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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
常夏都市アクアラ/オーシャン階層
134/507

134.開戦の狼煙を上げろ

【第50階層 常夏都市アクアラ】


"常夏のハイパー海祭り"1日目──


──アクアラ南ビーチ


「メアリー。遅れてしまったかな?」


「まだまだ間に合うわ。引率ありがとうねキャミィさん」


ゴーストとリンリン二人を引き連れたキャミィさんと合流。

砂浜には、初日なだけあって凄い数の人ね。


「来ましたね【夜明けの月】」


「その声はブラウザ!……ブラウザ?」


筋肉に担がれた神輿の上に、真っ黒女王様がいた。

なにしてんの。

……顔赤くしてるから、あえて聞かないであげるけど。


「これより"ジェリー族争奪戦"第一試合を始めます。準備はいいですか?」


「こっちは万全よ。場所ここで合ってる?」


「はい。もうすぐ正式に始まりますよ。

……ほら、他のお客様の迷惑になります。そろそろ降ろして下さい」


「喜んでー!」


神輿からやっと降ろされたブラウザ。既に疲れてるわね……。


『皆様、お待たせしましたー! "常夏のハイパー海祭り"楽しんでいらっしゃいますでしょうか!』


一際大きな花火が上がって──ここ最近見覚えのありすぎる顔が現れた。


『主催【井戸端報道】バロン局長より、今祭りの司会進行を拝命致しました! 【パーティハウス】座長のマスカットです! 以後お見知り置きをー!』


……以前まで【パーティハウス】が本拠地にしていた49階層はアクアラから行った方が近いから、マスカットはアクアラでも興行をしているって言ってたわ。色々忙しいだろうに仕事熱心な事ね。


『実況・解説にはセカンドランカー【スケアクロウ】在籍にして【井戸端報道】第1編集部編集長のシュケルさん!』


『はい、局長より代理に任命されましたシュケルです。イベントの1週間、宜しくお願いします』


『はいはいではではルール説明っ! 海祭り1日目のイベント"音速ビーチフラッグ"です!

10カウントの後、100m先のフラッグを取り合うのですが……この10カウント、音ではカウント致しません!こちらのモニターに表示されるんですねー。これでは競技者からは見えません!

競技者には体内時計でカウントしてもらいます! 勿論フライングは反則ですのでご注意を!

参加表明人数から……出ました。1リーグ8人で優勝者勝ち残り決勝リーグの形で!全9試合です!』


「ふっふっふ。勝ちは貰いましたよ」


早速勝ち誇ってるわねブラウザ。眼鏡が光ってるけど負けフラグすぎるわね。


「貴女はご存知無いでしょうが、最前線において体内時計強化は必須事項。こんなもの勝ったも同然です」


「ビーチフラッグはサムの得意教義だったんだがね! 予行練習でこっ酷くやられてしまったよHAHAHA!」


筋肉護衛隊も負けるほどの相手。そりゃ凄いわね。


『──おおっと素晴らしい結果が出ました!』


沸き立つ会場。ふと見てみると──旗を勝ち取る赤い彗星。


「っしゃぁ! 誰が空気抵抗無いスーパービューティーやねん!」


『第1リーグ勝者は【飢餓の爪傭兵団】ファルシュ! 10カウントは10.04!圧倒的です!』


【飢餓の爪傭兵団】の最前線斥候部隊……だっけ? 一度ルガンダで襲われた。めちゃくちゃ怖かった。

さらっとしたモデル体型に赤のオフショルダービキニ。意外にもフリルが可愛らしいわね。多分何着ても似合うだろうし、何着ても自信満々そうだけれど。


「ファルシュちゃんは移動速度特化にカスタムした超低耐久の高速アタッカー。クールタイム10秒の自傷スキル【叛骨潮流】を戦いながら最速スパンで連続使用する体内時計お化けです。10秒というルールならば横に並ぶ者無しですよ。勝ったな。ふふふのふ」


