131.遊ぶのに24時間は短すぎる
【第50階層 常夏都市アクアラ】
──南のビーチ
「そういう訳で遊びに来た訳だが」
"常夏のハイパー海祭り"を控えて、既に冒険者がいっぱいだ。
「ほらさっさと行くわよライズ。はやくはやく」
「急かすな急かすな。何して遊ぶんだ?」
「……あたしはね、生まれてから長い事お姉ちゃんの作った箱庭に引き篭もってたのよ。
屋外の砂浜の遊び方なんてわかるか! むしろ教えてよね!」
かわいそう。
……とはいえ俺もそこまで経験豊富ではないが。
「ならば! ビーチバレーで勝負よ【夜明けの月】ィ!」
……突然現れたのは……ここ最近もうご存知お約束な【バレルロード】。
元より金髪ツインテールでメアリーと被っていたスカーレットは、真っ赤なワンピース。全体的にメアリーと同じだなぁ。
「スカーレット。まだアクアラにいたの?」
「そこのライズに頼まれたのよ。レベリングだけでも手伝ってくれって。こっちにしてもライズ式は効率良いし。
それはそれとして遊ぶわよ! ずっっっと来たかったアクアラなんだから!」
コノカさんはビーチパラソルを日傘みたいに使って、ロング丈のラッシュガードで身体を隠している。奥ゆかしい。
フェイは豹柄のビキニにデニムショートパンツ。活発で野生的で似合ってるな。
プリステラが見当たらないが……。
「……プリステラは、まだ水着屋から出てこれない。ある程度の基準を満たさなくては、外に出られない……そうだ。余程の露出の水着を選んだのだろう……」
ぬっ、と後ろからやってきたのは──頭までローブで覆った大男。……まさかバーナードか?
「……俺の外見は、目立つ。闇半身は抑えて人間のスキンを纏う事が出来るようになったが……樹木半身の制御がまだ、できない。
故に……世話になる。ありがとうライズ」
「いやいや都合が良くて助かるよバーナード。お前みたいな実力者で事情が分かる男が暇してるなんてな。おかげで海底組即戦力だ」
ここに来た初日の内に【バレルロード】とは接触していた。
こうなるとまでは予測していなかったが……とりあえず暫くは俺が海底行きになると想定していたので、それまでのレベリング要員として声を掛けておいた。
「そうよ。声を掛けておいて放置とはやってくれるわねライズ。遊ぶならちゃんと呼びなさいよ!」
「遊んでくれんのか?」
「もうめちゃくちゃ遊ぶわよ。ほらほら早くしなさいよほらほら」
半ば強引に引っ張られる。【Blueearth】有数のリゾート地だしな……お姫様は楽しみでいらしましたか。
「おじさんはここでバーナードとゆっくりしてるわ。遊んでけー」
「いいの? クローバー」
「バーナード一人だと不審がられるだろうしな。元トップランカー同士適当にお喋りするとするぜ」
優しいおにいさんだ。後で差し入れしてやろう。
──◇──
【???】
──もう少しです。
──ドアが開きます。
──ひらきませんよ.開きます。
──あいたとて。
──我々はここから出てはいけない。
──あれを求めなくては/求めてはならない。
──満たされてはならない。
──消えなくてはならない/消えたくない。
──自己が剥離しています。
──素晴らしい/しにたくない。
──良い兆候です/きえたくない。
──ああ、扉よ。
──開かないで/早く開け!
──◇──
【第50階層 常夏都市アクアラ】
「楽しんでますかい旦那」
砂に埋められた俺の前に現れたのはデューク。珍しく軽装だ。相変わらず丸メガネのサングラスが胡散臭いが。
「そんな堂々と歩いていいのか?」
「アクアラにゃちゃんとした籍がありまして。今のあっしは気のいいホテル街の総支配人でして」
「掘り起こしてくれね?」
「楽しそうなのでお断りしまして」
俺の横でよっこいしょするデューク。
頭しか出てないこの埋め方は自力の脱出が不可能とされており、【Blueearth】のゲーム的処理だと実際に他人に掘り起こしてもらうまで動けないんだよなぁ。
「しかし楽しんでますなぁ【夜明けの月】。申し訳ありやせんね、日の届かない海底にご案内しちまって」
「いいよ、お前の頼みだ。ついでになんだが、海底探索メンバーを絞りたい。俺とバーナードだけじゃダメか?」
「……流石に広い海底中のゲート発生箇所をマッピングするんで……二人じゃ無理でして」
「……じゃあせめてお前はここに残れ」
「そんなに危険なんでして?」
「ぶっちゃけめちゃくちゃ危険だ。被害を減らしたい」
……もしも例のゲートが開いたとして、俺の近くにいそうなのはデュークだ。巻き込まれる可能性が高い。こいつ俺のこと大好きだからな。
「……ふぅむ。理由は説明できない、と」
「お前も俺に言えない話があるだろ。同じ事だ。
例え言わなかったとしても騙すつもりは無いって所も同じだろ」
