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第二節 戦闘中、アーガマウンテンにて

☆☆☆☆☆


 ちょうど誰にも意識を向けられていなかったフェリシィは、このすきに階段を上がった。

 戦いに割り込めるだけの強さは無いと自覚している。何か打開の手段を探そうとしてだ。兵器があるということで期待していた。


 しかし見えたのは、それを取り囲むように配置されている椅子くらいだ。

「せめて未来の武器、未来の武器……」

 視線をくまなく動かす。



 すると、椅子の上に何かが置いてあることに気がついた。近づき確認する。

 オディアンと、それに銀色の板が複数付着している。これはおそらく、イクトゥスのコアだ。

 さらにこのコアが、空に向けられている魔力砲塔とケーブルでつなげてあった。

 こうすることで、砲塔のエネルギーを充填じゅうてんしているのか。


「これを使えたら……!」

 アーガランドへ渡ったときのような船に変えられれば、二体のアンドロイド相手でも勝てるかもしれない。

 ケーブルを無理やり外す。フェリシィは呼びかけた。

「アンタ!! 船になりなさい! 今すぐ!」



 だが変化はない。

 何か条件があっただろうか。思い出せず、ついうなる。



 そんななか、ライラックを肩に抱えたミケが見えた。階段を上がってくる。

 慌てて隠れはしたが、間違いなくフェリシィの存在に気づいている。

 このままでは……という時だ。



 魔導石のラピスフィアが、下階から舞い上がってきた。

 そしてフェリシィの足元で落ちる。リリアーナが持っていた物か。



 それを見て思い出した。

 コアを潜水艦へ変化させるには、ラピスフィアが必要だとライラックは言っていた。

 加えて、ライラックのような未来人か、もしくはイクトゥス自身の承認が必要だと。

 しかし、ライラックは捕まっている。せっかくコアを入手したというのに、何もできない……。



 ……まだ可能性はあると、フェリシィは気張り直す。

 コア化したこの状態に意志があるのか定かではないが、言い聞かせるしかない。フェリシィが語りかけ始める。

「いっしょにいたんだから分かるわよね!? リリアーナが、どんな想いで来たか!!」


 イクトゥスは、エルフ族を手にかけたアンドロイドの一人だ。まだ恨みは晴れていない。

 だが、リリアーナが見た彼の意志が本当だというのなら、賭けてみるしかないと思ったのだ。


 まだコアには何の変化もない。

 フェリシィは、苛立ちながらも呼びかけを続ける。

「ホントは人殺ししたくなかったっていうんなら!! ここで証明しなさいよ!!」



 直後、傍で持っていたラピスフィアがみ込まれていった。

 闇色の魔導石の中へとだ。そうして輝きだした。

 両の手では抑え込めないほどに青い光量が増す。



 やがてコア自身が宙に浮き始める。

 オディアンの表面に付着していた銀の板が、大きく変形。

 石を取り囲むようにして菱形ひしがたの物体となった。



 イクトゥスがネブリナを襲撃した際、これと似た形状のものが光線を発射していた。

「……いけるかも!!」

 冷えきった自信が一気に沸騰する。フェリシィはそれを両手で包み、腹のあたりで構えた。

 隠れていた椅子から飛び出す。ミケへ、菱形ひしがたの先端を向けた。




 …………光線が発射されない。

 流れと裏腹の展開に、フェリシィは唖然あぜんとする。

 手でポンポンとたたくが、変化はなし。

 今度は一気に頭の血が上がった。

「ちょっとおおお!! まさかアタシをハメたんじゃないでしょうねえ!?」



 ミケが、手首の剣をきらめかせる。

 つかんでいたライラックをそこらへ放り捨ててから、凄まじい速さで突っ込んできた。


「きゃああああああっ!?」

 恐怖で尻もちをつく。殺される……!

