雨。
【アイスショット】の派生強化、【アイシクルランチャー】だ。
すっかり守る方向へシフトした"バリアシェルターボ"。
だがメアリーは【チェンジ】で既に地上に降り──
「──魔力充填89%……93%……やっとキタ!100%!」
黄金の光がメアリーの腰に一直線に集まる。
それをまるで刀のように握り、構える。
その構えにはサティスのような美しさは無く。
素人丸出しの、過剰に前傾な──
俺のような、構えで。
「最上級魔法──【次元断】!」
【エリアルーラー】専用の超火力無属性魔法。
全ての防御を無視する、空間の断絶。
詠唱時間も必要魔力も隙も威力も大味全開のバカ技。
それを受けた"バリアシェルターボ"は──
──甲羅に篭っていたので、無傷だった。
「まだ火力足りなーい!」
返す尾に払われ吹っ飛ぶメアリー。
……締まらないなぁ俺達のマスターは。
〜【夜明けの月】実は最近……〜
・ライズ
実は最近、部屋の掃除を始めた。
各階層デスマーチの協力者が倉庫のラインナップにドン引きし「お前の部屋にもっと色々あるんじゃないか」と言われたので、深淵と化した1号室を整理する事にした。
翌日何故か部屋の私物が増殖した。1号室は封鎖された。
・メアリー
実は最近、ちょっぴり素直になった。
というかライズとか周りが甘やかしすぎていると自覚した。シギラと友達になった事で、素直さというか自由奔放さが移った……のかもしれない。
アクアラでは思ったよりライズと離れるのが寂しかったが、流石にそれを堂々と伝えられる度胸はまだない。
・ゴースト
実は最近、よく1人になる。
かつてはメアリーにべったりだったが、メアリーの指示を受け色んな人と接点を持つよう、自由時間に散歩をする。
ただ一人だと無意識に"廃棄口"に落ちてしまい、結果的に記憶を失って戻ってくるのであまり成果が無かった。
"廃棄口"自覚後は、こっそり【アルカトラズ】の面々とお話したりしている。
・アイコ
実は最近、冒険者の相談所になってる。
"イエティ防衛戦"の待機時に他の冒険者の相談を聞いていた事から発展し、各拠点階層で冒険者からの相談を聞く機会が増えた。
アイコは相談者を他人に言いふらしたりしないが、実はトップランカーやら【月面飛行】のギルドマスターやら、色んな重役と連絡先を交換していたりする。メールでの相談も受付中。
・ドロシー
実は最近、狙撃の腕が上がっている。
ジョージとクローバーによる鍛錬の結果、狙撃能力が急上昇。"理解"無くとも2〜300mなら確実に撃てる他、"神の奇跡"有効射程も500mから700mまで伸びている。
現代日本において狙撃の腕があるような人が偶然二人もいたという事がおかしいのだが。
・ジョージ
実は最近、オシャレに興味が出てきた。
女児化当初から今までずっと内面に変わりはないが、"少なくとも外見は女児"である事の自覚がなんとなく芽生えてきた。多分アイコ達女性陣に散々着せ替え人形にされたから。
といっても派手なものではなく、ちょっとしたアクセサリーを付けてみようとしたりする程度の奥ゆかしいもの。そして戦闘になると邪魔なので全て取り外す。
・クローバー
実は最近、新しい戦術を開拓中。
クリティカル戦術は記憶封印中の発明なので、今の視点でより良い戦術は無いから模索中。ただ"クローバーの戦術"として周りにアピールする事が戦術的優位に立てるので、開拓中であることは内緒にしている。
ジョージとアイコとの組み手や鍛錬で、物や壁を乗り継ぐ空中移動は可能になった。ゲーマーの勘でどんどん人間離れしていく。
・リンリン
実は最近、鎧を脱ぐ事が多い。
加入段階ではほぼ常時鎧に隠れていたが、メアリーの息抜きに付き合う度に脱がされてきたので慣れてきた。少なくともアクアラで水着になる事はできた。
……やや露出狂の気が出てきたのかもしれない。