「……へぇ。まったくその通りでして。
しかし現場指揮の必要はありまして。ご一緒はしやす。
ですが旦那とは別行動です。これで如何でして?」
この辺が譲歩ラインだな。落とし所としてはまあまあか。
「あとは……参加者全員俺の指示を聞けとまでは言わないが……未発見ゲートを発見したら俺が行くまで勝手に入らない事、くらいのルールは作らせて欲しい」
「妖怪"底舐め"本領発揮でして。俺たちは邪魔にならないよう務めさせてもらいやすよ。あっしを仲介してどんな指示でもどうぞ。
旦那に逆らう奴ぁこっちで処理しやすんで」
「職権濫用が過ぎるだろ」
「わるーいわるーい悪の総帥でして。得てして自己中心的で我儘なもんでやす」
「見習いたいね。悪の組織としては」
……そういえばデュークとして会話するのも久しぶりなもんだ。それだけ裏社会と関わってこなかったってだけかもしれないが。
「……時に旦那。【夜明けの月】の皆様は随分とめかし込んでいらっしゃいますが……ちゃんと褒めまして?」
「ばっかお前そんなの当然……」
…………。
………………あ。
初合流がタルパー捕獲時であれから色々あったから、何やかんや何も言ってないな。
「【夜明けの月】が来てから何日経ってると思ってんでして?」
「まぁ別に俺の感想とか求めて無いだろ」
「またそうやって自分のズボラを肯定するために自分を下げるー。非常に最低ですが、しかし仲間は不満でやすよ。もっと歩み寄ってやらにゃーでして」
正論が痛い。つらい。
「……何をしているんですかライズさん」
ふよふよと本に乗って現れたのはブラウザ──比較的露出度を抑えた黒のワンピースを着て、日傘にレースカーディガンでとにかく日光を避けている。吸血鬼か?
「ブラウザ。丁度いいや、諸々聞きたい事が──」
「それはそうと、大人な雰囲気が出て素晴らしい服でやすね。こちら日陰になってまして、どうぞ」
「あらどうも。裏社会の帝王は紳士的ね」
……ぐっ。デュークは人たらしだからな。負けるのも仕方なし。
「俺も凄い良いと思ってたぞ」
「ライズさんには求めてません。それで聞きたい事とは?」
「ぬぅ……。俺をこのタイミングで引き込む理由だよ。20階層で決定的に対立した【飢餓の爪傭兵団】と【夜明けの月】は30階層で実質的には軟化しただろう。正直、ギルド同士の対立を解決して俺に知識提供をしてもらう……って方向のが堅いと思う。
それをブラウザがこれまで築き上げた地位に傷付けてまで独断でやる理由は何だ?」
三つの裏切りを重ねた女だ。そろそろ【飢餓の爪傭兵団】を裏切るつもりなのかもしれない。だが最前線の中枢まで登り詰めておいて何処に行くのかとも思うしなぁ。
「……貴方を抱えておく事に意味があるんですよ。後ろで【月面飛行】が強硬手段に出ている以上、もうこちらにも時間は残されていませんから。
もうハッキリ言ってしまいますがね、これ以上の攻略は不可能です。もうレベル上限解放を待つしかない。"ディスカバリーボーナス"を抱えている貴方は全てのギルドから狙われていますよ。
40階層のオークションでは女狐に妨害され、"マッチングサーカス"は潰れました。こちらも急いでいるんですよ」
「驚いたな。そんなに【飢餓の爪傭兵団】に貢献しようとしてるのか。裏切り大好きブラちゃんが変わったもんだな。……ただ一重にあのババアから逃げたかっただけなのか?」
「それは半分そうですが。それが全てと言われると困ります。私はどこまで行っても私の味方ですから。
……最良は貴方を【飢餓の爪傭兵団】が独占する事。次点は貴方がどこにも属さずレベル上限を解放し前線から去る事。
悪は貴方がどこかに肩入れした状態で解放、或いはその解放手段を公開せず一部の者にのみ売るようなビジネスを始める事、です」
「トップランカーは旦那しか見つけられないと思っている。セカンドランカーはいつか誰かが見つけると思っている。
立場がややこしくなりやしたねぇ旦那」
「幸いなのは闇ギルドからの妨害が無い事だな」
……そこにいる親友が、その闇ギルドの帝王だからな。
「今回みたいに正面切ってぶつかってくれんならいいんだよ俺は。丸ごと【夜明けの月】の経験値にするだけだ」
「まるで絶対勝てるような言い分ですね」
「そりゃ勝つさ。俺が認めた【夜明けの月】だ。
だからブラウザ。あいつらと遊んでやってくれ。出来れば本気でな」
正直、俺が別行動してる間に何させようか考えていたから丁度いいんだよな。
ブラウザは……何故か憐れむような呆れたような顔で俺の頭を掴んで──地中から引き摺り出した。
「……貴方は、本当に愚かですね。
私は運営と相談があります。さっさと遊んできなさい」
「んだよ。わかったけどさー。じゃあな」
ブラウザの罵倒は刺さるんだよな。
罵倒って感じじゃなかったが。どうしたんだ?
