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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
城下町アドレ/ウィード階層
14/507

14.はじめまして【ギルド決闘】

朝。

【第6階層ウィード:枯れ木野原】


眼前に広がるは枯れ果てた大地。

干上がった地面、水気の感じない枯れ木。

魔物のサイズもこれまでより大きいものが多い。そこかしこを高速スライド移動するスベスベカタツムリに轢かれる冒険者が絶えない。


「で、なんでこんなところにいるんだお前ら」


待ち構えるは大男と20名程度の集団。

事前にお話した【草原の牙】だ。


「お前らは第9階層あたりにいるって聞いてたが?」


「むぅん。ウィード階層ならば我々に一日の長あり。貴様らがウィードに足を踏み入れてからはこちらの斥候が偵察しておったわ」


へい兄貴!とアピールするのは赤モヒカン。なんかちょいちょい近くにいたなぁ。あれ隠れてるつもりだったのか。


「ちょっとライズ。誰?」


俺の後ろのゴーストの影に隠れるメアリー。人見知り発揮してるなぁ。


「あー、うん。こちら飛び入りゲストの【草原の牙】の方々です。元気な声で挨拶をどうぞ」


「うむ。我々こそがこのウィード階層を統べる者。即ち畏怖の象徴!【草原の牙】だ! なぁお前らァ!」


「うおおおおおおお!」

「舐めんなぁぁぁぁ!」

「女ァ!女だァァ!」

「ヒャッハァァァ!!」


「ひえっ」


世紀末違法ギルドによる元気な挨拶に萎縮するメアリー。

……メアリーは基本高圧的イケイケJK気取ってるけど、キャパオーバーしたら一気に陰キャ根暗幼女化するな。


「悪い。ちょっと音量下げてくれ」


「うむ。悪かった。抑えろお前ら」


「ごめんね?」

「飴舐める?」

「いきなり殴ったりしないから出ておいでー」

「ヒャッハァ。」


物分かりの良いギルドだなぁ。

少しメアリーも落ち着いたようなので、進行。


「こいつらは【ギルド決闘】の練習のために来て頂きました」


「なんか見た目凄い悪い人に見えるんだけど見かけに寄らないタイプ?」


「いやガチガチに犯罪集団ではある。通りかかる冒険者に喧嘩を売って生計立ててんだよな?」


「うむ。割と日常茶飯事」


「素直に犯罪者!」


また引っ込んだ。




──◇──




数分後。


「じゃあ【ギルド決闘】のルールを決めるか」


メアリーとベルグリン、双方のギルドマスターが向かい合う。


「search:【ギルド決闘】では参加するギルドのギルドマスター全員が合意し開始されます。宣誓を」


「【草原の牙】GM(ギルドマスター)ベルグリンである。【夜明けの月】へ【ギルド決闘】を申し込む!」


「【夜明けの月】GM(ギルドマスター)メアリーよ。その決闘を受けるわ」


これでいいの? と横目でこっちを見るメアリー。

返事をするまでもなく、光の扉が現れる。


──受理致しました。審判を派兵します──


扉が開くと、そこにいたのは灰色の女性。

灰色の法衣に身を包み、白の髪を靡かせる。

瞼は閉じたその瞳を隠し、ニコリと微笑み一度頭を下げる。

シンメトリーな服装に反して、金と銀のタイツだけが左右のバランスを崩しているが……。

お淑やかな女性。そんな印象を受けた。会った事は無いが、どこか見覚えのある人だ。


「……【アルカトラズ】《審理》の(ともがら) 灰の槌のスレーティーと申します。どうぞ宜しくお願いします」


ざわざわと、困惑、或いは疑念のざわめきが起きる。メアリーはちょっとわかってない様だが……。


「ララララライズ! 謀ったか!? 我らを【アルカトラズ】に引き渡すつもりか!」


めちゃくちゃ同様しながらも真っ先に自分のギルドメンバーを手で制して前に出るベルグリン。

ちゃんとリーダーやってんな。ともかく。


「俺も予想外だ。審判は【アルカトラズ】樹立前からあったろ。顔の無い天使が来ていたはずだ」


「はい。我々【アルカトラズ】はアドレ王国に認可を頂き、階層攻略を放棄する代償を負って幾つかの特権を天与されました。その特権は元々あったシステムを土台にしたものです。