 そう思ったときのこと。



 手からわずかな振動が伝わる。

 つむっていた目を半開きにした。ミケも剣を突き出そうという寸前で動きを止めている。

 彼女の視線は、フェリシィの持つ菱形ひしがたに向けられていた。


 いつの間にやら、先端で光が点滅を繰り返している。

 徐々にその間隔が早まり、完全な光となった直後だ。



 空気が揺れるような衝撃……。青い極太の光が直線に伸びた。

 ミケは、胸元の装飾からシールドを展開。

 防がれるも、光の照射は止まらない。

 足の爪先を立て、身体全体で耐えしのごうとする。


 だが力の勢いはコアの射撃が上だ。次第にフェリシィの足が浮く。

「うわっ、わああああ!」


 完全な防御は無理だと悟ったのか。ミケはシールドを解除。

 とっさに身体を横斜めへ傾けた。転ぶようにして避ける。

 それでも彼の右腰あたりに大穴が開く。

 光線は身体を貫き、後方の山壁で爆発を起こした。



 この威力に、思わずフェリシィは見惚みとれてしまう。

 コアを見下ろし、ねぎらいの言葉をかける。

「あんた……。やればできるんじゃない!!」

 最初に攻撃を行わなかったのは、ミケを引きつけるためのわなだったのだろう。高速の移動が得意な彼女でも、至近距離では回避できなかった。



 起死回生の一発ではある。しかし致命傷には至っていない。

 ミケはふらつきながらも起きあがろうとしている。


 しかも反対側からは、カナリアが階段を上がってきた。リリアーナの髪をつかんで引きずっている。

 ミケも立ち上がり、光線剣を構えた。

「イクトゥス機……。その行為は反逆と認定。直ちに処分する」

「なんだとぉ!?」


 驚きの声を上げたのはライラックだ。

 巻き込まれないようにと縮こまっていたが、急にミケの脚へしがみつく。

「僕の努力の結晶なんだぞ!! 君らだけが得する気かぁ!?」

 必死に文句を言っているが、ミケは無言のまま前進しようとする。


 またイクトゥスのコアから光があふれた。フェリシィの全方位を囲むシールドが出現。

 それにカナリアは全く動じない。ケラケラと笑いながら人差し指を向けた。

「どんな裏ワザ使ったのか知らないけど、もう終わりです♪」

 左右から迫るアンドロイド達。いくらイクトゥスの防壁があろうとも、このままでは……。



 というところで、二機の足が止まる。

 視線が同じ方へ向く。オディアンが詰められた箱が置いてある。



 その中に入っている一つが、急に震えだした。

 フェリシィからしてみれば、何の用途で置かれているのか不明だ。

 しかし二人の反応を見るに、異常なことが起きているというのは分かる。


 ミケがライラックを、フェリシィのいる方へ蹴り飛ばす。箱から近い位置にいたので、彼女が確認をしに行く。

 ライラックはき込みながら、椅子にもたれかかる……。



 と見せかけて、先ほどまでコアとつながっていたケーブルに触れた。

 視線はミケの方を向いている。すきを見て、彼女につなごうというのか。

 しかし、そんな余裕はまだ無い。カナリアが警戒を解かないからだ。

 しかもここからまだ、ライラックによるメンテナンスで、ミケの体内にある機能を解除しなければならない。

 その作業を行おうとした場合、確実に妨害してくるだろう。もっと相手の意識を逸らす必要がある。


 一方のミケは、揺れ動くオディアンの前まで来た。

 目を細めながら見下ろす。だが特に動きはない。

 しかし直後。




 鈍く生々しい音。

 もろに突き刺さった。ミケの腹部にだ。


 石の前で、闇のホールが出現した。

 そしてそこから間髪入れず、直剣が飛び出したのだ。



 フェリシィは、あの剣に見覚えがある。つばの部分がやや禍々しい……。

 シクルレッジの刑務所で相対した、ロゼットの物だ。

 帝国からの砲撃で亡くなったのかと思っていたが、まさかこの近くにいるのか。


 剣身からは、黒いモヤが放出されている。

 オディアンが心臓代わりなのだから、逆に彼女の活力となる気もするが……。



「ぐっ……ぁぁ……!?」

 ミケは腹ではなく、頭を押さえた。

 無感情だった今までと違う。苦悶くもんの表情だ。


「センパイ!?」

 事態の急変に、カナリアがリリアーナを床に置いてから飛び上がる。

 すぐさまミケのもとに行く。彼女の肩あたりを揺すった。

「ねえ、センパイ!? どうしちゃったんですか、しっかり!!」



 ミケに刺さった剣がひとりでに動きだす。傍にいるカナリアへ横払いする。

 回避はされた。だがそのすきに、ミケを刺したまま、フェリシィ達のいる方向へ飛んでいく。


 とはいえ、流石さすがにやられっぱなしではない。ミケは両手で剣先をつかみ、押し込むようにして抜き取る。

 着地してすぐにフェリシィ達をにらみつけた……が、やはり安定していないらしい。また頭を押さえ始めた。

 苦し紛れなのか、手首の剣を向けて近づいてくる。

