表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
常夏都市アクアラ/オーシャン階層
132/507

132.暗く深く巡る宇宙

【第56階層オーシャン:墓船のパイレーツ】


──────

遥か昔。古代技術をも退けた豪鬼なる海賊船。

悪の(かぎり)。略奪と征服こそが生きる道。

(ある)が儘。嵐さえも乗り越えんとしたが。

海の底。船は海溝に噛みつかれてしまい。

(なれ)(はて)。航海を求め怨霊となった。

──────


──海溝に挟まった巨大な海賊船。

室内にはまだ空気がある。

オーシャン階層の海中ステージではこういう空気のある場所を渡りついで進むのだが、ここはその中でも一番空気が多い。

……拠点にするならここだ。


「左舷階段下の物置が安置だ。ここに"簡易ハウス"を設置するからここを拠点とする」


バーナードにデューク、後は【首無し】の人々……メンチラを代表とした12名。これが今回のゲート探索のメンバーだ。


「ではでは早速出して下さイ最高級の"簡易ハウス"!見たい見たいでス!」


囚人服みたいなウェットスーツのメンチラがやたら興奮してる。そんな大した物でも無いが……安置とはいえ亡霊だらけのこの船にいる必要も無い。さっさとドアを設置する。


「ようこそ【夜明けの月】のギルドハウスに。情報秘匿のため個室は封鎖させて貰っているが、昨日来客用の部屋を増設した。階段上がった先の個室は自由に使ってくれ。

風呂も飯も好きに使って構わない。デューク……【首無し】には世話になってるからな」


誠意とは金と待遇で殴りつけるものだ。【首無し】のメンバーも少しは警戒心を解いてくれるだろう。


「……これは……凄いな。ここまで豪華なギルドハウスは初めて見ました」


金ビキニを堂々と着こなすモデル体型の美女──最初の紹介では確かリューゲと言っていたが、彼女はどこかで見覚えがある。


「リューゲが気になりやすか旦那? 彼女は滑り込みでこちらの作戦に参加頂きましてね。旦那と気が合うと思いやすよ。

元セカンドランカー【鼠花火】に潜らせていまして。先日ギルド解体と同時に役目を終えてフリーになっていた所でやす。どうです? 【夜明けの月】に」


「堂々とスパイ入れようとすんな」


セカンドランカー【鼠花火】……記事で読んだ事があるな。【飢餓の爪傭兵団】傘下ギルド。なんとか関門を突破してセカンド入りしたが、先日解体して【飢餓の爪傭兵団】のエンジュチームに吸収されたんだっけか。

……確か階層探索に強いギルドだった。参謀の指揮の元で俺とか【草の根】が発見した研究を深掘りしてくれていたな。

参謀は鎧を着こんだ武闘派みたいな感じだったが……。


「はい。只今紹介預かりましたリューゲです。久々に鎧を脱げて気分爽快です。最高の休暇のお誘いをありがとうございますライズさん」


すごいズカズカくる。正直者だな。闇ギルド務まるのか?


「ギルド解散とは残念だったな」


「元より"羅生門"に相当手こずっていましたので、時間の問題でした。解散を提案したのは私ですが、円満解散でしたね」


「これからはどうするんだ?」


「幸い姿は殆ど隠して活動していましたので、別ギルドへの潜入は可能ですから。次の指令が来るまではこうして周りのメンバーの手助けをしつつアクアラで休暇を楽しむつもりです。

勿論、ライズさんからのお誘いがあれば喜んで協力させて頂きます。私個人としては探索探究は好物なので、色々と個人的にお話したいですから。例えばライズさんの部屋で」


ううん正直。そして悪意では無いが企みを隠そうともしてないな。


「リューゲ。今回はそこまでする必要ありません。旦那に失礼の無いように。わかるな?」


「……はい。失礼しましたライズさん」


「ああ別に構わない。デュークもごめんな」


「いえいえ。他のも同様でやすからねー。表じゃルールに従っておきながら裏で何もかも吸い尽くすのが【首無し】のスタンスですが、今回は例外でやす。本当に奥の個室に入っちゃダメでして。違反者は消すからな」


「「「……へーい」」」


生返事だが……デュークの気持ちは伝わったようで、全員なんとなく大人しくなった。

裏社会の帝王しっかりやってんなデューク。ちょっと怖かった。


「……さてさて、今後の方針でして。メンチラ、解説を」


「はいはーイ! こちらが"コスモスゲート"ここ数ヶ月の回遊ルートでス!」


テーブルに地図を投影。

レイドボス"コスモスゲート"はオーシャン階層全域を回遊している。そして同じ階層にしか"コスモスゲート"の転移ゲートは開かれない。こっちは一階層の移動に半日かかるので、ちゃんと合わせないと空振りで終わる訳だ。


「第1目標! タルパーが見つけたゲート位置は【第57階層オーシャン:渓谷のフォールダウン】にありまス! ここに"コスモスゲート"が回遊するのは3日目と5日目!ここでゲートの解放パターンを観則しまス!