私は【ギルド決闘】の審判《審理》の輩の頭目となる特権を授与しました。私自身が審判を務める事は何もおかしい事ではありません。

……初めてなので、驚かせてしまった事は謝りますが」


申し訳なさそうに微笑むスレーティー。


……白き劔のブラン、灰の槌のスレーティー。

【アルカトラズ】の役割は、元より存在していた機関の強化延長線上にあるという事。

即ち《拿捕》の輩──アドレ王国の警備特務部隊を、対冒険者用に改造したもの。

即ち《審理》の輩──公平、あるいは判断を決するための槌を振る審判員をそのまま流用したもの。

あとは《禁獄》の輩──どこの階層にも属さない監獄に、《審理》にて投獄が決された悪を収容するもの。


ぶっちゃけ普通の冒険者は良くて白き劔(ブラン)くらいしか出会う機会は無い。俺だって黒色にはまだ出会った事が無い。

てかどこか見た事あるってブランだ。抜群のプロポーションと、おっとりとした外見に反して高身長なところもそっくりだ。


……アドレ王国に認められた、という所が今の俺には引っかかる。


「なぁスレーティーさん。心配しなくてもメアリーはちゃんと守るぞ」


笑顔のまま、スレーティーは一切微塵も動かない。

カマをかけたんだがハズレか? 恥ずかしっ。


「秘匿は必須スキルです。少しでも情報が欲しいというなら、オフの日にデートでも如何ですか?」


──見透かされてる。


「そっか。裁判官様だもんな。秘匿は──」


「いいえ、《審理》ではなく女としての必須スキルです」


こいつは困った。勝てない。

大人しくしてよう。薮を突いてマシンガン出てきて蜂の巣にされる。


「……なぁライズ。大丈夫なのかぁ?」


「あ、大丈夫大丈夫ベルグリン。普通の【ギルド決闘】と変わらず審判してくれるってさ」


「もしあなた達に罪があったとして、私が裁くのは《拿捕》の輩に連行された者だけです。ご安心を」


ベルグリンとメアリーが仲良く一歩引いてるのが面白い。

ともあれ再開だ。


【ギルド決闘】を開始する宣言を行った。

審判を召喚した。

後はルールの制定だ。


「ギルドマスターはメアリーだが、まだ不慣れなもんで。サブマスターである俺、ライズもルール制定に参加させて頂きたい」


「相手ギルドの承認があれば可能です」


「【草原の牙】は受理する。元よりライズの提案した決闘だ」


「では《審理》の輩の名の下に承認致します。参加人数は?」


「【夜明けの月】は俺を除く2名」


「【草原の牙】は全員参加20名でいいか?」


メアリーが驚いている。どっちに驚いてるのかわからんけど、そういう約束だからね。


「人数が不公平では?」


「最高レベル差がある。こっちはゴーストがレベル99、あっちはベルグリンがレベル30だ。人数を平等にすると戦力が平等にならない」


「こちらとしては4名までなら削ってもいい」


「いや、全員で構わない」


「……双方の合意を確認しました。参加人数は20対2にて承認。ステージを制定します」


トントン拍子で進む中、メアリーはおろおろしている。

しっかりしたまえ。


「ステージは基本的な【決闘】同様、現地で良いのでは? この階層も平坦で非常に闘いやすい」


「ウチは障害物があった方がいいが、まぁ構わない。その代わりに敗北条件は各自リーダーの敗北にしたい」


「構わん。あ、いや待て。そっちのリーダーは……」


「勿論こっちのメアリーな。ここでレベル99(ゴースト)をリーダーにするほど非道じゃないって」


「おぉう……こっちが有利すぎて不安になるな。兎角。我らは当然、俺がリーダーを務める」


「ステージは現地、直径50mとします。勝利条件はリーダーの敗北。承認します。勝利報酬は設定しますか?」


そういえばこっちの報酬の事決めてなかったな。


「無論。【草原の牙】が勝利したなら、貰うぞ。アドレのギルドハウスを!」


「なにそれ知らないんだけど」


「あっちの人達のギャラだよ。払うつもりないけど」


「出演料くらいはあげなさいよ」


通報無しで見逃してやるのが報酬でもあるから、向こうも納得してるけどな。


「報酬ね。こっちは別にいらないなぁ」


「との事だが、審判殿?」


「うーん……【ギルド決闘】の報酬は絶対なので、そこを悪用した土地権利の違法委託とも取れてしまいますね。【草原の牙】側に有利すぎます」


おお、そういう事。それは問題だな。


「メアリー。何か欲しいものあるか?」


「えー。胃薬とか持ってない?」


「えぇ!? 何だってぇ? 自分の指示に命をかけて従う従順な下僕が欲しいってぇ!?」


「言ってない!」


「むぅん。妥当。よかろう」

「受理しました」


「しないで!」


メアリーが元気になってくれて何より。

まぁ傘下ギルドって事にすればいいよな。


「では5分後に開始します。各位準備をお願いします」


スレーティーのアナウンスに従い、一度【草原の牙】と距離を取る。作戦会議といくか。


「ライズ。何も聞いてないんだけど」


お、半泣きの子犬が噛みついてくる。かわいいかわいい。


「時間が無いぞ。作戦会議だ」


「アンタほんと覚えとけよ……で、20対2ってどうなのよ!」


「まぁ聞け。俺達はこれから常に不利な条件で進まなくちゃならなくなる。今回のスレーティーさんの見てわかったろ。《審理》の連中ができる限り平等にしようとしてくるから【ギルド決闘】は基本的に受けた側、強い側が不利になる」


