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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
岩壁都市ドラド/サバンナ階層
124/507

124.青い海に想いを馳せて

【第41階層サバンナ:蠢く荒野】


─────────

パーティ 10/10 ▼[レベル順]


【ラピシュ: クローバー:150】

【大天司 :デビルシビル:150】

【デビサモ:バルバチョフ:145】

【フォート:  リンリン:128】

【スイッチ:   ライズ:115】

【リベンジ:  ゴースト:100】

【エリアル:  メアリー: 88】

【仙人  :   アイコ: 88】

【サテライ:  ドロシー: 87】

【ビースト:  ジョージ: 87】

──────────


「トリガーハッピーでおじゃる! トリガーハッピーでおじゃる!」


またしても銃器を撃ちまくる平安貴族バルバチョフ。

相変わらず絵面が狂気的だな。


「【夜明けの月】の純正ヒーラーはアイコだけか。随分と貧弱な回復体系だな」


「サブジョブのヒーラーは二人いるわよ。十分じゃない?」


「いざ戦闘が始まった時に回復支援に徹する者がどれだけいるのか、であるぞ。ソロ攻略をしている訳でもあるまいて」


デビルシビルは単体では戦えない全身全霊サポーター。黎明期補助ジョブの典型的な考え方だ。

だが参考になるのは間違い無い。なんせセカンド一位の【月面飛行(ムーンサルト)】の情報だ。


「片手間で回復できるというのはつまり、誰かが傷付いた時に誰かが手間を作らなければならないという事である。

例えば一人致命の怪我を負ったとして、全員が今何処に回復役がいて、誰が戦闘を離脱し回復に動くかを把握せねばならん。

……回復に限った話ではない。辿り着く先の限界値が同一(150LV)なれば、より尖っていた方が強いというものだ」


……攻略を再開する前、俺の基本的な情報源はデューク……闇ギルド【首無し】の裏情報が基本だった。

だがそれでもトップランカーの情報は手に入り辛い。冒険者は自力で到達した階層にしか行けない都合上、どうしてもトップランカー張本人からの開示でもなければネタが手に入らない訳だ。


攻略を再開し、色々な縁があって……トップランカーの強みを見る事ができた。


少数先鋭の【至高帝国】は特化構築……の様に見せて、結構バランス型だ。自己治癒能力にモノを言わせた【オーガタンク】の殴り屋ハートに、速攻瞬殺全弾回避の【ラピッドシューター】のクローバー。そして異次元精度の転移【エリアルーラー】ダイヤ。

