10.因縁、或いは過去への執着
【第0階層 城下町アドレ】
メアリーです。
しらない大人にかこまれてます。
たすけて。
「あの、大丈夫〜?」
なにがおきたのかちょっと記憶とんでるけど、いまは【象牙の塔】の赤い髪の女の人に保護されてます。
ルミナスさんっていうらしいです。やさしい。
だっこして背中を撫でてくれる。やさしい。すき。
なんとか気持ちも落ち着いて、状況確認。
どうにもライズに売られた……ように見えるけど、コレは最善手ってだけっぽいわね。
ほぼ指名手配状態だったライズが【祝福の花束】を抜けたタイミングを狙っての誘拐。でも既に【夜明けの月】を結成してたとは思わなかったみたい。
それほどまでにギルドに属するという行為が安全なのかがよく分かるわね。狙いはGMの持つギルドメンバーの解任権(グレッグさんがやった奴ね)。
ライズ自体を誘拐してもGMの承認がないと【夜明けの月】を脱退する事はできない。ギルドの二重契約もダメ。だから今度はあたしが狙われるってワケね。
この状況を把握できたのはあの段階ではあたし達だけ。でもその場で素直に発表したらあたしが狙われて人質になる。だから1番あたしを守り切ってくれるであろう【象牙の塔】に押し付けた……って流れね。頭の回転早すぎでしょアイツ。そして非道。
「あの、ルミナスさん」
「なぁに? よしよし〜」
もうなんか撫でられながら膝の上に拘束されてるけど、ここはどうやら……噴水広場ね。
そして声の大きいこわいおじ様……ブックカバーさんなる人が、さっきから大立ち回り。
「アレ、何してるの?」
「アレはね〜、悪い人を成敗してるのよ〜」
ブックカバーさんと他数名の【象牙の塔】の人達が、恐らく【パーティハウス】とかいうギルドのピエロさん達を薙ぎ倒す。
散々見た光の壁の中で。
「【決闘】……よね?」
「そう。あなたを賭けて【決闘】してるのよ〜」
ほっぺたをむにむにされてる。
「メアリーちゃん、自警団ってわかるかしら〜?」
【Blueearth】に来て最初の方に、ライズから教えられた一般教養編にあった気がする。言われた事は大抵覚えられるけど思い出すのに手間かかるのよね……。
「あーっと、アドレ王国から認定を受けて特別な力を与えられた、対冒険者用の警察みたいな……【アルカトラズ】だったっけ」
王国……アドレの警備隊は、冒険者同士の争いごとに手を出さない。その為黎明期は素行の悪い冒険者が目立ってきたが、二つのペナルティが一応の均衡を保っていた。らしい。
一つは拠点階層での他冒険者への攻撃行動を取った時に科せられる《敵対行動ペナルティ》。
一度発令されれば、しばらく他の階層への移動ができなくなる。当て逃げ防止の軽い刑罰みたいなもんね。
もう一つが冒険者が冒険者・NPCのHPを故意に0にしたら科せられる《PKペナルティ》。
どんなMMOオンラインゲームでもあるペナルティだけども。ここでは相当厳しい枷が強いられる。全能力の長期間弱体化、物品購買行為の禁止、レベルそのものの剥奪などなど……。
でも、それらを掻い潜ってでも悪辣な行為をしてしまった冒険者が発生した。その為に生まれたギルドが【アルカトラズ】である。
あまりに度が過ぎた行為をする冒険者が、2種のペナルティを受けて尚──或いはペナルティを擦り抜けるなどして、厚生の余地も無く【Blueearth】を脅かすと判断された場合にのみ動き、拿捕し、審理し、投獄する……とか言ってたわね。
「そうそう。私たちはハッキリ言ってめちゃくちゃ強いから襲い来る人達を返り討ちにはできるんだけど、それでPKしてたら投獄されちゃうかもしれないのよね〜」
【アルカトラズ】が動く条件はハッキリとはしてないらしい。あるいは明確な基準を公表しないからこそ冒険者の自制に繋がるのかもしれないわね。
「【決闘】ならまず死者は出ないから?」
「そうそう〜。【井戸端報道】の目からは逃げられないから、むしろこっちから接触して情報を流してもらってるのよ」
「【象牙の塔】は逃げも隠れもせん! 【夜明けの月】GMメアリー嬢と接触したい者は噴水広場にて我々と【決闘】せよ!ってなもので。不特定多数戦ならともかく、【決闘】でならセカンドランカーの我々が負ける事はないですからな」
ブックカバーさん以外のメンバーは交代で【決闘】している。今戻って来た青髪のお兄さんはブックカバーさんの補佐みたいな人、バンダードさん。
「あとはやはり建前ですな。ただ噴水広場を独占しては警備隊の方が来てしまうので」
またしても挑戦者を派手に吹き飛ばしたブックカバーさんが声高に叫ぶ。
「これぞ魔術の真髄! 【大賢者】の威光!