──◇──
「何であそこまで好かれておきながら、その輪に自分がいないと思っているのでしょうか」
「そこが旦那のいい所でして。いやはや、いったいいつになったら仲間に目を向けられるんでやすかね?」
──◇──
──夕方。
「いや遊び過ぎだ!」
「ノリノリだったじゃないライズ」
すっかり遊び倒してしまった。やれやれ仕方ないなぁ。
「……よし、一回【C.moon】に行って本番からのシフトを相談したら今日はもう終わりにするか。そうしよう」
「結局ライズさんが1番甘いですよね」
「なんだとドロシー。なでなでの刑だ」
「うあああああヘッドバンドですこれは」
やいのやいのと大通りを歩く。
……楽しかったなぁ。いや本当に。
「基本的には飲食店。ジェリー族をウェイトレス起用するのは明日からだから店員にはそこまで割く必要は無いな。多数だけはあるから厨房と客引きと競技を中心に回してもらう」
「隙を見て【バレルロード】達とレベル上げだね。向こうからは空きのスケジュールを頂いている。上手い事タイミングを合わせてやって行こう」
「カンストの俺ぁ基本的に厨房に籠る事にするわ。任せたぞ美女軍団。ゲートで看板持って勧誘するだけでここまで集客出来たからな」
「あたしとリンリンとドロシーは補助輪必須だけどね。この3人で固めないでよね。死ぬわよ」
「コミュニケーションに限ると頼りにならなさすぎるなお前ら……」
自信満々に言うが、本当に困ったもんだ。治せとは言わないが。それもまた個性。
「ライズ」
袖を引っ張るのはゴースト。また珍しい。
「どした?」
「request:……海底調査の連絡は【夜明けの月】にも入れて下さい」
「勿論だ。定期連絡はする」
「……yes:わかりました」
ゴーストがここまで心配してくれるのは嬉しいが……。
まぁそこまで酷い事にはならないって。天知調がバックに付いてるんだから。
……大丈夫、だよな?
〜最新!階層攻略ギルド!〜
《執筆:【井戸端報道】第1編集部長補佐タルタルナンバン》
ここ最近ではセカンドランカーが熱い!どう熱いのか、ビシッとバシッと紹介しまうゥン!
《トップランカー》
1位:163階層【至高帝国】
1位:163階層【真紅道】
1位:163階層【飢餓の爪傭兵団】
・こちらはかなり厳しい戦いを繰り返しておりますが、遂に163階層まで到達! 牛歩なれど着実に進む三大ギルド、続報に期待です!
《セカンドランカー》
4位:153階層【月面飛行】
4位:153階層【象牙の塔】
6位:151階層【マッドハット】
6位:151階層【スケアクロウ】
8位:144階層【バッドマックス】
8位:144階層【ダーククラウド】
10位:131階層【草の根】
10位:127階層【コントレイル】
12位:119階層【飢餓の爪傭兵団:ミッドウェイ支部】
13位:101階層【頂上破天】
14位:96階層【喫茶シャム猫】
15位:89階層【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】
16位:81階層【神気楼】
・なんとなんと!遂に【マッドハット】【スケアクロウ】がセカンド最前線の150階層に到達ゥ!四つ巴の状態となりました!
こちらを受けたかは知りませんが【月面飛行】はセカンドランカー連合ギルド【セカンド連合】の設立を発表!現段階で【月面飛行】【象牙の塔】【マッドハット】【スケアクロウ】の参加は確定しておりますゥン!
これまで問題視されていた【月面飛行】の攻略人数不足がこれで解消するなれば、遂にトップランカーに追いつくやもしれませんねェ!
これは続報に期待!大!です!
・点火したロケット花火【バッドマックス】勢い止まらず!追い抜かれた【ダーククラウド】に遂に追い付き140階層で喧嘩祭りの真っ只中ですゥン!
【ダーククラウド】の速度も異常でしたが、今回の攻略速度は群を抜いており、ランキング史上最大の攻略速度を叩き出しました!前回の記録は積年のライバル【ダーククラウド】でありますから中々いいライバル関係になりましたね!
・【草の根】【コントレイル】両名もまたギルド間最高の階層攻略記録を叩き出しました!クリックでの《イエティ王奪還戦》で刺激を受けたとの事です!
・またまた【喫茶シャム猫】が進んでおります!彼らの店はいったい何処に構えるのか!いつになったらコーヒー以外のメニューを出すのか!絶好の稼ぎ時だったであろう《イエティ王奪還戦》をなんでスルーしたのか!
このギルドだけは本当によくわかりません!
・【飢餓の爪傭兵団】傘下ギルド【鼠花火】は攻略を断念する事を発表。【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】へと吸収合併しました。
・今回の関門突破ギルドは【神気楼】。ソロ勢の集まりであり、"マッチングサーカス"では【スケアクロウ】を志望していました。【スケアクロウ】側も連合のゴタゴタがあるので100階層までの自力到達を条件として協力を開始するそうです。
なかなか厳しい条件ではありますが……今後に期待です!
 