出会った誰もが、敵の攻撃に対する単体での解答を持っていると言える。彼らは"単体としての強さ"だ。

真紅道(レッドロード)】も比較的そちら側だった。チームを組んで戦うものの、かなり前衛が厚く役割が被っている。一人一人が単独での戦闘もこなせるだろうな。


【飢餓の爪傭兵団】はこれらとは違い、誰かと組む事を前提としている。総頭目のウルフでさえ防御全無視の超高速火力アタッカー。回復手段すら持っていない潔さ。

……だがこれは【飢餓の爪傭兵団】の人数によるゴリ押しだ。特化構築を上手く回すのは並大抵の事ではない。


つまり考え方的には少々現実的ではない。

……否定するほどの事でも無い。好みの問題であり、実際尖りに尖らせたデビルシビルがヒーラー界隈において最強である事は事実だ。


「ともかく。朕が付いているからには誰も一切回復しなくて良いぞ。全て朕が受け持つ」


……ともかく、実戦あるのみ。

早速クエストも受注した訳だし、お手並み拝見だな。


「じゃあデビルシビルさんを囲むように布陣を組むわね」


「あぁそれは結構。そこも全て自分で対応する。朕はいないものとして扱え。兎角、神の威光で不死になったと思い込むが良い」


「さっさとするのでおじゃる。こっちは準備完了であるぞ」


バルバチョフが戻ってくる。何をしていたか……というのは、聞くまでも無いか。


──襲い来る巨大草食動物達。こいつ見える範囲全部に喧嘩売ってきやがった。


「火力は最悪クローバーがいるであろう。朕がいる限りは死ぬ事も無し──」


デビルシビルの背に、純白の翼が現出する。

【大天司】の交戦モードだ。そのまま上空へと浮かび上がる。


「──神の啓司である。【天の幕】をアイコ・メアリー・ドロシー・ジョージ・ゴーストに。物理耐性と即死無効である。

以下予言である。【雲海の裏】をドロシーに。隠密効果である。【祝福凱歌】をアイコ・ジョージに。物理火力補助である」


立て続けにバフをばら撒くデビルシビル。このメンバーだと耐久に難があるメンバーを中心に、一目で判断して振り分けてるのか。


「……では、先鋒リンリン! 参ります!」


振り下ろされる象の鼻を大盾【オールブルー】で受け止める。まだカウンターをしないのは、その鼻を空中戦のための足場とするためだ。


「action:skill【襲牙】発動します」


「火力は後方に頼むとして……俺達は攪乱要員だね。俺はあの飛行植物に行こう」


真っ先に正しい動きを理解したのはジョージ。"爆裂オナモミランチャー"に向かって一直線に飛び出す。


「おや、対応が早いな。【神の祝福】!」


飛んでくる爆発物を()()()()()()()()突進するジョージ。そしてそれを察知して回復を投げるデビルシビル。本来なら3回は死んでいる集中砲火を突破し──


「──一刀両断といくか。【炎月輪(レッドムーン)】!」


──炎纏った空中回転切り。

立体戦闘の方向に伸ばしているジョージが選んだ【兜割り】の派生スキル。

片手剣の振り下ろし技ではあるが、空中発動かつ使用者の重力が一定以下なら──そのまま地上まで連続攻撃になる。


飛行戦艦は弱点属性を突かれた事もあり、そのまま撃沈。墜落と同時に爆発する。


「……いやはや、4度は死んだな」


ここまでの一連の行動でもジョージは無傷……どころか、火力バフも重ねられている。


……確かに弱点を突いたとて一撃で仕留め切れるかどうかって所だったが、それを見極めてバフを重ねたのか。

ただ視野の広いマルチタスクってだけじゃないな。


「ライズも出てよいぞ。偶には何も考えず思いっきり動くのも良かろうて」


「……そうだな。ちょっと遊ぶか。──【スイッチ】」


最近じゃ珍しくも無くなった、完全に上手の相手からのご厚意だ。

偶には好き勝手やるのも悪く無いな──。




──◇──




──夜

【夜明けの月】のログハウス:ロビー


「めちゃくちゃ楽しかった。ありがとうデビルシビル」


「よいぞよいぞ。ふはははは!」


結局思いっきり楽しんでしまった。明らかに無茶な戦い方をゴリ押しするの楽しすぎる。


「では麿(まろ)達は風呂にでも行くかの。ロビーにはあと1時間は戻らぬ故、秘密の会議なら今のうちに済ませるが良いでおじゃる」


「ん? 秘密会議? それは聞くわけにはいくまいな! お風呂お風呂」


めちゃくちゃ聞き分けのいい二人が空気読んでどっか行ってくれた。一応ドロシーに目配せすると、小さく頷いた。盗聴の心配無し、と。

……いい奴らだなぁ。


「……じゃあ改めて、コレね」


メアリーがインベントリから出して机に置いた牙──"赤き大地の想い"。

レイドボス特効を付与できるアイテムだ。当然ながら……俺でさえ見た事が無い。


「レイドボス特効……今の所発覚しているのは俺の【朧朔夜】と、ウルフの持っている短剣だな。どちらもレイドボスから渡されたもので、同じレイドボスに対して有効であるという事が発覚した。

スフィアーロッド戦では不死身のスフィアーロッドを怯ませたり、トドメになったりしたな」


「今回はレイドボス相当のシドがいた上に、"データの池"でメタ視点を得たシギラとシドが協力した事で色々とイベントスキップして渡してくれた訳だ。

一応俺からも補足するが、最前線まで行った俺でもそんなアイテム……というか"レイドボス特効"って性質自体見たことも聞いたことも無ぇ」


「スフィアーロッドの時はレイドボスとしての仕様を全力で悪用されると大変なことになった訳だし、対抗策があるのは結構な事だね。ライズ君の【朧朔夜】は正直……特効の意味が無いからね」


ぐぬ。それもそうだが。焔鬼大王の奴、分かっててこの刀に特効乗せやがったな。


「で、ですけど……基本的に、特効無しでもレイドボスとは戦えている……というより、倒す必要までは無いパターンが殆どですよねぇ?」


「answer:レイドボス特効以外の付与ボーナスも有益なものが多いです。マスターの【紫蓮の(ヴァイオレット・)晶杖(ロータス)】を強化する事を提案します」


「僕としては、即時火力の切り札であるクローバーさんが良いと思います……けど、メアリーさんに使って欲しいのは同感です」


「と言いますか、ここで"使ってくれ"と頼まれても頷けませんよね。シギラちゃんとメアリーちゃんの友情の証でもありますよ」


……お、メアリーが悩んでる。

ギルドマスターとしての判断とメアリー個人としての判断で揺れてる感じか?


