107.秘密会議〜陰謀と暴力と口封じ〜
【第40階層 岩壁都市ドラド】
──穴場宿"こんがら"大広間
「話を纏めるぞ。まずは目下予想される最悪のケースだ。
サバンナ階層の《拠点防衛戦》はバグによって発生しない状況にあるが、スフィアーロッドのように自我が芽生えてしまえば話が変わってくる。そしてサバンナ階層にはその自我を植え付けてしまう場所がある」
【Blueearth】ではNPCや魔物でさえ、人間と同様に生きている。人間は現実世界に存在していたというだけで、ここでは一律電子データの存在だ。電子世界基準ではあるが一つの生命体として活動している。
だが大枠の行動指針や禁則事項は存在する。エルフとドリアードは決められた時期以外に争わないし、イエティ王が失われたクリックには一度たりともイエティは戻ってきていない。システムとして成立させるためにある程度の基準があるという事だ。
その点で言えばスフィアーロッドは相当基準から外れていた。その理由こそ、"自我"だ。
ゲームとしてプログラミングされ命を吹き込まれたNPCと違い、一部の魔物やレイドボスは【NewWorld】のセキュリティシステムを無理矢理変質させたもの。一定の型枠に沿って行動する事しか出来ない……災害と変わらない存在。
だが特例として、AI学習出来るほどの膨大なデータがあれば周辺の"自我を持った電子生命体"と照らし合わせて"自我"を入手する事ができる。明らかに自我を持っているレイドボスは一定数存在したが、スフィアーロッドはギリギリまでそれを隠していた訳だ。
「【Blueearth】のデータが滞留するスポットはどうしても存在してしまう。そもそもサーバー自体を無理矢理ゲームの舞台にしてるからね。無を有にした弊害はあちらこちらにある。その辺をどうにかできてるから調さんは天才なんだけど……」
「サバンナ階層では"池"になって存在する。そこに機能停止中のレイドボスをぶち込んだら自我の芽生えたレイドボスが誕生しちまう。被害は……スフィアーロッドがいい例だな。レイドボスから見たら俺らも【Blueearth】も纏めて滅ぼしたい相手だ。これが想定される最悪のケース。俺達はこれを阻止する」
「で、その池ってどこにあるの?」
「無い。いや正確には池だった場所はあるが、もう普通の池だったよ。誰かが浸かってデータを取り入れてしまった」
これが俺たちにとっての不確定要素だ。誰が何故持って行ったのか?
「スフィアーロッドの一件のように、自我に芽生えても本来通りの生活をしていればバレる事は無い。膨大なデータとはいえ、自我程度ならボク達人間だって持ってるからね。一々データコード覗き見して分かるほど単純な構造してないし」
「……そのデータの池、【NewWorld】由来のレイドボスが浸かったら自我が芽生えるのよね。他のケースは?」
「冒険者なら……記憶封印ストッパーは外されるだろうね。不要な情報は勝手に処理してくれるから脳がパンクしたりはしないよ。
NPCなら、多分自分がNPCであるって事を自覚できるだろうね。一定の行動規制を自覚するけど、突破は難しいだろう。例えばサバンナ階層から出られないとかそういうルールを理解するけど、出ていく事はできない。
魔物は……どうかな。【NewWorld】由来の魔物はそもそも自我を搭載できるほどの容量は無いだろうね。【Blueearth】由来の魔物は獣とか植物とか相応の知性しか無いから……やっぱり何も起きないだろうね」
「何というか、悟りの境地みたいですね」
「……データそのものが浸かったモノに移るんだとしたら、歩くデータ滞留になっているという事ですか?」
ドロシーの疑問。そう。そこが大きな問題なんだよなぁ。
出鼻を挫かれているんだよ。
「そうなんだよ。まだデータは生きている。データを所得したそれをレイドボスに捧げれば、まだ有効なんだ」
「だからとりあえず犯人探しって訳ね。何が起きるかと何をするかはわかったわ。それじゃあ聞きましょうか──バーナードについて」
ぐえっ、と半泣きになるハヤテ。逃がさんぞ。逃げないからこそ半泣きなんだろうが。
「……今言った最悪のケースをやらかしそうな存在。バーナード。現実での名前は藤䕃堂五三郎。藤䕃堂財閥の御曹司。【TOINDO】の【Blueearth】開発班のチーフだよ。
その記憶をボクが戻しちゃったんだよね」
「そこよ。何となくそんな気はしてたけど、不可解なのはそこ。
なんで明らか【Blueearth】に恨み持ってそうな人の記憶を戻したのよ。名前も素性もそこまでスラスラ言えるって事は誰かわかってて戻したんでしょ?」
「うぅ……いや正直、彼自身はグレーゾーンだったんだ。【Blueearth】計画は本当に一握りの調さん管轄の人間しか知らないトップシークレットなんだけど……五三郎君はそこの一人だったんだよ。だから大丈夫だと思ったんだよぉ」
大天才天知調といえど単独犯じゃ無かったのか。
……他人に優しくしても信じる事は出来ない、"家族全員が安眠できる世界"なんてものを夢見るあの人が、ゲーム開発はともかく【Blueearth】計画まで他人と話したのか?