【象牙の塔】特別出張、実戦式魔法講演会!
アドレ在住の諸氏につきましては(【決闘】の)光る線より外側に立って御観覧下さい!である!」
講演会。
定期的にアドレでも行っている講演会の一種として、路上パフォーマンスしてるって事ね。
向こうの方で【象牙の塔】の人がアドレ兵士さんに説明してる。
「なぁんだ講演会かぁ」で帰っていってる。
それでいいんかい。
「いやぁ逃げられないなら逃げなければいい、流石ブックカバー氏。悪知恵に関しては一家言持ちですな」
「バンダード〜? 何か含みある言い方〜。殺すよ〜?」
「ゴメンナサイ。ブックカバー信者コワイ」
ニコニコしてるルミナスさんが1番怖かった。バンダードさんはスゴスゴとブックカバーさんの方へ帰っていく。
……これ、【象牙の塔】的には大成功だけど、あたしはどうやって逃げればいいの?
──◇──
こんにちわ。タルタルナンバンです。
現在噴水広場にて【象牙の塔】ブックカバー氏による大魔法講演会(実演形式)が開催中です。
「……これどうするんだよ新人」
ごめんなさい先輩。
現在【パーティハウス】は全滅。【井戸端報道】の数少ない戦力も壊滅状態です。
なんで素直に報道しちゃったんですかねェン!
最早このレースは【象牙の塔】の一人勝ちでしょう。質が量を凌駕したという事ですねェン。
「やぁ記者一同。ちょっといいか?」
おや、どなたです? 聞き覚えのある声──
「ラララライズさんンン!? 是非お話を!」
なんと渦中のライズさんその人!
あーそうか隠れる必要無くなったんですね!
諸々ブックカバーさんが吹き飛ばしたから!
「お話はうちのマスターを通してな。俺は【象牙の塔】に用事がある」
広場は既に合法闘技場と化し、観戦客が【決闘】の範囲ピッタリに輪になって並んでいます。
周りは「新しい挑戦者か?」とライズさんに道を開けますが、果たしてどうなるのか──!?
目線だけで意思疎通する【井戸端報道】の同輩がた。既に観客に紛れてベスポジをキープしている猛者もいます。
ここより我々は、一言一句聞き逃しませんよゥン!