「こっちも勝てるメンバーしか選んでないから。吠え面かきなさいよ」


10秒を指定してきたのはブラウザ。最初からコレが狙いだったみたいだけれど──。


「──こっちは何秒だとしても勝てるのよ」


『──ゴール! なんと第2リーグにして大会新記録!……というか審議です!』


さらに沸き立つ会場。やりすぎたかしら。でも仕方ないわね、初日だもの。派手にやらなきゃね。


『タイムは──10.00ジャスト! フライングかどうか私にはわかりませんでした!』


『観測装置が失格の赤アラートを出していない以上は失格とは言えませんね。驚愕ですが』


『……ならば、改めまして! 第2リーグ勝者は! 今大会最高記録を確定させました、黒き流星! 【夜明けの月】ゴースト選手です!』


時間勝負で負けるわけないでしょ、うちのゴーストが。

ゴーストを出迎えて、お隣のブラウザに一言。


「引き立て役、ご苦労様」


ふふん。こっちは悪の組織【夜明けの月】よ。人の成果でふんぞり返って煽り散らかしてやるわ。


「ぐぬぬぬぬ……ファルシュちゃん、どう? 決勝戦、勝てそうですか?」


「せやな……ウェットスーツなのになんちゅうダイナマイトボディやねん。こりゃ生唾ゴックンやで」


「しばき倒しますよファルシュちゃん」


「ごめんて。せやな……おい嬢ちゃん」


時計を手に持ったファルシュがゴーストの前に立つ。身長は同じくらい。背が高いわねこの二人。


「調べは上がったるで。アンタも【リベンジャー】やろ」


「yes:私のジョブはローグ系第3職【リベンジャー】です。貴女も同様に【リベンジャー】であると記録しています」


「せやで。"最強の復讐者"ファルシュちゃんやで。つまりどうやってもアンタはウチには勝てへんって訳や」


「answer:戦う訳でもスキルを使う訳でも無いので無関係では?」


「……せやな。邪魔したわ」


「yes:本番で会いましょう」


「せやな。ほなまた……いや待たんかい!」


あとちょっとで帰りそうだったけど、ぐるっと一周。コンパスみたいね。


「アンタじゃウチには勝てへんで。速度が違うからや」


「yes:レベル差分のレベルアップボーナスを速度に振っている貴女の方が移動速度は上ですね。流石は最強。同じジョブとして鼻が高いです」


「お、おう。せやで。なんや話分かるやんけ。色々ごめんなぁ。ほな……って待たんかい!」


「action:"誉め殺し撃退術"失敗。迎撃を続けます」


「ぐぬぬ……自分おもろいやんけ。気に入ったわ」


「ファルシュちゃん。遊ばれてますよ」


「遊んどんねん! 思っとったよりノリええんやもん!」


……仲良くなってくれて助かるわ。話は一向に進まないけれどね。


「answer:カウント0.04秒差では100mで貴女を突き放す事は出来ません。戦闘行為は禁止なのでスキルも使えません。基本ステータスでの勝負であれば勝ち目は無いでしょう」


「わかっとるやん。手加減したろか?」


「no:必要ありません。その上で勝ちます」


「……言うやん。ちょい惚れたわ」


会場へと踵を返すゴースト。

……あんなにカッコよかったかしらあの子。


「ほなファルシュちゃんも行ってくるわ。ブラウザちゃん報酬忘れんといてなー」


「はいはい。負けたらその姿で1ヶ月は攻略してもらいますからね」


「罰重すぎひん!?」


……明るい対応で騙されるけど、ゴーストの言う通り真っ当に戦えば勝ち目は無いのよね。

真っ当ならね。

こっちは悪の組織よ。正々堂々とか鼻で笑っちゃうわ。




──◇──




──log.