「実際記憶復活からの勧誘の時は、断られたけど激しい怒りは見せて無かったんだ。だからそこで別れたんだけど、部下から"あの人【Blueearth】壊す理由ありますよね?放置していいんですか?"って言われて、急いで追ったら逃げられたんだよね」
お前"逃げられた"って言ってたけど、お前が逃したんじゃねぇか!
これにはメアリーも深い、深い溜め息。そりゃそうだ。メアリーは一人記憶を戻すのにあんなに悩んでいたんだから。
「……こっから話する前に、どうしてもやらなきゃいけない事を忘れてたわ。ちょっとハヤテ。面貸しなさい」
ハヤテはそこまで背が高く無いが、それでもメアリーの方が小さい。二人のギルドマスターが向かい合って──
「──歯ァ食いしばれ!」
スパァン!
張り手一閃。ハヤテの頬を平手打ち。
──《冒険者メアリーに"敵対行動ペナルティ"を科します。現時刻より24時間、この階層からの転移を禁じます》──
「……うちのリンリンに舐めた事してくれたわよね。お返しと答えよ。
お姉ちゃん関係の仕事なら手を組むくらいどうって事ないけど、あたしはアンタの軽率で無配慮な所が大っっっ嫌い!
あとなんかよく分からないしコレはアンタ悪くないかもしれないけど、アンタの存在そのものが魂レベルで受け入れられない!」
──リンリンの記憶の件。それのメアリーとしての回答だろう。
いつも頭の底の方では冷静なメアリーがここまでブチ切れるのは珍しいな。最後の方はよく分からんが。
「ぐふぅ……ごめんなさい。甘んじて受け入れます……」
これにはハヤテも反省。自由奔放にするには真面目すぎるよお前も。向いてないから俺の真似すんな。
「……【夜明けの月】の中にわざわざ【ダーククラウド】のギルドマスター呼び入れて暴力とか戦争になっても仕方ないけど。ちゃんと【決闘】とかでもすればペナルティ受けずに済んだかもだけど。流石に我慢できなかったわ。
……戦争する?」
「全てボクが悪かったです。リンリンさんもごめんなさい。言い訳次第も御座いません」
「あの……メアリーちゃん。わ、私は大丈夫です」
「……そうね。じゃあハヤテ」
ハヤテが起き上がれるように手を取って、もう一度向かい合ってメアリーは真剣な眼差しで。
「あたしが判断に時間を食ってたから見兼ねてリンリンの記憶を戻したのよね。それにも関わらずあたしはアンタを引っ叩いた。
だから今度はアンタがあたしを殴りなさい」
「……勘弁して下さい」
メアリー完全勝利である。
それはもう美しい土下座だった。
──◇──
「えー、無事(?)和解できたという事で、目下疑問点だな。
誰がデータの池に触れたか? そしてバーナードの行動の目的は?」
メアリーとハヤテは隣同士で座っているが、ハヤテは正座である。完全に主従関係ができてる。
「不可解なのはバーナード君だね。【ダーククラウド】が見つけられなかった期間何をしていたのか? どうやってサバンナ階層の問題に気付いたのか? 逆に何故サバンナにいる事を特定させたのか? あの無敵にも疑問が残るね」
「あー……別に記憶が戻った所でサバンナがヤバいって事は知りようが無ぇか。確かにな」
「【ダーククラウド】の皆さんの捜索を振り切る隠密性の割には……随分と目立つ場所で【決闘】までやっていました。対【バレルロード】の一連の行動はなんというか、彼の目的にはそぐわない気がしますね」
「わ、わたしは元【真紅道】なので……バーナードさんは、姫の意思を否定するような人ではありません! 別人とか、ありません、よねぇ……?」
うーむわからん。色々と情報が足りないな。
「うん。とりあえずやらなきゃいけない事はデータ池に浸かったNPC探しね。ドラドを隅々まで探索して、普段と違う行動をした人を探すわよ」
「え……どうしてNPCだと分かるの?」
「消去法よ。攻略階層にあるんだから一番確立高いのは魔物だけど、だったら何も起きないんでしょ? そもそも魔物に一々データ吸われるんなら滞留できるほどデータ貯まらないと思うのよ。だから多分魔物はノーカン。