──◇──
というわけで。
「メアリー。迎えに来たぞー」
「軽い!」
頃合いを見て来ました噴水広場。
ブックカバー達【象牙の塔】と、噴水を挟んで向こうにメアリー。そしてメアリーを警護してるのが2〜3人。
ブックカバーはいつも通り腕を組んで仁王立ち。貫禄あるよなー。
「託児所ではないのである。タダで返すわけにはいかんな」
「いやいや子守ご苦労。向いてるぜパパ」
「喧しい。して如何する? 貴様は最早吾輩の敵ではない。素直に身柄を拘束させてもらおうか」
「いやいや御冗談を。メアリーと接触したい人は【決闘】するってルールなんだろ? 一丁やろうぜ」
ブックカバーは旧知の中だ。味方ではなかったが。
レベルでは大差負けだが、問題ない。
勝算はある。それに、こう煽ればもう大丈夫だ。
「……聞き間違いか? カンストもしておらん野良犬が何か吠えたか? 隠居生活で記憶に苔でも生えたか。
もう一度言おう。貴様は最早!吾輩の敵ではない!」
「何言ってんだ。お前が俺よりレベルが低かった事なんてなかっただろ。いつだってお前は俺より格上で……俺に一度も勝てなかっただろ?」
レスバ弱いのにすぐ口喧嘩しようとする。ブックカバーの悪い癖だ。そのプライドが大きな枷でもあり、原動力でもある。
「良かろう。過去の因縁も、現在の憤慨も! ここで全て清算してくれる!」
「逆恨みだな。買ってやるよ」
……間に合わなかったなぁ。計算なんてするもんじゃないな。
バリバリ現役の、【マジシャン】系列においては間違いなく最強の一角。
リハビリには辛口すぎるが、荒療治ほど効果があるってもんだ。
────《【象牙の塔】 LV150 ブックカバー》──
────────VS─────────────
ー《【夜明けの月】 LV115 ライズ》──────
──《決闘開始》──
マジシャンとの【決闘】では先手必勝。詠唱が終わる前に討つ!
「【スイッチ】……これで終わりだ!」
呼び出すは翠嵐の大槍【壊嵐の螺旋槍】
1秒で直線を穿つ高速の槍スキル【スターレイン・スラスト】。
一撃で倒せはしないが、ノックバックによる詠唱キャンセルが狙いだ。
マジシャンの欠点は初動の遅さ。俺の知る最強の【大賢者】ブックカバーと言えど、初動には4秒必要なはず──
──1秒経過──
パリン。
「読んでおるわ阿呆」
嗤いもせず、ブックカバーは大杖を振りかざす。
【壊嵐の螺旋槍】を受け止めたのは、蒼く光る盾型の結晶。
──物理攻撃の身代わりアイテムか!
──2秒経過──
まだ。
あと2秒ある。至近距離まで来たなら選択肢はある。
次に切り替えて──
「【スイッチ】──」
──3秒経過──
「愚かなり。【テンペスト】!」
──大嵐が予測を超えた。
──◇──
視界を覆う大嵐。こっちからはブックカバーさんしか見えない。
3秒。
僅か3秒で放たれた上級魔法【テンペスト】。
それを理解していたライズは、この3秒に全てを賭けた?
……いや、多分ライズは3秒以上だと踏んだはずだ。明らかに対応が一手遅れてた。
「メアリーちゃん、あまり前に出ちゃダメよ〜」
ルミナスさんに優しく、でも力強く肩を掴まれる。こんな状況でも私を逃すようなヘマはしないみたいね。
「……ライズよ! 吾輩を侮ったか!」
ブックカバーさんは激昂する。今日一番の大声で。
「貴様が吾輩を凌駕していたのは! ただ狡猾にして獰猛なる知識のみであった事を! 忘れたというのか!
今や貴様には何も無いというのに! 何を思い上がっているか! 何を思って吾輩に挑んだのか!
答えよ! 追撃が無いのは慈悲ではないぞ!」
めちゃくちゃキレてる。
「ブックカバー氏はライズ氏と並々ならぬ因縁がありますからな。……氏の名誉と私の命のため、詳細は控えますが」
バンダードさんはそう言うけど、ライズはそんな事言ってなかった。
……いや、ライズの知り合いとか以前に、ライズの過去の話なんて何も聞かされてないわね。
「勝ち目は無い! 降伏せよ! これは慈悲である!」
嵐が収まり、視界が開かれる。
ライズは──立っていた。
星が刻まれた夜空の片手剣と、蒼き満月のような盾を携えて。
「ゴチャゴチャうるせぇんだよお前は。風の音で聞こえねぇって前にも言ったよな!」
無傷。キレ返しているが、無傷!
ブックカバーさんも目を見開いているけど、どうやって……?