「あー……そうだな。ジョージの言うように悪意あるレイドボスを相手した時の切り札にするか。今無理に使い道を決める必要は無いだろ」


と、棚のあたりをごそごそ。

……あったあった。


「"ストックボトル"だ。アイテム一つくらいなら収納できるインテリアだな。これアクセサリーにして装備しとけ」


「あたしでいいの?」


「ギルドマスターだし、渡された本人だしな。どっちにせよお前に決定権があって欲しい。だよなみんな?」


全員頷いてるし、コレでいいだろ。

……俺としてはめちゃくちゃ調べたいんだけど、ドロシーがめっちゃ睨んでくるからな。自制できました。だからその目やめてドロシー。


「……わかった。あたしが預かるわ」


"ストックボトル"をネックレスにして首から下げるメアリー。

……本人には言わないが、どんなアイテムにも使える強化素材としての性能だけで見ても従来の頭三つは抜けている。売値が付くかも怪しい値打ち付かずの激ヤバアイテムだ。

言わないけどね。


「……じゃあこんなもんにして、次の階層のお勉強だ」


「ハイハイハイ! 俺俺俺俺俺!」


「クローバーうるせぇ! どうぞ」


「どうも」


圧倒的熱量から説明役を譲る。過去一押しが強かった。


「次は【第50階層 常夏都市アクアラ】! 最前線まで知ってる俺だから言えるが、【Blueearth】最大のリゾート階層だぜ!

カジノもあるんだぜ。俺のスキルはそこでかき集めたからよぉ。いやぁ楽しみだぜ」


「ギャンブル中毒みたいな事言ってるわね。クローバーってそういうの好きそうだけど」


「何を仰いますかマスター! "アシュラ"……クローバーさんは一見ランダム要素で勝ち上がる地雷系ラッキーボーイですが、そのプレイスタイルは理論と理屈で詰めに詰められていたんです! 炎上防止のためにギャンブルとかタバコとか荒れやすい話題を避けていたのもありますが、僕の見立てでは完全に運任せのギャンブルはクローバーさんは嫌いだと思いますよ」


「そーだそーだ。【Blueearth】でのスタイルだって手数と確率上昇でクリティカルのランダム性を消しているとも取れるな。クローバーはこんなんだが真面目ちゃんの優等生のガリ勉野郎だぞ」


「やめて顔から火が出るわ」


珍しくクローバーが折れたのでこの辺で勘弁してやる。

第一印象よりずっと真面目で頼れる兄貴分なんだぞクローバー。もっと誇ってくれ。


「……じゃあなんでギャンブル行きたがってるのよ」


「目押しのスロットがあるからだ。1F目押しを今の状態(記憶あり)でやりたいんだよ。

……それはともかく! すっげぇリゾート地だ。ここに定住する冒険者も少なくない。……前後階層が終わってるから特にな。

過去最高に楽しいレベリングになる事請け合いだな!

レイドボスは"スメラギ"の親父さん……"コスモスゲート"。これまでのレイドボスとはタイプの違う、()()()()()()()()()()()だ。舞台装置って言った方がいい」


クローバーの影から両手を広げて現れる"スメラギ"。

その親玉である"コスモスゲート"は……そもそもHPが設定されてるのかすらわかっていない。


「"スメラギ"と同様に肌が宇宙模様で実態が不明な……超巨大な鯨、みたいな奴だ。

【Blueearth】の設定上では転移ゲートの起因であり、今ある転移ゲートは古代文明が"コスモスゲート"の破片から培養した劣化品だとされている。

ゲートを開き異世界やら別階層やらと繋げる事でこっちを転移させてくるから、性質上どんな攻撃も受けない」


「どっちかってーとスフィアーロッドみてぇに魔物を使役するやり口だから直接戦闘のデータもあまり取られてないしな。自我があるかどうかは……わかんねーけど多分無い。ミドガルズオルムみてぇに階層内をうろうろしてるだけだ」