だから相当な好条件を提示するか、何らかのデメリットを負うか、あるいは両方が必要。今回はその練習だ。


「不利とはいえ勝てない試合はしないぞ俺は。お前とゴーストなら勝てるって思ってるからやったんだ」


「んー……わかったわ。具体的にはどうすんのよ」


「逆にこっちが20人ならどうするか、だ。その辺はお前が考えた方がいいと思う」


「あたしだってアンタよりあたしの方が頭良いって知ってるわよ。でも事前準備ならアンタの方が徹底的だから、教えなさいって言ってんのよ」


……ちょっと予想外すぎる返しが来てビビった。

これはなかなか良いリーダーになるな。


「わかった。相手の戦術とかは教えないから自力で見抜いてみな。3つだけ手伝ってやる。

一つめは装備な。メアリーは本気用の杖を必ず持つ事。ゴーストにはこれをプレゼント」


手渡したのは、紫と緑の髑髏のブローチ。


「なにこれ」


「action:【独創的な死の髑髏】装備しました」


「なんか物騒な名前してる! そしてもう装備してる! 外しなさいゴースト!」


「それ呪いのアクセサリーだから外せないぞ」


「何してんのアンタ!」


呪いも使いようってもんだ。装備早すぎとは思ったが。


「防御力が大幅に下がるが、魔法攻撃力が上がる。そんだけ」


「大幅ってどのくらいよ」


「今のゴーストで言うなら、3〜4人に囲まれて殴られたら流石に死ぬかなってくらいかな」


「相手20人いるんですけど!」


はっはっは。がんばれ。


「二つめはアドバイス。開始直後は動かない方がいいぞ。無駄だから」


「なんで。距離取った方がいいんじゃないの?」


「教えなーい」


「こいつ」


脛を蹴られる。いたいいたい。


「3つめは情報。ベルグリンは両手剣使いで、遠距離攻撃のスキルを持ってない。ここまでは割と有名な情報だ」


ちょっと引っ掛けヒントだが、メアリーならわかるだろ。


「両手剣使いと言っても、両手剣を両手に持つ()()()()()()。《二ツ牙のベルグリン》なんて異名まである」


「そんな事できるの?」


「できるから強いんだろ。ちなみに俺には不可能だ」


「どっちなのよ」


「普通ムリ。だが違反はしていない。そんなとこだな」


俺が教えるのはここまで。

メアリーは反論もそこそこに、頭の中で作戦を立てているようだ。ゴーストと一緒にこそこそ話し始めた。


……メアリーが果たして世界征服を成し遂げ得る力を持っているのか、ここで見ておきたいのも事実だ。

魅せてほしいもんだな。




──◇──




「時間です。【ギルド決闘】を開始します」


スレーティーさんの合図で、【草原の牙】とあたし達が向き合う。人数差にやっぱり圧倒される……。


ライズはスレーティーさんと一緒に範囲外へ避難している。あいつマジで後で覚えてろよ。