──◇──
ブックカバーとは、浅からぬ因縁のある関係だ。向こうが突っかかって来るだけだが。
一番最初は、同族嫌悪だったかもな。
【大賢者】と【スイッチヒッター】は性質がかなり似ている。
魔法の属性を使い分ける事ができる【大賢者】と、武器を使い分ける事ができる【スイッチヒッター】。
それを可能にする、属性適正を統一するアビリティ【魔術の真髄】。俺もその武器適正版の【武術の真髄】というアビリティを持っている。
……だが、これは一種の欠陥を抱えている。
例えば炎を極めた【大賢者】は、その炎と同じ属性適正で氷魔法も風魔法も撃てる。
だが、上がる属性適正は炎ではないので、威力は最も高い属性適正──使用していない炎属性で計算される。
つまり、一番高い属性適正を使わない限りは成長できないのだ。
【スイッチヒッター】も同様。最も得意な武器以外を使えども、その武器適正は虚無に消える。
それ故に、現代の【大賢者】はメインの属性を決め、他の属性をサブとして使うやり方が主流になっている。
【スイッチヒッター】は総数が少なすぎるため割愛。
……だがブックカバーは/俺は。
そんなのはあまりに風情が無いと思うのだ。
全ての属性を使いこなしてこその【大賢者】だ。
全ての武器を使いこなしてこその【スイッチヒッター】だ。
だから俺は/ブックカバーは、修羅の道を選んだ。
全ての属性適正を同等となるまで上げ、他の冒険者の何倍も戦闘する事で減速する属性適正上昇速度を補うブックカバー。
非人道的とも揶揄される育成術と、地獄の根性論で睡眠時間すら捨て去り全ての武器適正を上げた俺。
つまりそう、俺/ブックカバーは──
アビリティスロットに【真髄】を装備していないのだ。
老害の意地だ。無駄な足掻きだ。
だからこそぶつかった。喧嘩もした。最後には……いや、蛇足だ。
とにかく俺は、ブックカバーを侮る事だけはしない。
だって負けたくないんだ。相手は俺だからな。
──初撃を塞いだ、身代わりのアイテム。
両手が塞がる大杖は盾を装備できないため、詠唱中の攻撃を防御できない。
それを解決したのが身代わりのアイテム盾。一度完全に攻撃を遮断するアイテム。ブックカバーはこれで詠唱時間を強引に確保した。
──魔導書が取り付けられた大杖。
取り付けた魔導書の魔法に限定されるが、詠唱時間が短縮され威力が増幅される武器。
どちらも、俺の未踏の地で発見されたアイテムだ。
知ってるんだよ。こっちには悪い情報屋が憑いてるからな。
階層攻略を辞めてても情報は買ってたし、【すずらん】に強化付与を依頼されて来た前線の武器も盗み見していた。
その目線を鬱陶しがられて、倉庫にぶち込まれたわけだが。
とにかく、俺は全て知った上でこの【スイッチ】スロットに装備を設定した。
俺の計算なら、今のブックカバーは【テンペスト】を4秒か3秒で撃つ事ができるハズだ。
俺は別に頭がいいわけじゃないから、正確な秒数はわからん。何度計算しても4秒だったが、計算ミスかもしれん。
だからこの編成にした。
【スイッチ】は、事前にスロットに「両手に何を持っているか」を事前設定し呼び出すスキルだ。
このスロットは、4秒で対応するために片手剣を右手に当てがった。
片手剣【月詠神樂】は近距離なら1秒でスキルを発動できる。
俺は運動能力が高いわけじゃないから、マニュアル操作では数秒の世界に割り込めない。必然的にオート操作の通常攻撃かスキルで戦うしかない。
……だが、だがもしもブックカバーの詠唱が3秒だったら?
