表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
常夏都市アクアラ/オーシャン階層
135/507

135.勝負は一度負けてから

"常夏のハイパー海祭り"1日目──


【55階層オーシャン:水没のロストタウン】


──────

海に沈んだ古代都市。

廃墟に人の気配無し。

並ぶ街並みは海底へ。

底の底へと誘われる。

──────


海底都市。おなじみ機械生物ゾーン。

棚状海底の中腹ともいえる、まだまだ明るいこの場所に──銀河が回遊する。


「……お出ましだな。相変わらず戦う気が失せるな」


レイドボスとして見ても一際大きい、泳ぐ銀河。

サイズ感が狂ってしまうが……接近されたならもう逃げられない、それほどの大きさと速度だ。


──【揺蕩(たゆた)う宇宙 コスモスゲート】LV200


「……全員配置に付いたな? ここのゲートは屋内が多い。見落とすなよ」


デューク達と離れ、俺の班は手早く配置に付く。本命の階層は明後日3日目だが……俺にとっては毎日が本番だ。

未発見のゲートの中に一つだけ存在する【Blueearth】外行きのゲートは、どこで出てくるのかわからないからな。


──────

[メンチラ]:

『ライズ様様! 地下施設担当メンチラ、ゲート出現を観則しましタ!』


[リューゲ]:

『こちら屋外担当。コスモスゲート接近を確認。ルート・速度共に異変無しです』


[バーナード]:

『……こちら小部屋担当。既存発見済ゲートは全て出ている様だ……。恐らくゲート出現率100%に到達している』

──────


どうやら確立の壁は突破しているみたいだな。

これまで発見されているゲート達だって結局は確立で出現する。出る時もあれば出ない時もある訳だ。

だが今の所……俺が確認した事のあるゲートは全て出てきている。屋外から軽く見渡すだけでも見た事のない数のゲートが発光している。


……と言うことは、だ。


──────

[デューク]:

『旦那。既にC班が3つ、D班が1つ未確認ゲートを発見してまして。恐らくはC班方向に集中してまして』


[ライズ]:

『まずは管轄範囲の全数確認だ。俺も自分の範囲を調べたら先にC班方向を優先する。絶対に誰もゲートに入るなよ』

──────


やはりこの階層でもかなりの数のゲートが新発見されるな。

これは……凄い大変だぞ。


「"マグロ星人"君。頼んだ」


「お任せ下さいギョ」


普通に喋る、人の体が生えたマグロ。メンチラが契約した魔物だが……悪魔かなんかじゃないのかこいつ。


──────

『"マグロ星人"は服装の格式が性能に直結しまス! ライズ様様には特別に最高格の燕尾服マグロをお貸ししまス!』


『どうぞ宜しくお願いしますギョ』


『あ、はい』

──────


【マーメイドハープ】が召喚した存在なので、こいつはオーシャン階層に自生してはいない。

魚じゃなくて悪魔なんじゃないのかこいつ。実は【デビルサモナー】だろメンチラ。


「飛ばしますギョ。お手を拝借」


「あ、はい」


……速いし優しいからいいんだけどさ。




──◇──




【第50階層 常夏都市アクアラ】

──海の家【C.moon】


──20:00。


【C.moon】は24時間営業。モーニングもランチもディナーも何でもありのフル回転だ。人数の暴力が成せる技だな。

日が暮れても花火だ何だと街は騒がしいが……この時間は全員が会議する為に調整してある。バルバチョフに厨房を任せてバックヤード会議室へ向かう。


「悪ぃ。遅れたか」


「大丈夫よ。丸一日厨房に押し込めて悪かったわね」


「いやいや。昔は企画で24時間連続ゲームとかやってたからな。休憩挟みながらじゃ楽勝だぜ」


……などと軽口を叩く訳だが。試合は厨房から中継を通して見ていた。

あれは今出来る最高値だったと思う。あれ以上ってなるともうジョージがリミッター外すしか無かった。

10カウントを誤差無しで出来るのは【夜明けの月】だと俺とジョージとゴーストだけだ。その中で最速で動けるのがゴーストだった。


「……あんま気にすんなよゴースト。一点取られたくらい何の問題だっての」


「……answer:配慮ありがとうございます」


あーこれは相当堪えてんな。

先制点ってのは相手にプレッシャーを与えるもんだ。実際こうやって通用してる訳で。


「──あたし達は悪の組織【夜明けの月】よ」


重い空気を打ち破り、メアリーが立ち上がる。


「売り上げで勝つだの、何勝すればいいだの。甘えた事言ってる場合じゃなかったわ。

──お礼参りよ。うちのゴーストを泣かせた【飢餓の爪傭兵団】は潰す。

こっから全勝するわよ!」


あまりにもあんまりな宣言。

だが──異を唱える者はいない。


俺達のゴーストに悲しい思いをさせたお前が悪いぞブラウザ。

圧倒的な八つ当たりをくらうがよい。




──◇──




──【わくわくビーチセイバーズ】本拠地

ホテル【マッスルビルドジム】1F


「では本日の収支報告ですブラウザ様」


筋肉に囲まれての報告会も数日で慣れたものです。

というかこの筋肉共が私に懐き過ぎだと思うのですが。割り込み横槍の上司とか良い気分では無いでしょうに。


「【わくわくビーチセイバーズ】直営7店舗の売り上げは好調。しかしこれは祭りの集客効果であり、どこの店舗でも同じようなものだと思われます。

仮に従来の売り上げの200%を基準値とした場合、下回るのは海の家【シーサイドプロテイン】、移動式屋台【筋肉人力車】、バー【マッスル・イン・ミッドナイト】といった飲食関係店の売り上げがどれも下回っています」


「バーは夜これからが本番ですが……【C.moon】が24時間営業である事もあり、やはり客足が少なくなっている様です。無論一般の店舗よりは遥かに売り上げを出していますが……」


「ふむ……。このホテルの売り上げを勝負に使えないのは痛手ですね」


「【井戸端報道】に祭り中は買い取られてますからね。支払いが後払いなので祭り期間中の売り上げとしては0L(ラベル)になってしまいます」


総合売り上げで勝負するので彼らの直営店舗全てで勝負に出ていますが……かなり売れまくってますね【C.moon】。いいとこ互角といったところでしょうか。


「不甲斐ない結果となり申し訳ありません」


「いいのです。店舗申請期間は過ぎていますから店舗追加という手段は使えませんが、それはあちらも同じ。今の状態で拮抗しているのなら、ジェリー族という物珍しさで集客しているあちらの方が不利になるでしょう。

こちらは皆さんがずっとやってきた、言わば自力のある店舗ばかり。堅実な売り上げを伸ばして行きましょう。宣伝も忘れずに」


「了解!」


……基本的にしっかりした人達なんですよねこの人達。

あくまで陰謀に巻き込まれた哀れな被害者と。


……そんなの言い訳になりませんが。


「ブラウザ様?」


「ああいえ何でもありません。それでは本日はこれにて解散。明日もパトロールがあるのでしょう、昼番は体を休めて下さい」


「「「了解!!!」」」


うるさい。


……さて。【飢餓の爪傭兵団】本体に報告を済ませて、諸々情報の確認と交換をして……暇ができたら、散歩でもしますか。




──◇──




【第56階層オーシャン:墓船のパイレーツ】

──【夜明けの月】のログハウス


ゲートの解析も完了し、意外にも早く撤退できた。"コスモスゲート"は依然55階層を回遊している。


……庭には特設巨大水槽を設置し、その中で10人の"マグロ星人"が膝を抱えて待機している。怖すぎる。


「55階層の未発見ゲートは16。その内12は相互連結、残り4はオーシャン階層内の別階層。収穫は58階層へのワープゲートでして」


「ゲートの出現率によってゲートの色が変わってる説があるな。今回発見したゲートは殆どが金色だった」


「思ったよりハズレばっかりですネ。オーシャンから出る事すら無いとはガッカリでス」


本日の夕食は焼肉。オーシャン階層に観光で来るなら魚介類は最高だが……攻略勢にとってはトラウマものだ。

基本的にこうやって調理可能レベルの簡易ハウスを持ち込む事が無いので、攻略や探索をする場合は手短な魚やら貝やらを捕獲し、生のまま食べる。水中ステージは焚き火を起こせないから殆どの料理ができないからな。