第9リーグ決勝戦。8リーグの勝者が集まります。


「よろしゅうなゴースト」


「yes:正々堂々とお願いします」


「せやな。ズルのしようもあらへんけどな。たかが100m走で」


ファルシュは握手を求めます。

──手から肉体データを解析。肉体そのものはアスリートのように鍛え抜かれたものではありません。とても柔らかく滑らかな肌。

しかし【Blueearth】においてそれは無関係。肉体を鍛えられない【Blueearth】では筋力の最低値は同一。あとは基本ステータスと走り方での勝負になります。


『位置について! 10カウント! スタート!』


──2.25。


10カウントでは私が勝てますが、ファルシュは人力でジャストタイムギリギリまで測定できます。この優位性は無いに等しい。


──6.55。


ステータスの差を埋める事は不可能。最前線で高速アタッカーとして走り続けているファルシュがミスをすると想定する事はできません。


──9.01。


それでも──私は勝ちます。




──10.00。




『動きました!動きました! 先陣を切ったのは──()()! ファルシュとゴースト両選手、10.00ジャスト飛び出しです!』


「っしゃ! 勝ったで!」


勝ち誇るファルシュ。

──第1リーグ以降、ファルシュの手には時計──ストップウォッチがありました。

ずっと"10.00"の勘を鍛えていた様です。或いは元から出来たのか。

ですが実演済。クローバー曰く、10.00は人力で到達可能。


──────

60分の1秒(1フレーム)の世界で戦ってるからなゲーマーは。寝っ転がってヨーイドンなら俺でもできるぜ、10.00』

 ──────


それがクローバーのみの話かどうかはわかりませんが──実例がある以上、スタートダッシュのみに頼ってはいません。


『おおっと、これは……何でしょうか!? ゴースト選手、姿()()()()()! 転んでしまいます!』


『ですがファルシュ選手を追い抜きましたね』


action:走行ベースをマニュアル操作に切り替え。

action:事前設定の走行姿勢をインストール。

──リミッター解除は、人間レベルに設定した私のボディでは不可能と判断。

しかし人間的速度の追求ならば、ジョージとアイコが知っています。


──────

『怪我しない【Blueearth】ならどんなに危険な姿勢でも採用できるからね。俺はその辺を利用しているよ。リミッター解除無しでも高速移動できるのはそれが理由だね』


『現実で言うなら、筋力の差を補うのは姿勢です。特に走りの世界では顕著ですね。私はランナーではありませんが、タックルに応用するために習っていました。伝授しますよゴーストちゃん』

──────


「なんやその走り……っ! オモロイやん!」


『おおっとファルシュ選手も応戦! じわじわと差を詰められていきます!』


50m通過。ファルシュが見様見真似で私の動きをインストール。

──成功率87%──脅威。ファルシュは今走りながら観則した自爆走法を習得している。

この地点では──100m地点(フラッグ)獲得確立は45%まで下がります。


「──負けません」


──system:感情制御:off。


ここからは計算は気の迷い。

心の勝負。


私は──【夜明けの月】に勝利を運ぶ!