だから、左手に小盾【宙より深き蒼】を設定した。
クラゲのような盾は耐久性に乏しいが、その柔らかさで相手の攻撃を多少反射できる。だがそこは重要ではなく、本命は希少な固有効果【ジャストレジスト】を持っている事だ。
魔法攻撃は防御体勢である程度軽減できるが、物理攻撃と違って無効化はできない。だから完全無効にするためにこの盾を引っ張ってきた。
【ジャストレジスト】は魔法攻撃のダメージ判定の瞬間に防御すると、そのダメージを0にできる。その性質は使う奴が使えば凄い事になるのだが、とにかくタイミングがシビアすぎる。
別に俺はプロゲーマーとかじゃないから、いきなり1フレーム攻撃をジャスガとかできない。
だが、ブックカバーなら別だ。
この盾を手に入れてから、当時傭兵だったブックカバーを散々レンタルしてこの身体で実験したからな。
【テンペスト】のジャスガ判定は11回。
その感覚は、この身体に染み付いている。
そしてブックカバーの基本戦術は昔も今も、【テンペスト】で視界と行動を遮ってからの上級魔法連打と決まっている──!
──実は3回ジャスガ失敗しましたけどねぇ!
HPとMPの最大値を調整するスキル【生命変換】で最大HPを削って無傷みたいに装ってるけども! 実は4割くらい持ってかれてるんだよねぇ!
「勝ち目は無い! 降伏せよ! これは慈悲である!」
やっと嵐も落ち着き、なんか騒いでるブックカバーの声が聞こえるようになった。
あの野郎またムカつく事言ってるな。
てか前々から言ってるけど──
「ゴチャゴチャうるせぇんだよお前は。風の音で聞こえねぇって前にも言ったよな!」
昔から変わらない。おかげで対策しやすいが……。
とにかく仕切り直しだ。そうは言っても、この時間でブックカバーはアビリティ【並行詠唱】によって複数の魔法の詠唱を完了しているハズだ。俺の知る限りストックできる魔法は4つまで。今から無詠唱上級魔法を4つ回避しないといけない。
先程のダメージで理解した。ブックカバーの魔法は直撃したら終わりだ。
──レベルアップすると手に入るレベルボーナス。好きなステータスに自由にボーナスを割り振れるシステム。
俺は所持枠に多く振っているが、この魔法馬鹿はどうせ魔法攻撃力に全振りだろうよ。
おかげで半減以下の【テンペスト】で相当持っていかれた。
ここからは詰め将棋だ。
問題は、相手の駒が何か。
ハッキリしている事は、【テンペスト】はストックされていない。再発動までのクールタイムがあるからな。
【テンペスト】の目眩しを前提とした隙の大きい雑な広範囲魔法はよくて一つのハズだ。【祝福の花束】前で見せた【神炎のサウザンドアロー】【雷帝の鉄鎚】はそれ単体なら俺でも回避できる。
おそらく杖に付随している魔導書は【テンペスト】だ。あれを最速で発動するのがブックカバーの戦術だからな。
つまり【テンペスト】のクールタイム中に使える同等の目眩し系魔法があるハズ。それが二つ目。
後は目眩しが失敗した際に俺と物理的に距離を取るためのノックバック類の効果のある魔法が三つ目。
四つ目は純粋に詠唱の長い切り札ってとこか?
「……口が減らんな。ならばコレでも喰らうのである!」
「喰らうか!【スイッチ】!」
「【ブラックホール!】」
放たれるは黒の渦。自身以外を中心へ吸収する引力の闇魔法!
対抗するは両手を塞ぐ混沌の大盾【煉獄の闔】!
光と闇属性の軽減と、付随するデバフの無効化!
即ち引力による拘束を回避し、そのまま横前方へ距離を詰める。
一つ目の魔法を突破!
「読み勝ちだ」
「クッ……【ホーリーブラスター】!」
「受けるまでも無い!【スイッチ】!」
光の奔流。極太レーザー魔法。
【ブラックホール】で拘束する前提の直線攻撃は、拘束さえされなければ俺でも回避できる。
【煉獄の闔】で受ける事もできるが、あくまで軽減。ダメージは洒落にならない。
回避できるなら回避する。
二つ目の魔法を突破。そして更に前進!
切り替えるは再び翠嵐の槍【壊嵐の螺旋槍】!