特にこの階層に長くいるメンチラは肉にかぶりついている。そもそも焼肉を提案したのもメンチラだしな。


「攻略階層で暖かいものが食べられるなんて最高でス!」


「ここのメンバーなら大体は攻略慣れしてるから雑草も生魚も平気で食べられるだろうが……食えるなら良いモン食いたいってのは共通見解だわな」


本当にそう、と頷く一同。このメンバーの中にはセカンドランカーも結構いるが……前線側でも充実した環境で過ごせている者は多く無い。

うまい飯食ってデカい風呂入ってふかふかのベッドで寝れば大抵の事はなんとかなる。それを金の力で無理矢理実現したのがこの"動く最高級ホテル"だ。満たされ癒されていく奴らを見るのが至上の喜びよ……ふふふ……。


「ライズさん。お風呂の入り口がいっぱいあるんですが」


「手前から順番に男湯、女湯、ドロシー湯、ジョージ湯、おひとり様湯、おひとり様湯2だ」


「……多種多様ね」


「ドロシー湯はバスタブタイプで信じられないほど良い匂いがする。ジョージ湯は和風の檜風呂で窓から満月が見える。どっちも使っていいからな」


増設費用と比べれば安いもんだ。特にジョージは完全にどっちの大浴場も使えないからこのくらい自由にして欲しい。


「好き放題カスタムし過ぎですネ」


「おひとり様って言うけど普通に広いんですが。これ確か一つで1億L(ラベル)くらいしませんでしたか?」


「うん。最高グレードだからな。一度グレード上げるとそのレベルの値段でしか拡張できないの中々酷いよな」


「流石は旦那。心も懐も底なしでして」


ふははん褒めるなデューク。褒めてないかも。


「……では俺は気兼ねなくおひとり様湯を使わせてもらうぞ……」


バーナードは結構風呂好きだ。ウチなら個人風呂があるから楽しみにしていたんだな。存分に堪能して欲しい。


「ん、デュークどうした? みんな風呂に行ったぞ」


「ええまぁ旦那とお話せにゃならんかと思いまして。

……ズバリ、ゲートについてでして」


真面目な話だ。正直デュークと対面でこの辺の話は今はしたくない。

……追放ゲートの事、隠し通せる自信が無いからな。


「ゲートの色分けの説は恐らく正しいでしょう。これまで金のゲートは滅多に現れず、青と緑はほぼ確実に出現。恐らく赤は半々、紫はもう少し低いくらいの出現率でして」


「"その階層に出現するゲートの数"と"ゲート出現自体の確立"の両方にアクアラの冒険者数によるブーストがかかっている訳だな。そして今はその両方がカンストして、全てのゲートが同時に開いている事になる」


「まだ憶測ですが……"コスモスゲート"が57階層にいる間、アクアラが今くらい盛り上がっていれば、確実にエンジュ行きのゲートは開くという事でして」


実際のところ今出現した金ゲートが全てなのかはわからないが……少なくともこれまで観測した55階層のゲートは、低確率のものも含めて全て確認できた。理論は正しいはずだ。


「問題は……やっぱりアクアラだよな。今回は過剰に盛り上げて人を爆増させたから確立がカンストしてるんだろうが、これどのくらいの規模にしたらカンストすんのかね」


「これまでの熱狂、そうそう出来ませんでして。定期イベントレベルなら……良くて二月に一度くらいでやすかね?」


「2ヶ月か……。"羅生門"は毎月って考えると……まぁ無いよりはマシかぁ」


そう。もしもアクアラの冒険者数が鍵になるなら……結局はそう頻繁に使えないんだよな。


「……イベントもタダじゃない。興行にするには赤字じゃないか?」


「絶対必要なのは間違いありませんぜ。未だに"羅生門"前じゃ順番待ちしてまして。うーん……"マッチングサーカス"みたいにランカーに共有して資金援助受けますかね……」