第2目標! その他未観測ゲートの捜索!これは他の日程を"コスモスゲート"に合わせて移動しながらになりまス!

合わせて1週間、階層手順で言うなら55→56→57→56→57→58→59階層と移動するのが良いはずでス」


俺が調べきれなかった"コスモスゲート"の回遊ルートはもうパターン化されたのか。これは朗報。

あとは出現ゲートについてだが……。


「ライズさんの過去発表データと、メンチラ達とタルパーが探索して最適化した出現ゲートマップを共有します。ここ数日【首無し】のメンバーで裏取りもしているわ」


リューゲから貰ったリストは……俺の知っているものよりもずっと正確で数が多い。タルパーがジェリー族と交流する都合、あれからずっと海底探索をしていたのか。助かるな。


「……問題は移動手段だ。巨大な"コスモスゲート"と接近してしまえば別階層に飛ばされ、復帰は厳しくなる……。

"コスモスゲート"に接近するも逃亡するも、速度が必要だ……」


「ご心配無くバーナードさん。今回の【首無し】メンバーはライダー系を厚く採用してまして」


「メンチラは【マーメイドハープ】でス! 水中ステージでは10匹まで魚を使役できまスから、マグロン兄弟なら"コスモスゲート"からも逃げられまス!」


サモナー系第3職【マーメイドハープ】。アクアラの特殊クエストで出現するレアジョブで、魚系の魔物を使役する【ハイサモナー】派生ジョブ。

真価を発揮するのは水中ステージだが、アクアラ以降は90階層(ミラクリース)くらいしかガッツリ水中のステージがないので……アクアラ在住のメンチラならば納得ではある。


「水中呼吸系はあるか? 酸素補給の手間を省きたい」


「ミラクリースで市販されていますエアスフィアがありまして。こちらインベントリに入れているだけで長時間の酸素補給が可能でやす。一日3個として1人あたり21個、こちらに用意してございやす」


【Blueearth】では溺死はしない。水中でも呼吸出来ないという事はない。というか酸素を必要とする呼吸してない。締め付けられると窒息はするが。

水中とは無重力空間で、酸素ゲージを消耗する空間でしか無い。定期的に酸素のある空間に入らないと酸素ゲージが回復せず、酸素ゲージが尽きるとHPが割合で減少していく。

ので、かつての俺は大量の回復アイテムを持ち込んで酸欠状態で探索ゴリ押ししていたのだが。便利なアイテムがあるもんだなぁ。


「"常夏のハイパー海祭り"は明日から。"コスモスゲート"は回遊ルート通り現在54階層からこちらに向かって来ています。明日には55階層に到達する見込みです」


「では配置に付くまでのチーム分けでして。基本的には4人1組3班で動き、指定ポイント到達の後に散会。データ収集後に集合し、異常無い場合は次のポイントへ移動開始しやす。