……ちゃんと立てた約束通りに行けばいい。大丈夫。




「では……始め!」


──決闘開始のブザーが鳴り響く。


「ゴースト! まずは……」

「──《鉄籠》!」


あたしの指示より早く、ベルグリンの号令。

向こうの前衛が返事をして、左右に散らばり──あたし達を回り込むように展開した。


「っ……直接は来ないのね。【アイスショット】!」


正面に陣取るベルグリンに、()()()()()()()()()()()()魔法を撃つ。前衛の盾持ちに防がれた。いまのあたしの火力じゃ倒せない。


周囲に展開しているのは10人。ローグかウォリアー、全員が前衛職。残りは後衛職? 弓矢を構えたり、杖を持っていたり。


「ほう? 魔法使いならばまずは退くが定石を狙う我らの陣形《鉄籠》を見抜いたか?」


取り囲まれると端的に言っても、その効果は大きい。

直径50mのバトルフィールド。距離を取りたい後衛職にとって、相手との距離は最長50m。

だが背後に回られた場合、最長距離は単純計算25m。この円はそれより狭い。ジリジリ詰め寄られていけば距離の確保ができない……!


ライズのアドバイスは、動いたところで回り込まれるからさっさと詠唱しろって話ね。失敗したけど!


「ゴースト! お願い!」


「certainly:action:スキル【襲牙】」


突進し双剣を突き立てるスキル【襲牙】。

狙う方向は勿論──ベルグリンと逆方向!

展開に1番遠い場所は敵の布陣の再展開に最も遠く、そして相手の後衛やベルグリンからも遠くになる!


「無理矢理突破か。なれば《鉄網》!」


1人を撃破し、ゴーストを追って後方へ逃げるあたし。

他の連中の追撃を警戒してたけど、布陣が変わったみたい。


今度は残る9人が横一列に並び、弓や銃を持った3人がその一歩後ろで増員されている。


……追って来た連中を範囲技で一網打尽にしたかったけど。統率取れてるわね。


「でも充分! ゴースト! 左右に別れるわよ!」


壁沿いに別れて走る。ゴーストは右へ、あたしは左へ。


「ぬ……ニワトリから左、残りは右に別れろ! ゴースト( (巨) )に厚く、メアリー( (貧) )には薄く!」


前衛4人、後衛1人がこっち。前衛5人、後衛2人がゴーストへ。

……なんかムカつく呼び方されてない?


ともかく、アタシは一度足を止める。


「詠唱か。奴は正面にしか魔法を撃てん! 壁沿いから離れ回り込め!」


そう。あたしは向きを変えずに魔法を詠唱する。


あたしの方より多くの人数がゴーストに向かうなら、最も中央に近い敵はバトルフィールドの真ん中を通ってゴーストを囲いに行っている。

あたしの担当の敵はあたしの正面に立てないから、バトルフィールド中央側へ回り込む。


──直線に多数の敵が並ぶなら!