……俺個人としては、このゲートは使って欲しくないんだよなぁ。これはまた別の理由なんだけれど。

でもそっちの理由だけは察されるわけにはいかない。最早【Blueearth】追放ゲートの件を身代わりにしてもいいとすら思っている。


「その辺考えるのは他のゲートを見てからだな。エンジュ行き同様にセカンド階層行きのゲートが複数階層にあればそれだけ送るチャンスが増えるだろ?」


「……それもそうでして。皮算用でやんした」


実際まだわからない事が多すぎるが……55階層が空振りで良かった。55階層の時点で別拠点階層行きのゲートが見つかりまくったりしたら大変だ。

……だとしたらエンジュ行きのゲートは何なのかって話になるが……今考えてもわかんないかな。


「……よし、風呂行くかデューク」


「へいへい。時に旦那、アクアラの皆さんに定期連絡するんじゃ無かったので?」


「……あっ、忘れてた。

まぁ初日はビーチフラッグだし。あのルールならゴーストが快勝して今頃お祭り騒ぎだろー」




──◇──




……お祭り騒ぎでは、あった。

復讐に燃える悪の組織みたいになっていたが。


そしてメアリーには連絡が遅れた件でこっ酷く叱られた。

俺自身も、表情を抑えつつも悲しむゴースト顔を見て受けたショックは大きく、少し立ち直れない状態になったので庭で頭を冷やすことにした。

10人の"マグロ星人"が優しく話を聞いてくれた事で夜明けには立ち直る事が出来た。

翌日、水槽のグレードが上がった(58,000,000L)。

ありがとう"マグロ星人"。フォーエバー"マグロ星人"。



〜ペットの夏休み1〜

《【夜明けの月】ジョージの日記》


夏季休暇ともなれば、労わなくてはならない【夜明けの月】の功労者達を忘れてはならないよね。

そういう訳でアクアラ北東部の窪地にやって来た。

アクアラ東部の崖と北部の山に挟まれたこの場所は広大な土地に反して人気が低い。そこを利用して【真紅道(レッドロード)】のフレイム君が買い取り、魔物用の休養施設を立ち上げたらしい。

管理人は現地人に頼んでいるが……色んなサモナー系の冒険者との交流機会にもなるそうだ。


俺の抱える"まりも壱号""ぷてら弐号"、クローバーの"スメラギ"、【バレルロード】から預かった骸骨の船守"じいや"を解放。各々好きにさせる事にした。


「レアエネミーを2種類も……。とても珍しいでゲスねぇ」


園長代理の冒険者ゲスタミーアさんが手を揉みながら注意事項の説明をしてくれた。

あまりに風貌が怪しすぎるが、これでもフレイム君お墨付きの聖人……らしい。


「デカい魔物ばかりで申し訳無い。大丈夫だろうか?」


「土地はありゲスから。それに複数持ちは珍しいにしても、最前線にゃレアエネミー持ちも……巨大生物マニアもいゲス。土地ぁ広いんで充分遊べゲスよぉ〜」


「そうか。ありがとう」


【アルカトラズ】に申請してあるそうで、この空間内部では魔物による攻撃行動が取れず、飛行能力を持つ"ぷてら弐号"も範囲外には出られないようになっている様だ。


移動手段として激しい調教を乗り越えた"ぷてら弐号"、質量勝負で活躍しミドガルズオルムに突撃させたりもした"まりも壱号"、スフィアーロッド戦等の緊急回避で活躍している"スメラギ"。彼らも【夜明けの月】に欠かせない仲間だ。ゆっくり休んで欲しい。