 だが途中で膝をつく。


 フェリシィがライラックに呼びかける。

「早く! 今のうちよ!!」

 彼は呆然ぼうぜんとしていたが、我に返る。両手に一本ずつ持っていたケーブルを伸ばしながら、ミケの背後へと回った。

 うなじのあたりにケーブルを挿せる穴がある。そこへ二本を突っ込んだ。



 しかし敵はもう一体いる。

 ミケを慕う彼女は、背部に炎を噴かせて飛び上がった。

 漆黒の陰影により、邪悪な表情が際立つ。

「もー、怒っちゃったー!」

 なおも声色は変えない。両の手にある指全てをフェリシィとライラックに向けた。

「強制退場の時間ですっ!!」

 指先に穴が開く。ここまでか……。



 そう思った瞬間だ。

 カナリアの胴体を基点に、風色の丸い線が出現した。

 急速に線が収縮。彼女は拘束される。

「なっ……!?」

 とがった眼を床の方へ向けた。



 中腰でリリアーナが立ち上がる。右手にはジェイドムーン。

 彼女も鬼気迫る表情で、魔法発動に使用した手を掲げていた。



 しかし、アンドロイドの地力じりきは高い。今にも拘束がハチ切れそうだ。

 鳥女から笑みが完全に消えた。歯ぎしりを繰り返し始める。

「どーしてわたしのジャマばっかりするの……。ネコババ魔女ォ……!!」

 全身をかたむけ、足裏から何か攻撃を繰りだそうとした。

 その前に、リリアーナが魔法を放つ。



 ……フェリシィから見ても、異様な光景だった。

 発動したのはウィンド・カッターなのだろうが、一本の筋ではない。

 同じタイミング。十本の筋が、たった一瞬でカナリアを取り囲んだのだ。

 これにはカナリアも目を見張った。リボンを大きなハートにして前方を防ぐ。 



 だがこれだけでしのげるわけがない。

 風は一斉に襲いかかり、カナリアの身体を切り刻んでいく。

「うぐっ、うううううううッッ!?」

 血は出ないが、彼女の白い肉が次々とえぐれる。



 これを本当にリリアーナがやっているのか。フェリシィは信じられない。

 悪人に対してではあるが、拷問のような攻撃……。

 とはいえ、良い時間稼ぎにはなっている。


 ライラックは、懐から薄い板を取り出す。押してから引き伸ばし、キーボードとなった。

 出っ張りを高速でたたき続けると、ミケの瞳から映像が照射。研究所でも見たアンドロイドの内部データだ。


「コアは範囲内に三つあるから大丈夫だ! 解除して欲しいシステムの名前は!?」

「え。えーっと……」

 ヒナタが言っていたはずだが、思い出せない。フェリシィは空を見上げる。

「おい! 肝心なところだぞ!」

「分かってるわよ! んーっとぉ……」

『アブソウル・イグナイトだ』



 わきに抱えていた猫が途端に声を出した。フェリシィが飛び跳ねる。

「ぎゃっ!?」

「ヒナタ修士か!?」

『ご名答』

 この二人は共に未来の住人だ。


「僕が言うことじゃないけど、何でこの子らに力を貸す?」

『総合的に判断したまでだ。セツナちゃんには生きていてもらったほうが都合は良い』

「ゼッタイなにかたくらんでるでしょ!?」

『だがウチの助言で君らも生き延びられる』


 早速ライラックはそのシステムを探し、目的のものを見つけた。

「これがアブソウル・イグナイト……」

 彼は口のあたりに拳を当て、顔をしかめる。

「全然知らないシステム……というか、これを使えるんだったら、わざわざこっちの世界に来なくても……」

 何やらぶつぶつと言う。システムの解除を実行しない。



 そんななか、リリアーナのウィンド・カッターが攻撃をやめて消失。

 発動していた彼女は、肩を上下させていた。息を整え始める。


 またカナリアが自由になってしまう。フェリシィは、ライラックの肩を殴る。

「早く!!」

「だー! もう、うるさいなぁ!!」


 キーボードを打ち込むと、赤い警告マークが映像に出た。

 YESと書かれたほうを選択する。ミケ自体に大きな変化は見られないが、システムは解除できたようだ。

「あとは、リリアーナがオディアンの力を増幅させれば……」

「人道的な方法じゃ無理だろ! それとも禁忌に頼るって!?」

 ライラックは、リリアーナの特殊能力を知らないのだ。



 大切な人を取り戻すために、闇魔導石の出力を上げる……。たしかに、禁忌へ片足を突っ込んでいる行為に思える。

 だが、リリアーナの持つ力はフェリシィのお墨付きだ。

「ママの魔導具を使ってるんだから……ゼッタイだいじょうぶ!!」



 しかしそうはさせまいと、カナリアが拘束を破った。

 両腕を広げ、フェリシィとライラックへ突進。


 回避を試みるが、あまりの速さに二人とも突き飛ばされてしまう。

「ひゃああああ!」

「のわああああああ!!」

 そのまま、段差の下へと落ちていった。

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