「……待てお前ら! 散れ! ゴースト( (巨) )が近い! 」

「ゴースト!」


──蹴散らせ!




「action:スキル【リベンジブラスト】発動します」




──暗黒の光線が敵を滅ぼす!




──◇──




「スタートに躓いた時はどうかと思ったが、ちゃんとなんとかなったな」


決闘の範囲外で観戦する俺とスレーティーさん。

見事メアリーの策で敵は7人消し飛んだ。ゴースト側の残り5人も、ダメージを受けつつそのままゴーストが接近戦で蹴散らした。

……いや、ここまでほぼ指示無しでゴーストに最適行動させるのはヤバい。事前の情報ならって褒めてくれて調子に乗ってたけど、やっぱあの子天才じゃねーか。


まぁいい。とりあえず、ここで気になった事を消化しないとな。


「スレーティーさん。二人きりだし聞いていいか」


「情熱的なお誘いですね。ムードを考えられれば加点します」


「手厳しい。恋愛学は赤点なもので」


冗談を言い合うものの、あまりメアリーに目を離せないしさっさと進める。


「【アルカトラズ】結成前って何してました?」


「……冒険者でしたよ。一介の」


「よく会うからさ、情報屋にちょっと身辺捜査してもらってたんだよ。《拿捕》の輩、白き(つるぎ)のブランさんのさ。

 結果何もわからなかったんだよな。誰も覚えてないんだよ。ブランが【アルカトラズ】前に何をしてたのか」


「……あまり好ましい発言ではありませんね」


「先に言っておくが、俺も調さんと接触してる。隠す必要はないぞ」


「……存じております」


やっぱ知ってたか。俺が天知調を知っているという事、そしてスレーティーさん自身が天知調を知っているという事。


「俺の推理だが。()()()()以降、調さんは対冒険者用の司法組織が必要と考えた。そんで、()()()()()()()()()()。違うか?

 そして【Blueearth】全域の冒険者の記憶を改変し、あたかも元から存在していた冒険者のように扱った」


「だとすると何か不都合でも? ……人間でもないのに人間を裁くなど愚かしいですか?」


あっ。勘違いされてる。まって違うぞ。


「いやいやいや。うちにも1人いるんだよ。N()P()C()()()()。電脳人造人間? いや……まぁアンタ達の同類! ゴーストが!」


いかん。知りたい欲に駆られて随分と失礼な事を言ったみたいだ。回りくどくて嫌味ったらしい俺の悪い癖!


「つまり、もし俺の予想が合ってるならさ、ゴーストと仲良くして欲しいなーって思ったんだよ。俺はあいつの事を人間だと思ってるけど、あいつは自分の事を機械みたいに思ってるっぽいから、似た境遇の友達でもできないかなーって」


必死に弁明するが、スレーティーさんもう話さなくなっちゃってる!

笑顔が怖いよ! 何考えてるの!?

「こいつ後で調さんに言って消してやるでスレーティー」とか思ってないよね?


「ぷふっ。私、そんな語尾してませんから」


え。

吹き出すスレーティーさん。そしてすぐに口を手で塞ぐ。

やっちゃった、みたいな驚き顔。そして溜息一つ。


「……ごめんなさい。私の特権の一つに、読心がありまして……嘘を見抜くためだったんですが、あまりに面白くて」


終わったわ。

え?どこから?


「あなたの思う(言う)通り、我々は天知調によって作られた電子人間。ブランと見た目が似てるのは、同じ肉体データの使い回しだからです。細かな差異はありますが」


いかん。恥ずかしくて顔から火が出そう。細かな差異ってどこなの。あ、ブランは目力強めのつり目だったからその辺かな?