「つまりは余程でなければ面倒事にはならないって事だ。アクアラが人気な要因の一つに、"コスモスゲート"が大人しいってとこもあるだろうな」


「はい先生」


メアリーが珍しく挙手。はいなんでしょう。


「水着はあるの?」


「……勿論だ。アクアラでやっと外見のみ変わるアイテム"スキン"が一般販売されるんだ。水着がソレだな」


「【夜明けの月】アクアラでの第1優先目標はショッピングとする! ギルドマスター命令よ!」


「なんだとぅ。異論無いぞ」


……ここまでてんやわんやだったし、息抜きもしたい所だし。


こいつらの水着も……勿論見たいしな。


「ライズさん」


おっとドロシー。首を締めないでくれ。

いや見ちゃうだろ内のメンバーはメアリー意外ナイスバディなんだから。


「マスター。ライズさんが」


「察したわ。ビンタを喰らいなさい」


「ひでぶ!」



~外伝:徒然城下町日記6~

《敏腕美人お姉さん現る》


【第0階層 アドレ城下町】


──西大通り城壁沿い

──パン屋【玉兎庵】


「無理じゃな」


「ええっ」


ラビが帰ってくるなり相談してきおった。

曰く、アドレを全て巻き込んだお祭りがしたいと。


「だって店長、アドレの偉い人と知り合いだって聞きましたよ。口利きとか……」


「出来ん事も無い。アドレの訪問異種族界隈でも有権者は何人かおるからの。

じゃが無理じゃ。有権者は他にもおる。妾一人では分が悪い。

"冒険者"なんぞ利用価値こそあれど王家に進言なぞできん。

それに多種族交流の名目では大義がない。だって普段からできとるじゃろ、多種族交流」


ラビの目的は至極単純。友が立場を気にせず遊べるような機会が欲しいというもの。

それだけの為にどれだけのものを巻き込もうというのか。


「【祝福の花束】さんでも無理ですかね」


「或いは可能やもしれんが、多分お前の願いは叶わんぞ。"攻略派"企画のイベントに"非暴力派"は参加せんじゃろ」


「あう……それはそうです」


……本来であれば。そのような事は思いつかんし、やろうともせん。

長く【玉兎庵】におるラビの頼みであれば、少しは助けになりたいがの。


「うむ……思いつく、か」


「何か案があるんですか?」


「案という程でもない正攻法じゃ。有権者複数人を取り入ればよい。

アドレの政治に関わる有権者はいくつかに分かれる。

まずはお前に関わり深い"アドレ軍"じゃ。冒険者は軍事管轄じゃからの。【祝福の花束】が進言するとすればここじゃ。

次が"他種族大使館"。妾達のような"人間""冒険者"ではない訪問他種族の纏め役。妾は獣人代表じゃ。

そして最も権威を持つのが"アドレ貴族院"じゃ。アドレの本来の原住民である"人間"代表じゃな。アドレでイベントをするのならばここを抑えるべきじゃろう」


妾はそもそも大使館配属なのじゃが。好きな時に好きなパンを食べたくて出てきた。よって大使館の連中よりかは民間に顔が利くが、大使館からの印象は良くない。

まぁいざとなれば力技でねじ伏せるがの。


「そして"アドレ貴族院"の要人の一人に、物好きな知り合いがおる。とりあえずは彼奴を頼ってみよ」


さらさらさらと竹に紹介文を一筆。彼奴ならばこれでよかろう。


「"冒険者"が動くならば、何か変わるやもしれん。励めよ」


「──店長ぉ~~~」


「ぐおお泣くな飛びつくな! さっさと行かんか!」


あと後ろで見ている"杵突き兎"共。サボってないで働かんか!