さてさて、俺は交流と敵情視察と行こうか。曰く、最前線ではサモナー系列でなくとも魔物を使役する事が普通らしいからね。

リンリン君は現役時代はずっとミカン君とコンビだったから移動手段には困って無かったそうだけど……。


「ムムム。【夜明けの月】のジョージ君ではないかね?」


後ろにいた人が声を掛けてきた。俺の事を見ている人は何人かいるが……俺が気付いている事に気付いて自ら接触しに来たのだとすれば、中々出来るな。

振り返れば随分とファンタジーなカラフル衣装の紳士だ。風船が周りをぷかぷか浮かんでいる。


「初めまして。私は【飢餓の爪傭兵団】輸送隊隊長のアルプスと言う。

先日の"イエティ王奪還戦"で見かけ、"マッチングサーカス"ではお話を伺いたいと思っていたのだが御破産になってしまったからね。ここで会えて嬉しいよ」


「ああこれはどうも。【夜明けの月】のジョージです。初めまして……"イエティ王奪還戦"には不参加で?」


「物資の護衛が我が役目だからね。サカンさんが行ってしまったから誰かは残らねばならなかった。それに当時は下の階層に興味無かったんだ。

レアエネミーの【調教(テイム)】、しかも2体……あれほど下の階層で。その謎、是非解き明かしたい。お話伺っても?」


……うん。

俺と同じだな。特段ここで無理に聞き出すつもりは無いが……情報が手に入るのならそれはそれで得、くらいの感覚。敵対のつもりは無さそうだね。


「俺はむしろ伺いたいのだけど……最前線でもレアエネミーの確保は難しいのかい? 戦闘に期待しなければ低階層のレアエネミーでも役立つと思うんだが」


「確かにレベル差は【調教(テイム)】成功率に影響するが……レアエネミーにはそれが無い。どうしたって超低確率でやらねばならない。現実的ではないね」


「ふむ。ところでアルプスさんの魔物はどちらに? 最前線の魔物、是非拝見したいのだが」


「いや、今日は連れて来ていないんだ。私は【ビーストテイマー】ではなく【ハーメルン】というジョブでね。現地の魔物しか仲間に出来ないが、数の制限から解放される。20匹程度を同時に飼い慣らす事も可能だよ。

物資輸送においてはどの階層でも安定した輸送が求められるから、現地の魔物を従える方が確実なんだ」


初めて聞くジョブだ。しかしそうなると何故この広場に来ているのかわからないな。


「私のでは無いが、仲間のものなら連れてきている。要するに押し付けられたのだがね。こちらは今遊び倒しているファルシュ君の"ゲートゴレム"。飛ばした体の部位を自分の周辺へ転移させる事ができる。持ち場から暴投するファルシュ君を元の持ち場に戻すために割り当てられたんだね」


部品部品が浮いている銀のゴーレム。

やはり移動能力の方に一芸がある魔物を選んでいるみたいだ。


「他にも何匹か連れてきているが……どうだろう、お昼でもご一緒に如何か?」


「是非。とても美味しい話が聞けそうだ」


「ちょっと待てしオジサン」


アルプス君に誘われて後ろを付いていくと──背後から何者かに持ち上げられる。

──ここでは喧嘩は御法度だ。反射的に殺意が出てしまったが、なんとか堪える。


「あ、ごめんね。いきなりでびっくりした?」


声の主──女性は俺をゆっくりと地面に降ろす。敵意は無かったが……気配も無かった。何者かと振り返る。


──黄金の女神だ。靡く金の髪、純白のオフショルダービキニ。下はデニムジーンズで露出を抑えているが、それでも美しさは隠されていない。


「ムムム……貴女、どうしてここに」


「名前はオフレコで頼むし。あーしは女児誘拐オジサンを止めに来た観光客だし」


アルプスは周囲を確認し──小さい魔物用の個室休憩室を見つける。


「あまり外で話をしていい相手ではありませんね。あちらでお話しましょう」


「構わないし。キミはあーしから離れちゃダメだからね」


「いや、そこまでしなくても俺は大丈夫だが……」


「女の子はもっと警戒心が必要だし。いいからいいから」


押しが強い。

黄金の女神に押し切られて、個室へ会場を変更せざるを得なくなってしまった……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