対魔法使い殺しのインチキ技【スターレイン・スラスト】を受ける訳にはいかない。だからブックカバーは使わざるを得ない。
「【アイスミラー】──ッ!」
「【スイッチ】!」
ブックカバーの正面に現れる氷の鏡。攻撃を反射する防御手段。
返すは禁断の片手銃【封魔匣の鍵】──距離を詰められないが、ここまで近付けば射程範囲だ。
三つ目の魔法を突破!
「【デスペラード】!」
銃を乱射しながら前進する片手銃スキル。距離的にはまだ至近距離までは行けないが、これで最後の魔法を引き出せる──!
「ぐッ……【ガイアバーン】!」
四つ目の魔法!
大地を隆起させる対地上敵用の大技!
──想定の範囲内! 読み勝ちだ!
「【スイッチ】──【天国送り】!」
切り替えるは光輪携えた聖白の両手銃。
移動系スキルは【スイッチ】でキャンセルできる。つまりはアタックキャンセルが可能!
とはいえスキル中断後のスキル発動は不可。中断したスキルが終わる時間まではスキル発動ができないデメリットがある。
だが、武器に付随する効果は適応される。
天界の両手銃【天国送り】に適応される効果は、光属性の付与と──常時浮遊状態。
つまりスロットに入れておけば一部の攻撃を確実に無効化できる。
隆起する大地を避ける様に自動で空中へ押し出される。
──【デスペラード】終了まで1秒──
通常攻撃だ。浮いたまま照準をブックカバーに合わせる。
ブックカバーの【並行詠唱】も追いつかない。銃弾をその身に受けるが、姿勢は崩さず、俺を睨む目線も外してくれない。
──【デスペラード】終了──
「──3秒だ!【テンペスト】!」
「これで終わりだ!【デッドリーショット】!」
威風吹き荒ぶ大嵐に、致命の黒雷が撃ち込まれ──
──【決闘】が終了した。
〜階層攻略ギルド〜
《執筆:【井戸端報道】記者T》
階層攻略を邁進頂いております前線ギルド、毎月恒例の最新情報ですゥン!
本日より偉大なる先輩に代わり、記者Tが執筆させて頂きます。今後とも宜しくお願いします!
今回もランキング形式で発表です!詳細な情報はまだ公表されておりませんが……。
《トップランカー》
1位:159階層【至高帝国】
1位:159階層【真紅道】
1位:159階層【飢餓の爪傭兵団】
・ここは当然、変動ナシ! 依然としてフロアボスに苦戦中との事。野生の魔物のレベルが150を突破して以来初の格上フロアボスを相手に数ヶ月停滞している模様。早急なレベル上限解放手段の発見が求められますね。
《セカンドランカー》
4位:149階層【月面飛行】
5位:146階層【象牙の塔】
6位:142階層【マッドハット】
7位:139階層【スケアクロウ】
8位:119階層【飢餓の爪傭兵団:ミッドウェイ支部】
9位:110階層【バッドマックス】
10位:107階層【草の根】
11位:99階層【ダーククラウド】
12位:89階層【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】
13位:88階層【コントレイル】
14位:84階層【頂上破天】
15位:80階層【鼠花火】
15位:80階層【喫茶シャム猫】
・セカンドランカーも上位の顔ぶれは変わらず。しかし遂に【月面飛行】がトップランカーの拠点階層までリーチとなりました!トップランカーとは並々ならぬ因縁のある【月面飛行】ですが、遂にその座に到達するか?
・【飢餓の爪傭兵団】傘下の外部ギルド最強【バッドマックス】は数ヶ月の壁を打ち破り遂にミッドウェイ到着!【飢餓の爪傭兵団:ミッドウェイ支部】と合流し躍進が期待されますゥン!
・先日セカンド入りした【頂上破天】に続き、【飢餓の爪傭兵団】傘下ギルドの期待の新星【鼠花火】がセカンド入りです。これでセカンド以上の【飢餓の爪傭兵団】傘下は3つになります。
・未知なる客へ飛んで客引き閑古鳥【喫茶シャム猫】も迷い迷ってセカンド入り。彼らはいつ店を構えるのか、どこまで行ってしまうのか。もう客いなさそうですがねそこ。今後に期待です。