──◇──




──アドレ北東"アドレ民居住区"


アドレ原住民──とりわけ人間種が多く住んでいる居住区。

冒険者がわざわざ足を運ぶ事は少ないけれど……今回の目的地には、理由がある。

今日も今日とてお仕事お仕事……。


「あら? 迷子かしら?」


まんまる帽子の可愛らしい子が、地図を開きながらきょろきょろしてる。


「あ……わっ!」


「おっと危ない」


こっちに気付いて……何かにびっくりして転びそうになったので、受け止める。

"地図"を開いてるあたり冒険者ではあるだろうけれど……。


「ごめんなさい。ありがとうございます」


「いいえ。ところで迷子かしら? 困っていたらお姉さんが協力したいのだけれど」


「あ、えっと……この場所に行きたいんですけど、壁しかなくて」


うんうん。

……あら。私と同じ目的地ね。


「会ってるわよ。目的地はここ。入口は真逆だけれどね」


「……ええ、この壁全部敷地なんですか?」


「そうよ。なんせアドレ貴族の三本柱が一つ、カグヤ様がおわす【神楽御殿】なんだから」


──アドレ三大貴族。冒険者の私達からしたらあまり関係ないけれど、軽々に訪問できる所ではないわ。


「お姉さんも同じ場所に用事があるの。一緒に行ってもいい?」


「あ、はい喜んで! えっと……パン屋【玉兎庵】のラビと申します」


「あらご丁寧に。私は【蒼天】のギルドマスターアイザック。宜しくね。

【玉兎庵】なら私もよく行くわ。長いの?」


「そうなんですか? 私はもう……二年くらいですかね。店員と配達員やってます」


「あらあら。タイミングが悪かったのかしら。あそこのパンも美味しいわよね」


「ありがとうございます!」


元気で可愛い子。

……でも、何となく緊張してるわね。


「……大丈夫よ。取って食ったりしないから」


「あ、いえ、そんな事……いえ、勝手に怖がってゴメンナサイ」


「あらあら違うの。謝って欲しいわけじゃなくて」


素直に謝罪して、本当にいい子ね。

……多分というか確実に、"非暴力派"の子よね。

【蒼天】立ち上げて長いこと経つ。私はアドレがキナ臭くなってから一回冒険に逃げたけど、きっと彼女は被害者。

未だに続く"非暴力派"と"攻略派"の対立は、表立ったものは無いけど……居住区が北西と南東に分かれているあたり顕著に残っている。


「……ところで。どうして【神楽御殿】に? あまり普通の冒険者が訪れるような場所ではないと思うのだけれど」


「えっと……お祭りを企画していまして、その承認をと」


「……おまつり?」




──◇──




──一通りの説明を受けて。

またなんともすごい思い切った子ね。


「ああ、全部話しちゃった……アイザックさんが聞き上手だからですよ!」


「ごめんね。これが大人の魅力ってワケ。」


「もー。……あはは」


ニコニコ笑うラビちゃんは可愛いけど。本当に大胆な子ね。

友達のためだけに貴族に直談判なんてね。


「……お祭りね。いいじゃない。"攻略派"は元々"非暴力派"と仲良くしたいって思ってるからね」


「はい……【祝福の花束】を見るにそこまで怖い人だとは思っていないんですが、まだちょっと……武器を見るのが、怖くて」


最初私を見てびっくりしたのは、弓を背負っていたからね。

冒険者としてはある種のトレードマークになってる武器携帯。実際人間と何が違うか見た目でわかりにくいから私は大弓を背負ってるけれど、裏目に出たわね。


「アイザックさんは、どうしてこちらに?」


「んー? 私はね、アドレの住民が冒険者に依頼するクエスト……民間クエストの調査に来たのよ。

カグヤ様はね、一人につき最大5つの難題を出す民間クエストをお持ちになっているのだけれど……最近なにか様子がおかしいらしくてね。様子見にきたの」


「様子、ですか?」


「姫の無茶難題はいつもの事だけど、どうにも不可解というか、意味が通らない題を投げてくるんだって。すぐ撤回して普通の難題を出し直してくれるそうだけれど」


民間クエストを適正な冒険者に斡旋するのが【飢餓の爪傭兵団】傘下のお仕事。

【蒼天】は最近の攻略勢増加に伴い人員増加・新人受け入れが活発になった。というのに、最近は民間クエストに異常が起きて私自ら赴く事が増えて困るわ。

だからかわいいラビちゃんに癒されるわ。【玉兎庵】には可愛いウサギさんがいっぱいだったけど、一匹持って帰るならラビちゃんね。


「アイザックさん?」


「ラビちゃん……宅配サービスってある?」


「訪問販売はしていますよ」


「うち……いややっぱり辞めるわ。南東地区はラビちゃんに危険すぎるわ。女の子が無防備に来ちゃいけないわ」


「アイザックさんも女の子では……?」


「あらそうね。忘れてたわ。めっちゃ撫でてあげる」


「あうあうあ」


よし。


妹にしよう。



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