次に冒険者だけど、記憶持ち冒険者も殆ど噂すら聞かないわ。あたしが来る前の【Blueearth】をよく知るライズが知らないって言ってるんだから、その辺のサーチはお姉ちゃんかハヤテ達がしっかりしてるでしょ。冒険者に記憶が戻ってたら何かしらに引っかかるわ。よって除外。
あとはNPCしかいないじゃない。データを吸ったNPCは要するに悟り状態になるのよね? 規定の生活から何かしら外れてるハズよ。だから普段通りじゃない行動をする奴を探せばいいのよ。
ドラドを探すのはバーナードが絶対に来れないから。来たら来たで捕まえればいいもの。ドラドの外の情報だって入るかもしれないからね。
異論は?」
「……ありません」
ふふん。見たかポンコツギルドマスター。これがウチのマスターだぜ。
「それはそれとしてレベリングも重要だ。メアリー・アイコ・ドロシー・ジョージの四人は調査しなくて良い。残りのメンバーでやるとして、人数の傘増しをどうするか……」
「【バレルロード】使えばいいわよ。あと2人用意すればいいわ」
「……いやいや、【バレルロード】はドラドから出られないだろ」
「何言ってるのよ。あんな口約束守ってやる義理あるわけないでしょ。違反してるーってバーナード出てきたらむしろ捕まえてやるわ。あぁそうね、捕獲用にクローバー欲しいわ」
すらすらととんでもない事言ってるが……成程。確かに。
「バーナードは休暇中ってグレンが言ってたわ。じゃあ【ギルド決闘】の承認は貰えないでしょ。あの【決闘】はバーナードの個人的なもので、第一あんな不釣り合いなものに対して報酬が重すぎるでしょ。正式な拘束力は無いはずよ。
あたしがアンタならむしろ踏み倒してバーナード誘き寄せるけど!?」
メアリーが大広間の襖を勢い良く開けると──!
「たしけて」
──大蛇に下半身を呑まれたスカーレットがいた。
「おえんああいえ。いいいいあええうあういおあいあああ」
「マジで丸呑みしなくていいです女将さん! 吐き出して──!」
全然冗談じゃなかった。怖い。
~【夜明けの月】は今日も仲良し~
《リンリンと各メンバーの絡み》
・ライズ
ご主人様。出来ればメイド服を着て下僕になりたい。
一緒にいると落ち着くから好き。一生懸命でそれを隠そうとする所が好き。
恋愛か親愛か判断できるほどの恋愛経験が無い(グレンを振ったのもその為)。
とりあえず一番信頼できる男性はライズ。定期的に性癖矯正デートをしている。
・メアリー
ぐいぐい先導してくれるお姉さん。気弱な女性など皆無だった【夜明けの月】においてリンリンはゴーストとはジャンル違いの妹キャラ。
気の合う女友達感覚。庇護欲を掻き立てられる小さくてかわいい友人。凸凹コンビ。
・ゴースト
矛と盾、前衛コンビ。最近よく組むようになった。最初はなんとなく怖かったが、ただのいい子だと分かると緊張はしなくなった。
冷徹な視線がやや興奮する。食事が好きなリンリンと味覚のデータ収集が目的のゴーストとで"ごはん同盟"を樹立。
・アイコ
高身長女子友。ファッションに疎いリンリンを着せ替え人形にするアイコの図。比較的体格が近いマネキンが手に入りアイコはご満悦。
リンリンは身長にコンプレックスがあったので、現実時代から"聖母"を尊敬していたらしい。
・ドロシー
着せ替え人形コンビ。実は【夜明けの月】加入までドロシーが男というのは内面的な話だと思っていた。身体も男の子でびっくらこいた。
ドロシーには視姦の才能があると見込んでいる。ドSショタに仕立て上げられないかとひそかに企んでいたが、看破されてメアリーに叱られた。
・ジョージ
びっくらこいた2号。話し方が特殊な女の子だと思っていた。
それはそれとしてドSの才能を感じるが、妻子持ちにソレはだめだろうと自制。
現在ジョージの立体機動戦法の足場になる訓練中。蹴ってもらえるのでうれしい。
・クローバー
面白いお兄さん。そして天敵。直接対峙した事は無いが唯一絶対に勝てないと確信できる存在。
ちなみにクローバーもクローバーで【真紅道】の【フォートレス】部隊に苦手意識を植え付けられた。
リンリンがクリティカルに弱かったためmその対策を徹底していた事が原因で【真紅道】は最初から対クリティカル戦に強く、つまりは相互に苦手。
よってややギクシャクしている。