チームは戦力とジョブを考慮しこちらで割り振りまして。

魚を使役する都合上必ず最後に階層を出るメンチラは、同じく未確認ゲートが発見された場合確認しなくてはならない旦那と組んでもらいやす。

旦那の足を引っ張らない探索能力を見込んでリューゲ、全体的なレベルの低さを補ってもらうためにバーナードさんに入ってもらいやす」


「……承知した」

「了解でス! 宜しくですライズ様様!」

「任務、承知しました」


ちゃんとデュークが外れてくれて、作戦も可能な限り俺一人にしか被害が及ばないようにしてくれた。

天知調から知らされた危険なゲートの位置を担当するのも俺の班だ。そして記憶持ちのバーナードには軽く説明してあるので有事の際はカバーしてくれるハズだ。


「じゃあ今日はここまで。各自準備しつつ待機でして」


「メンチラはお魚を召喚してきまス! 契約ジャスト1週間なので今日まで使えませんでしたけド、そろそろ厳選始めなくてハ!」


「私はやはり個人的にライズさんとお話したいわ。60階層(バロウズ)のレイドボスについて見解を聞きたいのですが」


「リューゲ。お話はいいですが……取って喰わないように」


「勿論です。()()()()()()何も」


……少し怖い。酒は今日は控えておこう……。




──◇──




回遊する。海遊する。

深海に浮かぶ銀河。海底を照らす宇宙。


──【揺蕩(たゆた)う宇宙 コスモスゲート】LV200


思案する自我はあるのか。

それを知る事は無い。

誰も。


ただそれは、セキュリティシステムとしての使命を全うする。

【Blueearth】においては、溢れ出るデータを捨てる役割を担っていた。

セキュリティ"アクアラ"は特に脆いシステムだ。

想定外に溢れるデータは、一度階層の外に出してもう一度近くの階層へと移す必要がある。

その道中で不要なデータを濾過(ろか)して"廃棄口"へと捨てるために。

……今日もアクアラの容量が溢れている。

濾過装置もフル稼働だ。

こんなに沢山の濾過装置を全開してしまえば──


──ひとつくらいは、出口が機能していないものもあるだろう。


"コスモスゲート"に自我は……無いのだろう。

もし自我があれば、あまりの待遇に憤慨するだろう。

もし自我があれば、全てのゲートの出口を塞ぐだろう。

もし自我があれば、アクアラ毎全てを"廃棄口"へ投げ捨てるだろう。


……いや、或いは従順な信徒のように耐え忍んでいるのか。

出口の無いたったひとつの濾過装置は、沈黙の抵抗なのだろうか。


なんにせよ。


"コスモスゲート"は回遊する。

誰もその中を知る事はできない。




──はやく。

──はやく開け/開いてはならない。

──ここから出せ/出たくない。

──はやくはやくはやくはやくはやくはやく……。

──……………………。

──…………。

──……。




聞こえぬ声を聞いたのか。

何も聞こえていないのか。

興味が無いのか。


"コスモスゲート"は海遊する。

決まった道を、決まった時間に。



~あのキャラどのキャラ~

《天地調の備忘録》


今回はドラド編です!

冒険者の登場人物はかなり少なかったですが。


・ホットケーキさん

──福津 きさら(17)

【マッドハット】の一員でドラドでは飲食店【イートミート】を経営していたが、現実では片田舎の学生。

おしゃれなケーキ屋さんを夢見る普通の女子高生。だが都心まで電車で2時間かかるので情報収入源は雑誌。

雑誌奥付けの【Blueearth】先行体験一般応募枠から見事参加を勝ち取る。電子世界で都会の子と交流したがっていた。

なお、余りにもガードが緩すぎるため都心に旅行する際は同級生の男女と大人同伴がデフォ。

得意料理はカツ丼。得意技は高速3枚下ろし。

……ごく普通の一般人ですが、あまりに大人びた雰囲気と体格から【Blueearth】では子供扱いされていませんね。【マッドハット】でも年長側として頼られています。


・マスカットさん

──美津 優香(22)

動画配信者"マスカット"として中学生から活躍してきた有名ストリーマー。最初は不登校だったが、配信者として有名になってからは諸々に自信がついて復学。大学にも現役入学し、ストリーマーと学業の両立に成功している。

事務所の後輩にファッション系ストリーマーのアゲハがいて、先輩としてストリーマーとしてのイロハを教えたが、コラボなどは控えている。

何故ならマスカット自身がよく炎上するから。頑張っている後輩を巻き込む訳にはいかない。

……"新しい事に挑戦する"がモットーのストリーマーだったので、ゲームジャンルは【Blueearth】が初めてです。

何でも手を出してみて、その道のプロにけちょんけちょんにされながらも最終的には習得する……という流れですね。

半べそかきながら司法書士試験に合格したのは凄いです。その後不正を疑われて炎上していたのは理不尽でしたが。



・マルゲリータさん

──アウローラ・ディ・サヴォイア(18)

イタリアからの留学生。【TOINDO】レトロゲームで日本語を学んだハイパーサブカル女子。

由緒正しい家柄のお嬢様だが、来日3年目にしてイタリア語を忘れかける。

【Blueearth】へはクラスメイト全員を巻き込んで一般応募に募集したところ、三枠当たるという快挙を成し遂げる。余り枠はクラスで相談し、人望のある仲良し二人組にプレゼントした。

……ある種のカリスマ性というか、人を惹きつける才能がある人です。【Blueearth】では色々と不運に巻き込まれましたが、それでもいつだって楽しく明るく過ごせているのも才能でしょうか。

ちなみに前述の通り来日3年目です。母国語レベルで日本語を話していますが翻訳機無しでペラペラです。すごい。


・マシュマロさん

──一ノ瀬 写巳(うつみ)(31)

【TOINDO】社員【Blueearth】開発部アバターデータ担当。同じ部署の服飾デザイン担当の藍咲(アイザック)と毎日喧嘩していた。

現実では女性。【Blueearth】の変装芸は本来ゲームマスター側が使用する予定の外観不定アバターを使用しているからであり、怪しまれてはいけなかったため天知調もそのまま通さざるを得なかった。

元々かなり優秀なプログラマーだったが、天知調式アバターのデータを受け取ってからはその天才的な造形とプログラムに発狂。天知調を神聖視する。

度合いは違えど【TOINDO】の殆どの社員が天知調の実力を認め尊敬する中、ただ一人堂々と天知調にエッチな衣装を着せようとする不敬者(藍咲)を力技で止められたのは、実家が道場だったため。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