「負けるかいっ!」

「負けない!」


赤の旗に手を伸ばし──


『両者もつれてゴール! 勝者は──』


土埃の中。私の手には──




『優勝は、ファルシュ選手! 栄光を掴み取ったのは【飢餓の爪傭兵団】ファルシュ選手です!』




──◇──




負けちゃった。


でもブラウザは煽る様子も無く。

基本的に良い子じゃないのよブラウザ。裏切り者として有名らしいけど、とてもそうは見えないわね。

なんか……なんて言えばいいのかわからない顔してるわ。


「……ふん。次は負けないわよブラウザ」


「あ……そ、そうね。このまま勝ち越してあげるわ。震えて眠りなさい」


後ろの筋肉達が号泣してるけれど。とにかくあたし達が偉そうに何かを言える立場じゃないわね。

闘った二人を出迎える事しかできないわ。


「帰ったでー。いやー勝った勝った」


「帰還しました。マスター。申し訳ございません」


仲良く横並びで戻ってくる二人。とりあえずはお迎えね。


「よくやったわねゴースト。偉い偉い」


「……申し訳、ありません」


「大丈夫ですよゴーストちゃん。私達が残り全部勝ちますから」


アイコの目が変わった。

……アスリートの目だ。今のを見て色々覚醒したわね。


「……とりあえず【C.moon】に戻るわよ。明日からの作戦も考えないとね」


「yes:帰還します……」


ああもうしょぼくれちゃって。

……こんなのもう、勝つしかないじゃないの。




──◇──


"ジェリー争奪戦"得点数


タルパー&【夜明けの月】:0ポイント

【わくわくビーチセイバーズ】:1ポイント


──◇──




「ところでファルシュの報酬ってなんなの?」


「何もありませんよ。100万L(ラベル)分のツケを消化しただけなので」


「あれー!? くれへんの100万L!」


「あと9000万Lくらいありますからね、貴女のツケ。きっちり清算して下さい」


「くっそー。タダ働きやん」


「いやちゃんと払いなさいよ……」




〜波瀾万丈ファルシュちゃん伝説〜

《こっそりファルシュちゃん日記帳より》


あぁ〜お仕事辛い。めんどいわぁ。

いつの間にやら【飢餓の爪傭兵団】最前線斥候部隊隊長なんて大層な名前貰ってもうて逃げられへんくなってもうたし。

【首無し】としての活動もほぼできひんからなぁ仕方ないわなぁ!


……最初は、暗殺ギルドのしがない殺し屋やったんやけれどなぁ。

いや本当はただの脅し屋やったんやで? ファルシュちゃん天才やから。アドレのあちこちで雇われの悪モンやっとったんや。あの時はどこもかしこも悪モンだらけやったからなぁ。

その内同業のドクガ先輩が"心中ビジネス"発明しよってな。たかが"PKペナルティ"受けるだけで済むならじゃかじゃか殺して、逃亡感覚で自殺するって奴。ビビるわなこんなん。何食ったら思い付くねんて。


でもその内【アルカトラズ】が出来てもうてな。あまりに殺し過ぎた奴は投獄されてもうた。

ほなら困るわな。無限に死んで殺しての殺し屋ビジネスに突然天井ができてもうた。殺しは慎重に成らざるを得んかった。

やけど、その時のウチは最強可愛い天才殺し屋のファルシュちゃんやったから……今も最強可愛いけどな。今も最強可愛いけどな!

調子乗っ取ったねん。強面のハゲがターゲットやったけど、まぁ明らかにワルそうやったし殺すかーって二つ返事で任務受けて、殺しに行ったら──。


その依頼は罠で、ウチの殺しの罪をドクガ先輩が被ってしもた。


その時に先輩から命令されたんよ。"足洗って逃げろ"って。

せやからウチは逃げた。逃げたんやけど……。

身銭無くなって裏カジノに入り浸っとったら、新しい闇ギルドに捕まってもうた。

いやー上手い事やっとったつもりなんやけど。投獄された元クライアントの所ならガタガタやと思ったんやけど、新しいボスがまぁ凄腕でな。人身売買寸前まで行ってもうて。こらあかんなーって。


……そんで、何やかんやで【首無し】に入る事になってもうた。

一応理由はあんねん。その時ウチは一カ月で30階層から70階層までソロで駆け上がっとった超新星やったから。

天才やからね。色んなギルドにお邪魔しては逃げてって感じやったけど。

ほんでその才能を見込まれて【首無し】としてスパイ活動が始まったんやけど……ファルシュちゃん大天才やからどこ行っても目立ってもうてな。結局顔パスで入れる【飢餓の爪傭兵団】しか潜入できひんかったんや。


後は単純やね。実力主義の【飢餓の爪傭兵団】やから、フツーに実力でのし上がったったわ。あとはキングのオッサン潰せば大幹部やでー。

……まぁ【首無し】じゃテッペン張れへんやろうから、【飢餓の爪傭兵団】でも征服したろうかなって思っとんねんけど。あいつら普通に殺し合うから元殺し屋の名が泣きじゃくっとんねんな。殺しを何やと思っとんねん。


てな訳で、ここまで読んでわかったと思うねんけど。

【飢餓の爪傭兵団】にもウチの仲間が欲しいんよね。一人じゃキングのオッサン1人殺す事も出来ひんから。


そういう訳でな、わざわざ隠したこの日記を読んどるお前。




「協力、してくれるよな?」



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