「いいえ、眼は同じパーツですよ。ほら」


ぱちりと開く眼の色は熱く沸る赫。かっこいい。印象変わるなぁ。いやこれも読まれてるんだって。


「かっこいいですね」


「ぷふっ……読まれてるからってわざわざ言わなくても」


笑われた。意外と沸点低いなこの人。かわいい。


「……貴方ほどの人なら、こっそり教えちゃいますね。私だけの差異。実は──」


スレーティーさんが小さな口を俺の耳に近付けて──


ぷすり。


「痛い! 尻になにか刺さった!」


振り向くと、空間に裂け目。そして伸びる白き劔。

剣がするすると裂け目の中に引っ込むと、あの特徴的な赫目が覗く。


「スレーティー。仕事をしなさい」


「……はぁい。ブランちゃん。ごめんね?」


こんな干渉ありかよ。そして俺が刺されるのかよ。

……まぁいいや。なんか助けられた気もするし。


気を取り直して!メアリーの方を見ると!




──大剣がメアリーを貫いていた。




なんでぇ?



〜お金は大事だね〜

《寄稿:【マッドハット】クリック支店長 スズ=シロナ》


【Blueearth】の共通通貨L(ラベル)

冒険者もそうでなくても、やはり金は必要!

金稼ぎの基本をこのアタイが教えてやんよぉ!

今回はアドレで簡単に出来るお仕事を紹介してやるわよ!


・アルバイト

拠点階層ではあらゆるアルバイトができるわ。冒険に興味のない人でも、時給にして1000〜1500Lが妥当ね。

別に冒険者だからって魔物と戦う必要はないわ。生きていけるだけの稼ぎは確保できるわね。

ただ、特定のジョブや経験、資格を求められるアルバイトもあるわね。そういうのはもっと時給が上がるわよ。


・林檎屋さん

第2階層のリンゴ果樹園からアドレに待って帰るだけで儲ける事ができるわ。林檎一個につき25〜80Lで売れるわ。クリエイター系ジョブなら【鑑定】を通す事をオススメするわ。【鑑定】済のものは一律100Lで売れるわ。

果樹園とアドレ間は徒歩だと丸一日かかるから移動手段を確保する必要があるわ。

1日1000個売ったとして、10万L稼ぐ事だって可能よ!

実際は収穫と売買の時間を考慮するとどうしたって2日かかるから1日5万L、移動手段のレンタルアニマルと荷台と餌代もかかるから少しだけ減るけども。危険もあるし。楽ではないわね!


・【飢餓の爪傭兵団】のアルバイト

冒険者向けの民間クエストはトップランカー【飢餓の爪傭兵団】が管理しているわ。アドレなら【蒼天】が受付ね。ギルドマスターのアイザックはマジでいいオンナ。一見の価値アリよ。

仕事内容や適正レベルまで細かく分けて、あなたに向いているクエストを割り振ってくれるわ。

仲介料を差し引かれて手取り5000L〜3万Lってとこね。クエストによりけりだけど、すぐ終わるクエストもあるわ。自分に合ったクエストを探すのが吉ね。


・王国クエスト

アドレ王国から公式に発行されてるクエストね。魔物討伐関係が多いから、しっかり階層攻略をする冒険者向けね。

これもピンキリだけどまぁ確実に1日1万5000Lは稼げるわ。

それに手に入れた素材は持ち帰り自由だから、その辺を売って収入の足しにできるわね。


・【マッドハット】に就職

これが本命! 最高の金と自由をアナタにプレゼントしてやるわ!

我々【マッドハット】は武器防具アイテムは勿論のこと、服に家に動物魔物に至るまで、お金になるものは何でも取り扱ってるのよぉ!

攻略するつもりがないアナタも! なかなか階層攻略できないアナタも! 是非入団する事をオススメするわ!

本部は階層攻略中だけど、支店がアドレにもあるから是非お尋ね下さい。

本日より1週間、素敵な帽子の【マッドハット】系列店でお買い物のアナタ! この新聞を店員に見せると5%引きです!

是非! 素敵なお買い物を!

以上! いらっしゃいませ!!!!


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